社会にとって欠けてはならない「ピース」となる

社会にとって
欠けてはならない
「ピース」となる

代表取締役 社長執行役員 兼 CEO

宮川 潤一

中期経営目標(2020年8月公表)の振り返り

激変する事業環境の中、達成にこだわり続けた2年間

2020年8月、当社は2022年度までの3年間で目指す中期経営目標を公表しました。主な内容は、2022年度に営業利益1兆円、純利益5,300億円を達成し、当該期間の総還元性向85%程度※1を実現するというものでした。
私は2021年4月に社長に就任し、この目標を前社長の宮内(現取締役会長)から引き継いだのですが、当時の事業環境はまさに激変と言うにふさわしい状況でした。具体的には、2021年春に実施した通信料値下げにより、2021年度~2023年度累計で2,000億円規模の減収影響が見込まれていました。また、新型コロナウイルスの感染拡大が継続し営業活動に大きな制約もありました。
このような状況ではありましたが、この目標は私も代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOを務めていた際に全役員と一緒に立てたものです。一度掲げた目標は何としてもやり遂げようという責任感で、現場と密にやり取りをしながらこだわり続けました。結果として、モバイル契約数の獲得が想定以上に推移したことや、企業などのDX支援により収益が拡大したこと、加えてPayPayを連結子会社化したことに伴う再測定益を計上できたことから、前述の目標を全て達成することができました。四苦八苦した2年間ではありましたが、まずはやり遂げることができ、ホッとしているのが本音です。

[注]
  1. ※1総還元性向:2020年度~2022年度の3年間の配当支払総額と自己株式の消却額の合計÷同3年間の親会社の所有者に帰属する純利益の合計

長期ビジョンに懸ける想い

社会の発展に貢献することがわれわれの成長につながる

引き継いだ中期経営目標を無事に達成することができましたので、2023年5月の決算発表は、「2030年にソフトバンクはどのような姿を目指すのか」「目指す姿からの逆算で、今後どのようなことに取り組むのか」をお話しする絶好のタイミングであると考え、「デジタル化社会の発展に不可欠な次世代社会インフラを提供する」という長期ビジョンを発表しました。この内容を端的にお伝えすると、AIが日常生活の中で当たり前に使われる社会を見据えて、AIが生み出す膨大なデータ処理や、それに伴う電力消費を支えることができる構造を持ったインフラを構築することにより社会の発展に貢献するということです。
ここであえて「社会インフラ」という言葉を用いた背景には、人々の生活を支える基盤となる必要不可欠な存在になりたいという想いがあります。経営者として目先の売上・利益を追求することはもちろん大事ですが、われわれが長期的かつ持続的な成長を目指すためには、まずは社会にとって今後必要とされることが何なのかを大局的に考え取り組むことがより重要だと考えています。社会にとって欠けてはならない「ピース」となる会社になれば、おのずと当社は成長していくという信念で取り組んでいます。

宮川 潤一

中期経営計画のテーマ

純利益をV字回復させ2025年度に最高益を目指す

この長期ビジョンの実現に必要な本格的な成長投資を行うタイミングに備え、まずは通信料値下げの影響を受けた事業基盤を再構築しようというのが今回発表した中期経営計画のテーマです。
前述の通り、2022年度はPayPayの再測定益という一過性の影響(純利益への影響額1,952億円)もあり、純利益の目標を達成することができました。しかし、この影響を除くと3,361億円でしたので、これを2025年度に5,350億円までV字回復させ、最高益を目指します。

成長戦略「Beyond Carrier」

通信を成長軌道に回帰させつつ多様な非通信領域を伸ばす

純利益のV字回復に向けて、まずは屋台骨である通信のビジネスを2023年度からしっかりと成長軌道に回帰させます。通信料値下げによる減収影響は2023年度まで残りますが、コスト削減とスマホ契約数の継続的な増加、さまざまな付加価値サービスの提供による売上の増加によって克服し、コンシューマ事業を2023年度から増益させていきます。
当社は、通信のビジネスを継続的に成長させながら、非通信領域へ積極的に事業展開することで企業価値の最大化を目指す成長戦略「Beyond Carrier」を2017年度から掲げています。今回発表した中期経営計画では、非通信領域として「DX・ソリューション」「ファイナンス」「メディア・EC」「新領域」の四つを伸ばす方向性を新たに示しました。「DX・ソリューション」の領域を伸ばすエンタープライズ事業においては、これまで仕込んできたさまざまなDXビジネスが収穫期に入ってくると期待しています。最近では、AIを活用して業界・企業を変革しようというAI Transformation、略してAXの取り組みも始まりつつありますので、それをリードするポジションになり、収益拡大につなげていきたいと考えています。

