デジタル技術を社会実装する
旗振り役を担い
企業価値の向上を目指す

代表取締役 社長執行役員 兼 CEO

宮川 潤一

宮川 潤一

2021年4月に代表取締役 社長執行役員 兼 CEOに就任しました宮川 潤一です。はじめに、新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、罹患された方々に心よりお見舞い申し上げます。

当社は「情報革命で人々を幸せに」という経営理念の下、時代の先を読み、テクノロジーで人々の生活を便利で豊かにするサービスを提供し企業価値を高めてきました。振り返ってみますと、2000年代前半は低価格かつ高速なブロードバンドサービスをいち早く提供し、以来日本のブロードバンドの普及に貢献してきました。また、2008年からは国内で初めてiPhoneの提供を開始し、高品質なモバイルインターネットインフラを提供することで日本におけるスマートフォンの普及をけん引してきました。さらに、デジタル化の未来を見据えて、先端テクノロジーの開発・普及に積極的に取り組んでいます。最近では2018年にスマートフォン決済サービス「PayPay」を開始し、日本のキャッシュレス決済の普及に注力しているほか、IoT・AI・自動運転などにも取り組んでいます。

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、リモートワークやeコマースなどの需要が高まり、社会のデジタル化が加速しています。いまこそ、デジタル化にいち早く取り組んできた当社が社会に貢献し存在意義を示せるまたとない機会です。このデジタル化という大きな時代の変化の中、当社で10年以上CTOを務めてきた経験を生かし、今度は社長という立場で、テクノロジーの力を用いて当社の企業価値をさらに高めていきたいと意気込んでいます。時代の進展に合わせて企業の形は変わっていきますが、常に「情報革命で人々を幸せに」という原点を忘れずに取り組んでまいります。

ここからは、経営ビジョンや戦略、中期的な業績目標に対する進捗、今後の各事業の展望、株主還元の考え方など、投資家の皆さまからご質問の多い項目についてQ&A方式でお答えしたいと思います。

宮川 潤一

1991年にインターネット接続サービス(ISP)事業者を創業し、約10年間代表取締役社長を務める。2001年に現 ソフトバンク(株)に参画し、2006年4月に取締役専務執行役(CTO)に就任。主にテクノロジー領域の事業統括責任者として当社の成長に貢献。2018年4月に当社代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOに就任。近年では複数のグループ会社で社長を務めたほか、東京大学と当社が共同で推進しているAI関連の連携事業を主導。2021年4月から代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める。

社長就任に際して

当社のビジョンは「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」を目指すことです。社長に就任するにあたって、改めてこのビジョンを実現するために私が今後何をすべきか考えてみました。

コロナ禍により期せずして進んだ社会のデジタル化は今後ますます加速し、社会のありとあらゆるものがデジタル化される「超デジタル化社会」が今後10年で到来すると考えています。これからは全ての産業でデジタル化を進める動きが出てくるでしょう。そのような中で、デジタル技術を社会実装する旗振り役、つまりデジタル技術を社会に普及させる中心的な役割を果たす存在が求められており、当社はそうなる絶好のポジションにあると考えています。なぜなら、当社は4G/5Gの通信基盤やコンシューマ・法人向けのチャネルなどのオフラインの強みと、「Yahoo! JAPAN」「LINE」「PayPay」といった数千万人規模のユーザーを抱えるBtoCプラットフォームを有するオンラインの強みを持っているため、デジタル技術を自らが中心となって社会実装していくことができるからです。当社がデジタル技術を社会実装する旗振り役を担うことで、社会全体の課題を解決しながら産業を活性化し、雇用創出にも貢献することができると考えています。デジタル技術を社会に普及させる中心的な役割を担うことは、当社の持続的な企業価値の向上にも繋がると確信しています。

