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厳しいときも未来志向で
変化に向き合い、行き先を
指し示す羅針盤となる

取締役専務執行役員 兼 CFO

藤原 和彦

中期経営目標の振り返り

2022年度における中期経営目標の達成状況

中期経営計画(2020年8月発表)

当社は、2020年8月に中期的な目標として、2022年度に「営業利益1兆円」を達成することを公表しました。その後、通信キャリア各社による通信料値下げや新型コロナウイルス感染症拡大による生活様式の変化など、社内外での大きな環境変化に直面しました。特に通信料値下げについては、2021年度から2022年度までの2年間で累計1,500億円を超える減収影響が社内では予想されていました。そのため、中期経営目標の公表時と比較して、目標達成のハードルは格段に高くなっていたのです。しかし、そういう状況だからこそ、1兆円という目標の達成は株主・投資家の皆さまに対するお約束としていつも以上に重い意味を持っていると痛感し、その達成にこだわってきました。目標達成に向けて、主力のコンシューマ事業ではユーザー数を増やすこと、中でも、携帯電話番号ポータビリティ(MNP)制度を利用した他事業者からのユーザー獲得に注力しました。なぜなら、当社の掲げる成長戦略「Beyond Carrier」はコアビジネスである通信事業がベースとなっており、スマートフォンの顧客基盤をしっかりつくっていくことが、将来のリターンの源泉、事業設計の元になるからです。厳しい局面ではありましたが、そこで怯んで縮こまるのではなく、むしろ積極的な姿勢で立ち向かうことで顧客基盤の拡大につなげていきました。さらに、目標達成に向けては、企業のデジタル化需要を捉え多様なソリューション等サービスを拡大したエンタープライズ事業に加え、ヤフー、LINEなどいわゆるモバイル通信以外の事業でも成長できたことが非常に大きかったと考えています。このように事業成長によって得た利益に加えて、事業開始以来順調に業績を伸ばしてきたPayPayの連結子会社化による再測定益を計上しました。その結果、2022年度の営業利益は1兆602億円となり、目標を達成することができました。「1兆円」という目標を一度外部に公表した以上は、経営陣一同「コミットメント」だと捉えていましたので、これを達成することができ、胸をなで下ろしています。達成にこだわったのは、2022年度の目標だけではありません。この中期経営目標を達成するまでの各年度に掲げた売上高、営業利益、純利益の目標についても、全社一丸となりこだわり抜いた結果、全て達成することができました。
昨年度もお話しした通り、会計上の利益であるPayPayの再測定益で業績を取り繕うということではなく、本当の意味での企業価値向上を目指すために前年を上回る高水準の調整後フリー・キャッシュ・フローの創出にもこだわり、2022年度に6,186億円を創出しました。その結果、1株当たり配当金86円を継続することができました。2020年度から2022年度の3年間においては、総還元性向85%程度※1という目標を掲げてきましたが、2023年5月に発表した自己株式の取得により、その達成にめどが付きました。成長と還元の両立ができたことで、株主の皆さまの期待に応えられたのではないかと思っています。

[注]
  1. ※12020年度から2022年度の3年間の配当金支払総額と自己株式の消却額の合計÷同3年間の親会社の所有者に帰属する純利益の合計
  2. ※2純利益:親会社の所有者に帰属する純利益

中期経営計画

事業基盤の再構築に向けて

今回、2025年度を最終年度とする中期経営計画を公表しました。この計画では、事業基盤の再構築をテーマとして掲げ、2021年春の通信料値下げの影響からの回復を目指しています。
計画策定にあたっては、親会社の所有者に帰属する純利益(以下、純利益)を最重要指標として、2025年度に最高益の5,350億円を目指すこととしました。前回の中期経営目標での最重要指標が営業利益であったのに対し、今回純利益に変更したのは、当社グループを構成する子会社は完全子会社だけではなく、ヤフー、LINE、PayPayのような少数株主がいる子会社もあることから、当社の実力を測る指標として適切であると考えたからです。
なお、今回の中期経営計画の最終年度における営業利益目標は9,700億円としました。これは、中期経営計画期間以降も継続的に成長するための布石をしっかりと織り込んだためです。この目標は最高益を目指す5,350億円の純利益目標から逆算で算出したものであり、決して簡単な目標ではありません。しかし、営業利益水準を通信料値下げ前に戻すということは株主・投資家の皆さまの期待に応えるために最低限目指すべき目標だと認識しており、必ず達成する決意で取り組んでいきます。

