企業の抱える課題
“ペインポイント”を
テクノロジーの力で
解決するのが我々の役目

代表取締役 副社長執行役員 兼 COO

今井 康之

大胆なビジネスモデルの転換で高成長事業へ

ソフトバンクの法人事業は、上場以降毎年10%近い成長を続ける高成長事業です。2021年3月期には前期比29%の増益を達成しました。今でこそ、当社の業績をけん引する中核事業の一つとなった法人事業ですが、最初から順風満帆だったわけではありません。当社の法人事業は、日本テレコム(株)を買収した2004年に始まりました。買収当時の日本テレコム(株)は赤字会社。私は仲間とともに、事業の立て直しに乗り出しました。実は私は2000年にソフトバンクに入社する以前、大手建設会社の鹿島建設に約18年間勤めていました。新人の頃に数年現場に出た後は営業一筋でやってきましたから、法人営業はまさに得意中の得意だったのです。

では、赤字から始まった当社の法人事業がいかにして今の姿になったか。まず着手したのは営業改革です。ソフトバンクは情報革命の会社ですから、売るモノは最先端のテクノロジーなんです。しかし、今まで世の中に無かったものを売るというのは簡単なことではありません。そこで私は「自分で体験していないものは売るな」と言いました。新しいものはまず自分たちで取り入れる。それだけではなく、使いにくいところはちゃんと改善して、ブラッシュアップしたサービスをお客さまへお届けする。そうすることで「なぜこのツールが必要なのか」「どう使えばより効率的なのか」といった運用ノウハウを一緒にお客さまに提供することができます。例えば、2008年に法人事業の全社員にiPhoneを持たせました。その後タブレット、クラウドも導入し、ペーパーレス化を強力に推進しました。社員は世界中どこからでも仕事ができるようになり、また環境資源へ配慮する考え方も根付きました。今でこそ、SDGsの追求やリモートワーク環境の構築にあらゆる企業が取り組んでいますが、われわれはすでに10年以上前から、このような時代の到来を見据えて行動を起こしていたのです。

それだけではありません。われわれがこの10年で取り組んだのは、モノ売りからの脱却、つまりビジネスモデルの転換です。スマートフォンをただ売るだけの仕事では他社との差別化は難しい。サービスを提供する会社にならなければ、この先生き残ることはできない、と感じたことがきっかけでした。今ではもう、うちのスマホを使ってくださいというような営業は一切していません。企業がお金をかけてまで解決したい一番の課題“ペインポイント”は何なのか、それをわれわれの持つテクノロジーでどうやって解決するか、徹底的に考えて提案する。これがソフトバンクのソリューション提案型ビジネスです。

大幅増益を達成した2021年3月期

2021年3月期の法人事業は、モバイルが前期比11%の増収、ソリューション等が17%の増収と大きく成長し、セグメント利益は29%増となりました。もちろん、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う企業のテレワーク需要の急増が追い風となったことは事実ですが、10年以上前からテレワークを社内で実践し、最適なツールと運用ノウハウを熟知していたことが、コロナ禍において当社が選ばれた理由だと考えています。特に大きく売上を伸ばしたソリューションビジネスについては、「テレワーク特需による一過性のものなのではないか」とご心配いただくこともあります。しかし実は、ソリューション等の売上のうち7割以上が単発の案件ではない継続性のある収入であり、今後の安定的な成長に資するものです。

最大の強みは圧倒的なBtoCプラットフォーム

今後の法人事業の成長についても私は自信を持っています。コロナ禍により社会のデジタル化は一気に加速しました。今後は人々の生活のあらゆる場面がデジタル化される、超デジタル化時代が到来します。ソフトバンクの法人事業の強みは大きく二つあり、一つは企業の“ペインポイント”を解決するソリューション提案ができること、もう一つは圧倒的なBtoCプラットフォームを持っていることです。ヤフーのポータルサイトやeコマース、LINEのメッセージサービス、PayPayの決済サービスはそれぞれ数千万人のユーザーを抱えています。この二つをあわせ持つ企業は、日本でソフトバンクだけだと思います。

では、なぜ法人向けのビジネスにBtoCプラットフォームが重要なのか。超デジタル化社会が到来し、人々の生活のデジタル化が進めば、企業はオンライン上でサービスを提供していく必要が出てきます。サービスを作るところまではできても、それを一般のユーザーにどう届けるかというところに課題を抱えている企業が実は多い。一般の企業が自社でアプリケーションを立ち上げて、それを一般に普及させるためには、相当なコストがかかります。この“ペインポイント”を解決できるのがソフトバンクです。われわれの持つヤフーやLINEといった、すでに確立されたプラットフォームの上でサービスを展開すれば、簡単にまた瞬時に数千万人のユーザーにリーチすることができます。だからといって、単純にヤフーやLINEとだけ提携すればいいかというと、それも違います。ソフトバンクが間に入ることで、そのサービスを運営するために必要なシステムを、それこそクラウドからデバイスまで一気通貫でご提供できます。サービスはただ作るだけではなく、いかに運営していくかが重要です。広範なユーザー基盤を持つサービスプラットフォームと運用システムを同時に提供できるところに、他のコンサルティング企業やシステムインテグレーターの追随を許さない、当社の圧倒的な優位性があります。

IoTやデジタルマーケティングに大きな可能性

今後の法人事業の成長を考える上で、われわれが特に注目しているのがIoTです。5Gが普及し、モノとモノの通信が本格化すれば、そこから発生するデータをどうやって活用するかが産業の基幹になる時代がやってきます。実は昨年、体験したものしか売らないというモットーに則り、新本社を丸ごとスマートビル化しました。1,000以上のセンサーを設置して、そこから得られるデータをAIが分析し、オフィスの最適化に役立てているほか、周辺の商業施設や利用客にもデータを提供しています。この新本社ビルをモデルケースとして、スマートビル・スマートオフィスのビジネスを展開していく考えです。スマートビルで一体どうやって儲けるのかというご質問をいただくこともありますが、データ活用が当たり前の世界になれば、例えば水道・電気と同じように、共用費としてデータプラットフォームの利用料をいただくことができると思っています。

