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AIとRANのリソースを最適化する「AITRASオーケストレーター」
#AITRAS #AI-RAN #Nokia #RedHat
2025.07.11
ソフトバンク株式会社
1. AITRASで進化するAIとRANの融合
AI時代の社会インフラとして注目される「AI-RAN」。ソフトバンクは、その構想を具現化するプロダクト「AITRAS(アイトラス)」の開発を進めています。
AITRASの核となるのが「AI and RAN」というコンセプトです。これは、AIとRAN(無線アクセスネットワーク)を同一の計算基盤上で統合し、両者の連携を高度に最適化する仕組みです。その中核を担う「AITRASオーケストレーター」は、AIとRANそれぞれに必要な計算リソースを動的に配分・最適化し、システム全体の柔軟性と効率を高めます。
本記事では、AITRASの開発におけるパートナー企業との共同取り組みとして、以下の2つの事例を紹介します。
・Nokiaとの共同開発:
AITRASにおける「AI and RAN」機能の具体的な実装例として、Nokiaとの取り組み内容を紹介します。
・Red Hatとの共同開発:
AITRAS オーケストレーター機能に、消費電力の最適化という新たな機能を加えるためのRed Hatとの取り組みについて紹介します。
2. Nokiaとの共同開発:1台のサーバーにAIとvRANを統合
Nokiaは、x86やArmといったさまざまなCPU環境に対応できるRANアーキテクチャ「AnyRAN」を提唱しています。このAnyRANの柔軟性を活かし、ソフトバンクとNokiaは共同で、1台のGPUサーバー上にAIとvRANを共存させ、リソースを自動で最適に割り当てる仕組みをAITRAS上に構築しました。
AITRASの検証では以下の3種類のサーバーを使用し、vRANと、ソフトバンクが独自開発したAIワークロードを統合実行する構成とし、AI and RANの有効性が確認されました。
・NVIDIA GH200搭載サーバー:
RANとAIワークロードを同時に実行する構成で、Red Hat OpenShift上にNokia製RANソフトウェアとAIアプリケーションをデプロイ。
・AITRASオーケストレーターサーバー:
CPU・GPUの利用状況を監視し、AIとRANの負荷に応じてリソースを動的に最適配分。
・NokiaのEMS※「MantaRay」サーバー:
端末数やスループットといったvRANの情報を収集し、AITRASオーケストレーターに対し、リソース管理に必要なデータを提供。
※EMS:Element Management System
2.1 図解:CPU/GPUリソースの動的制御
今回、MantaRayと連携していることで、UE数やスループットなどのリアルタイムなネットワーク状況のモニタリング、および今後のRANトラフィック需要の予測が可能となります。このメトリクスをAITRASオーケストレーターが取り組むことで、RANの需要予測に基づいたリソースの最適配分を実現します
図1は実際の検証結果です。実際に、ユーザー数が減少したタイミングでRANリソースが抑えられ、AI処理へのGPU割り当てが増加する様子を示しています。この検証により、RANの通信負荷が低下した際にAI処理へリソースをシームレスに切り替え、再びトラフィックが増加すれば即座にRAN処理へ戻すといった柔軟な制御が可能であることが実証されました。
図1. CPU/GPUリソースの動的制御の様子
3. Red Hatとの共同開発:「Kepler」を用いた消費電力の最適化
ソフトバンクは、将来的にはGPUサーバーを搭載したAITRASのデータセンターを全国各地に展開することを目指しています。安定したAITRASの運用のためには、大量の電力が必要となるという課題があります。その解決に向けて、ソフトバンクとRed HatはAITRASの消費電力を最適化するソリューションを開発しました。
3.1 Red HatのAI and RAN計算基盤
図2はAITRASにおけるRed Hat製品の構成図です。Red Hat OpenShiftによる仮想化基盤の上でAIとRANのアプリケーションをコンテナとして稼働させ、Advanced Cluster Managementによって各地のデータセンターを統合的に管理しています。
図2. AITRASにおけるRed Hat製品の構成図
3.2 電力監視ツール「Kepler」の導入
Red Hatのソリューションである、「Kepler」とは、Kubernetes(クバネティス)ベースの、アプリケーションごとの電力消費量を算出するOSS(オープンソースソフトウェア)です。このKeplerをAITRASの仮想化基盤であるRed Hat OpenShiftに統合することで、AITRAS上で実行されるアプリの消費電力をPod(ポッド)単位で可視化できるようになります。図3では、KeplerがどのようにPodごとの電力使用量を把握しているかを示しています。
図3. Keplerによる消費電力可視化の仕組み
今回、この機能を活用し、データセンター内の各クラスターのサーバーの電力情報について、以下のようなデモシナリオを設定しました。
・クラスター1:化石燃料で生み出されたエネルギーのみを使用して稼働
・クラスター2、3:再生可能エネルギーが利用可能
このような状況下において、再生可能エネルギーを使用してよりエコにデータセンターを稼働させることを考えた場合、アプリケーションの稼働にあたってはクラスター2、3を優先して使用したいというニーズが発生します。このニーズに基づき、オーケストレーターがアプリを最適なクラスターに配置することを実証しました。
図4は、オーケストレーターによるアプリケーションの最適デプロイについて、Keplerを使用して消費電力を考慮した場合と使用していない場合の各クラスターの電力消費の結果を表したものです。Keplerを使用していない場合の左図では、化石燃料エネルギーのクラスターが多く使われていますが、Keplerを使用した右図においては、クラスター2、3に優先的に使用され、再生可能エネルギーを最大限活用する配置が実現されています。このように、オーケストレーターにKeplerを用いることで、消費電力の観点からもよりエコで効率的な運用ができることが実証されました。
図4. Kepler使用時と非使用時の比較結果
4. 商用展開を見据えた今後の開発
AITRASの取り組みは、単なる技術開発にとどまらず、持続可能なAI時代の新しいインフラを全国規模で構築することを目指した、社会的なチャレンジでもあります。
今回のNokiaとのAI and RANの実装や、Red Hatとの電力最適化の共同開発を通じて、ソフトバンクはAITRASの実用性と応用力を具体的に示すことができました。
今後は、こうした成果をさらに発展させながら、さまざまなパートナー企業との協業を通じて、AITRASの社会実装に向けた取り組みをより一層加速していきます。
ソフトバンクが発表した関連プレスリリース:
ソフトバンクとNokia、1台のサーバー上でAIとvRANの共存と最適なリソース割り当ての自動化を実現https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250303_02/
ソフトバンクとRed Hat、AI-RANのデータセンターにおける消費電力を最適化するソリューションを開発https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2025/20250303_03/
RedHatが発表した関連プレスリリース:
Red Hatとソフトバンク、AI-RANのネットワークパフォーマンスと エネルギー効率を最適化
https://www.redhat.com/ja/about/press-releases/red-hat-and-softbank-corp-implement-ai-ran-optimize-network-performance-and-sustainability