中期経営計画 財務目標、純利益

コンシューマ事業の見通し

コンシューマ事業のモバイルサービス売上は、通信料値下げの影響を大きく受けたわけですが、2023年度を底として、その後の反転を目指しています。また、営業利益については、モバイルサービス売上よりも1年早い2022年度を底にした反転を目指しています。その根拠としては、引き続き通信料値下げの影響や電気代高騰などはあるものの、コスト削減によりそうした影響はカバーできるめどが付いたこと、ARPUの下落幅は縮小傾向に向かっていることなど、マイナス材料は出尽くしつつあることです。一方で、「ワイモバイル」をけん引役にこれまで推進してきた他社ユーザーの獲得によってスマートフォンの契約数は堅調に増加しており、増収増益を期待できる状況にあるのは好材料です。当社は「ソフトバンク」「ワイモバイル」「LINEMO」の3つのブランドを持っていますが、小・中容量で月額利用料を抑えられる「ワイモバイル」を入り口に当社が提供する付加価値を体験していただきたいと考えています。その後、その付加価値をデータ容量無制限のサービスで受けることのできる「ソフトバンク」ブランドに移行していただけるような取り組みを強め、ARPUの引き上げを図っていきたいと考えています。
顧客基盤の拡大にも継続して注力します。現在、通信業界では獲得競争が激化しており、新規獲得数と解約数が両方とも高い状況です。競争は強まることこそあれ弱まることはなく、厳しい状況が続くものとみています。2022年度は顧客獲得のための費用を多く投下しましたが、その費用対効果はブランドごとのライフ・タイム・バリュー(LTV)を設定して検証しています。また、スマートフォンの顧客基盤は当社グループで提供している「PayPay」や「LINE」などスマートフォンに関連したサービスを通じたグループシナジーの基盤としても非常に重要であり、契約の獲得と継続利用の促進につなげています。これらにより、2023年度にはスマートフォンの累計契約数3,000万件の目標を突破し、毎年100万件水準の純増継続を目指します。

コンシューマ事業 営業利益、スマートフォン累計契約数

エンタープライズ事業の挑戦

エンタープライズ事業 営業利益

今回の中期経営計画で大きな伸びを期待しているのがエンタープライズ事業、中でもソリューションです。エンタープライズ事業の営業利益とソリューション等売上は、ともに2桁成長(年平均成長率)を目指しています。目標達成のため、主要顧客である大手、準大手企業に対しては、すでにご利用中のソリューションサービスを継続使用していただくことに加え、顧客企業の経営課題解決を支援する幅広いデジタル商材を組み合わせてクロスセルを行うことにより、1社あたりの取引額の拡大を図ります。また、日本企業の99.8%を占める中堅中小企業の顧客開拓も進めています。デジタル化をけん引する当社としては、中堅中小企業を顧客や会員に持つ顧客企業・団体・グループ企業と協業しつつ、企業規模に応じたソリューションを提供することで、中堅中小企業のデジタル化に貢献したいと考えています。これに加えて、今後取り組んでいく新事業としてデータ連携基盤(xIPF)の構築があります。これは、現在切り離されてバラバラの状態で存在するさまざまなデータ(民間データ、国家データ、センサーデータ)を連携して利用可能とするためのプラットフォームです。まだ研究開発段階ですが、これが実現すればヘルスケアや小売、不動産などさまざまな分野でより一層のデジタル化の推進が可能となります)。大企業にはより進化したサービス、中堅中小企業にはデジタル化の入り口となるようなサービスといったように、企業規模に合わせた必要なサービス、広く社会のDX化に貢献するようなソリューションを提供することで、エンタープライズ事業の成長を実現したいと考えています。

メディア・EC事業の再成長に向けて

メディア・EC事業については、事業の効率化とともに、メディア・検索・コマースの再成長を目指しています。本来持っているグループのパワーを集結し、シナジーの創出を加速させるため、2023年10月にグループ内再編を実施し、Zホールディングスの商号をLINEヤフー(株)に変更します。この再編を機に、より迅速な意思決定のもと、重複した事業の効率化などを進めて固定費削減を推進します。さらには、「LINE」と「Yahoo! JAPAN」のID連携やプレミアム会員制度の刷新を行い、お客さまに喜んでいただけるようなサービス提供ができるよう準備を進めています。また、LINEやPayPayの力を最大限活用し、メディア・検索領域の収益率向上を目指すとともに、2024年度中に計画している「PayPay」とのID連携を通じて、メディア・EC事業を再成長させることは十分に可能だとみています。

