
上下水道に頼らない生活は可能なのか。
2024年10月末から2025年7月にかけて秋田県仙北市(せんぼくし)でとある実験が行われました。ソフトバンクの社員が、生活用水を再生・循環利用する家庭用水循環システム「WOTA Unit(ウォータ・ユニット)」を備えた住居に実際に住み込み、新たな水インフラの可能性を検証する挑戦です。東北の厳しい冬の環境下で、生活者として上下水道に頼らない暮らしを体験したソフトバンクの石井ゆめみに話を聞きました。

ソフトバンク株式会社 次世代戦略本部 第二戦略企画統括部 第4部
石井 ゆめみ(いしい・ゆめみ)
秋田県出身。学生時代は地理・空間分野を専攻し、人口減少地域のスマートシティ政策に関する研究に取り組む。ソフトバンクに入社後、スタートアップ支援施設の運営などを経て、過疎地域のインフラを自律分散化する社会基盤事業に従事。秋田県仙北市の住宅に約9カ月間住み、「WOTA Unit」が寒冷地で安定して稼働するか検証を実施。
目次
“水道がない暮らし” を秋田県仙北市で住み込み検証【前編】
近隣住民宅にも導入!地域ぐるみで新しい水インフラを体験【後編】
9カ月間の実証で問う家庭用の分散型水循環システム「WOTA Unit」の可能性

近年、水道管の老朽化に伴う設備の更新費用の増加や、人口減少により水の使用量が減少し、水道事業の採算性が悪化するなど、全国的に上下水道インフラの維持が社会課題となっています。こうした課題の解決に向け、秋田県および仙北市、WOTA、ソフトバンクが連携し、9カ月間にわたる実験が行われることになりました。
家庭用水循環システム「WOTA Unit」

今回の実証に利用したWOTA Unit は、WOTAが独自開発した家庭用の「分散型水循環システム」。お風呂やキッチン、洗濯機、トイレから出る排水の最大97%を安全な水に再生し、入浴や食器洗い、洗濯、トイレ洗浄などの生活用水を賄えます。
「近くに空き家ありませんか?」難航する住居探しからのスタート
秋田県で生まれ育ち、人口減少をずっと身近な課題に感じていた私にとって、この地で「水道に頼らない暮らし」を試すことは、大きな意義がありました。
他の自治体で「WOTA Unit」の導入実績はありますが、「WOTA Unit」をさらに本格的に普及させるためには、過疎化が進む寒冷地において性能を証明する必要があったんです。本当に「WOTA Unit」が正常に動き続けるのか、やってみよう。そうした思いで県や市、地域の施工会社や機器の保守会社と1年以上議論を重ね、ビジョンを共有しながら準備を進めました。

最初の課題は、実験に適した家を見つけること。空き家はたくさんあるのですが、空き家バンクや不動産情報に登録されている物件は少なく、「WOTA Unit」を設置するスペースなどを考慮すると選択肢が限られてしまう。そこで未登録の空き家を聞き込みで探し出し、貸してもらえるように交渉する必要がありました。
「ここは空き家ですか?」「近くに空き家はありませんか?」
水道管から切り離すことができて、「WOTA Unit」の水を使用して暮らせる条件の家はなかなか見つからず、東京から何度も足を運び、地元の方へ聞き込みを続けました。
すると、地域唯一の旅館の方から、近くの空き家の情報を得ることができ、岩手県の盛岡市に住む所有者の方に直接交渉をして、使わせてもらえることになったんです。事情を説明して快諾していただけたときは、本当にホッとしました。
約2カ月かけてリフォームと配管工事を行い、かつて車庫だった納屋に WOTA Unit を設置。物件探しからリフォーム完了までの準備に7カ月、ついに2024年10月末から仙北市での実証生活がスタートしました。引っ越し初日、排水が「WOTA Unit」を通してきれいな水になって再び蛇口から戻ってくるのを見て、「水道に頼らない暮らしがここから始まるんだ」と実感しました。

納屋に設置された「WOTA Unit」
1日の生活用水を循環水で賄う。極寒の環境でも問題なく稼働
元々、ソフトバンクではリモートワークができるOA環境が整えられているので、実験期間中は、東京にいるときと何ら変わらず、仙北市の住宅で業務を行っていました。自治体への報告資料の作成や、機器のメンテナンス、近隣の自治体職員の視察対応など、実証実験の業務と平行して、普段通りの生活が送れたのも、フルリモート可能な環境があったからこそだと思います。

1日の水使用量はおよそ250リットル。入浴や、食器洗い、歯磨き、洗濯など飲み水以外はすべて循環水で賄うことができました。蒸発や水の浄化処理で減った分はためておいた雨水タンクから自動で補充され、水量が保たれる仕組みになっています。

「WOTA Unit」で循環した水が住宅内の配管を通じて蛇口から出てくる

雨水が自動で貯まるタンク。蒸発などで減少した分がタンクから「WOTA Unit」に補充される(タンク形状は試作段階)。
私が生活していた期間中の2月、北東北各地は観測史上最大の積雪を記録するほどの厳冬で、住宅があった仙北市の気温はマイナス15度以下、積雪2メートル以上を記録。水が凍ることで、「WOTA Unit」の稼働に影響が生じることを懸念しましたが、管路にヒーター線を入れて凍結を防いでいたので、タンクに氷が張ることもありましたが、問題なく稼働してくれました。


実は、ドキドキした出来事もあったんです。1泊、家を空けて帰宅したところ、なんと蛇口が凍って水が出てこない…。ただ、これはシステムに起因するものではなく、水抜きしないでしばらく時間が経過すると起こりやすい事象で、地域の皆さんもよく経験するそうです。室温を上げることで解消してほっとしました!

「蛇口をひねれば水が出てくる」ことは、東京にいたときと何ら変わりませんでしたが、「自分で使った水が自分に返ってくる」と思うと、洗剤や調理で使う油の処理の仕方に、これまで以上に気をつけるなど、自分の意識が変化していったことに気が付きました。
こうして実証実験が順調に進む中、なんと、興味を持った方の家に、「WOTA Unit」を設置する展開に…。詳しくはこちらの記事を読んでみてください!
(掲載日:2025年10月31日)
文:ソフトバンクニュース編集部
持続可能な次世代水インフラ

ソフトバンクは、WOTA株式会社と資本・業務提携し、水利用の課題解決に向けて取り組んでいます。水に関する自由の実現と環境への責任を両立し、より創造的で持続可能な暮らしの実現を目指しています。