当社が2018年3月期より掲げている「Beyond Carrier」戦略をさらに推し進めていきます。「Beyond Carrier」戦略とは、当社の基幹事業である通信事業をさらに成長させながら、通信以外の領域の拡大を目指す戦略です。この戦略の下、前社長の宮内は、スマートフォン決済サービス「PayPay」を立ち上げ、日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフー(現 Zホールディングス)を子会社化し、国内最大級のコミュニケーションサービスを提供するLINEとZホールディングスとの経営統合を実現しました。その結果、当社グループは、通信サービスの約5,500万※1、「Yahoo! JAPAN」の約8,000万※2、「PayPay」の約4,100万※3、「LINE」の約8,900万※4のユーザーを有する、国内最大規模の通信・ITグループとなりました。私はこの成果を引き継ぎ、「Beyond Carrier」戦略を第2フェーズに移行させる考えです。2021年3月末現在、当社は335社※5の子会社・関連会社を有しており、多くがオンライン上でサービスを提供するプラットフォームを運営し、多様なビジネスを展開しています。現状では各社がそれぞれのプラットフォームを個別に最適化している状況ですが、第2フェーズでは、それらを先端テクノロジーの力でつなぎ合わせることで全体最適を図り、ユーザーにとってさらに便利で豊かなサービスにすることで新たな価値を創造していきたいと考えています。

[注]
※1移動通信サービス累計契約数(4,728.5万件)およびブロードバンドの累計契約数(813.9万件)の合計(2021年3月時点)
※2年間ログインユーザーID数(2020年3月時点)
※3累計登録ユーザー数(2021年8月時点)
※4月間アクティブユーザー数(2021年6月時点)
※5連結子会社、持分法適用会社、その他関係会社などの合計(2021年3月時点)

中期的な目標の進捗

2021年3月期の営業利益は9,708億円となり、「営業利益1兆円」の目標に向けて着実に進捗しています。当社が初めて「営業利益1兆円」という目標を投資家の皆さまにお示ししたのは2019年5月でした。その後、競合他社の新ブランド・新料金プランの発表や携帯料金の値下げ競争に伴って当社の事業環境は大幅に変わりましたが、この影響を法人事業やヤフー・LINE事業などの成長で補い、目標の達成に向けて全社一丸となって取り組んでいきます。

コンシューマ事業

2021年3月に携帯料金の値下げを実施したため、この値下げによる2022年3月期のコンシューマ事業の営業利益へのマイナス影響を700億円程度と見込んでいます。そのため、2022年3月期のコンシューマ事業の営業利益は前期比で減益になると予想していますが、この逆風をスマートフォンの契約数の増加とコスト削減で補っていきたいと考えています。さらに、消費者向けの電力サービスおよびブロードバンドサービスの提供や、端末補償・セキュリティといったオプションサービスの提供など、モバイル通信料収入以外の収益拡大を追求したいと思います。

携帯料金の値下げは短期的には逆風であることには間違いありませんが、中長期的に見ればコンシューマ事業はまだまだ成長は可能だと思っています。従来のモバイル市場は人と人とのコミュニケーションが中心であり、スマートフォンの契約数が日本の人口に近づけば市場全体の成長は難しくなるでしょう。しかし、今後「同時多接続」を特長とする5Gが普及する中で、技術的にはIoTデバイスが爆発的に普及する環境が整いつつあります。今後はさまざまな家電製品などにIoTモジュールが搭載され、多様なデータがやり取りされることになるでしょう。これまで想像もできなかったような場所、例えば靴や鞄などに、ボタン電池だけで通信が行えるようなIoTモジュールが搭載されることになると思います。今後10年以内に億単位のデバイスがインターネットに接続されることになり、そこから新たな収入が得られると見込んでいます。

また、社会全体のデジタル化が進んでいき、さまざまな便利なデジタルサービスが普及していくと、人々の日常生活においてスマートフォンを利用する頻度やデータの利用量も増えていくことでしょう。当社が旗振り役として社会のデジタル化を進めていくことは、コンシューマ事業にもポジティブな影響を生み出すと確信しています。

法人事業

法人事業の2022年3月期の営業利益見通しは1,280億円、2023年3月期の営業利益目標を1,500億円と発表しています。2021年3月期の法人事業の営業利益は1,077億円ですから、毎年10%台後半の成長を目指すという高い目標です。しかし、法人事業はまだまだ成長できる余地が大きいと思っています。冒頭で、当社の企業価値を高めるためにはデジタル技術を社会実装する旗振り役になる必要があると申し上げましたが、それを実現するのはまさに法人事業です。