ファイナンス事業の黒字化に向けて

藤原 和彦

ファイナンス事業については、2025年度までに営業利益の黒字化を達成するという目標を設定しています。PayPayは、金融サービス、加盟店向け付加価値サービス、決済サービスなど多様な収益源を有しており、サービス開始から4年半で決済取扱高(GMV)10兆円※3を達成しました。PayPayカード(株)との統合により、コード決済や「クレジット(旧あと払い)」、クレジットカード決済などの決済手段がシームレスになり、ユーザー数や決済単価・回数が増加したことで、GMVを大きく伸ばすことに成功しています。すでに通常の決済ビジネスで黒字化することは、十分射程圏内に入っています。今後は、これら各サービスに厚みをつけて事業規模の成長を加速させていくことが重要だと思っています。また、SBペイメントサービス(株)でも、グループアセットを活用し加盟店数を増加させ、自社ソリューションの強化によって加盟店当たりの取扱高の増加を目指しています。
このように、多様な収益源で高成長を目指し、PayPayとSBペイメントサービス(株)のGMVの拡大を実現させていくことにより、ファイナンス事業の2025年度までの黒字化の道筋を描いています。

[注]
  1. ※3PayPayカード(株)の決済取扱高をPayPay(株)の決済取扱高と合算し、PayPay(株)とPayPayカード(株)の内部取引を消去しています。

コスト

コスト削減の見通し

電気料金の上昇やインフレの進展など、社会情勢の変化により、中期経営計画期間にはさまざまなコスト上昇要因があると見込んでいます。しかし、当社の減価償却費は今後縮小フェーズに入るため、このコスト上昇に対応できると考えています。なぜなら、かつてプラチナバンドを獲得した2012年度以降に実施した年間7,000億円レベルの大型設備投資の減価償却が終了するからです。さらに、PHS・3G・ADSLといったサービスが順次終了することに伴うネットワーク運用コストの削減も見込んでいます。こちらは、設備撤去を早期化することで削減効果の前倒しを図っていきます。このように、しっかりとコストのコントロールを続けていきます。

株主還元

高水準の還元を維持

当社は、成長と高水準の株主還元の両方を追求する方針を上場以来掲げてきました。この考え方を変えることなく、引き続き高水準の還元を維持していきたいと考えています。2023年度に関しては、前期同様1株当たり配当金86円を予定しています。2024年度以降の配当水準については決まっておりませんが、投資家の皆さまの期待を踏まえて判断していきます。当社のトラックレコードを振り返ってみると、高水準の配当を実現しながら、将来の成長に向けたさまざまな投資も同時に行っています。ここまで多額の資金を投じて、ヤフー、LINE、PayPayなどをグループに組み込むことによって、会社の事業ポートフォリオを多様化してきました。同時に5Gの展開に向けた大規模な設備投資も実行してきました。今後は、生成AI関連などさまざまな成長投資の機会が増えますが、成長投資と還元のバランスをみながら運営していきたいと考えています。
配当利回りのみで評価されがちな当社ですが、成長と還元の両立ということをわれわれの経営の成果としてお示しするには、配当に加えて株価も含めた株主総利回り(TSR)がより重要であると考えています。よって、当社の役員報酬の一部には中期業績連動報酬を組み込んでおり、その指標にはTSRを採用しています。

キャピタルアロケーション

調整後フリー・キャッシュ・フローの考え方

成長と高水準の株主還元の両立を目指す上で、適切なキャピタルアロケーションは非常に重要であると考えています。当社は、営業キャッシュ・フローから設備投資と成長投資を差し引いた「調整後フリー・キャッシュ・フロー(FCF)」をあらゆる財務数値目標の起点として、計画を立てています。設備投資の計画については、2022年度に実施した5Gのエリア展開加速に向けた集中投資が一巡したため、今後はトラフィック需要に応じたスポット投資など必要な投資に絞ってコントロールしていく方針です。その結果、2022年度の実績4,075億円に対して、2023年度以降の設備投資は年間3,300億円水準と、大幅な減少を見込んでいます。一方で、調整後FCFの使途については、株主還元のほか、財務改善など、会社にとっての最善の選択を検討していく所存です。

調整後フリー・キャッシュ・フロー、設備投資(コンシューマ事業・エンタープライズ事業)

