生成AI時代の人材戦略・育成とは (講演レポート )
2024年11月15日掲載
生成AIの活用が広がることで働き方が大きく変わろうとしている今、人材戦略も時代に応じたものに変えていく必要があります。これからの時代にどのように従業員の能力を伸ばしていくか、従業員の学びを実現していくかは企業にとって重要なポイントです。
今回はHR業界の有識者による講演をもとに、「人的資本経営」実現のためのポイントや「リスキリング」の最新状況、実際に生成AIに取り組む企業の事例をお届けします。
本記事は、2024年9月12日に配信された「生成AI時代の人材戦略・育成とは~事業成長を加速させるための3つのセッション」を再編集したものです。詳細は上記オンデマンド配信をご確認ください。
生成AI時代の人材戦略を読み解く~田中研之輔氏とソフトバンク人事本部長源田による人的資本経営の追及~
法政大学 田中氏(左)とソフトバンク 源田(右)
法政大学 田中氏(左)とソフトバンク 源田(右)
まず1本目のセッションは、法政大学キャリアデザイン学部 教授、一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事、株式会社キャリアナレッジ 代表取締役社長 田中研之輔 氏とソフトバンク株式会社 執行役員 コーポレート統括 人事本部 本部長 兼 総務本部 本部長 兼 Well-being推進室 室長を務める源田 泰之による「生成AI時代の人材戦略を読み解く~田中研之輔 氏とソフトバンク人事本部長源田による人的資本経営の探求~」です。
前半はソフトバンク源田により、ソフトバンクが生成AIをどのように活用しているか、生成AI時代の人材戦略について語りました。
生成AIをしっかり使い倒す
「当社としては、次世代社会インフラを構築していこうと事業戦略を進めています。生成AIが最重要なテクノロジーになっていくだろうという認識の中、状況や社会の変化を感じています。そこでまずは、社員に対して生成AIをしっかり使い倒してもらおうと考え、使える環境を作っていく取り組みを行っています。
一つは、全社員がソフトバンク版の生成AIサービス『SmartAI-Chat』を活用できる環境を整備しています。また、AIの正しい利用を促進するためにガバナンスの基本規程を制定し、社員が安心してAIを活用できる基盤を構築しました。
さらに、社員向けに多様な学習コンテンツを提供し、AIリテラシーの向上を図っていたり、グループ企業を含めて生成AI活用コンテストを実施したりと、学んで使ってもらう環境を整えています。学び使い倒した後の展開としては、社内業務の効率化と事業化を進めていこうと取り組んでいます」
自律的キャリア形成
ソフトバンクの人的資本経営について、源田は以下のように述べました。
「コロナ禍などもあり、就労に対する考え方や働き方が変化してきました。その中で個人と会社の関係性も変わってきているなと思っています。
そこで、人的資本を最大化する、つまり、社員が成長していける環境作りが非常に大事だと思っています。キャリア形成ではこれまでのように会社側が個人のキャリアを決めるのではなく、自分自身がどういう成長して、どんなキャリアを描いていきたいのかを個人がデザインする自律的なキャリア形成に変わってきています。それに対して会社はパフォーマンス向上や成長を支援する役割に変わってきているのではと思っています」
人的資本の最大化が重要であり、最大化するためには社員がいかに成長できるような環境を整えていくのか、それには個々人の自律的なキャリア形成が欠かせないと語りました。
「人的資本の最大化によって社員が成長して会社の未来を作っていくことは、事業戦略の実現に向けて重要なことだと思っています。生成AIによって社会が変わり大きく革新していく中で、生成AIを様子見するのではなく、全社で使ってみる。さらに、ただ使うだけではなく生成AIについて学び自分事として活用アイデアを提案をする。提案したものがよければ事業化したり、会社の中での効率化につなげる。こういったサイクルをグループ全体で回していき、来るべき時代になったときにソフトバンクが遅れを取るというようなことが決してないように人事としても進めている」と源田は語りました。
後半では、田中氏と源田による生成AIの取り組みの進め方や、生成AIを用いてコストカットだけではなくいかに成長へとつなげるか、他者理解や多様な価値観を知ることの重要性、選ばれる組織につなげていくためには、などについて熱い議論が重ねられました。
講演アンケートでは、経営戦略と人材戦略の中での生成AI人材の育成と施策について参考になったというご意見もありました。
詳細についてはこちらのSession①をご覧ください。
リスキリングは若手のためだけじゃない! 経営層・管理職こそ知っておきたい生成AI時代の人材育成
ソフトバンク藤原(左)と東京大学エクステンション株式会社 山本氏(右)
ソフトバンク藤原(左)と東京大学エクステンション株式会社 山本氏(右)
セッション2本目は東京大学エクステンション株式会社 代表取締役社長、国立大学法人東京大学 副理事(社会人教育担当)の山本貴史氏とソフトバンク株式会社 AI戦略室 AI&データ事業推進統括部 Axross事業部 部長代行 の藤原竜也による「リスキリングは若手のためだけじゃない 経営層・管理職こそ知っておきたい、生成AI時代の人材育成とは」です。
日本におけるリスキリングの現状と課題
