CFOメッセージ

現行中期経営計画の達成と
次期中期経営計画に向けた
生成AI等への成長投資を両立

取締役 専務執行役員 兼 CFO

藤原 和彦

中期経営計画

2023年度の総括と今後の見通し

中期経営計画財務目標と実績
[注]
  1. ※1親会社の所有者に帰属する純利益

2023年度の連結売上高は6兆840億円となり、過去最高となりました。連結営業利益は、PayPay(株)の再測定益(2,948億円)が剥落し減益となりましたが、その影響を除いた実力値ベースでは、前期比1,107億円(14%)増と二桁の成長となりました。主力のコンシューマ事業が増益に転じただけでなく、全セグメントが増益となり、まさに「全員野球」でこの成長を成し遂げることができたと受け止めています。特にモバイルサービス売上を1年前倒しで反転・増収にできたことは、市場からも高く評価いただけたと認識しています。非常に良好な滑り出しとなった中期経営計画の初年度でしたが、最終年度の目標値は発表時点のままとしています。なぜなら、当社を取り巻く事業環境は、生成AIをはじめとした新たな成長のチャンスに満ち溢れており、将来のための手を打っていきたいという思いがあるからです。直近3年間は通信料値下げの影響や、新型コロナ感染症に伴う行動制限もあり、先行投資を抑制してきました。ようやくこのような耐える時期を終えて、次期中期経営計画期間あるいはそれ以降に大きな成長を実現するため、上振れが見込まれる利益を先行投資として活用したいと考えています。もちろん、掲げている中期経営計画の目標はしっかりと達成し、成長投資と両立していきます。
なお、現行の中期経営計画の目標値は、PayPay(株)の再測定益の影響を除いた実力値ベースで、2022年度の実績から2025年度にかけて、営業利益の年平均成長率が8%、純利益が同17%となります。この成長率は決して低い水準ではありませんが、2023年度の実績はこの計画値を上回って推移しました。われわれの企業努力により、今後の成長に向けた選択肢を一層増やすことができたと捉えています。

コンシューマ事業

モバイルサービス売上の増収の前倒しにより300億円の増益を実現

中期経営計画の発表時点では、通信料値下げの影響で下がるモバイルサービス売上を、減価償却費をはじめとする費用削減で乗り越え、増益させるという設計でした。しかし、新型コロナ感染症に伴う行動制限が2023年5月に終了し、人々の流動が回復していく中で、当社の強みである営業力を大いに発揮することができました。結果として、2023年度は147万件のスマートフォンの純増を実現し、目標としていた累計契約数3,000万件を2023年11月に達成しました。新規獲得のみならず、さまざまな営業努力によって付加価値サービスの浸透を図ったほか、「ソフトバンク」から「ワイモバイル」に移行するお客さまの数も減少し、想定以上にARPUの下落を食い止めることができました。こうした取り組みにより、モバイルサービス売上が1年前倒しで反転・増収し、費用の改善も相まって331億円の増益(7%増)となりました。
2023年12月の電気通信事業法の改正により、回線契約を伴わない場合でも端末の割引上限が最大4万円(税抜)となりました。これにより、顧客獲得費用として発生していた端末値引きが抑制され、端末粗利の短期的な押し上げ効果を見込んでいます。一方で、端末関連のマーケティング施策の効果が若干弱まり、スマートフォン契約の純増数に多少の影響が出る可能性もありますが、中期経営計画で掲げた「年間100万件水準の純増」には引き続き取り組んでいきます。

モバイルサービス売上/スマートフォン累計契約数

エンタープライズ事業

ソリューション等売上の継続収入が二桁成長

エンタープライズ事業の2023年度の営業利益は、一過性の特殊要因を除いて、前期比11%の増益となりました。この要因は主に、お客さまのデジタル化推進に伴ってソリューション等売上が16%増えたことです。今後も引き続き、現中期経営計画期間におけるソリューション等売上の年平均成長率は2桁増を目指します。2024年度は、新領域である生成AIサービスやデータセンター、クラウドなどでの取り組みを一層推進するほか、SBテクノロジー(株)を完全子会社化し、同社とのシナジーによる成長も追求します。

