
AIとの共存社会を支える
テクノロジー企業に
進化する
代表取締役 社長執行役員 兼 CEO
宮川 潤一
中期経営計画 初年度(2023年度)の振り返り
全社一丸となって通信料値下げの影響を克服し大幅な増益を達成

2023年度の連結業績は、売上・利益ともに上方修正した業績予想(2024年2月発表)を上回ることができ、中期経営計画の初年度として非常に好調なスタートを切ることができました。2022年度のPayPay(株)の子会社化に伴う一時益の影響を除いたベースで、営業利益は前期比14%増、親会社の所有者に帰属する純利益は同45%増となり、どちらも1,000億円を超える大幅な増益となりました。
特に、2021年春の通信料値下げの影響を受けてきたコンシューマ事業のモバイルサービス売上は1年前倒しで反転・増収を達成し、事業全体としても増益にできたことは非常に大きな出来事でした。また、エンタープライズ事業やメディア・EC事業で2桁の増益を実現したほか、ファイナンス事業も赤字を大幅に縮小することができました。
振り返ってみますと、毎月実施している全社員向けの朝礼では、通信料値下げの危機感を自分の言葉で共有し、社員の奮起を促してきました。また、経営会議では、商材一つ一つの利益率がこの水準で本当に妥当なのか、営業体制は本当にこれでよいのか、などと問題提起し、コスト削減についても抜本的に取り組むように発破をかけてきました。このような働きかけを社員が全力で受け止め、一丸となって取り組んできたことが結果に表れた1年だったと受け止めています。
コンシューマ事業
顧客基盤の拡大とARPU向上に向けた取り組みでモバイルサービス売上が反転
中期経営計画の中では、モバイルサービス売上を2024年度から反転・増収させることを目標としていました。幸いなことに、スマートフォン契約数の純増が好調に推移したこと、ARPUの下落幅が想定よりも早く縮小したことなどにより、2023年度から増収に転じることができました。
純増が好調に推移した要因の一つは、顧客との重要な接点であるショップ網を維持してきたことです。過去3年は、通信料値下げの影響やコロナ禍を受けて抜本的なコスト削減が必要な状況でしたので、短期的なコスト削減策として、ショップ網を縮小するべきかどうかも俎上に載せ、徹底的に議論しました。しかし、中長期の戦略を考えたときに「維持するべきだ」と判断しました。
ショップ網を維持しようと判断した背景には、AIとの共存社会の到来で形は変わるかもしれませんが、スマートフォンは人にとって一番身近なツールの一つであり続けるだろうという考えがあります。その利便性を享受できなければ、情報格差が生まれ、それが賃金や生活の格差につながってしまうのではないかという課題意識があります。この課題意識がありましたので、一人でも多くの人にその利便性を徹底的に伝えるための取り組みを行っています。現在、ショップなどでは、年間約100万回の「スマホ教室」を実施し、スマートフォンの便利な機能や使い方などを伝えることで、デジタルデバイド(情報格差)の解消に努めています。加えて、スマートフォンの各種サポートを毎月定額で利用できる「店頭スマホサポート」を2022年9月から提供し、ユーザーのニーズを踏まえて拡充しています。このサービスは、ユーザーから好評を得ているとともに、ショップを運営してくれている代理店の収入増や、当社のARPU向上にも貢献しています。
また、2023年度にはARPUの向上やグループ経済圏の拡大に向けた取り組みとして、「ソフトバンク」ブランドにおいて「ペイトク」という新しい料金プランを発表しました。この料金プランは、「PayPay」と組み合わせることで無制限あるいは大容量のデータプランをおトクに使える料金プランで、他社との差別化や「ワイモバイル」ブランドとの棲み分けに役立っています。
引き続き、顧客基盤の拡大とARPUの向上に向けた取り組みを推進することで、モバイルサービス売上の最大化を目指していきます。
エンタープライズ事業
さらなる飛躍に向けて人材の強化と新領域への投資を進める
エンタープライズ事業は、企業のDX化の潮流を受けつつ、幅広いITソリューションとモバイルをセットで提供することで、2018年度から年平均成長率2桁での利益成長を続け、営業利益を5年で倍増することができました。引き続き、ソリューションの売上は2桁ベースで成長すると見込んでいますが、さらなる飛躍に向けて、主に二つのことに取り組んでいきます。
