LTMを活用したAIエージェント間協調による自律ネットワーク運用 ― サムスンとの共同研究

#AI-RAN #AI #LargeTelecomModel

ソフトバンクでは、通信業界向けの生成AI基盤モデル「Large Telecom Model(LTM)」を核として、AIエージェントによるネットワーク運用の高度化に取り組んでいます。本記事では、通信事業者とネットワークベンダーのAIエージェントが相互に連携する仕組みと、サムスン電子と進めている共同研究について紹介します。

1. 自律ネットワークにおけるAIエージェント間協調の課題

AIエージェントがネットワークの状態を把握し、必要な対策を考え、ツールを利用してネットワークを制御できるようになると、これまで人手で行ってきた運用を自律化したり、従来は実現が難しかったユースケースに対応したりすることができるようになります。一方で、実際の通信ネットワークは、複数ベンダーの基地局やネットワーク機能、運用システムなどから構成されています。そのため、通信事業者側のAIエージェントが各ベンダー固有の制御方法や内部実装をすべて担うのではなく、異なる役割や知識、ツールを持つAIエージェント同士が、それぞれの専門性を生かしながら協調してネットワーク運用を進める仕組みが重要になります。

ソフトバンクとSamsung Electronics(以下、サムスン)は、2025年10月にAI-RAN領域での協業に合意し、「6G」「AI for RAN」「AI and RAN」「Large Telecom Model」の各分野にわたって共同研究開発を進めています。本記事では、「Large Telecom Model」分野の一環として、ソフトバンクとサムスンがそれぞれ独立して運用するAIエージェントが、ネットワークの状態や要求、評価結果などを交換しながら協調し、共通のネットワーク設定課題を解決する仕組みを紹介します。

※ 2025年10月24日付プレスリリース「ソフトバンクとサムスン電子、AI-RAN領域での協業に合意」

自律ネットワークにおけるマルチエージェント協調(AI生成)

図1. 自律ネットワークにおけるマルチエージェント協調(AI生成)

2. 通信事業者とベンダーのAIエージェントをつなぐアーキテクチャー

2.1 マルチエージェントアーキテクチャーの利点

今回の共同研究では、ソフトバンク側にネットワーク全体を扱うTelco Agent、サムスン側にベンダー固有のネットワーク技術を扱うVendor Agentを配置しています。Telco AgentはLTMを活用し、トラフィック予測やネットワーク状態、運用ポリシーなどを参照しながら対応を判断します。Vendor Agentは、サムスン側のネットワーク最適化機能やデジタルツインを利用して要求を評価し、具体的なネットワーク設定の候補や、その設定によって期待される性能を返します。

ソフトバンクとサムスンのAIエージェント協調アーキテクチャー

図2. ソフトバンクとサムスンのAIエージェント協調アーキテクチャー

両者が同じAIモデルやツールを利用する必要はありません。ソフトバンク側は通信事業者として必要な情報や判断ロジックを保持し、サムスン側はベンダー固有のネットワーク制御技術やシミュレーション環境を保持します。両者の間では、タスクの内容や必要なネットワーク情報、評価結果など、協調に必要な情報を交換します。

また、この方式では、ベンダー固有の最適化アルゴリズムなどを外部へ公開する必要もありません。通信事業者とベンダーの双方が、それぞれのシステムや知的財産の独立性を維持しながら、ネットワーク運用に必要な情報だけをAIエージェント間で交換できます。将来的に複数のベンダーやネットワーク領域にAIエージェントが導入されることを考えると、このように内部実装を分離したまま相互に連携できることは重要です。

2.2 A2A、A2A-T、TMF921によるエージェント間連携

このように、AIエージェントの活用が進むにつれ、異なるフレームワークやベンダーで構築されたAIエージェント同士を、個別実装に依存せず連携させる仕組みが必要になってきました。Agent2Agent(A2A)は、こうした課題に対してGoogleが提唱したオープンなプロトコルで、その後Linux Foundationに移管され、ベンダー中立なオープンプロジェクトとして開発が進められています。A2Aでは、エージェントの能力や、メッセージ、タスク、処理状態、非同期の結果通知などを共通の形式で扱うことで、異なる環境で動作するAIエージェント間の相互運用を可能にします。

特に通信ネットワークでは、複数のネットワーク領域や管理レイヤーに存在するAIエージェントが、ネットワークの状態変化に応じて継続的に協調する必要があります。そこでTM Forumでは、A2Aを通信分野向けに拡張したAgent to Agent Protocol for Telecoms(A2A-T)の標準化を進めています。A2A-Tでは、A2Aとの互換性を保ちながら、通信分野におけるタスクの依頼やイベント通知、エージェント間の交渉などを扱うための拡張が定義されています。

