生成AI時代のiPaaSとは?AIエージェント「satto」が変えるビジネスの未来
2025年3月4日掲載
ビジネスのDXが加速する中、生成AI(人工知能)は企業の業務プロセスに革新的な変化をもたらそうとしています。本記事では、生成AI時代におけるiPaaS(Integration Platform as a Service)の新たな役割と、ソフトバンクのiPaaSがその進化を通じてビジネスの未来にどのような影響を及ぼすのかを、ソフトバンクがiPaaSとして開発しているAIエージェント※1「satto(さっと)」の開発担当者である西辻が語ります。
※1 ユーザーの目的の実行のため、自律的にタスクの洗い出しや外部ツールの活用などを行い、動作するAIのこと
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生成AIにより再び注目されるiPaaS
iPaaS(Integration Platform as a Service)は、増加するSaaSアプリケーション間のデータ連携ニーズに対応するために登場しました。イベント申し込みフォーム、顧客管理システム、決済システム、メールサービスなど、さまざまなSaaS間のデータやプロセスをシームレスに統合できるAPI機能と、ノーコードで簡単に連携を構築できるプラットフォームとして広く定着しています。最近、このiPaaSが再び注目を集めている理由について西辻は語ります。
「生成AIの登場により、例えばOpenAIなどのAPIを通じて、AIを組み込むことが可能になったことが最近のトレンドです。従来はイベントの申し込みがあると顧客管理システムに自動で情報を入力し、『申し込み完了しました』といったメールを送信するだけでしたが、現在ではAIを介してパーソナライズされたメッセージを送ったり、SNSへの投稿もAIで自動化できるようになっています。
今後、人間よりも賢いAGIが登場しても、そのAGI自体には実行する力はありません。しかし、APIと連携できる基盤であるiPaaSが、AGIの手足となると考えています」
生成AI時代のiPaaSと従来のiPaaSの違い
生成AI時代のiPaaSはユースケースの幅が広がり、従来のiPaaSと違ってコンテンツが作成できるようになった点に加えて、判断や条件分岐が柔軟になったと言います。
「例えば、メールを重要度別に整理したり、顧客リストから自社のターゲットとなる人を抽出したり、アンケート回答をカテゴライズするといったことが可能になりました。また、プログラムを書く代わりに、ワークフローがよりビジュアル化され簡単に作成できるようになったことで、使いやすくなりました」
具体的なワークフローの作成を考えてみましょう。
「例えば、イベントで申し込みがあった場合、イベントフォームから送信された情報を顧客管理システムに登録し、決済リンクを発行してメールで返信するフローを作成する処理では、『フォームから情報を取得する』『顧客管理システムに登録する』『決済リンクを発行する』といった処理の単位を、キャンバス上にドラッグ&ドロップして配置します。その中に『どのような情報を取得し、登録するか』といった設定を入力します。これにより、システム同士の連携や情報のやり取りが自動的に行われ、新しいフォームが送信されるたびにこの一連の処理が自動で実行されます」
従来のiPaaSもノーコードでワークフローを作成でき、プログラムを書くよりは格段に楽になっていたとはいえ、依然としてエンジニア以外の人が利用するにはまだまだ難しい部分があったと言います。
ソフトバンクのiPaaS「satto」の特長
現在、個人の限定先行ユーザー向けにベータ版として提供を開始しているソフトバンクのiPaaS「satto」は、生成AIネイティブなUI/UXを備えた、生成AIに特化したiPaaSです。自然言語を用いて簡単にワークフローを構築でき、柔軟なユースケースに対応しています。
また、AIによるミスやハルシネーションを抑止するために、送信前の確認や期待と異なる結果だった場合に修正ができるよう、人間とのインタラクションのしやすさに重点を置いている点も特長です。
「sattoには、ワークフローを作成するiPaaSと、作成したワークフローを利用するCopilot※2の2つの側面があります。iPaaS側で作ったワークフローをCopilot側で呼び出して使用できるので、開発者としてはiPaaSとCopilotを組み合わせて『AIエージェント』を作っている感覚です」
