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ソフトバンクが
日本のデジタル化の
起爆剤になる

代表取締役 社長執行役員 兼 CEO

宮川 潤一

ソフトバンクの目指す姿

日本のデジタル化の起爆剤になる

今、日本の経済は重要な岐路に立っています。近年の世界経済をけん引しているのは、この30年の間に飛躍的な成長を遂げた海外のIT企業です。一方、日本は他の先進国と比較してデジタル化の遅れが顕著であり、それが国際社会における日本の競争力低下にもつながっています。日本では、デジタルの有用性の浸透やスマートフォンの普及率の低さなど、依然として多くの課題があり、国民全員がデジタルの恩恵を受けているとは言えないのが現状です。
ソフトバンクの経営理念は、「情報革命で人々を幸せに」。テクノロジーの力で人々の生活をより良くしていくことが創業以来の命題です。幸いなことにわれわれのグループには、通信事業で培ったデジタルに対する基礎はもちろん、eコマースやポータルサイト、メッセージアプリからキャッシュレス決済まで、デジタルのあらゆる分野における国内トップクラスのサービスが揃っています。出遅れてしまった日本のデジタル化をテクノロジーの力でけん引していく企業があるとしたら、われわれソフトバンクは実は絶好のポジションにいるのです。今後20年、30年と、日本が国際社会で存在感を発揮していくために、まずはわれわれが起爆剤となって、日本全国にデジタル化の波を巻き起こしたいと思っています。

成長戦略「Beyond Carrier」

デジタル化の先にある大きなマーケットを取りに行く

なぜデジタル化にこだわるのかと聞かれれば、それはもちろん、デジタル化の先の未来に、大きな事業成長の機会を見いだしているからにほかなりません。
人々の生活のあらゆる場面がデジタル化されるということは、これまでアナログの世界でバラバラに点在していた情報が、一気にデータ化されるということです。大量のデータを掛け合わせることで、今度はそこに新しい付加価値、新しいマーケットが生まれます。例えば、交通・人流データを蓄積して高精度なデジタルマップを作成することができれば、自動運転が一気に普及するでしょうし、デジタル空間を介した遠隔医療システムが確立すれば、地域医療の概念は大きく変わることでしょう。これからの10年、20年は、デジタルによってあらゆる産業のあり方が根本から変わる、そんなタイミングとなるはずです。
このような変革の時代にあって、私はこのソフトバンクを単なる通信会社のままにしておくつもりは全くありません。われわれが見据えているのは、全ての人やモノがデジタルでつながった先にある、もっと大きなマーケットです。通信インフラという基礎に、eコマースやメッセージ、ペイメントなどの強みを掛け合わせ、あらゆる産業のデジタル化に入りこんでいく、それがソフトバンクの目指す「Beyond Carrier」の世界観なのです。

通信の重要性

スマートフォンはデジタルと人をつなぐ重要な接点

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われわれが進むべきデジタル化の未来に欠かせないのが、通信です。企業や自治体のサービスがどれほどデジタル化しても、それらを受け取る側の環境がアナログのままではデジタルの恩恵を受けることはできません。人とデジタルをつなぐのが通信の重要な役割であり、その接点としてのスマートフォンの重要性は今後ますます高まるでしょう。社会のデジタル化を目指すソフトバンクが、スマートフォンの契約者数拡大に取り組むのは、ある意味必然なのです。
社会にデジタルを浸透させるためには、携帯電話ショップの役割も重要です。近年の通信業界では、全国のショップを大量に閉店し、顧客対応をオンライン窓口に集約するような動きもみられます。しかし、専門スタッフから対面のサポートが受けられるショップは、人々のデジタル化への重要な入り口であり、よりどころです。ソフトバンクが目指すのは「誰一人取り残さないデジタル化」。足元のコスト削減を優先し、人々からデジタル化の機会を奪ってしまっては本末転倒です。
20年、30年後の社会のために今やるべきことは何なのか、長期的な目線で見たときに、どちらの選択が当社の事業成長にとってより大きなメリットとなるのか、経営者として常に見極めていかなければなりません。今後、当社があらゆる産業のデジタル化に入り込んでいくことを考えれば、通信の顧客基盤はやはり重要ですし、ショップを単なるコストセンターではなく重要な顧客接点の場であると考えれば、ビジネスの機会はまだまだ広がります。実際に当社は、一部のモバイルショップに法人営業担当者を配置し、地域の個人事業主や中小企業にデジタル商材を紹介するアプローチの場としての活用も始めています。