メディア・EC事業

事業効率化とサービスの起点強化で再成長

藤原 和彦

メディア・EC事業では、アカウント広告の増収に加え、コマース事業を中心としたコスト最適化や戦略事業での選択と集中が奏功し、2023年度の営業利益が前期比で24%増え、当社の連結営業利益の拡大に大きく貢献しました。2024年度は、「LINE」や「Yahoo! JAPAN」のアプリリニューアルなどサービスの起点を強化し、検索や広告、コマースといった各サービスの再成長などにより、引き続き前期比約300億円の増益を見込んでいます。
LINEヤフー(株)は、2023年11月に公表した不正アクセスによる情報漏えいを受けて、盤石なセキュリティ強化を実施するため、2024年度に対策費用として150億円を見込んでいます。当社としても、同社の親会社として、実効的なセキュリティガバナンスを確保する方策を検討・推進していきます。

ファイナンス事業

成長と収益性のバランスを追求し2024年度に黒字転換を目指す

ファイナンス事業 営業利益

2023年度のファイナンス事業の営業利益は50億円の赤字で着地しましたが、前期比では74億円の増益となり、連結業績の上方修正に大きく寄与しました。仮に、2022年度下期から連結したPayPay(株)を2022年度期初から子会社化していたならば、その増益幅はさらに大きく216億円でした。
「PayPay」の連結決済取扱高(GMV)は前期比22%増の12.5兆円となりました。2022年度の成長率34%に比べて成長スピードが減速しているようにも見えますが、2022年度の政府によるマイナポイントのキャンペーン効果の上振れ影響を差し引けば、2023年度も高い成長率を維持しています。「PayPay」登録ユーザー数は前期末比11%増の6,304万人となり、一人当たりの決済回数や決済単価も順調に拡大しています。堅調な成長が続くコード決済領域ですでに3分の2のマーケットシェアを確保し、これにPayPayカード(株)のクレジットカード決済が加わってGMVが一段と伸びていますので、ますます将来が楽しみです。「コード決済No.1」のポジションに満足せず、クレジットカード決済とのコンビネーションにより金融サービスのラインアップをさらに充実させ、稼ぐ力を高めていきたいと考えています。加えて、決済代行サービスを提供するSBペイメントサービス(株)のGMVは19%伸び約8兆円となりました。特に、非通信領域が25%伸びており、この成長をけん引しています。
PayPay(株)とSBペイメントサービス(株)の成長により、2024年度のファイナンス事業の営業利益は黒字化を見込んでいます。

コストマネジメント

飽くなきコストダウンが利益確保に貢献

当社は、成長領域で次々と事業を立ち上げていますが、グループ内部から成長資金を捻出し、固定費を一定レベルに維持するという「キープフラット」をコストマネジメントの基本にしています。
2023年度の連結営業利益は1,107億円増加しましたが、実は当社単体のコスト削減効果が約600億円あり、トップラインの成長を上回りました。コンシューマ事業における減価償却費の減少影響約400億円に加えて、物価が上昇している中でも飽くなきコスト削減努力が着実に成果を上げています。例えば、集中購買機能を強化し、グループ全体で本当に必要となる数量がいくつなのかを精査し、まとめて購入するといった工夫を徹底的に行っています。今回のメディア・EC事業での増益には、当社で培ったコストマネジメントノウハウをLINEヤフー(株)へ展開したことも、少なからず貢献しているものと考えています。また、人材の生産性が収益に大きな影響を与えますので、人員の最適配置やAIを活用した業務効率化も併せて進めています。
その一方、5Gネットワークの展開に係るコストを削減するため、当社とKDDI(株)は、5Gネットワークの共同構築の協業範囲を拡大することを2024年5月8日に発表しました。具体的には、その協業範囲を地方限定から全国へ拡大するほか、5Gに加え、4Gの基地局資産の相互利用の検討も進めていきます。今回の協業範囲の拡大により、2030年度までに累計で1,200億円のコスト削減を見込んでいます。このように、競合であっても連携できるところは連携し、コスト競争力を高めていきます。なお、2024年度は、3G・ADSL・PHSといったサービスの終了に伴うネットワーク運用コストの削減効果も見込んでいます。

