なぜ宮川社長が選ばれたのか

社外取締役 指名委員会委員長 報酬委員会委員長

堀場 厚

宮川社長が選ばれた経緯についてお聞かせください。

このたびの社長指名に当たっては、「テクノロジー」がポイントとなりました。ソフトバンクではまず、宮内会長(前社長)が、従来の通信事業者の枠を超えた成長モデルを構築するため、「Beyond Carrier」戦略を打ち出されました。そして、宮内会長らしい卓越した実行力でけん引され、通信事業を超えてどの領域にでも進出できる、圧倒的な顧客接点を持つ事業基盤を作り上げられました。企業として次の10年は、この事業基盤を技術力によってさまざまな価値に変えていくステージになります。次期社長は、リーダーシップに加えて、AIをはじめ最先端のテクノロジーに精通しているということが決め手となりました。

もちろん経営者としての資質に長けた候補者が他にもおられましたが、これからのソフトバンクの将来像に照らし、指名委員会では弁護士、会計士、経営者、それぞれ専門性の異なるメンバーがさまざまな質問や意見を交わした結果、「テクノロジー」というキーワードにより、最終的に全員一致での指名となりました。宮川社長は、若くしてCTO(最高技術責任者)に就き長期にわたり務められ、テクノロジーに関する豊富な知識はもとより、数々の修羅場をくぐってこられた、まさにたたき上げの逸材です。加えて、財務や投資を含め全体的な経営視点を持っておられ、ソフトバンクのかじ取りを託す人材としては最適だとの理由で宮川社長を指名いたしました。

経歴もさることながら宮川社長と接してみて、実際に何か感じられることはありますか?

周囲のサポートを自然と受けられる人柄だと思います。宮内会長体制でもそうでしたが、大企業となると、それぞれの分野で全幅の信頼をおく参謀の存在も大きく、そういった人たちの手助けなしに物事を前に進めることはできません。ましてや、自信とプライドをもって仕事をしている人たちがたくさんいる中で、兆円単位の売上規模の会社を尋常ではないスピード感で引っ張っていく場合はなおさらです。ソフトバンクは、大企業でありながら中小のベンチャー企業のような風通しの良さが強みですから、自然と周囲がサポートに集まってくる宮川社長の人柄は、ソフトバンクの組織力を引き出すうえで実は非常に重要なことだと思います。

ただし、風通しが良いといっても仲良しクラブではありません。実際、取締役会では創業者である孫取締役から常に核心を突く問いかけがありますし、議論も非常に白熱することが多いです。これは健全な議論がなされている証拠で、表向き対立のない「しゃんしゃん取締役会」では決してありません。近年ではサクセッションプランの必要性がよく指摘されますが、これもマニュアルやチェックリストで体裁を整えただけの血の通っていないものだと、かえって間違った人を選んでしまうと私は思っています。また、競争を勝ち抜いた人を選ぶ仕組みも一見フェアなように思えますが、実は人間性など大事なものが抜け落ちてしまう可能性があります。そのような仕組みを基にした評価も必要ですが、最終的には愛社精神や周囲の積極的な協力を得られることなど、ハートの部分をしっかり見て、リーダーの器かどうかを判断するべきではないでしょうか。この点でも、宮川社長は適任だと思います。

あえて宮川社長にアドバイスするとしたらどういったことがありますか?

スタートで肩に力を入れすぎないことだと思います。これから長丁場ですし、宮川社長といえども、自分でやれること、やれないこと、いろいろあると思います。私も創業者からバトンを受け取った時、創業者とはまた違うプレッシャーがありました。しかし、一人で抱え込んで焦ったところで良いことは何もなかったように思います。やるべきことに優先順位をつけ、周囲を信用し着実に進めていく。それが経営者の仕事と割り切り、周囲のプレッシャーを感じて焦らない、力みすぎないことの大切さを伝えたいと思います。

