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自社での実践により
磨き上げた技術を活用し、
日本の産業DXを推進

専務執行役員 兼 CTO

佃 英幸

1993年にソフトバンク(株)の前身である(株)東京デジタルホンに入社。
以来、2G、3G、4G、5Gの通信ネットワークの構築に従事。
2021年4月、現社長の宮川に代わり、CTOに就任。

ソフトバンクの技術戦略の特徴

日本のDXをテクノロジーで推進

当社は通信キャリアの一社として、これまで通信ネットワークを構築しながら、それを世界最高の水準で維持するための技術発展に取り組んできました。また、単なる通信キャリアにとどまるのではなく、ビッグデータとAI技術を活用した分析により、まず当社自身がさまざまな知見・ノウハウを蓄積してきました。それをお客さまにとって価値ある情報に加工し提供することにより、お客さまに革新的なデジタル技術の利便性を体験していただきながら、当社自身のDX(デジタルトランスフォーメーション)も進化させてきました。今後も当社の提供する通信インフラを5G/6Gに向け発展させていく一方で、デジタル技術を礎とし、日本の産業や企業のDX推進に貢献していきたいと考えています。
こうした当社の取り組みを支えている強みとして、まず挙げられるのは高い通信品質です。4Gエリアの中で5Gエリアが飛び地のように存在していると、その境目で通信品質が劣化する場合があることを経験上認識していたため、5Gのエリア拡大を急ぎ、通信品質が低いエリアの割合を極限まで下げる地道な努力を重ねていきました。その努力が実を結び、当社のモバイルネットワークは外部からも評価されています。これらパブリックな通信サービスに加え、今後当社の成長をけん引する法人事業のDXサービスにおいても、多種多様なニーズに対するソリューションには技術力が大きな強みとなっています。顧客のニーズを的確に捉え、それを解決するための最新技術の導入やデジタル化は当社が実行し、当社にない技術は外部パートナーを探し、未知の課題解決に挑戦しています。その実績をどこよりも早く、たくさん積み上げ、そこで蓄積した技術・ノウハウを次なる未知の課題解決で進化させ、ソリューションをプロデュースする力を磨き上げるサイクルを回し続けています。

5Gの展開とBeyond 5G戦略

通信技術を持つ当社ならではのDXソリューションを提案

当社の5Gサービスは、2022年3月末時点で90%超の人口カバー率となっており、計画に沿って着実にカバー率を高めています。今後は、MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)の技術を活用し、これまでの集約型ではなく、分散型のネットワークの仕組みを使って山奥の工事現場など局所的なケースで5Gの利用ができる「プライベート5G」のサービス提供を目指していきます。
実はこの「プライベート5G」は「ローカル5G」に対比して私が言葉を提唱したものです。元々5G MECとは、現場のセンサーから得られるデータをエッジサーバーで処理し、中央のサーバーには結果だけをあげる仕組みが考えられていました。5Gで通信速度が上がっても、現場のカメラで得た生のデータをそのまま全てサーバーにあげれば、すぐに回線やサーバーが容量不足になってしまいます。当社ではこのような場合、カメラにAIを搭載し、必要なデータのみをテキスト化しサーバーにあげることを積極的に提案しています。これによりデータが縮小され、より一層の低遅延を可能とします。加えて、MECにより分散化してもオペレーションが複雑化しない構成や、よりシンプルで拡張性の高いネットワーク構成を実現するSRv6 MUPという技術を提案するなど、通信技術の本質を理解した上で、技術をどのように使うべきか適切に提案することを重要視しています。
Beyond 5Gについては、例えばHAPS(成層圏通信プラットフォーム)の技術をどのように搭載するか、全世界的な規格化議論の最中であり、当社は積極的に関わっています。HAPSは、約20kmの高度に飛ばした無人機に地上の基地局と同じ役割を担わせ、通信エリアをカバーするものです。HAPSを利用すれば、森林が多く居住地域が国土面積の約3割しかない日本のような国においても細かく基地局を建設せずに済むため、これを用いて三次元でカバレッジを作っていく仕組みをBeyond 5Gのテーマとして考えています。

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さらに、Beyond 5Gでは搭載する技術に加えオペレーションの簡素化も大きなポイントであると考えています。5Gでは基地局建設のオペレーションにおいて、基地局ごとに細かいパラメーターを設定する作業が大きな負担です。そこにパソコン周辺機器のプラグアンドプレイのように自動化できる技術を導入すれば、基地局の建設や保全に関するオペレーションがシンプルになり、さらに通信品質の安定維持にもつながります。

  • SRv6 MUPは、Segment Routing IPv6 Mobile User Planeの略で、MECやネットワークスライシング等の5Gの特長を低コストかつ容易に実現する技術です。詳細はこちらのプレスリリースをご覧ください。