財務戦略

バランスシートの状況について

ネットレバレッジ・レシオ
[注]
  1. ※4ネットレバレッジ・レシオ=純有利子負債÷調整後
    EBITDA(該当四半期の直近12ヶ月)
  2. ※5「ZHD、PayPay等、割賦債権流動化影響除く」は、
    AHD、ZHDグループ、BHD、PayPay、PayPayカード(株)に
    係る純有利子負債と調整後EBITDA、割賦債権流動化に係る
    有利子負債および債権流動化現金準備金を除く

当社は、(株)格付投資情報センター(R&I)から「A+」、(株)日本格付研究所(JCR)から「AA–」の発行体格付を取得しています。稼ぐ力と財務の健全性を両立させながら、この高格付けを維持していきます。そのためのモニタリング指標として、調整後EBITDAを分母に、純有利子負債を分子とするネットレバレッジ・レシオ(NLR)を重視しています。格付け維持のためには、財務規律が重要であり、中期的なEBITDAの成長を図りつつ、NLRを2倍台半ばで維持・低減させることを目指しています。しかし、高いリターンが見込める案件が発生した場合は、その案件の収益性や確度を勘案し、一時的にNLRが上昇したとしても、中長期的な成長に向けた挑戦を行うという判断もありうると考えています。
これに関連して、資金調達は、その時々で最適と考えられる手段をとってきました。上場前は銀行借入等の間接金融に偏らざるを得ない状況でしたが、上場によって社債などの調達手段が多様化し、直接金融の割合を高めることで財務基盤の安定化と調達コストの低減を進めてきました。一方で、自己資本比率も同様に少しずつでも改善を図っていきたいと考えており、今回新たな資金調達策として、議決権がなく、普通株式への転換権がない、いわゆる「社債型」種類株式の発行を行うための定款変更を行いました。この手法は、普通株式の希薄化を起こさずに自己資本の拡充を実現するものであり、今後の有効な調達手法であると考えています。

資本コストおよび成長投資に対する考え方

基本的に成長投資を実行する際は、内部収益率(IRR)のハードルレートを用いています。当社においては負債を最大限活用していることから、加重平均資本コスト(WACC)は約5%の水準となっています。実際の投資の意思決定においては、このWACCの水準をはるかに上回る、事業リスクに見合った投資リターンを求めています。IRRの算定においては、事業部からの事業計画を私が管掌する経営企画部門において精査し、複数のリスクシナリオを勘案の上、概ね5年程度のキャッシュ・フローと永続価値を踏まえて算出しています。こうした投資の実行後は、必要に応じ取締役や監査役の派遣や四半期ごとのモニタリングなどを行い、承認された事業計画に対する進捗状況をチェックし、必要な対策を講じています。

藤原 和彦

CFOの役割

成長軌道にナビゲートする羅針盤

CFOの役割の第一義は、「入るを量りて出ずるを制す」だと考えています。収入を確実に見込んで、支出は身の丈に合うようにするという意味であり、何をするにも、しっかりしたオペレーションによって、まずはきちんとキャッシュ・フローを創出すること、これが大原則だと思っています。広く知られている言葉に「会計上の利益は意見であるが、キャッシュというのは事実である」というものがあり、私も同感です。株主還元、成長投資を含め、何をするにおいても、キャッシュの裏付けがあるかないかが非常に大きなことだと思います。キャッシュを重視する姿勢の一方で、大きなチャンスが到来した時は、むしろ借入でレバレッジを効かせてでも確実にものにする必要があります。そのため、キャッシュ・フローなどの財務数値目標をしっかりと定めて、アクセルとブレーキのタイミングを見極めながらキャッシュをコントロールし、会社を成長軌道にナビゲートする羅針盤の役割がCFOとしては最も重要であると考えています。
さらに、私個人としては、未来志向で変化に向き合うことがとても大切だと考えています。これを財務部門の立場で考えた時、「変化=差の蓄積を分析すること」「クロックサイクルを短くする=見通しの修正を行うサイクルを短くしていくこと」、そして、「迷ったときは遠くを見ること」、という三つがポイントだと思います。今後、生成AIをうまく活用すれば、変化を素早く分析することや、財務分析にかかる時間を大幅に短縮し、月次で修正している見通しを週次や日次にする、つまりクロックサイクルを短くすることも可能だと思います。しかしながら、そういう変化においても、迷ったときはやはり遠くを見ることは大切です。私は、2030年、さらにその先に当社が目指す姿への航海が無事に進んでいくように、これまで以上に変化に敏感になり修正の頻度を上げながら、しっかり遠くを見据えて、羅針盤としての役割を果たしていきたいと考えています。