技術戦略

5Gは産業のデジタル化の足回り

デジタル化の要素技術の一つが5Gです。5Gが実現する超高速・大容量、超低遅延、多数同時接続の通信は、産業のデジタル化の足回りとして欠かせない存在です。日本がデジタル化で世界に追いつこうとするとき、その基盤である5Gで他国に遅れを取るようでは話になりません。当社の5Gの人口カバー率は、2022年3月末時点で、目標としていた90%を突破しました。スタンドアローン方式の通信網が確立すれば、いよいよ5Gの本領発揮です。ソフトバンクは2023年3月期を5G集中投資の年と定め、5Gネットワークの高度化に向けて徹底的に取り組んでいます。

法人事業の成長性

日本企業のデジタル化は、これからが本番

日本でデジタル化が進まない要因の一つに、企業のデジタル化の遅れがあります。コロナ禍によって企業のオンライン化が進んだといっても、日本の中小企業のデジタル化はまだ始まったばかりです。大企業ですら、やっと既存の業務のデジタル化を進めている段階で、デジタルを使った新しい産業づくりができているわけではありません。逆に言えば、日本企業のデジタル化はこれからが本番、既存のビジネスを新しいデジタルの武器に変える時期がこれから来るのです。
実際、私が社長に就任した初年度に最も力を入れたのが法人事業でした。さまざまなプロジェクトに深く関わり、トップセールスを行い、あらゆる業界の企業経営者の皆さまとディスカッションを重ねました。もともと法人向けの固定通信や社用携帯の販売から法人ビジネスに参入したわれわれですが、今では5Gを活用して工場を丸ごとデジタル化するような大型のデジタルトランスフォーメーション(DX)プロジェクトを請け負うことが増えています。これは、デジタル人材強化の取り組みにより、コンサルティングからシステムインテグレーションまでを一貫して自社で請け負えるようになったことが大きな要因で、私自身、非常に手ごたえを感じています。

グループシナジーを生かし、中堅・中小企業のデジタル化を推進

2023年3月期からは、中堅・中小企業マーケットにも力を入れています。日本の中堅・中小企業のIT予算の合計は、大企業のIT予算の合計に匹敵するとも言われています。コロナ禍によるデジタル化ニーズの高まりや、5Gの商用化、デジタル庁の創設をはじめとした国の後押しも加わり、中小企業のデジタル化はようやく本格化の時を迎えています。これまでは主に大企業のデジタル化に注力してきた当社ですが、実はグループの中にはアスクル(株)やPayPayのような中小企業マーケットに強みを持つ企業が多くあります。グループ各社の顧客基盤を活用することで、コストを抑えて効率的に中堅・中小企業マーケットを開拓していきたいと考えています。

グループ企業の
高いポテンシャル

「LINE」や「PayPay」は、日本のデジタル化に欠かせない“宝物”

われわれが「Beyond Carrier」を目指す上で欠かせない存在が、Zホールディングス、そしてPayPayです。Zホールディングス傘下のメッセージアプリ「LINE」のユーザー数は9,200万、日本のスマートフォンユーザーのほぼ全員が利用している国民的アプリです。そして、キャッシュレス決済サービスの「PayPay」のユーザー数は約5,000万、こちらも日本のQRコード決済市場で7割近くのシェアを獲得しています。
ここまでくると、日本のデジタル化を「LINE」や「PayPay」を抜きに考えるのは、もはや不可能です。例えば、企業や自治体が一人一人の個人と直接コミュニケーションを取ろうとしたとき、そのプラットフォームはやはり「LINE」だろうという話になるわけです。約8,600万人が利用する日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」も忘れてはいけませんし、ファッションeコマースとして高い支持を得ている「ZOZOTOWN」もあります。これらの有力なサービスは、日本のデジタル化を推進する上でなくてはならない、まさに宝物といえる存在です。「LINE」や「PayPay」のようなサービスは、決して小さくまとまってはいけない。今あるサービスの強みを磨き続けることで、事業価値の最大化を図りたいと思っています。