ファイナンス事業

グループ連携で早期黒字化、さらなる成長へ

ファイナンス事業の中核的な存在であるPayPayは、収益のベースとなる決済取扱高が順調に拡大しています。今後、PayPayの企業価値をさらに伸ばすためには、加盟店向け付加価値サービスや金融サービスを伸ばすことが必要だと思っています。
加盟店向け付加価値サービスについては、クーポンサービスの強化など、決済単価の上昇や来店するお客さまの増加につながるサービスの拡充を急ぐよう求めています。当社のエンタープライズ事業で中堅・中小企業市場を開拓する体制も整ったので、この営業力も活用していきます。
今後PayPayの金融サービスをさらに伸ばしていくためには、キャッシングやリボなどを提供しているPayPayカードの顧客基盤のさらなる拡大が不可欠です。やるからには業界No.1になるべきだと思っていますので、PayPayとの統合をさらに推進し、PayPayカード自体の商品力も上げていく予定です。当社のモバイルショップなどでのPayPayカード会員の獲得も推進していきます。
ファイナンス事業のもう一つの中核的な存在が、決済代行サービスを提供しているSBペイメントサービス(株)です。同社の2022年度の決済取扱高は6.7兆円でしたが、今後グループ企業との連携で非通信領域の取扱高拡大をさらに追求することにより、2025年度に10兆円超(年平均成長率15%超)に拡大させる方針です。
これらの取り組みを通じて、ファイナンス事業は2025年度までに黒字化を達成し、さらなる成長を目指していきます。

メディア・EC事業

LINEヤフーの改革を親会社として支援

メディア・EC事業の中核会社であるLINEヤフー(2023年10月1日より、「Zホールディングス」の商号を「LINEヤフー」に変更予定)の再成長は中期経営計画の非常に重要なテーマの一つです。同社も上場会社ですので、当初は会議の中でもコメントやアドバイスをするにとどめていました。しかし、「Yahoo! JAPAN」と「LINE」のID連携や重複事業の整理がわれわれの期待するスピードで進んでいなかったということもあり、2022年後半からは「意思決定をスピードアップしてほしい」「ID連携などのシナジーを早く出してほしい」「サービスの選択と集中をするべきだ」といったリクエストを出すようになりました。その後、LINEヤフーからグループ再編や経営体制の変更に関する提案を受け、それが正しい方向性だと思いましたので賛成しました。同社が今やるべきことは明確ですので、改革にとことん取り組んでもらいたいと思っています。親会社としてしっかりと支援していきます。

5Gの可能性

AIとの融合で5Gは産業のインフラとしての真価を発揮

2023年度以降は5Gの機能高度化(スタンドアローン方式※2)に注力し、超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続の通信を実現します。これらの機能がAIと結びつくと、中長期的には産業インフラとしての真価を発揮するようになるのです。自動運転車や自動掃除ロボットのようなデバイスが普及していく中で、それらのデバイス一つ一つに、高価で多くの電力を消費するコンピューターを搭載することはコストや電池容量の観点から難しいでしょう。むしろネットワーク側に高度なAIを搭載し、AIで処理した結果のみを5Gで遅延なくデバイス側に返せば、同じような働きをさせることができるのです。これが産業インフラとしての5Gの真価だと考えています。
このような5Gネットワーク上で、今後多くのユースケースが生まれていくことでしょう。そうなれば、国内の大企業のほぼ全てと取引があるエンタープライズ事業の大きな成長の糧になっていくと期待しています。
通信とAIが高度に融合するBeyond 5Gの時代を見据えて、2023年5月に米NVIDIAとの協業を発表しました。エネルギー効率に優れた同社の最先端チップを当社のエッジクラウド※3に導入し、携帯電話基地局の機能をこれに融合させることで、「AI-RAN※4」を実現していきます。これにより、エッジクラウドに搭載したAIが人流や天気、イベントなどの情報を学習できるようになることに加えて、AIが隣接した基地局同士を自律的に連携させることも可能になるため、電波の効率的な利用につながり、時々に応じた最適な通信環境の提供が可能になります。さらに、基地局間で無線リソースを融通し合うことができるようになるため、消費電力の大幅な低減にもつながります。
AIがあらゆる業界を再定義していく中で、通信業界も大きく変わっていきます。テクノロジーをベースにこの流れを先取りし、競争力を高めていきます。

