上釜 健宏と植村 京子と佐藤 淑子の写真

コーポレート・ガバナンス
社外取締役と機関投資家との対話

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    佐藤 淑子
    モデレーター
    一般社団法人 日本IR協議会 専務理事
    1985年日本経済新聞社に入社。1993年3月日本IR協議会に出向。2015年同協議会専務理事。
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    上釜 健宏
    社外取締役 独立役員
    指名委員会・報酬委員会・特別委員会委員
    2006年から12年間にわたりTDK(株)代表取締役を務め、同社事業の収益力の強化や事業領域の拡大をけん引。2018年6月当社取締役就任。
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    植村 京子
    社外取締役 独立役員
    指名委員会・報酬委員会・特別委員会委員
    深山・小金丸法律会計事務所 パートナー弁護士。2018年6月当社取締役就任。

2022年4月、当社の持続的な企業価値向上への取り組みの一環として、社外取締役と機関投資家とのスモールミーティングを開催しました。2名の社外取締役と、モデレーターに日本IR協議会専務理事の佐藤 淑子氏をお迎えし、取締役会の実効性などのテーマに沿ったパネルディスカッションおよび投資家からのご質問にお答えしました。オンライン形式で約1時間、投資家など75名にご出席いただき、活発な議論が行われました。以下では、パネルディスカッションおよび当日いただいたご質問の中から主なものを抜粋し、テーマごとに記載しています。

取締役会の実効性

Q.ソフトバンクの取締役会で印象的だった議論についてお聞かせください。

上釜

ZホールディングスとLINEの経営統合についての議論です。ヤフー(現Zホールディングス)の子会社化に続き、矢継ぎ早にいろいろな案件が提案されるなか、取締役会で何度も議論し、印象に残っています。特にシナジーについては、すごいことになると鳥肌が立ったのを覚えています。ソフトバンクはスピード重視で即決する会社であり、これは間違いなく「Beyond Carrier」戦略になると確信しました。もう一つは、宮川社長の逆算経営に関する考え方です。長期ビジョン、長期経営計画、10年後のソフトバンクについての話を聞く機会があり、15年先をみて逆算して10年後こうでなければいけない、あるいは10年後のために今こうしなければならない、と説明されました。その議論の中で、ここまで先をみて考えられる経営者はなかなかいないと、褒めすぎかもしれませんがそう感じました。

植村

私は、社内とは異なる視点でものを見る、意見を言うことが大事だと思っており、また、企業価値向上に向けて市場の意見に耳を傾けることを強く意識しています。その観点からは、2019年にソフトバンクがヤフー株式を取得して、持分比率を45%にしたときのことが印象的です。なぜ親子関係になる必要があるのか、ソフトバンクグループ(株)がヤフー株式を手放すことが前提でしたので、何度も議論しました。今後の「Beyond Carrier」戦略においてヤフーが重要なパートナーになり得ること、太いパイプを築くために親子関係の方がよいこと、ヤフーから見ても、ショッピングの成長戦略にとってソフトバンクユーザーは貴重な存在となるとのことでした。ヤフーは、情報プラットフォームとして中立的立場ですが、ソフトバンクはその立場を最大限尊重し、両社ともに上場を維持していくという説明でした。こういった議論を重ねた結果、最終的には満場一致で可決しました。

Q.ソフトバンクグループ(株)によるソフトバンクの株式売却についてどのような議論があったか教えてください。

上釜

株価が大暴落する可能性と、今後も同様の売却があり得るのかという2点を中心に侃々諤々の議論をしました。

植村

株価が下がるリスクをどの程度検討しているのか、多くの議論をしました。結論としては、これだけの株式をソフトバンクグループ(株)が市場で売却した場合、相当な株価下落のリスクがあるため、ソフトバンクとしては、PO(株式売出)の実施と同時期に自己株式を買い取る一方、上場時と同じくらいの規模で長期保有目的の株主を探すことで株価が下がらないよう手当てをするということになりました。また、孫取締役とも協議を行い、今後はソフトバンク株式を追加で売却する意向がないことを確認していただきました

Q.孫取締役は取締役会においてどのような存在でしょうか?