一つは、人材の強化です。今後はAIが社会実装され、あらゆるものの自律化(Autonomous化)や効率化が加速していきます。そのけん引役になると期待しているのがこの事業であり、幅広い顧客企業の持つデータやシステムとAIを組み合わせながら、さまざまな業界を変革していくことで成長していきたいと考えています。後ほど詳しく説明しますが、当社ではAIを用いてコールセンターを自動化するソリューションを開発しています。まずは自社で導入し、成果を検証した上で、順次顧客企業にも提供したいと考えています。このようなサービスの導入時は、顧客企業をサポートするエンジニアのリソースが多く必要になりますので、今から先んじて強化しています。
2024年4月には、豊富なエンジニアリソースと高い技術力を有するSBテクノロジー(株)の株式公開買付(TOB)を発表しました。同社は元々、当社が52.81%(2024年4月25日時点)の株式を保有している上場子会社でしたが、2024年9月に271億円を投じて完全子会社化しました。同社は、クラウド・セキュリティ・AIに強みを持つ企業ですので、今後のAIの社会実装に向けて、エンタープライズ事業とのさらなるシナジーが期待できると考え、このような意思決定に至りました。
もう一つは、新領域への投資です。2024年3月には、コネクテッドカーおよびSDCV※1向けにIoTプラットフォームをグローバル展開するCubic Telecom Ltd.の株式の51.0%(希薄化後)を761億円で取得し、子会社化しました。自動車のEV化や自動運転化が進んでいくと、自動車をソフトウエアで制御する領域が広がっていきますので、「通信」はそのソフトウエアを管理・展開するための要となります。この投資は、同社の自動車向けのIoTプラットフォームとしての価値だけを評価したものではなく、ソフトウエアをグローバルに展開できるプラットフォームとしての価値を見いだして実行した戦略的な一手なのです。
このような先行投資の影響もあり、2024年度のエンタープライズ事業のセグメント利益は、実力ベースで7%の成長を予想しています。いったんは1桁台の成長になりますが、これらの投資の成果により、中期的には2桁成長に回帰できるように努めていきます。
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- ※1SDCV(Software Defined Connected Vehicles):主にインターネットに接続されたソフトウエアを通じて機能を更新することができる車両のこと
メディア・EC事業
オンライン・オフラインの強みを掛け合わせてともに大きな成長を実現
2023年10月に、Zホールディングス(株)、LINE(株)、ヤフー(株)を中心としたグループ内再編が完了し、LINEヤフー(株)がスタートしました。2023年度は、テーマとして掲げていた事業の効率化が想定以上に進展し、同事業は24%の増益を実現することができました。
しかしながら、2023年11月にLINEヤフー(株)が不正アクセスによる情報漏えいインシデントを発表し、当社としても非常に重く受け止めています。同社は、2024年3月および4月に総務省から行政指導を、同年3月に個人情報保護委員会から勧告および報告等の求めを受けました。総務省からの行政指導では、「LINEヤフー(株)の業務委託先は、強い資本的影響があるNAVER Corporation(以下、NAVER)の子会社であり、適切な委託先管理を実施できていなかった」という趣旨の指摘を受けたと理解しています。この指摘を踏まえて、LINEヤフー(株)では、NAVERへの業務委託を順次終了するとともに、新規の業務委託を行わない方針を発表しており、当社としても同社のこの意思を尊重したいと考えています。当社は、同社の親会社として、さらに実効的なセキュリティガバナンスの確保に向けて今後も協力していきます。
なお、当社とNAVERは、両社で株式の50%ずつを保有するAホールディングス(株)を通じてLINEヤフー(株)の株式の64.4%(2024年3月31日時点)を保有していますが、この資本関係の見直しについては短期的に結論が出るものではないと認識しており、LINEヤフー(株)の将来と、NAVER・当社の事業戦略を判断基準として引き続き議論を重ねていきます。
全国的なショップ網や約1.6万人の営業社員を有し、オフラインに強みのある当社と、オンラインに強みのあるLINEヤフー(株)は最適な組み合わせであり、重要なパートナーです。両社の強みを生かして取り組みたいことがたくさんあります。代表的な成功例は「PayPay」で、加盟店開拓などのオフラインの部分を当社が、システム開発などのオンラインの部分を同社が支援してきました。これからはAIが本格化していき、競争環境が大きく変わるタイミングです。セキュリティガバナンスの課題を早期に克服し、一緒に第2・第3の「PayPay」のようなビジネスを作り、ともに大きな成長を実現していこうと働きかけています。
