水道がなくても生活ができるのか? 過疎化が進む集落での住み込み奮闘記【前編】
2025年11月5日掲載
「人口減少が進む故郷・秋田で、豊かな暮らしを守りたい」
その想いから、水道管に頼らない前代未聞の実証が始まりました。使った水を浄化・循環させる「分散型水インフラ」だけで、本当に生活できるのか?
担当者が空き家に住み込み、マイナス15℃、積雪2mという厳しい冬を越えた9カ月間。最先端テクノロジーとともにある暮らしのリアル、そして地域の未来を変える挑戦の第一歩を、ぜひご覧ください。
実証担当者紹介(プロフィール)
「人口が減っても、豊かな暮らしを」——私がこの事業にかける想い
私の志は、「人口が減少しても持続可能な仕組みをつくる」ことです。
人口減少率が長年全国で最も高い秋田県で生まれ育った私にとって、人口減少は常に身近な課題でした。「あなたたちが大きくなる頃、秋田県はなくなっているかもしれないよ」そんな冗談を周りの大人から聞くたびに、漠然とした危機感を抱いていました。
だからこそ、小学校の社会科の授業で初めて「人口爆発」 について習ったとき、衝撃を受けました。それまで秋田の人口減少が大変だと聞いていたのに、先生からは「世界では人が増えすぎてこれから食料問題や水不足、資源枯渇が発生する」と教わりました。ならば、どうして秋田の人口減少はこれほど問題視されているのか、人口が変化しても困らない仕組みさえあれば皆が幸せなのではないか。当時抱いたこの素朴な疑問が、私がここまで人口問題を人生のテーマとして追求する原動力となりました。
なぜ「水のインフラ」に挑むのか? 分散型インフラとともに描く未来
私は、人口減少によって”困ること”とは、水道や電気といった社会インフラを維持するための「一人当たりのコスト」が、大きくなりすぎて賄えなくなることだと考えました。人口の増減に関わらず一人当たりのコストが一定であるような社会の仕組みをつくれたら良いのではないか。そう考え、大学時代に出会ったのが、既存の水道管や電力網に頼らない「分散型インフラ」という考え方でした。
既存の大規模なインフラは、減少する税収では賄うことが難しくなってきています。その点、独立して機能する小規模分散インフラであれば、 過疎地においても1世帯当たりのコストが一定のため、生活水準を保つことができます。水道管の要らない水循環装置や電力の自給自足、地上に基地局がなくても利用できる衛星通信など、私が取り組んでいる次世代インフラは今後重要な一手になるでしょう。
私はこの可能性に魅せられ、 モンゴルのゲルやシリコンバレーのオフグリッド施設を訪れて探究を深めてきました。
挑戦の始まり。実証の舞台は、秋田の空き家
私が所属する次世代戦略本部では、水の課題解決に取り組むスタートアップ・WOTA株式会社との資本業務提携のもと、新しい水インフラの構築を目指しています。WOTA社が開発した家庭用の分散型水循環システム「WOTA Unit」は、すでにいくつかの地域で導入実績※がありました。しかし、本格的な普及のためには、分散型インフラの導入が見込まれる過疎地の半分以上を占める「寒冷地」での性能を証明する必要がありました。こうして「WOTA Unit」の実証地を拡大するにあたり、寒冷地オペレーションの最適化を図るという目的で、秋田での実証がスタートしました。
家庭用の分散型水循環システム「WOTA Unit」とは
災害に強く環境に優しい生活を実現する「家庭用の水循環システム」です。生活の中で発生する排水の最大97%※を安全な水に再生し、入浴や食器洗い、洗濯、トイレ洗浄などに再び使えるようにすることで、上下水道に接続しなくても水不足や水質の問題に悩まされない暮らしを実現します。
※ 再生率はご利用環境や水の利用方法によって異なる場合がございます。
人口減少や管路の老朽化に伴う上下水道財政の悪化に対し、政府は「集約型インフラと分散型システムのベストミックス」という新たな考え方に注目しています。これは、既存の上下水道を基盤としながら、地域の特性に応じて適切なエリアに「分散型水循環システム」を補完的に導入していくという、水インフラの新たな構築モデルです。
分散型システムは、面的な配管敷設を必要とせず、人口密度が低い地域においても経済合理性を確保しやすい構造を持っています。また、人口動態の変化にも柔軟に対応可能であり、さらに災害時のリスク分散という観点からも有効な仕組みと位置づけられています。
秋田県や実証地の仙北市の方々と1年以上議論を重ね、人口減少率ワーストの課題先進地域である秋田だからこその意義と向き合い、自治体の皆さまと地元業者さんたちを巻き込んで寒冷地に最適化した「秋田モデル」をつくろうというビジョンを共有した状態で実証をスタートできました。