今後IoTは、オフィスだけでなく、工場、小売り、お店などさまざまな場所に広がっていきます。日本の全ての企業が、どうやってデータを活用しようかと考え始めるでしょう。そうなれば、まさにソフトバンクの出番。さあ来いという気持ちで待ち構えています。

デジタルマーケティング市場にも大きな可能性を見いだしています。われわれがデジタルマーケティングと言った時、顧客企業が実際にデジタル広告を出すのはヤフーやLINEのサービス上となります。しかしマーケティングの根幹は、広告を介して得られるさまざまなデータを分析し、いかにして次のアクションプランに繋げるかにあります。ソフトバンクが取り組んでいるのはまさにこの、データ分析・活用のコンサルティングです。実際に提案力の強化のため、研修の充実による人材強化や、実績のある企業との連携を積極的に進めています。付加価値の高いコンサルティングの部分を当社の法人事業が担うことで、今後もデジタルマーケティング分野で大きな成長を見込んでいます。

法人事業は、日本で確立したビジネスを海外へ展開する「Beyond Japan」の取り組みも進めています。第一弾として、アジア10カ国でデジタルマーケティングビジネスを展開するADA社へ出資を行いました。われわれが目指すのは、優れた海外企業との共創によって、コストを最小限に抑え効率よく自社のサービスを広めていく“アセットライト”な海外展開です。

取り組むべき課題は情報セキュリティと人材育成

当社は、事業を大きく拡大すると同時に、リスク管理も徹底して行っています。中でも、クラウドやIoT、デジタルマーケティングなどのサービスを提供する法人事業にとって、情報セキュリティは非常に重要な課題です。特にBtoBtoCのビジネスでは個人のお客さまの情報を扱うことになりますから、情報管理の重要性はますます増しています。当社では、CDO(最高データ責任者)が統括するCDO室で厳格なルールを定め、厳重にデータの取り扱いを管理しています。情報セキュリティに100%というのはありませんので、常に課題認識を持って、セキュリティの強化・改善に日々取り組んでいます。

もう一つ、われわれが事業を挙げて取り組んでいるのが人材の育成です。ソリューション提案型のビジネスにおいては、企業の抱える課題“ペインポイント”をいかに的確に見つけ出せるかが、勝負のカギとなります。われわれがいわゆる通信のモノ売りをしていた頃は、企業の情報システムの部署に売り込みをするだけでしたが、ソリューションビジネスはそれではダメですよね。もっとその企業の懐に入り込まないといけない。財務諸表から中期計画まで徹底的に読み込み、経営者が何を思考しているかを理解しなければ、ソリューションを作り上げるなんて不可能です。そのため法人事業では、財務からコンサルティングまで幅広い研修プログラムを用意し、営業員ひとりひとりが経営者の目線で物事を考えられるよう、日々トレーニングを行っています。また一口にソリューションと言っても、業界ごとに事業環境は大きく異なります。そこでわれわれは業界に特化したチームを作り、さらに知見を深める努力をしています。現在は、企業の中に入り込んで業務プロセス自体を組み立て直すことのできる人材の確保が急務となっており、社内でその育成を急ぐとともに、外部からも人材を集めているところです。デジタル人材の育成・確保は法人事業の今後の成長に欠かせませんので、引き続き重点課題として取り組んでいきます。

SDGsと法人事業

ソフトバンクの企業理念は「情報革命で人々を幸せに」することです。国連の定める「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて世界中が取り組みを進める中、日本の多くの企業・自治体にソリューションを提供するわれわれソフトバンクができることは何か、常に考えていかなければいけないと思っています。

例えば、5Gを用いて工場を自動化し、業務を効率化したいというお話をいただくことがあります。確かにカメラと5G通信、AI映像分析を組み合わせれば、比較的容易に人の作業を自動化することができます。しかし、映像のような重たいデータをただ闇雲に通信に乗せてクラウドに上げてしまうと、今度は大量の電力が必要となる。これでは、今世界中が取り組んでいる「カーボンニュートラル」の流れに逆行してしまうんです。われわれはビジネスを通じてSDGsを追求する会社ですから、このような案件の場合、エッジコンピューティングとクラウドを組み合わせ、自動化のニーズと環境負荷低減の両方を勘案しながら、最適なソリューションを提案します。それが顧客企業の持続可能性、サステナビリティに繋がると考えています。

2023年3月期 法人事業営業利益目標1,500億円について

2023年3月期に営業利益1,500億円を達成するということは、これから2割近い成長を続けるということです。決して簡単な目標ではありませんが、ソリューション等とモバイルの成長により、十分に達成可能と考えています。ソリューションについては継続的な収入の割合が高いことなどを説明させていただきましたが、実は法人向けのモバイルサービスもコスト効率が良く収益性の高い優れたビジネスです。ただ、われわれの営業はもう全てがソリューション提案型になっていますから、モバイルだけ採用してくださいというやり方はしていません。クラウドやセキュリティ、VPN、IoTなどのさまざまなサービスをトータルでご提案すれば、自然とスマホやタブレットもソフトバンクにお願いしようという流れになるのです。ソリューションビジネスを拡大すればするほど、モバイルの契約数も増加する。まさに、当社のビジネスモデルの転換が奏功した結果と言えると思います。私は1,500億円達成以降も、当社の法人事業はさらに成長できると確信しています。

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