上釜

確かに孫取締役は非常に厳しいことをおっしゃいますが、ソフトバンクの企業価値を上げるために苦言を呈していると認識しています。一方で社内の取締役も黙っているだけではなく、納得がいかなければ遠慮せず反論し、非常に熱い活発な議論ができています。

植村

孫取締役の視点は、一言でいうとグローバルで、世界の情勢を見ながらあるべき方向性について発言されているという印象です。また、「現状に満足せずその先の未来を考えろ、常識にとらわれるな」と、スティーブ・ジョブズ氏の「Stay hungry, stay foolish」のメッセージに通じる発言をよくされています。私見ですが、お二人は似ているところがあると思うことがあります。このメッセージは、いろいろな事業に共通するもので、私自身も刺激を受けています。

Q.取締役会の実効性について感じる課題はありますか?

上釜

子会社や関連会社などが約320社に膨らみ、グリップが効いたところとそうでないところがあるが、管理体制の枠組みは組めたと聞いています。監査役も非常に重視していて継続的に改善が図られていますが、情報事故の防止など、グループガバナンスは課題として常に注視しています。

植村

グループガバナンスの実効性の担保はまだ十分ではないと思っています。ソフトバンク側とZホールディングス側で、それぞれ傘下の関係会社を管理するという役割で分担しています。役員派遣や月次での報告により、リスク管理の体制は整っていると聞いていますが、四半期に一度、内情について聞き取りを行っています。

Q.社外取締役がプロアクティブに問題点を指摘した事例を教えてください。

上釜

例えば、過去に減損問題について社外取締役から指摘しました。なぜそうなったのかの理由、今後の改善について説明をしていただいたことが何度かあります。

植村

子会社や関連会社の経営状況などは、四半期報告をしてもらっており、上釜さんからの指摘で、ソフトバンクにとって影響のある全ての会社について随時報告してもらうようにしました。また、Zホールディングスの子会社である(株)出前館やLINEの情報管理体制などについて確認し、ソフトバンクが築いたリスクマネジメント管理体制と同様の体制を、Zホールディングスでも設定するように指摘しています。

グループガバナンス

Q.親会社、子会社とも上場していますが利益相反問題で留意していることはありますか?

上釜

利益相反の問題は一番重要な点であり、少数株主保護の観点からも、親子間取引を含めて手続きの透明性や情報開示を重点的にチェックする必要があります。そのため、取締役会の事前説明の場があり、かなり細かく説明を受けて議論した後、取締役会で決議する流れになっています。また、2022年2月には特別委員会が設置され、利益相反についてさらにガバナンスが強化されると考えています。

植村

この点は、社外取締役一丸となって、手続きの透明性や情報開示をチェックしています。特に、ソフトバンクグループ(株)との利益相反取引については、社外取締役も大変気を遣っており、是々非々で検討しています。少数株主保護のため、親子間取引については、グループの全体利益ではなく、ソフトバンク単体にとってどれだけ利益があるかを特に重視し、取引の目的だけでなく価格の妥当性に関して強く裏付けを求めています。執行側も十分に認識しており、追加資料の要求にも速やかに応じてくれます。その結果、ソフトバンクグループ(株)との取引で金額が折り合わず、破談になったケースもあります。

Q.それぞれ上場会社であるソフトバンクとZホールディングスの関係について、ガバナンスやシナジー、株主還元などどのように考えていますか?

上釜

グループが大きな組織となり非常に複雑になっているが、Zホールディングスは、今後ソフトバンクの成長戦略の要となっていくとみています。独立性・中立性を保ちながらガバナンスも効かせる必要があり、社外取締役としても一番注視しています。

植村

ヤフーは、パソコンを中心としたインターネットで発展してきましたが、それがスマホ中心にシフトし、ソフトバンクのスマホユーザーとの連携は非常に意味を持つようになってきています。LINEとの統合や「PayPay」もソフトバンクと一緒にならなければできなかった事業であり、ヤフーのショッピングユーザーの拡大にも貢献しています。ソフトバンクにとっても、ヤフーは通信の差別化という意味で重要なパートナーであり、両社ともにシナジーはかなり出ていると考えています。
他方、株主還元や内部留保のバランスについては、両社の考え方に相違がありますが、それはむしろ、上場会社として自立的な判断をしていると言えるのではないかと思います。