先日、毎年恒例の全グループ社員向けイベント「社員大会」でプレゼンテーションを行ったのですが、その題材は1800年代に日本の近代化に大きく貢献した5人の若者(長州ファイブ)のエピソードでした。この5人の若者は欧州に留学し、それぞれが近代的な憲法や内閣制度、鉄道技術、造幣技術、近代工業、外交などの専門分野を極めました。この5人がそれぞれの強みを持ち寄って「日本を近代国家にする」というビジョンの下で力を合わせたからこそ、その後の日本の発展があったわけです。当社も通信・eコマース・メディア・決済・金融など、さまざまな強みを有する企業群であり、これらの事業分野が未来の日本にとって重要な役割を果たすと考えていますので、「情報革命で人々を幸せに」という共通の経営理念の下、力を合わせて大きなことを成し遂げたいと思っています。
ファイナンス事業
「PayPay」は金融プラットフォームとしてさらなる拡大を目指す
ファイナンス事業の中核的な存在であるPayPay(株)は、コード決済とクレジットカード決済のシームレスな連携により、決済取扱高が前期比22%成長し、2023年度には12.5兆円になりました。また、登録ユーザー数は2024年3月末時点で前期比11%増加の6,304万人となり、この規模になっても2桁の成長を継続しています。
そして、国内のコード決済では決済取扱高・決済回数ともにNo.1のポジションを維持しています。今後は、この優位性を生かし、金融プラットフォームとしてさらなる拡大を目指します。加えて、グループ内の金融サービスとの連携をさらに強めるほか、当社のモバイルの事業基盤を活用し、「PayPayカード」などの顧客基盤の拡大を推進していきます。
PayPay(株)は、2023年度に連結EBITDAで初めての黒字化を達成しました。2024年度には、営業利益ベースでも黒字化を目指して取り組んでいますが、PayPay(株)の経営陣は、必ず成し遂げてくれると期待しています。
2018年10月のサービス開始以来、顧客基盤の拡大を優先し、赤字を恐れずに先行投資を続けてきましたが、営業利益の黒字化が視野に入ってきたことは非常に嬉しく思っています。「日本で立ち上げたベンチャー企業が、これほどまでに成長できるのか」ということを印象付けたいと考えています。
中期経営計画で掲げた目標についての考え方
目標の達成と中長期の成長に向けた先行投資を両立
ここまで説明してきました通り、2023年度は現行の中期経営計画の初年度として非常に順調な滑り出しだったと捉えています。この中期経営計画では、2025年度に営業利益で9,700億円を達成するという目標を掲げてきましたが、実力ベースでは1兆円超を創出できるまでに事業基盤が盤石なものになってきました。よって、中期経営計画の目標を上方修正することもできましたが、急速に拡大する生成AIの領域でマーケットリーダーになるべく、中長期の成長に向けた先行投資と現行の中期経営計画で掲げた目標の達成を両立するという方針を取ることにしました。
中長期の成長に向けた投資として、具体的に取り組むことの一つはAI計算基盤の構築です。今回、約1,100億円(経済産業省の「クラウドプログラム」の補助金考慮後)を投じて、AI計算基盤の計算能力を現在の37倍にまで引き上げることにしました。高い計算能力を持ったAI計算基盤を使いたいという政府・大学・企業の需要は非常に底堅いものがあり、Infrastructure as a Service(IaaS)として提供するだけでも投資の回収は見込めると考えています。当社はまず、このAI計算基盤を活用して約1兆パラメーターの日本語ベースの大規模言語モデル(LLM: Large Language Models)を自社で構築していきます。このLLMは、Platform as a Service(PaaS)としての提供を目指しており、企業や自治体への展開を一気に進めていきます。
また、生成AIを活用したSoftware as a Service(SaaS)の開発にも投資します。2024年3月には、生成AIを活用したコールセンターの自動化に向けたソリューションを共同開発することについて、日本マイクロソフト(株)と共同発表を行いました。事前に学習させた情報を元に単純な受け答えだけができるものではなく、リアルタイムに変化する状況をAIが把握し、自律的に応答できるレベルのソリューションになるまで、作り込んでいきたいと考えています。
このように、多様なビジネスモデルを作り上げていきますので、一時的には先行投資に係る費用が発生しますが、中長期ではより高い成長軌道を描けるように取り組んでいきます。
AIデータセンターの必要性
AIと共存する社会基盤を作り上げる