法人事業でお取引がある企業や自治体の多くは、まだデジタル化が十分にできているとは言い難い状況にあります。2021年3月期はテレワーク需要が急増し、働き方改革を支援するクラウド・セキュリティなどのソリューションやモバイルサービスが業績の追い風となりました。そして、このデジタル化の動きは働き方改革だけにとどまらず、これからは企業活動や行政サービス全般をデジタル化する大きな波が来ると見込んでいます。テレワークを実現しデジタル化の効果を実感できた企業では、次にRPAやAIを用いてさまざまな業務を自動化したいという欲求が生まれます。自動化を実現できた先には、部門ごとにサイロ化された情報を統合し経営を効率化したい、新たなデジタルサービスを生み出したいという要望へと高度化していきます。このように法人事業の目の前には大きな需要と成長機会があり、まさに今伸び盛りです。ゆくゆくは、数千億円規模の利益を生み出しているコンシューマ事業に匹敵する事業の柱にしたいと思っています。

Zホールディングス

Zホールディングスはコマース・メディア・戦略の領域で事業を行っていますが、私が特に期待し、グループ全体で取り組もうとしているのはコマース領域です。Zホールディングスは、2020年代前半にeコマース取扱高(物販)※6で国内No.1を目指しています。2021年3月期は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う需要拡大でeコマース取扱高が大きく伸長しましたが、今後も「LINE」との協業や、「PayPay」との連携強化、当社の通信事業の顧客基盤の活用などを通じてグループ全体でeコマース取扱高を向上させていきたいと考えています。また、同社の戦略領域であるフィンテックはまだ先行投資の時期ですが、非常にポテンシャルがあると考えており、「PayPay」との連携を足掛かりにメディア・コマースに次ぐ規模となってほしいと期待しています。

[注]
※6物販ECのみの取扱高

LINEとZホールディングスとの経営統合は、まず先ほど申し上げたコマース領域や、メディア領域で大きなシナジーが創出されると見込んでいます。加えて、LINEが当社のグループ企業となったことは、当社の「Beyond Carrier」戦略 第1フェーズの最後のピースが揃ったといえ、統合の意義は非常に大きいと考えています。LINEとZホールディングス間のシナジーだけでなく、LINEと当社のコンシューマ事業間やLINEと当社の法人事業間のシナジーも期待できます。

コンシューマ事業では、「LINE」と連携したオンライン専用ブランド「LINEMO」を2021年3月に開始。「LINEMO」には「LINEギガフリー」という、データ容量を消費せずに「LINE」が使い放題となるサービスが好評を博しており、契約数の拡大に繋がっています。

法人事業では、「LINE」を活用した競合他社には真似できないソリューション提案をできることが優位性となっています。例えば、顧客企業が新たなデジタルサービスを開発する際に、当社の法人部隊が顧客企業の窓口となって必要なシステムをクラウドからデバイスまで一気通貫で提供し、かつ「LINE」という数千万人が利用する確立されたプラットフォームを通じて、顧客企業の新たなデジタルサービスを消費者に瞬時に届けるような提案が可能となっています。

また、当社とNAVERが50%ずつ出資する戦略的持株会社であるAホールディングス(株)が、LINEとZホールディングスが経営統合した新生Zホールディングスを保有することになりました。これにより、NAVERと当社の関係はより強固なものになりました。NAVERは韓国で最大の検索ポータルエンジンを運営している会社ですが、その枠を越え、ショッピング、AI、自動運転、ロボットなど最先端の技術開発に取り組む非常に技術力のある会社だと評価しています。そのNAVERと当社は、「広告」「コマース」「位置・マップ」「クラウド」「海外ビジネス」といった領域でステアリングコミッティ(事業戦略検討委員会)を設け、両社グループのスピーディーな連携とシナジーの創出を目指し取り組んでいます。

投資家がそのような懸念を持っていることは強く認識しています。一方、Zホールディングスでは、経営統合直後にLINEが個人情報の取り扱いに係る行政指導を受けたこと等により、まずは同社グループ全体のデータガバナンス・セキュリティの強化を最優先課題として取り組んでいます。Zホールディングスは上場企業であり、当社はその独立性を尊重していますが、当社はさまざまな企業を買収し、早期にシナジーを創出しながら大きくなってきた歴史がありますので、「よりスピード感を持ってシナジーを生み出してほしい」とZホールディングスの経営陣に要請しており、当社も全面的にサポートしています。