※2 ユーザーを支援するための補助的な機能やツール、インターフェースのこと。Microsoft Copilotのことではない
satto概要
「satto」は、作る・使う・広がるという3つの機能があります。
作るというのは、ワークフローを作れるというiPaaSの機能。使うというのは作ったワークフローを呼び出して使うCopilotの機能。広がるというのは、自分が作ったものをアップロードする仕組みがあり、ほかの人が作ったものをダウンロードすることもできる機能です。
口コミ機能もあり、自分が作ったものが評価されて、それが使われてほかの人に貢献したら、その人の功績として可視化され、将来的に企業の場合だとインセンティブが得られるような仕組みです。
「残業すると給料が増え、効率化して働く時間が短くなると給料が減るという歪んだ構図に対して、効率化してほかの人にも貢献したら、そこにインセンティブが支払われるべきだという考え方で作っています。プロダクトを使って便利だと思うだけではなく、人事制度にも組み込んでいけるといいなと考えています。それによって、労働者が恩恵を受けられるようなDXができるのではないかと思います」
具体的な機能とユーザーインターフェース
「satto」は従来のiPaaSで使いにくかった点を解消していると言います。
「これまでのiPaaSは、作る人と使う人が同一人物であることが前提で、作成しても使いづらい部分が多くありました。例えば自分でワークフローを作成した場合、その恩恵を受けるのは自分自身です。設定によってほかの人が恩恵を受けることもありますが、ほかの人はそれを意識して使うことができませんでした。『satto』では、新しく参加した人でも、iPaaSの裏側を全く意識せずに、すでに作成されたものを簡単に呼び出せます。完成したワークフローを利用する体験には非常にこだわっています」
また、ワークフローを「作る」部分においても、従来と比較して簡単に行えると語ります。
「従来の生成AIは、真っ白なプロンプトの入力窓に『あなたのやりたいことを自由に書いてください』というものでした。それでは手間がかかる上に、何ができるか分からないため、何をしたいのかも分からないという状況がありました。実際に試してみても、専門的な知識(プロンプトエンジニアリング)が必要で難しく、期待外れのものができて使えないことが多かったと思います。『satto』では、対象の情報を選択するだけで、裏側に組み込まれている基本的なプロンプトを簡単に呼び出すことができます。プロンプトの設定や外部連携の部分も裏側で処理されているので、例えば会議の日程調整も、メールで通知が来たらそれを予定に入れることが、プロンプトや連携の設定を意識せずに行えるのが強みです」
ワークフロー自体がこれまでより作りやすくなったことに加え、ワークフローを作成できない場合でも簡単に使えるよう、かなり力を入れていると言います。
お客さまへの提供価値
「satto」を活用することで、面倒で退屈な単純作業や決まりきった業務からお客さまを解放し、心に余裕を持てるようにしたいと西辻は語ります。
「一日に何百通と送られてくるメールの対応や、自分らしさを感じない単純作業などに疲弊している状況をなくしたいです。これらの作業から解放されることで、残業している人が早く帰り、余った時間で好きなことや本質的なことができればいいなと思っています」
法人顧客の活用イメージ
「一番イメージしやすいのは営業での活用だと思います。
例えば日程調整では自分のカレンダーと連携してくれるので、相手から提案があった際に、その中で空いている時間を選んでくれます。また、提案準備でも、お客さまの業種を入力すると最新の事例が見られるので、『最新の事例はありますか?』と聞かれたときにすぐに提示できます。
さらに、お客さまがお問い合わせフォームを送ってきた際には、そのお客さまに合った事例をデータベースからピックアップし、『〇〇様向け資料』として提案書のたたき台を作ってくれます。ミーティングの議事録を作成する際も、ただ保存するだけでなく、議事録の中からネクストアクション(例:事例を調べて送る、NDAを締結する、見積書を作成する、お礼メールを送るなど)を抽出してくれます。そして、そのタスクによって、例えばクラウドサインの場合には、お客さまの情報があればAPIで契約書を発行でき、メールで送信する文章を作成し、最後に確認して送信する、といったことろまで対応できると思います」
このように一人に対してお客さまがたくさんいる営業や、マーケティング、カスタマーサポートなど、「satto」は1対Nという関係の部門と親和性が高いと言います。