米OpenAIが開発した「GPT-3.5」が登場し、世の中が大騒ぎになったのが2022年11月です。そこからあっという間に、テキストを打ち込むだけで生成AIが画像を描いてくれたり、動画を作ってくれたりする時代になりました。そして、同社が2024年5月に公表した「GPT-4o」では、単一のニューラルネットワークでテキスト・画像・動画・音声を入出力できるようになるなど、驚くべきスピードでAIが進化しています。こういった時代がいつか絶対に来ると予想していたものの、思ったよりも早く来たな、当社も進化のペースを上げていかなければいけないな、と思っています。
AIの存在感が増していき、AIと共存する社会が本格的に始まろうとしています。そのような中で、AIデータセンターは人の体で例えると「頭脳」を司る部分です。当社は、この最も重要な「頭脳」に安定的に電力を供給し、より賢く育てる役割を担いたいと考えており、いち早く着手しています。
2023年11月には北海道の苫小牧市にAIデータセンターを構築することを発表しました。このデータセンターは、完成時には最大受電容量300メガワットの規模になる見込みであり、再生可能エネルギーのみを使用して運用したいと考えています。2026年度に第1期の工事完了および開業を目指しており、開業時点では50メガワットの規模となる見込みです。
また、2024年6月には、シャープ(株)(以下、シャープ)の堺工場を活用した大規模なAIデータセンターの構築について、同社と基本合意書を締結した旨を発表しました。同工場の土地や建物、電源設備、冷却設備などを譲り受ける方向で交渉しています。データセンターを新設するには、土地の選定や購入、建物の建設、電源設備の構築などが必要であり、昨今の労働力不足などを考慮すれば早くても3~4年、通常であれば5~6年が必要になります。しかし、シャープ堺工場の既存設備を転用することができれば、データセンターを早期に稼働することができ、急増するニーズに応えることができると見込んでいます。
私は、1991年にISP(インターネットサービスプロバイダー)の会社を興し、インターネットの黎明期からIT業界に関わってきました。インターネットやスマートフォンのようなパラダイムシフトを起こすテクノロジーが出てきた時に、大きな成功を収めることができるのは、そのテクノロジーが人々の生活にどう溶け込むのかを具体的に「先読み」して先手を打った会社です。今、AIというテクノロジーによって、これまでで最大のパラダイムシフトが起ころうとしています。そのような中で、AIと人々の関わりはどうなっていくのか、AIでどのように世の中が変わっていくのか、と「先読み」していくとAIデータセンターは必ずや社会基盤として不可欠な存在となることでしょう。現行の中期経営計画の間にしっかりと準備を進め、次期中期経営計画の中で具体的な目標や戦略を説明できるようにしたいと考えています。
ESG経営
「長期ビジョン」の実現を通じてESG経営に取り組む
社長就任時に、どのようなビジョンを掲げて経営していくべきかを真剣に考えました。その際に、「持続可能な社会の実現」と「企業価値の向上」の両立を目指すというESG経営の考え方が非常に重要であると認識し、羅針盤として最初から経営戦略に取り込んでいきました。これが結果として、「AIによるデータ処理需要・電力消費の増加」と「地球温暖化」に対応するための「長期ビジョン」、そしてそれを実現する「次世代社会インフラ」の構想に結びついています。
ESG経営に真剣に取り組んでいく中で、世界の代表的なESG指数である「Dow Jones Sustainability Index」の「World Index」の構成銘柄に、2年連続で選定されました。また、そのスコアにおいても、日本国内で選定された企業の中で2年連続最高のスコアを獲得しました。加えて、2023年11月には、国連のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを評価する「第5回日経SDGs経営大賞」において、899社の中から大賞を受賞することができました。
このような高い評価をいただけるようになったことは非常に嬉しく思っていますが、評価を得るためだけにESG経営をしてきたわけではありません。当社の「長期ビジョン」の方向性はESG経営の考え方と合致しているからこそ、その実現に向けて取り組んでいくことが、結果として高い評価の獲得・継続につながっていくと考えています。
環境への取り組み
AIが生み出す膨大な電力需要に「分散型AIデータセンター」で取り組む