2022年3月期第1四半期には、各事業におけるシナジーが徐々に顕在化してきており、LINE単独業績は一時損益等の要因を除いても四半期ベースで黒字化しています。今後も引き続き、ZホールディングスとLINEの経営統合に伴う事業の選択と集中や、高度なデータ連携を前提としたシナジーを創出し、事業の一層拡大を期待します。

PayPay

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、「PayPay」は新しい生活様式として推奨された電子決済を普及させるプラットフォームの役割を果たすとともに、加盟店に販売促進活動をデジタル化するさまざまなサービスを提供することで急成長を遂げています。「PayPay」の決済取扱高は2021年3月期に3.2兆円となり、前期比2.6倍となりました。このように大きな成長を遂げましたが、日本の個人消費は約300兆円だと言われていますので「PayPay」のシェアはまだ約1%にすぎません。この決済取扱高はまだまだ伸ばせると考えています。「PayPay」は決済だけにとどまらず、暮らしを便利にする幅広い機能を提供することで、日常生活のあらゆる場面で活用される「スーパーアプリ」となれるよう、サービスの拡充を進めています。

今後の収益化についてですが、2021年10月より、これまで無料で提供していた中小加盟店向けの決済手数料を有料化します。しかし、「PayPay」はこの決済手数料だけで稼ごうとは思っていません。「PayPay」は決済を通じてさまざまな消費活動と密接に結びついているので、これを起点に多くの収益機会があります。例えば、「PayPay」で決済を行う際に後払い/リボ払いを選択していただける、「PayPay」上の残高で運用を行っていただける、損害保険に加入いただける、といったことが考えられます。このように、決済を軸とした金融サービスのさらなる拡充や今後の収益化を検討しています。

5G

2020年より5Gサービスの提供を開始しましたが、通信速度が上がっただけで大きな変化がないように思われるかもしれません。その理由は、現在の5Gサービスは「ノンスタンドアローン方式」と呼ばれ、既存の4Gコアネットワークと5G基地局との連携で提供されているからです。5Gには「超高速・大容量」「多数同時接続」「超低遅延」という三つの大きな特長がありますが、この方式では「超高速・大容量」しか実現できていません。しかし、2022年3月期中に開始を予定している「スタンドアローン方式」では、独立した5G専用のコアネットワークと5G基地局が連携するようになり、前述の5Gの特長を最大限に引き出せるようになります。中でも高い期待を寄せている特長は「超低遅延」で、離れている場所からでも全く遅延を感じさせずにリアルタイムに情報を活用することができるようになります。つまり、遠隔でもまるで目の前で操作しているかのように、建設機械や医療機器が操作できるようになるということです。そうなってくると、「スタンドアローン方式」を本格的に導入する2022年から5年間くらいで折り畳みの携帯電話からスマートフォンに替わったのと同じくらいの衝撃で、世の中が一変するのが体感できるようになるでしょう。このような「スタンドアローン方式」の5Gが普及する時代を見据えて、2021年6月には「5Gコンソーシアム」を設立しました。「5Gコンソーシアム」とは、各領域の有識者や企業、通信機器ベンダー、サプライヤー、ソリューションパートナーなどが集まり、産業・領域別のテーマに対して具体的な解決方法を議論・検討し、オープンに実証実験(PoC)を行う組織です。このように、5Gの特長を生かした革新的な商品やサービスをさまざまなパートナーと共創し、さらなる成長につなげるべく準備を進めていますので、ぜひ期待していただきたいと思います。

海外戦略

海外展開については、中長期的な成長戦略として以前から社内で検討を重ねてきました。前提として考慮しなければならないのは、日本は人口に占める65歳以上の割合が世界一高く、高齢化に伴って生じるさまざまな社会課題に世界で最も早く取り組む国である、ということです。そのような日本でうまくいった社会課題の解決策は、今後高齢化に直面する海外の国々で大いに通用するだろうというのが基本的な考え方です。画期的な社会課題の解決策を見いだしたとしても、海外の通信キャリアを買収し展開するような方法は現時点では全く考えていません。そのような方法での展開を目指さないのは過去の経験から学んだからです。2013年に親会社であるソフトバンクグループ(株)が米国携帯事業者のSprint Corporationの経営権を取得しました。私も2014年からTechnical Chief Operating Officerとして米国に赴任し、同社の業績改善を技術面から支援しました。しかし、投資額もアセットも大きく、このようなやり方では思うようなリターンを上げることが非常に難しいと身をもって学びました。したがって、日本で確立したビジネスを、優れた海外企業と提携し、リスクやコストを抑えつつ広めていく取り組みを「Beyond Japan」と定義して推進していきたいと思っています。

