災害時の「生活用水」どう確保する?龍ケ崎市・防災担当者が語る水循環型シャワー導入による断水への備え
2025年12月22日掲載
茨城県龍ケ崎市は、水害や地震の複合的リスクを抱え、断水時の避難所衛生環境悪化やそれに伴う災害関連死に課題を感じていました。そうした中、令和6年能登半島地震の被災地支援の経験を通じて、断水時でも避難所の衛生環境を維持する仕組みが必須だと確信し、国の交付金制度を活用して「WOTA BOX」8台の導入を決定しました。
「WOTA BOX」の導入は、断水時でも少量の水で多くの避難者がシャワーを浴びることができるようになるだけでなく、日ごろの市民の防災意識の向上にもつながっているといいます。今回は、その導入背景と防災への取り組みを防災担当者にうかがいました。
水害と地震の複合リスク 被災地支援で「漠然とした課題」に「一つの答え」が見つかった
茨城県の南部に位置する龍ケ崎市は、西に小貝川、南に利根川という二つの大河川に囲まれ、市域には田園地帯と台地が広がっています。この地形的特徴から、市は古くから水害リスクと隣り合わせにありました。
「田園地帯は浸水想定区域になっており、台地との間には土砂災害警戒区域もあります。加えて地震のリスクもあり、地区によって全く災害対応が異なる状況です。1981年8月24日の小貝川の洪水被害をきっかけに、市は8月24日を『市民防災の日』と定めて防災訓練や啓発活動を続けるなど、防災に積極的に取り組んできています。しかし、断水時における『生活用水の確保』や『衛生環境の維持』という課題には、これまで漠然とした認識しか持てていませんでした」(鈴木氏)
その漠然とした課題に「一つの答え」が見つかったきっかけが、令和6年能登半島地震への被災地支援でした。
「龍ケ崎市からは、富山県高岡市と石川県七尾市に対して給水車での給水支援を実施しました。龍ケ崎市でも東日本大震災では断水が発生しており、生活用水の必要性は感じていましたが、能登への支援を経験してさらに痛感しました。
現地の避難所の環境は、飲料水はあっても生活用水が不足しており、体を洗えず、衛生的なトイレも使えない状態でした。不衛生な生活環境は、災害関連死のリスクにもつながります。給水支援で出会う避難者の方々から『お風呂も入れないんだよ』という話を聞き、生活用水が不足している深刻さを実感しました。しかし、悲壮感が漂う避難所の中で、避難者向けに提供されていた水循環型シャワーである『WOTA BOX』を使った人たちだけがなぜか笑顔だったのです。その表情の違いを目の当たりにして、衝撃を受けました。災害時の入浴環境の確保は、避難者の心身の健康を支える非常に重要な要素であると、このとき確信しました」(鈴木氏)
「避難所で『WOTA BOX』を初めて見たので、近くにいたスタッフにどういったものなのか話を聞きました。通常、お風呂やシャワーには大量の水を必要とするのに対し、『WOTA BOX』は少ない水を高効率で再生・循環させることで、災害時の断水により水の供給や使用が制限される状況にあっても、避難所でも温かいシャワーの提供が可能であると聞き、断水時の備えとして絶対に必要だと感じました」(圓城寺氏)
能登の現場で得たこの強烈な体験が、龍ケ崎市の防災対策を大きく動かす原動力となりました。
「WOTA BOX」とは
「WOTA BOX」は排水の98%以上を再生・循環利用し、通常であれば2人分のシャワーで消費する水量で、約100人がシャワーを利用することができます。利用したい場所に設置(2人で約15分)するだけで、準備が完了します。
決め手は「防災担当課の熱意」と「企画・財政部門の理解」
能登から戻った鈴木氏らは、被災地支援の話や「避難所ではこういう水循環型シャワーがあった」という話を、職員研修や各地区における市民向けの出前講座で1年かけて伝えてきました。
「当時、水循環型シャワーについては県内他自治体に購入実績がなく、龍ケ崎市での導入は難しいだろうと思っていました。まずは自分たちのできることをしようということで、被災地支援での経験を庁内外に伝え続けました」(鈴木氏)
この地道な啓発活動が、庁内に「避難所の衛生環境改善は必要だ」という共通認識を醸成していったのです。