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人材への取り組み

リーダーの役割は、進むべき方向を明確に示すこと

企業の発展の原動力は、やはり人材です。私はこの一年、社員との対話・エンゲージメントという点に重きを置いて経営を行ってきました。当社は以前より、個人の状態把握・モチベーション向上を目的に、従業員満足度調査やパルスサーベイといったさまざまな取り組みを行ってきましたが、それに加えて私が昨年の社長就任直後から始めたのが、全社員に向けた月に一度のオンライン朝礼です。朝礼と言っても一言二言ではなく、時間はたっぷり30分。プレゼンテーションを用意して、今会社が置かれている状況やそれに対する私自身の考えを社員一人一人に直接自分の言葉で伝えています。
私が思うリーダーの役割は、進むべき方向を明確に示すこと。自分たちがどこに向かっていて、そのために自分は今何をすべきなのか、そこがはっきりとしていれば、人は自然に動き出してくれます。単なるやらされ仕事よりも、自分でやると決めた仕事の方が、人は何倍も力を発揮できますよね。朝礼の内容は毎月異なりますが、一貫して伝えているのは、迷った時や困った時ほど遠くを見ようということです。このような混沌とした時代だからこそ、社員にはやはり20年、30年先をまず想像して、そこから逆算してほしいと思っています。毎月プレゼンを用意するのは大変な部分もありますが、それが自分の役割だと理解しています。社員にはとても好評で、いつの間にかわが社の視聴率ナンバーワンのコンテンツになっています。

ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン

多様な人材が活躍する躍動感あふれる会社へ

人材について考えるとき、もう一つ欠かすことができないのが、多様性への取り組みです。われわれソフトバンクは「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」を掲げ、社員一人一人が互いの違いを理解し強みを生かしながら、自由な発想で意見を出し合い、自ら革新を生み出せる組織づくりを目指しています。
特に注力しているテーマの一つが、女性の活躍推進です。当社は昨年、管理職の女性比率を2036年3月期までに2022年3月期時点の3倍にあたる20%にするという目標を発表しました。この達成に向けて、まずは女性活躍推進委員会を新設し、私自ら委員長に就任しました。既存の事業モデルや働く環境を根本から刷新すべく、外部から有識者を招いて、具体的な議論を行っています。また昨年は、コーポレート・ガバナンスの強化の一環として、女性社外取締役を2名増員しました。専門的な知見はもちろんのこと、多角的で活発な経営議論につながっていると実感しています。今後も「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」を積極的に推進し、多様な人材が活躍できる企業風土を実現することで、ソフトバンクを躍動感のあふれる会社にしていきたいと思っています。

