6割の株主さまの代表として

6割の株主さまの
代表として

社外取締役 独立役員
指名委員会・報酬委員会・
特別委員会委員

植村 京子

Q. 独立社外取締役として期待される役割について

一番は監視・チェック機能です。親子上場関係にあるソフトバンクグループ(株)と当社の間での取引内容について、アカウンタビリティと透明性を確保する必要があります。その上で、客観的な視点から意見を述べ、企業価値向上に貢献することが期待されていると思っています。当社の場合、親会社の持株比率は約4割ですから、私は他の6割の決して少数ではない株主を代表する立場だと思って発言しています。また、当社は決めたらすぐに動き出すスピーディーな会社のため、あえて社内とは異なる意見を投げかけ、リスクも含めたさまざまな角度からの議論を促しています。特に通信業ではない新規事業に関するリスクや採算性、親子間の取引で不利益を被っていないかのチェックは、かなり突っ込んで確認しています。

Q. 親子上場について

親会社のソフトバンクグループ(株)は、グループ会社を投資ポートフォリオとして統括する「戦略的投資会社」です。そして当社は、基幹事業である通信事業の持続的な成長を図りながら通信以外へも領域拡大することにより成長を目指す「事業会社」です。そのすみ分けができている限りは、別会社として上場し、それぞれで市場の評価を得るのは意味のあることだと思っています。米国では、支配株主が少数株主に対して「信認義務(Fiduciary duty)」を負うことが判例法上認められており、損害賠償責任などを負うリスクがあります。これに対して日本ではそのような規定や判例がなく、法的には支配株主が上場子会社の株主に直接責任を持つ義務を負っていませんが、その代わりに親子間の取引について情報開示の充実が図られているという違いがあります。そのため、社外取締役は親子間の取引について透明性が確保されているのかを厳重にチェックする必要があるのです。

Q. 2022年2月に設置された親子間取引等をチェックする特別委員会での議論について

2022年度に開催された特別委員会では、PayPayの子会社化取引(2022年10月に実行)が議題として取り上げられました。PayPayに対しては、当社、Zホールディングス、ソフトバンクグループ(株)の子会社であるSVF II Piranha(DE)LLC(SVF2)がそれぞれ議決権を保有しています。PayPayに対して保有している優先株式を転換する際、各社が保有する議決権比率等の変更が生じますが、その際には変更の背景や理由について、当社にとって不利な形にならないのかという観点から重点的に確認しました。本件は複雑な話でなかなか理解が難しい部分がありましたが、取締役会に向けた事前説明には十分に時間を割いてもらいました。それぞれの株主にはいろいろな考えがあったと思いますが、私は、親会社であるソフトバンクグループ(株)の利益や、Zホールディングスの利益ではなく、あくまで当社個社の利益ないし企業価値最大化の観点から判断し、同意しました。

Q. Zホールディングスの親会社として同社の経営にもっと関与すべきではというご意見について

Zホールディングスは上場会社ですから、基本的には経営の独立性を尊重すべきだと思っています。確かに、「Yahoo! JAPAN」と「LINE」のID連携が遅れてしまったのは事実で、投資家の皆さまの失望を招いてしまった部分もあるかもしれません。ただ、ヤフーもLINEもこれまで自由な発想で事業を展開し、それぞれにたくさんのユーザーを抱え、ユーザーファーストで大きくなった会社です。そのような生い立ちを踏まえて、必要ならば積み上げてきたものを壊し、両社の化学反応が起きるように作り直すというのは、当事者である両社にしかできないことです。自ら問題の本質を見極めて、両社が納得して変容していくべきだというのが私の意見です。既存のものを作り直すには一定の時間がかかりますが、その間の機会利益を犠牲にしてでも、一過性ではない変容のあり方が求められている局面だと思います。当社のスピード重視の社風からすると口を出したくなるところかもしれませんが、ヤフーとLINEはユーザーの信頼があってのプラットフォーム事業です。当社の社内取締役と若干意見が異なるところかもしれませんが、スピードを重視しすぎてユーザー離れを起こしてしまったら元も子もありませんので、私自身はあまり性急に何かを要求すべきではないと考えています。

Q. 今回発表した中期経営計画に関する取締役会での議論について

「デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供する企業」という長期ビジョンに向かって、DXやAIに注力していく方向性には大賛成で、個人的にはもう少し前倒しできないかと思っているくらいです。一方、このように大きな成長機会があり、それなりの資金が必要になることを踏まえて、今後の財務戦略についてはさまざまな議論がなされました。当社は、基幹事業である通信事業から生み出されるフリー・キャッシュ・フローで配当原資を賄っており、上場以来「成長と高水準の還元」の両立にこだわってきました。当社がより大きな成長機会を捉えて企業価値を最大化するという視点から、最適な資本負債構成や、成長投資と株主還元のバランスのあり方について考えていく必要があると思います。引き続き、議論と検討を求めていきたいと考えています。

Q. さらなるガバナンス強化に向けての課題

世界から最先端の情報を集めて先を見据えた事業戦略を立てているところは、さすがソフトバンクと感じています。しかし、親子上場を維持する以上は、社外取締役の数を増やす必要があるように思っています。社外取締役の考えが必ずしも全て正しいとは思いませんが、現状の取締役会の構成では仮に社外と社内で意見が割れた場合、やはり社外取締役が最後の評決で負けてしまいます。通常より厳しいガバナンスが求められる当社では、いろいろな見方を持つ社外取締役が過半を占めることが望ましいと考えています。社外取締役は専門知識では社内の人間にかなうわけがありませんし、経営戦略そのものを作れるわけでもありません。しかし、提示された経営戦略について、どれが正しいか正しくないかではなく、なぜそうするのかということを納得いくまで問いかけ、多様な考えを持つ社外取締役の合意形成を図ることが重要ではないかと考えています。

社外取締役 独立役員 植村 京子

Q. 最後に、株主の皆さまへのメッセージ

私が5年間見ている限りでは、当社は非常に変化することに前向きで推進力のある会社です。それでいて、必ずしもトップダウンではなく、個々に判断する力を持っており、新しいことへのチャレンジ精神がこれほど旺盛な会社は日本では珍しいのではないでしょうか。組織全体がスピードを重視し、ある程度のリスクを覚悟して進化し続けたいという気持ちを強く持っているように思います。それこそが会社としての力の源泉であり、常に新しく、楽しいことに前向きなところに魅力を感じて、人や資金が集まるのだと思います。そんな当社が今、生成AIなどの大きな成長機会を前にして一段と攻めの姿勢を強めています。皆さまには、これまで以上に当社の事業にご期待いただき、引き続き、一層のご支援をお願いしたいと思います。