この「Beyond Japan」の構想を体現した最初の事例は、2021年5月に発表したAxiata Digital Advertising Sdn. Bhd.(以下、「ADA」)への出資です。ADAは東南アジア最大級の通信グループであるAxiata Group Berhadのグループ会社で、アジア10カ国でデジタルマーケティングビジネスを展開しています。ADAへの出資を通じて、リスクやコストを抑えながら、当社のデジタルマーケティングの事業をアジア圏で展開したいと考えています。

株主還元

配当は据え置きましたが、株主還元は機動的な自己株式の取得と併せて実施し、「総還元性向85%程度※7」という2021年3月期~2023年3月期までの株主還元方針は全く変わっていません。成長と株主還元をともに追求する方針に変更はありませんが、社会のデジタル化に伴う成長機会が多いためしっかりと成長投資も行い、企業価値の向上を通じて株主の皆さまに報いていきたいと考えています。極端な事業環境の変化がない限り、今後も1株当たりの配当金の金額を下げるつもりは現時点ではありません。今後も利益成長を前提に株主還元も積極的に行いたいと思っています。

[注]
※72021年3月期から2023年3月期の3年間の配当金支払総額と自己株式の消却額の合計÷同3年間の親会社の所有者に帰属する純利益の合計

グループ構造

まずは両方の会社の位置づけを整理させていただきたいと思います。Zホールディングスは主にオンラインを主戦場にしている企業です。一方で当社は、4G/5Gの通信基盤やコンシューマ・法人向けのチャネルを持っており、オフラインの市場に深くリーチできる利点があります。また、「Beyond Carrier」戦略を進めてきたからこそ、Zホールディングス傘下の「Yahoo! JAPAN」や「LINE」などのオンラインプラットフォームによってオンラインの市場にも深くリーチできるという利点があります。このオンライン・オフラインの両方の市場に深くリーチできる利点を生かし、当社はより大きな市場で総合的にデジタル技術を社会実装できる位置づけにあると考えています。例えば今後急拡大が見込まれる自動運転のビジネスに取り組むにあたって、当社が自動運転に不可欠な5Gの通信基盤を持ち、自動車会社各社と強いつながりを持っていることは非常に重要です。また、自動運転をサービスとして提供する際には、「Yahoo! JAPAN」や「LINE」などの数千万人が利用する確立されたBtoCプラットフォームをすでに保有していることは大いに有利に働くでしょう。このような市場で総合的にデジタル技術を社会実装する役割を担うのは、オンライン・オフラインの両方の市場に深くリーチできる当社であると自負しており、投資家の期待に応えられると考えています。また、先ほどお話ししたように高い水準の株主還元を行っていることが当社の特長です。成長と株主還元の両輪で株主に報いていきたいと思います。

ガバナンス

親会社のソフトバンクグループ(株)はグローバルな規模で投資を行う「戦略的投資持株会社」であり、当社は基幹事業である通信事業をさらに成長させながら、通信以外の領域の拡大を目指す「事業会社」として明確なすみ分けができています。事業内容が異なるソフトバンクグループ(株)と当社が共に上場していることで、多様な投資家ニーズにも対応できると考えます。

事業会社である当社にとってソフトバンクグループ(株)の子会社であることは大きなメリットがあります。ソフトバンクグループ(株)は直接またはファンドを通じて世界中のユニコーン企業に投資しています。よって、ソフトバンクグループ(株)を通じて優れたビジネスモデルやテクノロジーを持つ世界中のユニコーン企業と組むことで、当社はリスクを抑えながら、優れたビジネスモデルやテクノロジーを日本で事業化することができます。もちろん、どの企業と組むかは、日本市場との相性などを考えながら全て当社で判断しており、親会社に投資先企業との連携を強制されることはありません。少数株主の利益を損なうことのないよう、経営判断は慎重に行っています。