[注]
  1. ※2スタンドアローン方式:5G専用のコア設備と5G基地局を組み合わせたシステム
  2. ※3エッジクラウド:利用している端末の近く(エッジ)でデータを処理するために設置されたサーバー(クラウド)
  3. ※4AI-RAN:基地局にAIを搭載したモバイルネットワーク

生成AI※5の取り組み

日本で最も生成AIを上手に使う会社へ

AIについて何度も言及していますが、「ChatGPT」に代表される生成AIの登場はまさに衝撃的で「AIが人間の知能を超える『シンギュラリティ』がいよいよ来たか」という感覚です。まるで人間のようにやり取りできる生成AIは、今後さまざまなサービスに取り入れられ、活用されていくことでしょう。あらゆる業界で競争環境やコスト構造が大きく変わる予兆を感じています。生成AIをわれわれのビジネスとどう融合させていくのか、多くの時間を割いて社内で議論しています。
これまでのテクノロジーの歴史を振り返ると、検索エンジンやOS、クラウドサービスなどの生活に欠かせない重要なものが登場してきましたが、生成AIはそれらとは桁違いに重要になると考えています。しかし、現状を見てみると、生成AIの基盤となる大規模言語モデルを開発している主要なプレイヤーは海外の企業です。これらの企業の生成AIは、英語など日本語以外のデータセット※6で開発されており、それらの言語に基づいた情報や思考パターンが蓄積されています。今後、生成AIが日常生活の中で普及していく中で、日本の商習慣や文化、日本語の独特な表現に対応した生成AIの選択肢がほしいというニーズが生まれてくると確信しています。そのようなニーズを満たすため、当社では日本語のデータセットを用いて、国産の生成AIを自社で開発していきます。

なぜソフトバンクが国産の生成AIを自社開発するのかというと、当社には三つの優位性があり、絶好のポジションにいると考えたからです。
一つ目は、国内最大級の計算基盤です。この度、米NVIDIAのAIデータセンター基盤である「DGX SuperPOD™」などに約200億円を投じ、生成AIの自社開発に必要な計算基盤を構築することにしました。政府にも国内で生成AIを開発することの重要性を理解いただき、経済産業省から53億円の助成※7を得られることになりました。このAIデータセンター基盤は2023年秋ごろに稼働を開始する予定です。2024年いっぱいはこの計算基盤の学習期間として想定しているため、学習が終わり次第、自社の生成AIサービスとして提供していく考えです。
二つ目は、生成AIを構築した経験者がグループ内に豊富にいることです。生成AIの構築には、データセットを作り、アルゴリズムを開発し、それらを用いて学習させる必要があります。幸いにして、グループ内にこれらの経験者が多くいましたので、国産生成AIの研究開発を行う当社の完全子会社のSB Intuitions(株)に集結させ、一気に作り上げることにしました。
三つ目は、圧倒的な顧客接点があることです。当社は、モバイルサービス、「LINE」「Yahoo! JAPAN」「PayPay」といった数千万人のユーザーを有する日本有数の顧客接点がありますので、開発した生成AIをすぐに多くのユーザーへ展開することが可能です。
生成AIについては、自社開発だけにこだわるわけではありません。自社開発の生成AIを含む複数の生成AIの中から、顧客企業などにとって最適なものを選択しアプリケーションとして提供する「マルチ生成AI体制」を取るというのが当社の基本的な考え方です。この考え方のもと、日本マイクロソフト(株)との生成AI領域を中心とした戦略的提携に合意し、2023年8月に発表しました。生成AIを実用化するトップランナーである同社との提携を通じて、顧客企業が生成AIを利用するためのセキュアなデータ利用環境を顧客企業に提供していきます。
これらの取り組みを通じて、生成AIを用いて企業の生産性を高めることに全社を挙げて注力していきます。ソフトバンクが目指すのは、「日本で最も生成AIを上手に使う会社」です。顧客企業などからそのように想起される存在になれば、大きなビジネスチャンスにつながりますので、この実現に向けて取り組んでいきます。

[注]
  1. ※5生成AI:文章、画像、プログラムコードなどのさまざまなコンテンツを生成することのできる人工知能
  2. ※6データセット:AIが学習を行うために用いられるまとまったデータ
  3. ※7