企業のDX推進に向けた
技術戦略

効率的なスケールアップのためプラットフォームを構築

最初に申し上げた通り、当社は携帯・固定通信を中心とした通信事業を礎にしながら、企業のDX化を推進する法人向けソリューションに力を入れています。そこでの最大の武器は、当社自身がDXに取り組んで得た経験値です。当社では新しいものはまず自分たちで取り入れ、使いにくいところがあれば改善した上でお客さまに提供することを徹底しています。空理空論でなく、実体験に裏打ちされた知見・ノウハウであるため、クライアントのニーズに合った現実的な提案ができるというアドバンテージを持っています。例えば、これらの経験に基づいて開発した法人向けのプラットフォームとして、「STAION(スタイオン)」をすでに提供しています。これは、最先端のAIで映像解析を行う当社のエッジデバイスとお客さまが活用しているカメラを接続し、その解析結果をWebで確認することができるAI映像解析プラットフォームです。
このような技術開発を推進していくためには、持続的にお客さまにサービスを提供できるビジネスモデルを描き、お客さまに提供する対価とのバランスを鑑みながら、お互いがWin-Winになれる仕組みを構築する必要があると考えています。
一方でビジネスモデルとしては、各社のニーズに応えた上で、どこまで共通のプラットフォームを構築できるかもポイントです。クライアントのニーズを分析すると、そのニーズは産業によって全く異なっており、自動車産業には自動車産業の、農業には農業の、さらに自治体には自治体のそれぞれ固有のニーズがあります。しかし、個々のニーズがさまざまであっても、課題を解決するプラットフォームにおいてはカスタマイズを要する部分はそれほど多くありません。それゆえ、各社のニーズに応えられる共通プラットフォームを構築し、スケールメリットを最大化する仕組みを考えることは技術部隊の大きな役割だと思っています。

新たな時代を創る技術者の育成

社内DXでノウハウを蓄積し成功体験を積ませる

私の統括する技術部門には約5,000人が所属しており、IoT、AI、DXなどの新規事業を担っているエンジニアの多くは元々は通信のエンジニアです。エンジニアとして通信技術の特定の領域を深掘りすることはもちろん大事なのですが、少し違うレイヤーのことを体験すると大きく視野が広がります。私はこのことを「ダイナミックレンジ(音響や映像、画像などにおける信号の大きさの範囲を表す指標)を広げる」と表現しており、人材を育成する上で重要視しています。
2015年に前社長の宮内が掲げた「Half & Twice」というスローガンの下、「新しいテクノロジーを駆使して社内の業務工数とコストを半分にし、同時に生産性と創造性を2倍にする」取り組みを進めてきました。この取り組みに多くの技術部門のエンジニアが関わり、さまざまな業務をDXで自動化する成功体験を積んできました。このことがエンジニアの「ダイナミックレンジ」を広げ、ノウハウも蓄積され、結果として当社のDXソリューションを拡大することに役立っています。以前は通信エンジニアだった社員が法人部隊とお客さまのところへ行き、DXのコンサルティングを行っているケースもあります。上辺だけのDXコンサルティングではなく、実際に苦労してきたことを踏まえて、「DXをするとこんなにメリットがあるんですよ」と説明するからこそ、迫力があり説得力が増すのです。
今でこそ、このような社内DXの取り組みがうまく進んでいますが、最初の頃は部下たちに取り組むモチベーションを持ってもらうことに苦労しました。振り返ると、「DXに取り組むことで仕事が楽になる、人が介在することによるエラーや遅延がなくなる、正確性が上がる、空いた時間で他の創意工夫が必要な業務に取り組める」といった部分を部下たちに徹底的に説明し、自分ごとだと思ってもらえるよう意識改革することが最も大事でした。推進の決定打となったのは、社内DXに取り組むことで小さな成功体験が蓄積された結果、部下たちが楽しさを覚えていったことです。こうなれば、あとは自走モード。組織立って一気に進んでいきました。組織でも機関車でも、重いものを最初に動かす時に最もエネルギーが要りますよね。私の仕事は最初の20~30%のエネルギーを加えることなんだなと思いました。
このような技術部門の社内DXの取り組みはその後全社に波及し、経験値として蓄積されていきました。さらには、当社の強みである営業力と掛け合わさり、法人DXソリューションビジネスの躍進につながっています。

ソフトバンクに課せられた使命

人々をさまざまな制約から自由にし、より幸せにすること

10年以上前のことになりますが、チリのサンホセ鉱山での落盤事故で33人の作業員が閉じ込められた際、最初に行ったのが、地上と事故現場をつなぐ通信手段の確保でした。地上との連絡がついたことで、作業員全員が希望をつなぎ、一人の犠牲者もなく全員が救出されました。この例が示すように、われわれの携わる通信は人々の希望をつなぐインフラです。
ましてや、現在は、一人一台スマートフォンを持つ時代ですから、通信インフラはどんな時でも使えることが当たり前と期待され、全ての活動がそれを前提にしています。さらに、さまざまな分野でデジタル化が急速に進展しており、通信プラットフォームのみならず、それを介して得られるデータもライフラインになりつつあります。この人々にとって欠かせない通信インフラの技術は今、DXと結び付き、人々がより幸せで豊かな未来を築く鍵となっています。裏側でデータが全て自動連携されるよう、テクノロジーが社会全体に実装されていく必要があり、それをけん引していく会社にしていきたいと考えています。
一方では通信インフラの技術開発により、リアルな仮想空間であるメタバースが実現され、今まで人が見ることのできなかったことを見たり体験したりすることができる時代になりつつあります。こうした未来に向けて、人々がストレスなく過ごせる社会を実現するために、当社は技術開発を進めています。このような時代においては、通信に対して今までとは段違いのレベルで安全性・信頼性が求められることから、社会を守るという責任も一層強く認識しています。そして、最終的に人々をさまざまな制約から自由にし、より幸せにすること、それが結果として、当社の理念である「情報革命で人々を幸せに」と企業価値の向上に結びつくと信じています。

佃 英幸
1993年にソフトバンク(株)の前身である(株)東京デジタルホンに入社。
以来、2G、3G、4G、5Gの通信ネットワークの構築に従事。
2021年4月、現社長の宮川に代わり、CTOに就任。