Q.ソフトバンクとZホールディングスの一部で重複する事業がありますがこの点をどのように捉えていますか

上釜

その点は、Zホールディングスの社外取締役との意見交換の際にも議論しています。お互いに独立性を担保しつつ、Win-Winな関係を築けるのかという議論が重要だと考えています。これから両社にとってシナジーを生み出しながら、最適解を見つけていきたいと思っています。

植村

事業の重複が多少ありますが、その前に、ZホールディングスとLINEの経営統合が必須だと考えています。会社の統合では、現場が混乱する時期もありますが、1~2年して新たな事業、発想、シナジーが生まれてくるものだと思います。「PayPay」の約5,000万ユーザーと「LINE」の約9,200万ユーザーをうまく活用して、Zホールディングスとして大きく成長し、ソフトバンクも強い営業力を発揮して下支えし、その成果を両者が享受してほしいと思います。

社長交代関連、
サクセッションプラン

Q.宮川社長の選出について指名委員会ではどのような議論があったのかお聞かせください。

上釜

経営の経験者として、経営者に求められる一番大事なことは決断力だと思います。また、ソフトバンクの体質や「Beyond Carrier」「Beyond Japan」といった成長戦略を踏まえると、先述した逆算の経営で論理的に考え、技術にも明るく、M&Aの経験も豊富な宮川さんは、これから当社を引っ張っていく社長に適任でした。加えて、孫取締役との議論に堂々と渡り合えるのもポイントになり、満場一致で採決しました。

植村

まず誰を選ぶかではなく、ソフトバンクの社長としての必須条件は何かという議論をしました。経営トップの条件は、ソフトバンクの今後の成長戦略をきちんと描けること、AIなど最先端のテクノロジーにできる限り精通していること、たとえ孫取締役であってもNOと言える人物であることが必要ではないかと話し合いました。最終的には、候補者全員に今後10年間の成長戦略について30分間プレゼンしていただき、その内容を踏まえて議論した結果、宮川さんを全員一致で推挙しました。
宮川社長は新しい事業を企画するのが好きで、常に進化し続けなければならないという気概を強く持っているアイデアマンです。HAPSモバイル(株)やMONET Technologies(株)の事業を立ち上げ、各大学との協働・連携を今でも主催しています。また、社内の方々が自然に支えていこうと思えるような求心力を持っています。

Q.宮川社長が会社から200億円を借り入れて自社の株式を取得したことをどのように思われますか?

植村

株価に対して責任を持つとは言え、かなり大きな金額で驚きました。ただ、良い経営とは、その会社のオーナーの立場で会社を考えることであると、アメリカで言われており、孫取締役もオーナーの目線で会社の経営を考える重要性を強調されていました。株式の購入資金については、購入した株式が担保になっていて、孫取締役が個人資産を担保にした保証人という立場を取っており、宮川社長はそれだけ信頼されているのではないでしょうか。

上釜

正直、私も驚きましたが、ソフトバンクの経営の舵取りは、一般的なサラリーマン経営者ではだめだということだと思います。短期的な株価の値下がりを恐れて、間違った経営をするのではと議論もありましたが、宮川社長は「株価を上げて株主に貢献する、株価に対して責任を取る」と明言され、この方だったら大丈夫だろうと納得し賛成しました。

役員報酬体系

Q.役員報酬体系の変更について株主総利回り(以下「TSR」)連動方式を導入した背景とその内容を教えてください。

植村

役員報酬は、今後全ての業績連動報酬が株式になるため、株式報酬の割合が最大で約8割となります。これは、業績に対して責任を持つ、株式で受け取ることで株価に対しての責任も持つということだと思います。TSRは、主観的な判断が入りづらく、かなり客観的に算出される設計になっています。現金部分は少なく、純利益が上がらないと報酬も上がらない、厳しい報酬体系だと思います。

上釜

背景はその通りで私も賛成しました。

最後に
佐藤モデレーターからのコメント

お二人には取締役会での議論を率直にお話しいただいた印象です。それにより、投資家さまと社外取締役が課題や問題意識を共有し、議論を深めるきっかけにもなりました。こうした機会を継続的に設け、対話を深めていくことが重要であると考えます。