私が社長として業務執行の全責任を負っています。会長の宮内には、Zホールディングスとの連携や、ソフトバンクグループ(株)が直接またはファンドを通じて投資している世界中のAIユニコーン企業との連携など、さらなるシナジー創出に向けたグループ内の連携強化を担っていただいています。

孫さんとは、当社がブロードバンド事業に本格的に取り組み始めた2000年代前半から十数年にわたって、共に修羅場をくぐり抜けてきた関係です。私が当社の社長に就任する際に、アドバイスをいくつもいただきました。「テクノロジーで会社を引っ張れ」と激励していただいています。

孫さんは、創業者 取締役として当社の役員に残っていただいていますが、もう何年も前から当社内の経営会議には出席しておらず、取締役会への出席だけです。取締役会の場では、素晴らしい知見や鋭い指摘をいただき、企業価値向上に向けて大きなプラスとなっています。例えば、世界中のAIユニコーン企業との連携にあたってのさまざまなアドバイスがあり、当社の事業戦略にとって非常にプラスになっています。その一方、孫さんは上場会社同士だという線引きをしっかりしておられ、親会社の社長である孫さんの意向で当社の少数株主に不利益になるようなことは一切ありません。

開示の充実

現状では多くの投資家・アナリストが当社を「通信企業」として一括りに評価しています。しかし、連結売上高に占めるモバイル通信料の割合はすでに2021年3月期時点で28%にまで低下しており、当社の事業は非常に多様化してきています。例えば、企業向けにITソリューションを提供し営業利益で二桁成長を続ける法人事業、コマース領域やメディア領域などでビジネスを行うZホールディングス、決済取扱高が前期比で160%増加し2021年3月期に3.2兆円になった「PayPay」など多岐にわたるビジネスを行っており、もはや当社は単なる「通信企業」ではありません。このように「Beyond Carrier」戦略を推進し今後も事業が多様化していく中で、多様な事業を積み上げ方式(Sum-of-the-Parts方式)で投資家の皆さまに評価いただきたいと考えました。そのために、積み上げ方式で評価いただくための材料をさらに提供しようというのが今回開示を充実させた背景です。好調な事業もそうでない事業もしっかり見える化し、正々堂々と資本市場と向き合う、そういった趣旨で今後も可能なかぎり開示を充実させていく考えです。

中長期的な経営のリスク

短期的には、モバイル通信料の値下げによる影響がどのくらいになるのかがリスクですが、法人事業、ヤフー・LINE事業、IoTなどの新領域のビジネスが成長し、数年後にはモバイル通信料収入への依存度がより下がっている状態になっていると思われますので、大きなリスクだとは思っていません。

伸び盛りの法人事業は、顧客企業からの引き合いが毎日のようにあります。むしろ、顧客からの期待に応えきれるだけのセールスやエンジニアなどの人材をどう確保するのか、どういった企業と提携すべきか、ということが高成長を維持する上での課題であり、答えを出していかなくてはならないと考えています。

またAI技術者の採用が重要な経営課題となっており、海外のインターネット企業との人材の取り合いになっています。私自身が直接採用に当たるケースもあります。当社が採用という面でもそういった企業と対等に渡り合えるように、課題を克服していきたいと考えています。

加えて、個人情報の適切な取り扱いに関してグループ全体のガバナンス強化に取り組むことも重要だと認識しています。LINEが個人情報の取り扱いに係る行政の指摘を受けたことを踏まえて、グループ全体で適切に個人情報を取り扱うべく社内管理体制の強化を行っています。

宮川 潤一

時代の変化を先読みし、
社会の中で存在意義を見いだす

変化の激しい時代においては、今までと同じプレイヤーがずっと勝ち組にいられるとは限りません。経営者として大事なことは、そのような中で時代の変化を先読みし、社会の中で存在意義を見いだすことだと思っています。社会の中での当社の存在意義は、「情報革命で人々を幸せに」の理念の下、時代の先を読みつつ、テクノロジーで人々の生活を便利で豊かにすることだと考えます。多岐にわたる事業を営むようになりましたが、常にこの理念に沿って企業価値を高めるべく取り組んでまいります。株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまには、ぜひとも当社の中長期的な価値をご理解いただき、変わらぬご指導、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。

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