当社は、持続可能な社会の実現に向けて、気候変動問題の解決に貢献することを企業としての責務だと捉えています。中期経営計画では、自社の使用電力※2に占める実質再生可能エネルギーの比率を2025年度までに50%、2030年度までに100%(うち、半分以上を再生可能エネルギーによる発電から調達)にするという目標を掲げています。2023年度には、この比率は48%となっており、目標に対して順調に進捗しています。
今後、AIが日常的に使われる社会が到来すると、AIの稼働により大量のデータ処理が発生し、膨大な電力需要が生まれると見込まれています。さまざまな公開情報に基づくと、2030年の国内のデータ処理は2020年対比で数百倍にもなるという試算もあります。仮にAIによるデータ処理が2020年対比で300倍になると仮定すると、大型火力発電所を6基も新設する必要がありますが、温暖化の原因となる二酸化炭素を排出する火力発電の拡大という選択肢は現実的ではありません。また、AIのデータ処理を行うにはデータセンターが必要ですが、東京・大阪などの大都市周辺では再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが小さいという課題もあります。これらの状況から、再生可能エネルギーの導入ポテンシャルが豊富な地域にAIデータセンターを分散配置し、将来的には再生可能エネルギーの発電にも関与することで、気候変動問題の解決に貢献したいと考えています。
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- ※2ソフトバンク(株)およびWireless City Planning(株)の合計
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(女性活躍の推進)
自ら旗振り役となり、女性が活躍しやすい環境づくりを進める
当社では「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」を推進しており、社員一人一人が互いの違いを理解し強みを生かしながら、自由な発想で意見を出し合い、自ら革新を生み出せる組織づくりを目指しています。
DE&Iの中で特に注力しているテーマの一つが女性活躍の推進です。当社は、2021年4月時点で7.1%であった女性管理職比率を、2035年度までに約3倍の20%以上にするという目標を掲げています。この達成に向けて、女性活躍推進委員会を設置し、私自ら委員長として旗振り役となり、女性が活躍しやすい環境づくりを進めています。2024年4月にはこの比率が9.2%まで上がってきました。人材の育成には相応の時間がかかりますが、長期的な視野でしっかりと取り組んでいきます。
ガバナンス(親子上場についての考え方)
独立社外取締役を過半数にしガバナンス体制を強化
2024年6月20日に開催した当社第38回定時株主総会にて取締役が選任され、上場以来初めて独立社外取締役が全取締役の過半数を占める体制(11名中6名)になりました。
当社の親会社であるソフトバンクグループ(株)は、当社の議決権の40.7%を所有しており、当社には支配株主がいる状態です。よって、少数株主保護の観点から、より厳しいガバナンス体制にすることが必要だと以前から認識していました。一方で、社外取締役の数だけを揃えればよいとは考えていなかったので、専門知識を有しており、当社の企業価値の向上に寄与していただける人材を探していました。そして今回、AIをはじめとするテクノロジーについて豊富な知識と経験を有する坂本 真樹氏と、企業変革やダイバーシティの推進に関する知識や経験を有する佐々木 裕子氏に独立社外取締役として就任いただくことになりました。この新たなガバナンス体制の下、引き続き企業価値の向上に努めていきます。
株式分割の実施と株主優待の新設
若い個人株主層を増やし、長期的な目線で企業価値の向上につなげる

当社は、2024年10月1日に、普通株式1株につき10株の割合で株式分割を行うことにしました。その背景には、投資単位を引き下げ、10年、20年の長期的な時間軸で当社の経営を一緒に考えてくれる若い個人株主層を増やしたいという思いがあります。そのため、若い個人投資家層が買いやすい投資単位を調査したところ、2万円程度であろうということが分かりましたので、この方針としました。2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が開始され、投資家層のさらなる拡大が進むと予想される中、10年後、20年後に日本の経済を動かす若い方々に、「初めて買った株はソフトバンクの株だった」と言っていただき、この購入をきっかけに当社を長期的に応援していただけたらと期待しています。また、当社の株式の購入やサービスに興味をもっていただくきっかけになればと考え、株主優待制度を新設することを決めました。この制度では、当社の普通株式を1年以上かつ100株以上保有していただいた株主の方を対象※3として、「PayPayマネーライト※4」1,000円分相当を進呈します。この株主優待にかかる総額は10億円程度になると見込んでおり、個人株主数やPayPay経済圏の拡大という戦略的な取り組みとして、中長期的な企業価値の向上につなげたいと考えています。