水道管路から切り離された状態で、「WOTA Unit」の水循環だけで暮らす。まずはその実証に最適な空き家を探すために、東京から何度も現地を訪れては住民の方々に聞き込みを続けました。最終的に、地域唯一の民宿で地域の憩いの場になっている旅館のお母さんに、近くに空き家があると教えていただいて、持ち主の方に盛岡まで会いに行って許可をいただきました。
約2カ月にわたる宅内のリフォームや配管工事を経て、実証宅の納屋(かつて車庫だった場所)に「WOTA Unit」を設置。キッチン・お風呂などの各水回り設備への給排水管とつながっていて、排水を浄化・再生して再び宅内に供給する仕組みとなっています。こうして、2024年10月末から人口減少地で最先端のテクノロジーを使った暮らしが始まりました。
マイナス15度にもなる中での、循環水での暮らし
日中は一人、宅内でのフルリモートで、東京にいるときと変わらない業務を続けていました。加えて、実証宅での水の使用状況のデータを分析し、自治体の皆さまへの報告資料を作成したり、機器のメンテナンスなどを行いました。近隣自治体の職員さんや住民の方々に向けて、実証宅の視察を案内するといった、現地にいるからこその業務もありました。
当初は、この経験を通じて、分散型水インフラの現場に一番詳しい人になって、とことん住民や自治体の方々に寄り添った仕事をしようととにかく意気込みました。
2025年2月は北東北の各所で観測史上最大の積雪を記録するなど、大変厳しい冬でした。
実証地の秋田県仙北市上桧木内でも、マイナス15度以下、積雪2m以上を記録し、除雪に追われる毎日でした。私は自分一人では除雪しきれなかったのですが、向かいの住民の方に機械で除雪してもらったおかげで、生き延びることができました。なお、私が住んでいた家の隣の空き家は、積雪の重みで完全に倒壊。雪国の大変さや空き家問題の恐ろしさを身をもって思い知ることになりました。
こうした過酷な生活が続いたものの、2024年10月末から2025年7月までの約9カ月間、一度も機器は停止することなく、2024年の冬を乗り切ることができました。だからこそ、私はこの厳しい環境を一度も止まることなく乗り切った「WOTA Unit」の性能と、空き家を含む人口減少問題の重要な解決策の1つとなりうる分散型水インフラに可能性を強く感じました。この技術は、厳しい自然環境とともにある人々の暮らしを確かに支えることができる、その確信を深めたのです。
水の使用量としては、毎日250Lほどです。例えばバスタブにお湯を張ると約180Lを消費します。お風呂にお湯を貯めるほかにもシャワー、洗顔、炊事、皿洗い、歯磨き、洗濯など、生活水を使用する場面の全てで循環水を使いました。
利用可能な水量状況はタブレットで常時確認できます。蒸発などで減少していく分は、秋までに貯めておいた雨水のタンクから補充します。このタンクに氷が張ることはありましたが、管路には凍結対策をしているので、機器の性能に影響するような凍結はありませんでした。
宅内では、蛇口をひねれば水が出てくるという使い勝手は全く変わらないため、水の循環を意識することもなく暮らせていました。ただ、自分で使った水が自分に返ってくるという認識から、油を流さないようにしたり、使用する洗剤の成分を気にかけるなど、自分の体だけでなく地球にも優しい水の使い方を自然とするようになったと実感しています。
まとめ:技術は、暮らしに寄り添えるか
厳しい冬を乗り越えた「WOTA Unit」 。しかし、この実証が本当に価値を持つのは、テクノロジーが地域に受け入れられ、人々の暮らしに溶け込んでこそです。
後編では、地域の方々との心温まる交流や、この実証から見えてきた水インフラの、そして地域の未来の可能性についてお伝えします。
▶ 続きはこちら:水道がなくても生活ができるのか? 過疎化が進む集落での住み込み奮闘記【後編】
AIによる記事まとめ
人口減少が進む故郷・秋田で、水道インフラの未来をかけた挑戦が始まりました。使った水を浄化・循環させる「分散型水インフラ」だけで生活できるのでしょうか? 担当者が空き家に住み込み、マイナス15℃、積雪2mの厳しい冬を9カ月間検証しました。過酷な環境でも一度も停止しなかった最先端技術と、集落での暮らしのリアルを綴る奮闘記です。【前編】
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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