水道がなくても生活ができるのか? 過疎化が進む集落での住み込み奮闘記【後編】

2025年11月5日掲載

水道がなくても生活ができるのか? 過疎化が進む集落での住み込み奮闘記【後編】

「秋田の豪雪地帯で、水道管に頼らず“水の循環システム”だけで暮らす」。前編ではその技術的な側面をレポートしました。続く後編では、その社会的な価値を深掘りします。住民の方々との対話、厳しい自然環境で得られた知見、そして分散型水インフラの導入がもたらす「40年で12億円」という財政効果などを通じて、今回の実証から見えてきたことをお伝えします。

▶︎前編の記事はこちら

目次

実証担当者紹介(プロフィール)

ソフトバンク株式会社 石井ゆめみ
石井 ゆめみ
ソフトバンク株式会社 次世代戦略本部 第二戦略企画統括部 第4部 推進1課
1999年秋田市生まれ。東京大学教養学部地理・空間コースにて「人口減少地域のスマートシティ政策」を研究。卒業後、ソフトバンク株式会社に入社し、スタートアップ支援施設の運営に従事。社内プレゼンをきっかけにデジタルトランスフォーメーション本部次世代インフラ事業推進部(現、 次世代戦略本部)に所属、過疎地域のインフラを自律分散化する社会基盤事業に取り組む。

「なぜ?」から「必要かもしれない」へ。内覧会で見えた確かな手応え

2024年10月末に住み込みを始めて3週間後、近隣住民の方々に向けた内覧会を実施しました。内覧会の実施にあたっては、チラシを作成して呼びかけを行いました。部落会の会長である鈴木さんが愛車の軽トラの助手席に乗せてくれて、チラシを持って一緒に上桧木内中を回ってくれたことは、今でも胸が熱くなる思い出です。

内覧会当日は1日で11組17人の方々が足を運んでくれました。雪溶け水など水が豊富で美味しい地域のため、もともとは「水で困る」という意識は特にないところです。しかし、老朽化した水道管を更新するためには1km1億円以上かかることや、水道料金が30年で7倍程度になる可能性があることをお伝えすると、皆さんご関心を持ってくださって、「実際に機器を見て初めてイメージが湧いた」「これが冬の間に凍ってしまわないのか見ものだ」「人口減少する中では新しい形として必要なのかもしれない」という反応もありました。


実証宅で近隣住民の方々に向けた内覧会の様子
実証宅で近隣住民の方々に向けた内覧会の様子

この内覧会がきっかけで、実証にいち早くご理解を示し、協力してくださったのが、長年ものづくりに携わってこられた菊田 雄さんです。分散型水インフラの実証にあたっては、実際に住民の方のお宅でも「WOTA Unit」を使っていただきたいと思っていたため、菊田さんに実証へのご協力をお願いしました。

ご自宅の現地調査ののち、1月に実証への内諾、2月に「WOTA Unit」を設置、3月に通水を行い、使用を開始いただきました。寒冷地における住民宅での第一例目として実証にご協力いただき、貴重なフィードバックをくださった菊田さんには感謝でいっぱいです。


実証に協力いただいた住民の菊田さん

地元の方々に支えられた実証期間

2024年10月末から2025年7月までの約9カ月間、地域の一員として、また家族の一員のように本当に温かく私を迎え入れていただきました。そんな中で地元の中学生2人の受験勉強をみてみたり、山菜採りに連れて行ってもらったり、月1回定例の集落の飲み会に欠かさず参加したりもしました。晩御飯のお裾分けをくださった近所の方々に支えられてこの期間を乗り越えられたと、心から感謝しています。

何か恩返しをしたいと思い、住民の方々のご要望にお応えして即興でスマホ教室を開講し、延べ30人の方々にお越しいただいた、なんてこともありました。

特に思い出深いのは紙風船祭りです。上桧木内の伝統的なお祭りで、冬の夜空に6m大の大きな紙風船が80個ほども上がります。夜みんなで集まってひたすらに紙を貼ったり、プロジェクターを投影して下絵をとったり、絵の具で色を塗ったりするのですが、私も住民の方々と一緒に、ソフトバンクのロゴを描いた紙風船を制作しました。祭り当日、この紙風船が夜空に上がるのをみんなで見上げたときは、準備で過ごしてきた住民の方々との濃い想い出が蘇り、とても感動的な瞬間でした。


地元の方々に支えられた実証期間

地元の方々に支えられた実証期間

地元の方々に支えられた実証期間

分散型水インフラという新たな選択肢。実証が残した2つの成果

秋田県からの委託事業として始まったこの実証は2025年3月に最終報告会を迎えました。

実証期間の成果としては大きく2つあります。

1つは、「寒冷地ならではのオペレーションの最適化」ができたという点です。特にこの秋田県での実証では、配管工事や機器のメンテナンスにおいて地元業者さんと連携し、我々が現地にいなくても自走できる運用体制を構築することができました。

2つ目は、「分散化することによる財政効果試算を提示」できたことです。凍結防止のためにかかる電気代や雪囲いなど、寒冷地ならではのコストが精緻化され、仙北市の上下水道課から提供いただいた既存管路のコストのデータと比較することで、財政効果を算出しました。例えば仙北市上桧木内地域であれば、分散型水インフラの導入によって40年で12億円の財政効果が出るという結果になり、財政難に悩む行政の皆さまに期待いただける数字になりました。

秋田県仙北市での実証の成果を広めることで、県内の他市町村や国内のほかの寒冷地にも、分散型水インフラを新たな選択肢として見ていただけるようになればと思っています。


最終報告会の様子

実証を通して分散型水インフラの未来について思ったこと

私が時間を共にした地域の方々は、自然あふれる環境の中でとにかく豊かでたくましく幸せな暮らしを営んでいて、私が「課題解決」するなんておこがましいという感覚になりました。一方で、どんなに人口減少や過疎化が進んだとしても、この暮らしが変わらず続いてほしいという強い想いも湧いてきました。いつでも顔が思い浮かぶあの人たちの、ここにある暮らし、それが変わらないように支えるために自分は分散型水インフラを進めていくんだという確信を持てたことを、今後に生かしていきたいです。

住民の方の隣に並んで、真に「自分ごと化」した上で、地域の方々が本当に必要としていることはなんだろう、という問いを持つことを忘れずにいたい。そしてこの「次世代の水インフラ」が、日々の当たり前の暮らしの中で少しでも役に立てるように、地域の方々に必要とされる存在にしていきたいと思います。


実証を通して分散型水インフラの未来について思ったこと

▶ 前の記事はこちら:水道がなくても生活ができるのか? 過疎化が進む集落での住み込み奮闘記【前編】

AIによる記事まとめ

秋田の豪雪地帯で水道なし生活を検証した前編に続き、後編では、その社会的な価値をレポートします。内覧会で水道インフラ維持の課題を共有し、住民の関心を得て実証協力も実現しました。地元業者と連携した寒冷地での運用体制を築き、40年で12億円という財政効果も試算。過疎化が進む地域の暮らしを支える、分散型水インフラという新たな選択肢を示した奮闘記です。【後編】

※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。

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