財務戦略

キャピタルアロケーションと資金調達の多様化

プライマリー・フリー・キャッシュ・フロー
[注]
  1. ※2AI計算基盤への投資等回収に長期を要する投資を除く
  2. ※3Aホールディングス(株)、LINEヤフー(株)および子会社、Bホ
    ールディングス(株)、PayPay(株)、PayPayカード(株)、
    PayPay証券(株)などのフリー・キャッシュ・フロー、役員への
    貸付などを除き、Aホールディングス(株)からの受取配当、Pay
    Pay証券(株)への出資を含む

前述の通り、モバイルの収益改善が前倒しで進み、他の事業の取り組みも順調に進捗していますので、今後、調整後EBITDAや営業キャッシュ・フローは着実に増加していくと見ています。一方で、当社では5Gのエリア展開が一巡しており、当面、コンシューマ事業とエンタープライズ事業の年間設備投資額は3,300億円水準でコントロールできる見込みです。結果として、生成AIや次世代社会インフラなどへの成長投資を行う前の調整後フリー・キャッシュ・フローであるプライマリー・フリー・キャッシュ・フローは引き続き現行の株主還元総額である約4,000億円を大きく上回る水準を維持できると考えています。このプライマリー・フリー・キャッシュ・フローは高水準の株主還元を維持するための原資であり、その創出にこだわっていきます。
当社のキャピタルアロケーションの基本設計は、毎年高水準のプライマリー・フリー・キャッシュ・フローを確保し、財務キャッシュ・フローから支払う基地局リース料と配当を差し引いた後に数百億円の余力を残し、追加的な成長投資や財務改善の選択肢を持つということです。2023年度においては追加的な成長投資を優先しました。具体的には、2024年3月にアイルランドのCubic Telecom Ltd.の株式51%を761億円で取得し、子会社化しました。Cubic Telecom Ltd.はコネクテッドカーやSDCV(Software Defined Connected Vehicles)向けにIoTプラットフォームを提供しており、非常に将来性のある会社であると評価しています。なお、長期的な資金管理・運営の視点から、Cubic Telecom Ltd.の取得資金は、(株)国際協力銀行(JBIC)から380億円、国内金融機関4行から380億円の長期融資で賄いました。当社におけるJBICからの融資は初めてでしたが、本件は日本および国際経済社会の健全な発展に貢献する投資であると評価いただき、非常に長い年限の融資につながりました。Cubic Telecom Ltd.のビジネスは、自動車の開発サイクルと連動しており、成果が表れるのに一定の時間を要するものです。よって、長期の借入で賄うべきだと考えていましたから、今回の融資はわれわれのニーズとマッチしており、大変ありがたいことだと思っています。
今後、生成AIや次世代社会インフラへの成長投資などで多額の長期性の資金を必要とする場合には、社債型種類株式や長期ローンなどの調達手段を柔軟に活用し、4,000億円規模の株主還元との両立を行っていきます。2023年11月に発行した第1回社債型種類株式(1,200億円)はコールが5年先で、しかも、普通株式の議決権を希薄化することなく、会計上100%資本と見なされるものです。そのため長期の成長投資に向いており、今回調達した資金のうち、約1,100億円(経済産業省の「クラウドプログラム」の補助金考慮後)をAI計算基盤に充当することにしました。既存事業であるモバイルサービスの競争力維持・向上に必要な設備投資や、配当金などは毎年度の営業キャッシュ・フローで賄うべきものだと考えていますが、プラスアルファの収入を生むための成長投資は、その金額と回収期間を踏まえ、多様な調達手法を戦略的に組み合わせていくことが非常に大事だと考えています。