    当社は、経済安全保障推進法に基づく特定重要物資である「クラウドプログラム」の供給確保計画について、経済産業省から2023年7月7日に認定を受けました。自社で取り組む生成AIの開発およびその他のAI関連事業に活用するほか、生成AIを中心とした社外からのさまざまな利用ニーズに応えるため、大学や研究機関、企業などへ計算環境を幅広く提供していく予定です。本助成は、この認定に基づくものです。詳細はプレスリリースをご覧ください。

人材への取り組み

社員にきっかけを与え成長を促す

宮川 潤一

生成AIの加速度的な進化によって事業環境が大きく変化している中、社員一人一人が自身のスキルを磨き、成長することが企業としての成長につながると考えています。最近では、社員にもいち早く生成AIに触れてもらい、自らの仕事に生かすとともに自発的に学んでいってほしいと考え、そのきっかけとなるような二つの取り組みを行っています。
一つ目は、「『ChatGPT』などの生成AIを活用した新規事業の創出や業務の効率化をどのように実現するのか」というテーマで、ソフトバンクグループ内で実施した生成AI活用コンテストです。当初は「『ChatGPT』ってこんな感じなんだと社員が理解してくれればよいか」というくらいの期待でコンテストへの参加を促しました。しかし、この期待は良い意味で裏切られます。第1回コンテストへのエントリー数はたった10日間で5万2千件以上。また、最終選考までの1カ月の間に具体的なプログラムを書き、すぐにでもサービス化できそうな提案をしてくれた社員たちもいました。AIの進化は日進月歩ですが、社員たちも負けないスピードで成長しています。このコンテストは継続していきたいと思います。
二つ目は、ソフトバンクの全従業員がセキュアに生成AIを使えるような環境の構築で、2023年5月から利用を開始しています。文章の作成や翻訳、既存業務の効率化や生産性の向上に大いに役立っています。
当社は、iPhone・iPad・クラウドなどの最先端テクノロジーをまずは社内で徹底的に使い、そのノウハウとセットで顧客に提供することで成長してきた歴史があります。今回は二つのきっかけを与えたことによって社員の自発的な学びを促すことができました。今後当社が生成AIという大きな波に乗り、成長していく素地が作れたと捉えています。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン

多様な人材が活躍する躍動感あふれる会社へ

人材開発についてはほかにもさまざまな取り組みを行っていますが、多様性への取り組みを欠かすことはできません。当社では「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」を掲げ、社員一人一人が互いの違いを理解し強みを生かしながら、自由な発想で意見を出し合い、自ら革新を生み出せる組織づくりを目指しています。
このような方針を社内に浸透させるため、全社員を対象としたアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)に気づいてもらうためのeラーニングや、管理職を対象としたダイバーシティマネジメント研修などの取り組みを行っています。この重要性については全社員にぜひ意識してもらいたいと考え、毎月実施している全社朝礼の中でもスライドを用いて説明しました。
DE&Iの中で特に注力しているテーマの一つが女性の活躍推進です。当社は、2021年4月時点で7.1%であった女性管理職比率を、2035年度までに約3倍の20%以上にするという目標を掲げています。この達成に向けて、女性活躍推進委員会を設置し、私自ら委員長としてリードしています。委員会では、外部から有識者を招き、アドバイスをいただきながら役員全員で真剣に議論し、社内制度やキャリア支援施策、研修の実施などの面で改善策の検討および実行に取り組んでいます。
このような取り組みもあり、2023年4月には女性管理職比率が8.6%となり、情報通信産業の平均である8.2%を上回りました。しかし、まだまだ満足する水準ではありません。引き続き全社を挙げて取り組んでいきます。
今後もDE&Iを積極的に推進し、多様な人材が活躍できる企業風土を実現することで、ソフトバンクを躍動感のあふれる会社にしていきたいと思っています。

ガバナンス(親子上場についての考え方)