山本氏は、日本におけるリスキリングの浸透度が低い現状について「OECDの比較調査によると、日本人の学び直しは他の先進国に比べて非常に少なく、これは学歴社会や企業の人材投資不足が原因と考えられる」と述べました。
生成AIの急速な進化に伴い、企業は従業員のスキルを迅速にアップデートする必要性が高まっていますが、日本企業はその対応が遅れている現状が浮き彫りになっています。
「日本の企業は企業内研修で先輩社員が仕事の仕方を教えることが定着していたと思います。ところが今は、先端技術を用いるスピードがすごく速くなっています。そうすると、先輩が後輩に仕事の仕方を教えるというよりは、むしろ、先端研究に関しては若い人の方がキャッチアップ力が高いんですよね。従来型の企業内研修モデルが崩壊してきているのだと思います。
これをビジネスチャンスと捉えるか、脅威だと捉えるかというと、欧米企業はチャンスだと捉えています。そのため、今まで以上に従業員教育、特にAI分野に関しての教育投資が増えているんです。しかし、日本は予算制度なので、去年の教育の予算はいくらで今年も横並びでとなってしまうことがあります。そのため企業の新たな教育テーマに対する投資格差が生まれてしまっています。
今は教育費用の違いだけですが、欧米企業はAIを学ぶことで事業をやろうとしてるわけです。そうすると企業の競争力、事業競争力の格差になってくるっていうのがとても怖いですね」
と山本氏は語りました。
藤原はOJTで学ぶ業種ごとのドメイン知識、プレゼンやコミュニケーションスキルなどのポータブルスキル、そして技術に関する専門スキルの組み合わせが重要なのではないかと述べ、山本氏もOJTは結束力を高め現場力が養われるものの、知識面では先輩が指導できる範囲のものしかできないため、新たな教育が必要なのではと述べました。
リスキリングが生かされる場面とは
生成AIを自分のビジネスにどう生かすのか、ほぼ全ての人が考えなければいけない状態であると、山本氏は次のように述べました。
「生成AIを使えることが全員に求められる時代になるということが大前提としてあります。2023年のデータですが、アメリカのフォーチュン500(フォーチュン誌が発表するアメリカの収入上位500企業をランキングしたもの)では約92%の企業が生成AIを日常の業務に使っていると答えています。しかし、東証プライムでは約10%しか利用されていないという報告があります。そうした状況が一層進んでおり、ほかの分野でも同じ状態だと思います。
新しい技術を事業に生かしていくスピードが速くなっているため、さまざまな分野でリスキリングをビジネスに生かすということがより求められるだろうと思っています。
また、学歴社会も変わっていくと思っています。例えば、生成AIは企業の中で教えるよりも、外から学んだ方が早いわけです。教育コンテンツも色々出てきています。よい大学を卒業したけどずっと学ばなかった人と、あんまり有名な大学とは言えないかもしれないけれどずっと学んできた人とで、ビジネスにおいてどっちが仕事ができるかというのが分かりやすくなってくると思います」(山本氏)
今後は学んだスキルの履歴から雇用や評価がされる仕組みになっていくのではと藤原は述べ、今後はプログラムの履修証明である「マイクロレジデンシャル」が採用され、人事の人達にもこれらを使えることが求められていくだろうと山本氏は語りました。
講演後半では、経営者や管理職が求められる学びとは何か、生成AIと共存する企業の中で生かしていくべきポイントについて語られました。
詳細はこちらのSession②をご覧ください。
生成AIを使いこなせる人材は自社でどう育てるのか?~ソリマチ社の取り組みをご紹介~
ソフトバンク鈴木(左)とソリマチ株式会社古宮氏(右)
ソフトバンク鈴木(左)とソリマチ株式会社古宮氏(右)
最後のセッションでは、ソリマチ株式会社の常務取締役COOの古宮 衛士 氏とソフトバンク株式会社 AI戦略室 AI&データ事業推進統括部 Axross事業部 サービス企画推進課 鈴木祥太による「生成AIを使いこなせる人材は自社でどう育てるのか?~ソリマチ社の取り組みをご紹介~」です。
会計、給与計算、販売管理などの業務システムを提供しているソリマチ株式会社では、今後は生成AIを基軸とする最新テクノロジーの活用に力を入れていく戦略を立てていました。しかし社内に生成AIの知識がある人がいないという課題に対し、生成AI人材を育成するためにソフトバンクの「Axross Recipe for Biz」を導入しました。
講演では同社の生成AI導入・推進のプロセスや導入効果、今後の狙いについて語っていただきました。
講演アンケートでは、生成AIは何かというレベルから取り組んだ話や人が使いこなす工夫について知ることができてよかったなどのご意見もいただきました。
詳細についてはこちらの導入事例、動画のSession③をご確認ください。
まとめ
生成AIを単なる技術として受け入れるだけでなく、企業の競争力を強化するために人材戦略と密接に連動させることが重要です。また、経営層や管理職も含めた全社員が継続的にスキルをアップデートし、柔軟かつ革新的なマネジメントを実践することで、企業全体の成長と競争力の向上を実現させていく必要があります。
生成AIと人的資本経営の連携が企業の持続的な成長を支える鍵となる時代では、企業はリスキリングを戦略的に推進し、全社員が自律的にキャリアを形成できる環境を整えることが求められるでしょう。
本ブログ記事が皆さまの企業活動や人材育成の一助となれば幸いです。
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