「水循環型シャワーの導入にあたっての転機は、国が新設した交付金制度の情報が舞い込んできたときでした。通常であれば、防災安全課からのボトムアップで予算要求が上がります。しかし今回は、交付金事務を所管する企画部門から『交付金の対象事業に避難所の衛生環境改善とあるが、活用できないか』という情報共有がありました。我々(防災安全課)単独だったら、『必要だ』と頭では思っていても事業化には進まなかったと思いますが、この部署間連携があったことで、具体的に導入の検討を進めることができました」(鈴木氏)
交付金制度の申請スケジュールは非常にタイトでしたが、防災安全課、交付金を所管する企画部門、そして財政部門が一斉に集まって協議をすぐにスタートすることができました。結果、そのほかの避難所衛生環境改善事業も合わせて採択され、交付金による支援を得ることができました。
防災担当課が現場で得た「市民の避難生活における健康維持として必ず必要だ」という確信を訴え、企画部門が活用できる交付金を見つけ出し、財政部門が国の交付金制度や財源措置の活用判断を行うなど、お互いが知恵を出し合い、的確に判断したことで、短期間の中においても事業化につなげることができました。この部署を超えた「横連携」こそが、龍ケ崎市が迅速な導入を実現できた最大の理由でした。
導入が「ゴール」ではなく、市民の防災意識を高める効果を期待
2025年10月16日、龍ケ崎市役所で「WOTA BOX」 8台と移動式トイレのお披露目会が実施されました。
「お披露目会では、想像以上に多くの市民の皆さまから『よく導入してくれた』と反響をいただきました。一番うれしかったのは『龍ケ崎市に住んで本当によかった』と言ってくれたことです」(鈴木氏)
また、鈴木氏らは、「WOTA BOX」の導入によって、市民の防災意識の向上も期待できると言います。
「能登の現場で災害のあまりの甚大さに、自治体の支援だけでは限界があること、そして一人一人の防災意識が重要であることを痛感しました。しかし、平時に防災を呼びかけても、市民の皆さまの意識を変えることは難しい場合が多いです。
『WOTA BOX』という『実物』と、我々が現地で見てきた実体験の『ストーリー』があって、初めて市民の皆さまも『自分たちも災害に備えなければいけない』と実感いただけると思います。『防災設備がある』という安心感だけでなく、それが『なぜ必要なのか』という物語がセットになることで、市民の皆さまには避難所生活をリアルに想像していただき、『市のシャワーはあるけど、自分は使えないかもしれないから井戸水を用意しておこうか、もしくは、井戸水を使っている人に協力をお願いしようか』といった具体的な災害への備えや市民同士の助け合い(共助)への行動につながることを期待します」(鈴木氏)
今後の展望について~実物を使った「体験訓練」へ~
鈴木氏らは、導入した「WOTA BOX」を「お披露目」で終わらせるつもりはありません。
「職員や自主防災組織、防災士を対象とした組み立て研修を4回実施しています。組み立ても非常に簡単で、2人がかりで15分程度で完了します。研修参加者からは『久々にわいわい騒ぎながら作ったりして楽しかった』と好評でした」(圓城寺氏)
「実際の避難所では、防災担当職員以外にも組み立てを担当してもらう可能性があるので、今後も研修で即戦力となる人材を増やしていきたいです。さらに、研修だけではなく、避難所生活訓練や防災キャンプなどで、市民の皆さまが実際に温かいシャワーを体験できる機会を検討していきます」(鈴木氏)
能登の現場で生まれた一つの「気付き」が、組織を動かし、市民の意識を変えていこうとしています。このプロセスは、全国の自治体担当者の皆さまにとって大いに参考となるのではないでしょうか。
ソフトバンク株式会社 次世代戦略本部 井上良太、ソフトバンク株式会社 公共事業推進本部 飯島英之
龍ケ崎市マスコットキャラクター「まいりゅう」
龍ケ崎市 総務部 防災安全課 鈴木崇生 氏、龍ケ崎市 総務部 防災安全課 圓城寺和則 氏
AIによる記事まとめ
茨城県龍ケ崎市が、断水時の避難所衛生を改善するため水循環型シャワー「WOTA BOX」を導入した経緯と展望を紹介する記事です。能登半島地震の支援現場で入浴が避難者の心身を支える重要性を痛感した担当者が、部署間の垣根を越えて連携し、国の交付金活用を実現。単なる設備導入に留まらず、実物を通じた訓練や体験を通じて、市民の防災意識向上と「共助」の醸成を目指す同市の先進的な取り組みをまとめています。
※上記まとめは生成AIで作成したものです。誤りや不正確さが含まれる可能性があります。
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