少数株主の利益を重視しつつ、シナジーを追求

親会社のソフトバンクグループ(株)と当社は明確なすみ分けができています。ソフトバンクグループ(株)は、グローバルな規模で投資を行う「戦略的投資会社」であり、当社は通信事業をさらに成長させながら、通信以外の領域の拡大を目指す「事業会社」です。事業内容が異なる両社が共に上場していることで、多様な投資家ニーズに対応できると考えています。
AIとの共存社会が始まりつつある中で、ソフトバンクグループ(株)が親会社であることのメリットを最近はさらに強く感じています。同社は長年多くのAI企業に投資を行っており、世界中からさまざまな情報が集まってきます。同社の代表取締役 会長兼社長執行役員で、当社の創業者 取締役でもある孫さんからは、今後のAIの潮流に関する深い知見に基づく有益なアドバイスを多数いただき、当社の企業価値向上に大きなプラスとなっています。
また同社の投資先が日本に進出する際には、当社は事業パートナーとして最初に声がかかることが多く、有利なポジションにあります。これは当社にとって成長のチャンスであるとともに、同社の投資先にとっても、日本における事業展開を加速できるメリットがあります。もちろん、ソフトバンクグループ(株)も当社も上場会社ですので、両社で具体的に重要な取引がある場合は、少数株主の利益を損なうことがないよう、独立社外取締役で構成される特別委員会で審議・検討いただき、慎重に経営判断を行っています。

環境への取り組み

気候変動問題の解決に貢献することは企業としての責務

当社は、持続可能な社会の実現に向けて、気候変動問題の解決に貢献することを企業としての責務だと捉えています。通信事業をはじめ、多くの電力を消費するビジネスを行っている当社は、温室効果ガスの排出量を低減し、脱炭素社会の実現に貢献していきたいと考えています。
2022年8月に、取引先などで排出される温室効果ガス(スコープ3)も含めた事業活動に関わる全ての温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」の実現に、ソフトバンク単体として取り組むことを発表しました。そして2023年6月には、これをグループ企業に拡大することを決定しました。
具体的な取り組みはすでに始まっています。2023年5月には、発電事業者から再生可能エネルギーを調達する大型の契約を締結した旨を発表しました。今回調達する約20億kWhの電力量は、通信事業で1年間に使用する電力量に相当します。主に追加性※8のある再生可能エネルギーですから、今後の温室効果ガスの低減につながります。また、再生可能エネルギーの供給開始から20年間の調達期間をコミットすることにより、現在の電気代単価よりも安価に調達できる予定です。電気代高騰の影響を受けにくい事業構造へ転換するという経営上の観点からも非常に意義があるものだと捉えています。

[注]
  1. ※8追加性:新たな再生可能エネルギー発電設備の増加を促す効果

株主還元の方針

中長期の成長と株主還元の両方を重視

当社は2018年の上場以来、株主還元を重要な経営課題の一つに位置付けています。中長期の成長と高水準の株主還元の両方を重視して経営していくということは簡単なことではありませんが、さまざまなステークホルダーに配慮しつつ、企業価値の最大化に向けて引き続き最適なバランスを追求していきます。
高水準の株主還元の原資として重要視しているのが、調整後フリー・キャッシュ・フローの安定的な創出です。中期経営計画の期間中においても、2022年度の配当(1株当たり86円)の水準を超える高水準の調整後フリー・キャッシュ・フローを継続して創出していく考えです。
この考え方のもと、2023年度の1株当たり配当金の予想は引き続き86円としました。2024年度以降の株主還元方針については現時点では決まっていませんが、株主・投資家の皆さまのご期待は十分に理解していますので、しっかりと応えるべく経営していきたいと思っています。

宮川 潤一

最後に

10年後にありたい姿から逆算し信念を持って取り組む

2021年4月に社長に就任して以来、通信料値下げという逆風の事業環境下でも、「2030年のソフトバンクはどうあるべきか」という10年後にありたい姿をしっかりと描き、逆算しながら経営してきました。例えば、再生可能エネルギーに係るCEO直轄部門を設けてさまざまな可能性を追求していたことが、先ほどお話しした再生可能エネルギーの大型の調達契約といった戦略的な取り組みにつながっています。通信・IT業界は非常に変化の激しい業界ですが、ソフトバンクを未来の社会を支える代替の利かない存在意義のある会社にしてみせるという信念で今後も取り組んでいきます。
なぜこのような信念を持つに至ったのかを考えてみると、それは私の生まれにあるのかもしれません。実は私の実家は1,200年以上前から続くお寺なのですが、長く同じ場所に存在し続けることができた理由は、社会に対する価値を提供し続けてきたから、すなわち存在意義があったからだと思うのです。企業経営もきっと同じで、存在意義を見いだし、社会に対する価値を提供し続けていけば、継続的な利益の成長につながり、結果として企業価値の向上につながるのだと確信しています。
株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまには、当社の中長期的な価値をご理解いただき、変わらぬご指導・ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。