サステナビリティへの取り組み

目指すのは、事業を通じた社会課題の解決

持続可能な社会づくりに貢献するため、当社はSDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた取り組みを積極的に進めています。ソフトバンクが目指すサステナビリティは、「事業を通じた社会課題の解決」です。社会課題の解決に取り組むことが、結果として、われわれ自身の事業成長につながると考え、さまざまな社会貢献にビジネスを通じて取り組んでいます。スマートフォンの拡大によりデジタル格差を是正する、企業・自治体のデジタル化によって産業のあり方を変え、地域医療や地方交通の課題を解決する、「PayPay」を通じてキャッシュレス決済の普及に貢献する。これらはいずれも現在の日本が抱える社会課題をテクノロジーの力で解決しようとする取り組みであり、同時にわれわれの利益成長をけん引する主力事業でもあるのです。
成層圏通信プラットフォーム(HAPS)事業は、ビジネスを通じて社会に貢献しようとする取り組みの一つです。私がHAPS事業に取り組む背景には、実は11年前の東日本大震災の経験があります。2011年当時、CTOの立場にあった私は、震災発生から2カ月間、現地で震災復旧の陣頭指揮を執りました。技術スタッフとともに、被災した基地局を一カ所ずつ回って調査するのですが、そのとき目にした光景は筆舌に尽くしがたいものでした。通信は、人と人とをつなぐライフラインです。災害時であっても決して通信を途切れさせてはいけない、どんな場所にいる人も等しく通信サービスが享受できる社会でなければいけない。そのような強い思いが、現在のHAPS事業につながっています。通信をコア事業に持つわれわれだからこそ、社会のためにできることがまだたくさんあると思っています。
また、気候変動によって引き起こされる自然災害などの問題も年々深刻化しています。当社は脱炭素社会の早期実現に貢献すべく、2030年までに当社の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030宣言」を2021年5月に発表しました。自社の使用電力を実質再生可能エネルギー100%に切り替えると同時に、AIやIoTなどの最先端テクノロジーを最大限に活用し、データセンターや通信設備などの省電力化を進めています。

株主還元

還元の原資であるキャッシュを力強く創出する

ソフトバンクは2018年の上場以来、株主還元を重要な経営課題の一つに位置付けています。事業の成長に積極的に取り組みながら、同時に高い株主還元を維持していくというのは決して簡単なことではありませんが、私は一度株式市場にお約束したことは何としてでもやり遂げたいと思っています。
そのためにわれわれが注力しているのが、毎年の還元の原資であるキャッシュ・フローの安定創出です。通信料値下げの影響で逆風の事業環境ではありますが、そのほかの事業の成長や財務アクションを含めたさまざまな経営努力により、調整後フリー・キャッシュ・フローは今後も、年間6,000億円の水準を安定的に創出していくことができると見込んでいます。現在の配当支払総額は年間約4,000億円程度ですから、現在の水準の還元を維持していく体力は十分にあるといえます。
当社の還元方針については、投資家の皆さまから日々さまざまなご意見をいただいています。2024年3月期以降の還元方針については、今まさに社内で議論を行っているところですが、私は基本的には来期も高水準の株主還元を続ける考えです。もし今後、還元の考え方を大きく変える時が来るとしたら、それは当社にとって大きなゲームチェンジのタイミングになるでしょう。今はまず、株主の皆さまにお約束した高水準の還元というところに、経営としてしっかりと取り組んでいきたいと思っています。

最後に

逆境を新たなチャレンジの原動力に変える

法人事業やヤフー・LINE事業、「PayPay」といったサービスは今まさに伸び盛りです。一方、2021年の通信料値下げの影響で、会社全体の利益としては苦しい時期であることも事実です。この苦しい時期をどう乗り越えるのか、進むべき道を見失うことなく、未来のためにしっかりと仕込みができるか、経営者としての真価が問われていると思っています。今期に5G投資を徹底して行うと決めたのも、将来から逆算して、今やるべきだと判断したからです。
通信料値下げの減益影響は、2023年3月期をピークとして以後は大幅に縮小していく見込みです。この苦しい時期を乗り越えれば、あとはもう攻めるだけですから、このようなタイミングで社長に就任したのは、ある意味天命だったのかもしれません。ソフトバンクは、この逆境を新たなチャレンジの原動力に変えて、社員一丸となって企業価値の最大化に取り組んでいます。今まさに変革の時を迎えているソフトバンクに、ご期待をお寄せいただければ幸いです。

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宮川 潤一
1991年にインターネット接続サービス(ISP)事業者を創業し、約10年間代表取締役社長を務める。2001年に現ソフトバンク(株)に参画し、2006年4月に取締役専務執行役(CTO)に就任。主にテクノロジー領域の事業統括責任者として当社の成長に貢献。2018年4月に当社代表取締役 副社長執行役員 兼 CTOに就任。近年では複数のグループ会社で社長を務めたほか、東京大学と推進する「Beyond AI 研究推進機構」を主導。2021年4月から代表取締役 社長執行役員 兼 CEOを務める。