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- ※3当社株主名簿に1年以上継続して記載または記録されており、かつ当社普通株式を100株(1単元)以上保有されている株主の方を対象とします。保有期間は3月31日から翌年3月31日までの間とし、初回は2025年3月31日から2026年3月31日までとします。なお、「1年以上継続して記載または記録」とは、同一の株主番号で3月31日および9月30日最終の当社株主名簿に3回以上連続で記載または記録された株主の方です。
- ※4PayPayマネーライトは譲渡・請求書払い(税金以外)、PayPay/PayPayカード公式ストアでも利用可能です。出金や自治体への請求書払い(税金など)には利用できません。
株主還元の方針
中長期の成長と株主還元の両方を重視
2023年夏頃からモバイルサービス売上の反転が見え始めたことや、業績全体が想定以上に回復してきたことを踏まえ、「通信料値下げの影響がある中で、この高水準の株主還元は維持できるのか?」という株主・投資家の皆さまの懸念は後退し、新たな成長機会を捉えて「中長期でどう成長していくのか?」に関心が移ってきたように感じています。
これまで通りの高い株主還元に対する期待に応えつつ、生成AIやAIデータセンターなどの中長期的な成長機会にどう取り組んでいくべきか。本来であれば相反するこの二つのことを同時に追求していこうと考え、2023年11月には、国内で初めて社債型種類株式を東証プライム市場に上場させ、1,200億円の成長資金を調達しました。社債型種類株式は社債と株式の両方の特長を有しており、普通株式の議決権を希薄化することなく、自己資本を拡充することができます。今回はこの調達した資金を、前述のAI計算基盤への成長投資に充当することにしました。この社債型種類株式は、発行から5年後以降に金銭対価による取得(コール)が可能になります。この成長投資の成果を早期に結実させ、純利益を伸ばし、将来の株主還元余地や成長投資余力を高めていきたいと考えています。
この考え方の下、2024年度の普通株式1株当たり配当金の予想は引き続き86円としました。2025年度以降の株主還元方針については現時点では決まっていませんが、株主・投資家の皆さまのご期待は十分に理解していますので、引き続き中長期の成長と株主還元の両方を重視し、しっかりとお応えするべく経営していきます。

最後に
AIとの共存社会を支えるテクノロジー企業へ進化し企業価値を高める
通信料値下げという非常に険しい山を越えることができ、会社全体が本当に力強くなったと実感しています。通信事業は当社にとって引き続き屋台骨であり、今回細かい部分まで総合的に見直す良いチャンスになったとポジティブに捉えています。
これからはAIがさらに進化していき、人類とAIが共存していく社会が本格化していきます。情報革命を推進してきたからこそ、通信事業を担ってきた当社だからこそできる「社会課題の解決」があり、それはAIが生み出す膨大なデータ処理や、それに伴う電力消費を支えることができる構造を持った「次世代社会インフラ」であると考えています。社長に就任して以来、さまざまな準備を進めてきており、青写真を描いてきました。これからはその青写真に沿って作り上げていくフェーズに入っていきます。当社は「次世代社会インフラ」を構築し、「AI共存社会を支えるテクノロジー企業」へ進化することで、「世界に最も必要とされる会社」というビジョンを実現し、さらなる企業価値の向上を目指していきます。
当社はこれまでも、テクノロジーを用いて、顕在化しているさまざまな社会課題の解決に努めてきました。また、AIの進化が社会にもたらす影響を具体的に先読みし、今後起こり得る社会課題も見据えてその解決に向けて取り組んでいます。2024年6月から、このような取り組みや想いを、「社会課題に、アンサーを。」というスローガンの下、世の中に伝えていく活動を行っています。
株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまには、当社の中長期的な価値をご理解いただき、変わらぬご指導・ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。