宮川社長の就任と同時期に社外取締役が2名増員されました。この背景をお聞かせください。

お二人とも女性で、社外取締役6名の男女比はちょうど半々になり、ダイバーシティという面においてよりバランスのとれた形になりました。まず菱山取締役は、AIやIoTといった先端テクノロジーに深い知見を有しておられ、宮川社長の目指す「テクノロジーカンパニー」を外部視点でサポートいただける頼もしい存在です。また越取締役は、弁護士で国内外の法務はもちろん、女性活躍推進の支援などにも詳しい方です。さらに、地方自治体での多様な経験を生かし、ソーシャルの面でも貴重なアドバイスをいただけると思います。

今回、役員報酬の体系も変更されていますが、報酬委員会の委員長として役員報酬体系はどのように評価されていますか?

ソフトバンクの役員報酬体系のポイントを一つ挙げるとすれば「オーナーシップ」です。ソフトバンクの役員報酬は、毎月現金で支払われる基本報酬と業績連動報酬があります。今回変更した役員報酬体系の下では業績連動報酬が基本報酬の最大2~3倍強となっており、かつ業績連動報酬は全て株式報酬で支払われることとなっています。つまり、譲渡制限のある株式報酬の割合が大きいことが特徴です。自社の株式を役員が一定数保有することは、口だけではなく、長期の株主・投資家の方々と同じ目線で経営することになり、長期的な企業価値向上のモチベーションにつながります。逆に会社の価値を毀損したり、健全性を損ねたりするような無責任な行動の抑止に繋がる良い仕組みだと考えています。また、ソフトバンクはこれから「Beyond Japan」にも力を入れていきますので、海外で優秀な人材を獲得するため、世界水準のスケールで報酬体系を考えていくことがより重要になってくるのではないかと思っています。

今回の役員報酬体系の変更では、上記以外にも、重要課題(マテリアリティ)に紐づくKPI等のサステナビリティ要素の追加、TOPIX対比をもとに決定するTSR(株主総利回り)係数と連動する中期業績連動報酬部分の新設について、報酬委員会で議論し導入を提言しました。特にサステナビリティやESGの議論は形式を整えるだけではなく、その会社や事業にとって本質的に重要なものは何かを自社の文脈に置きかえて語っていくことが重要です。その観点からも、ソフトバンクの事業は社会的に必要不可欠なサービスを提供し、当然にサステナビリティに貢献していくものと考えています。

オーナーシップという点では今回、宮川社長は会社からの融資で200億円規模の自己株式取得を個人で行われましたが、どのように思われますか?

ソフトバンクの将来についての自信と、経営に対して誰よりも責任を負う覚悟の表れだと思っています。今回の決定についてはさまざまな議論がありますが、良い意味での問題提起になると私は受け止めています。日本に数ある大企業の中でも、ソフトバンクは、最も独立性があり純粋に成長を目指していることが明確な企業であると言えるのではないでしょうか。

最後にソフトバンクのガバナンスについて何かご意見はありますか?

やはり外部のステークホルダーの声に真摯に耳を傾け、ガバナンスも形式論ではなく実質論で、常に「変えていく柔軟性」を持たせることが重要だと思っています。企業の仕組みというものはその時の状況にあった形で導入するので、何年かたてば必ず陳腐化する部分が出てきます。一度決めたらそれを永遠に継続するのではなく、時には思い切った視点で変化させていくことが、その仕組みを生きた状態で機能させていくためには必要だと思います。また、そもそもわれわれがチェックしているものは、誰かが選んでそ上に上がってきたものですから、それが全てという保証はないわけです。もちろん、しっかりとした仕組み作りが基盤にはなりますが、人が介在することに100%はありえません。つまり、ガバナンスのチェックも最後は人同士の信頼感に帰着する問題だと私は思っています。その意味でも、ソフトバンクは大企業でありながらも風通しがよく、誰に対してもはっきりものが言える社風であることを、私は特に高く評価しています。

それともう一つ、オーナーシップあるいはベンチャースピリットを持っているそれぞれの役員が存在し、総体として企業価値を高めているのがソフトバンクの強さですから、宮川体制においても、その総合力が発揮されているのか、といったところをしっかり見ていきたいと思っています。

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