A2AやA2A-TがAIエージェント間の通信やタスクの進行を扱うのに対して、ネットワークに対して何を実現したいのかを共通の形式で表現する仕組みも必要です。この領域では、AIエージェントの登場以前から、ネットワーク運用の自律化に向けてIntentを用いた標準化が進められてきました。今回の共同研究では、TM ForumのIntent Management APIであるTMF921を利用し、ネットワークに対する要求をIntentとして表現し、その評価結果をIntent Reportとして交換します。

本共同研究では、A2Aおよびその通信分野向け拡張であるA2A-Tをエージェント間の通信やタスク管理に利用し、その中でTMF921のIntentやIntent Reportを交換する構成を検証しています。これにより、異なる組織で独立して動作するAIエージェントが、ネットワークに対する要求や処理状態、評価結果を共有しながら、一つのタスクを協調して進めることができます。

A2AまたはA2A-TによるAIエージェント間連携

図3. A2AまたはA2A-TによるAIエージェント間連携

3. スタジアムイベントを用いたデモンストレーション

今回、共同研究で検討しているAIエージェント間の協調を具体的に示すため、大規模なスタジアムイベントに伴うネットワーク混雑を題材としたデモンストレーションを開発しました。このデモンストレーションは、2025年3月のNVIDIA GTC 2025で初めて紹介したコンセプトを、AIエージェントによる自律的な動作と相互運用性を備えた形に発展させたものです。イベント開催前の予測で、スタジアムをカバーするセルAの負荷が大きく上昇すると見込まれた状況から、一連の処理が始まります。

最初に、ソフトバンク側のTelco Agentが「セルAの負荷を60%以下にし、スループットを50Mbps以上に維持する」という条件をサムスン側のVendor Agentへ送ります。この時点では制御対象をセルAのみに限定しています。Vendor Agentは最適化機能とデジタルツインを利用して条件を評価しますが、セルAだけを操作した場合には二つの条件を同時に満たせないと判断され、その評価結果がTelco Agentへ返されます。

この結果を受けたTelco Agentは、周辺セルの状態を確認した上でセルBまで制御範囲を拡大します。Vendor Agentでは複数セルを対象としてビームなどの設定を再度最適化し、デジタルツイン上で検証します。要求された条件を満たす構成が得られると、その設定候補と評価結果をTelco Agentへ返し、Telco Agentが内容を確認して承認します。最終的に、Vendor Agentは承認されたネットワーク設定とロールバック用の設定を登録し、イベントに合わせた適用をスケジュールします。

スタジアムイベントにおけるAIエージェント間のシーケンス

図4. スタジアムイベントにおけるAIエージェント間のシーケンス

このデモンストレーションで示しているのは、特定のネットワーク最適化手法だけではありません。最初に与えられた条件では解が見つからなかった場合にVendor Agentが評価結果を返し、Telco Agentがネットワーク全体の状況を踏まえて次の判断を行います。その判断に基づいてVendor Agentが再び最適化を行うことで、異なる役割を持つ複数のAIエージェントが協調しながら、一つのネットワーク運用タスクを進める動作を確認できます。

今回の共同研究では、LTMをTelco Agentの中核として活用しながら、ベンダー側が持つ専門的な知識やネットワーク最適化機能とAIエージェントを介して連携することで、より広い範囲のネットワーク運用を自律的に扱うことを目指しています。今後、ネットワーク内で利用されるAIエージェントが増えていく中で、LTM自体の高度化とともに、異なるAIエージェントが相互運用可能な形で協調できる仕組みも重要になると考えています。

本共同研究のデモンストレーションは、2026年10月14日、15日に米国カリフォルニア州マウンテンビューで開催されるSilicon Valley Future Wireless(SVFW)Summit 2026で紹介する予定です。

SVFW Summit 2026で紹介予定のデモ画面

図5. SVFW Summit 2026で紹介予定のデモ画面

ソフトバンクはサムスンとの共同研究を通じて、LTMとさまざまなAIエージェントが協調することで、より高度な自律ネットワークの実現に向けた技術開発を進めていきます。

Author

田村 峻

田村 峻

東京大学大学院 社会基盤学専攻、 フランス École nationale des ponts et chaussées 都市環境交通学科卒業。2022年ソフトバンク入社。 以後、 MONET Technologiesにてデジタルツイン技術開発に従事。2023年からはAIの知識を活かし、 AI-RANにおけるAIワークロード設計にも携わっている。

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