「お客さまへヒアリングをしていると、従来のカスタマーサポートのテンプレートよりも精度が高いという声もいただいています。
例えば、カスタマーサポートの場合、お客さまの温度感によって、長文で送られてきたメッセージに対して、短文でクリティカルに返信してしまうと、気持ちの面で問題が生じます。意味は同じでも誠意を伝えるためにボリュームを増やす必要があり、そういった点でも『satto』であれば、コアの部分を装飾して返信する文章を書くことが得意です。
また、中小企業の場合、一人でいくつもの役割を持つことが多いためそういった方々とも相性が良いのではないかと思います」
セキュリティへの取り組み
また、セキュリティ面の主なリスクとして、ヒューマンエラーと悪意ある行為の2つについてそれぞれ対策をしていると言います。
「ヒューマンエラーでは、誤って機密情報をメールで送信したり、公開されているスプレッドシートに非公開情報を入力してしまう可能性があります。これに対して、個人情報の有無を検知して警告を出すなど、エラーが起こりにくい仕組みを導入しています。一方、悪意ある行為として、第三者が顧客のスプレッドシートに接続し、自社のサーバーにデータを不正に送信してしまう脆弱性に対しては、自由に外部にデータを送信できないよう設定し、問題が発生した場合には迅速に非公開化できる仕組みを整備しています」
今後、法人顧客向けにサービスを展開していく際には、現場の作業者がミスを防げるよう、書き込み権限の制限やアップロード操作の管理など、セキュリティ面の強化を検討しています。
今後の事業の展望~「satto」に込めた想い~
今後の事業の展望について、西辻はチームで決めたお気に入りのスローガン「AI→ME愛(エーアイからミーアイ)」と、副題「ググる時代からサトる時代へ」に込めた想いを語ります。
「このスローガンには、煩雑な業務や自分らしくない仕事に追われ、本当にやりたいことに集中できない人々をAIが解放するという思いと、AIは単純作業の削減だけでなく、思考の壁打ちや能力向上を通じて自己を拡張し、人々が自分自身をより愛せるようになることを目指すという思いが込められています。また、『ググる』という言葉が一般化したように、『satto』もGoogleのように当たり前に使われるサービスにしたいという思いがあります」
そして今はまだ開発初期段階ながらも、将来実現したい目標が多くあると西辻は続けます。
「パソコン以外にも、対応デバイスを増やしたいと考えています。また、現在はユーザーが情報を入力・選択する部分がありますが、今後は画面上の情報を基に、AIが能動的に働きかけるレコメンド機能の実装を目指しています。
さらに、現時点では構想段階ですが、将来的には自分と相手のエージェントが存在し、円滑なやり取りができるようにしたいです。現在では、メールやチャットで『〇〇の資料ありますか?』と尋ねると、相手が資料を探して送ってくれます。すぐに見つからない場合には、人を介してシステム内を探すことになり、非常に非効率です。
そこで、各個人に秘書のようなエージェントがいて、自分のエージェントを通じて相手のエージェントに連絡が届き、最終確認だけを行う体験を提供できればと考えています。このエージェントは自分の持つ情報にアクセスでき、過去の仕事のやり方も把握し、深く理解してくれます。タスクを相手に渡すと、相手のエージェントがその80%をこなし、最後の確認や細かな修正だけを人間が行う、そんな仕組みを構想しています」
また、世界展開も目指していると言います。
「『satto』は『世界一シンプルで最もパワフルなAIエージェント』として、数年後に世界展開することを目指しています。できる人だけが使うのではなく、AIを大衆化させたいと考えています。
また、『satto』という製品名には日本らしさやおもてなしの精神、”さっと”手助けしてくれる気遣いを込めています。生成AIはアニメと相性が良いので、ユーザーの好きなキャラクターが仕事をサポートするなど、日本の文化を融合させた日本初の生成AIエージェントとして世界に発信していきたいです」
AI技術×iPaaSを通じて人々の日常や仕事を支援し、本当にやりたいことに専念できる社会の実現を目指し、新たな価値を創造していくと、熱い想いを語ってくれた西辻。生成AI時代のiPaaSは、技術の進化とともに、ビジネスの可能性や個人の可能性までも広げてくれるものになるのではないでしょうか。
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