財務規律と資本コストについて

当社は、(株)格付投資情報センター(R&I)から「A+」、(株)日本格付研究所(JCR)から「AA–」という高位の格付けを得ながら、財務レバレッジを十分に活用しています。その結果、当社のROEは21%(2023年度実績)と高水準を維持し、PBRは3.9倍(2023年度末実績)と1倍を大きく上回っています。財務の健全性を確保しながら、高位の格付けを維持するためには、財務規律が重要です。当社では、調整後EBITDAを分母に純有利子負債を分子とする調整後ネットレバレッジ・レシオ(NLR)※4を重視し、これを2倍台半ばで維持することを目指しています。先行投資による借り入れによって、調整後NLRが一時的に高まることはあるかもしれませんが、2倍台の数字にこだわっていきます。なお、当社の自己資本は2023年度末で約2.4兆円あり、絶対額ではかなり厚みがある水準だと思いますが、自己資本比率は15%台ということで、同業他社対比でやや見劣りするという面もあります。今後は、高水準の配当を維持しながらも純利益を着実に増加させ、自己資本を積み上げていきたいと考えています。
当社は、加重平均資本コスト(WACC)低減のため負債を最大限活用しています。会社全体のWACCは約5%の水準となっており、定期的にその数値を見直しています。一方で、既存の通信事業とは性質が異なる新規事業においては、事業リスクが大きく異なるため、それらの投資の意思決定においては、5%を大きく上回るリターンを求めています。特に、前述の生成AI関連の新規事業は投資金額が大きいため、早期に収益の柱にしていくべく、事業部門と密に連携しながら事業計画のレビューとモニタリングをしっかりと行っていきます。

[注]
  1. ※4Aホールディングス(株)、LINEヤフー(株)および子会社、Bホールディングス(株)、PayPay(株)、PayPayカード(株)、PayPay証券(株)などに係る純有利子負債と調整後EBITDA、割賦債権流動化に係る有利子負債および債権流動化現金準備金を除く
藤原 和彦

エクイティストーリー

中長期の成長と高水準の株主還元を両立

ネットレバレッジ・レシオ※5
[注]
  1. ※5ネットレバレッジ・レシオ = 純有利子負債/調整後EBITDA
    (該当四半期の直近12カ月)
  2. ※62023年度第2四半期より定義を変更し、「LY、PayPay等」にPa
    yPay証券(株)およびPPSCインベストメントサービス(株)を
    加えたことに伴い、2023年度第1四半期の数値を遡及修正

当社は、株主・投資家の皆さまとの対話を重視しており、私自身も年間数十件の面談を実施しています。以前は高水準の株主還元が継続できるのかが注目されていました。最近では、日進月歩で進化する生成AIという事業機会を踏まえて、当社の成長に対する期待の大きさをひしひしと感じます。引き続き高水準の株主還元を維持しながら、その期待に応えていきたいと考えています。
当社はエクイティストーリーとして事業の成長と株主還元の両立を掲げています。これを端的に示す経営指標として株主総利回り(TSR)を重視しており、中期の役員報酬と連動させています。具体的には、3年間のTSR実績とTOPIXとの対比を元に算出する係数と連動するように設計しており、株主の皆さまと共通の視点を持って経営する仕組みとしています。

資本市場へのメッセージ

数字で未来を語り、成長戦略の評価につなげる

株価・累計配当額

2023年度は、モバイルサービス売上が1年前倒しで反転・増収し、株主還元の継続性に対する皆さまのご懸念が払拭されたと思います。それが、昨今の株価上昇につながり、結果としてTSRの大幅な上昇にもつながったと考えています。「Beyond Carrier」戦略に対する評価が徐々に高まってきているように思いますが、次世代社会インフラを中心とした成長戦略については、より株主・投資家の皆さまのご理解をいただけるように努めていく必要性を感じています。会社を成長軌道にナビゲートする羅針盤であるCFOとしては、未来志向で数字を語れるようにし、株主・投資家の皆さまに成長性を評価いただけるよう取り組んでいきたいと考えています。