DIGITAL TWIN CAMPUS CONSORTIUM 第1回WORKSHOPレポート

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2023年10月11日、デジタルツイン技術の未来を共に考えるイベント「デジタルツインキャンパスコンソーシアム ワークショップ」が慶応義塾大学の三田キャンパスで開催されました。ここでは、本イベントで語られたソフトバンクと慶應義塾大学SFC研究所との取り組みについて紹介いたします。

1.進化するデジタルツインキャンパス基盤:ソフトバンクと慶應義塾大学SFC研究所の取り組み

ソフトバンクは、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) にデジタルツインキャンパスのインフラを構築し、その中でSFC研究所とさまざまなデジタルツインに関わるユースケースの実証を行っています。日々の進化と実験を通じて、私たちが目指す総合デジタルプラットフォーマーの実現に向けて研究開発を行っています。

SFCに提供しているデジタルツインのインフラは、5Gの通信基盤と各種センサーデータを統合的に管理するデジタルツイン基盤から構成されています。はじめにこのインフラについてご紹介します。

デジタルツイン基盤

現在、キャンパスをデジタル化するべくさまざまなセンサーを設置し、データを取得しています。インフラセンサーに加えて、キャンパス内を走行する自動運転バスの車両情報、カメラやLiDARの情報も取得しています。

また、実験用のスマートフォンを活用し、デバイスの位置情報や通信状況も取得しています。これらをデジタルツイン基盤で処理を行い、実験参加者へ公開することでユースケースの応用事例を検討しています。

従来はユースケースに応じたデバイスからのデータのみを活用していましたが、今後デジタルツイン社会を構築する上で、多種多様なセンサーデータが出てきます。そこでこうしたさまざまなデータを利用者に使いやすい形で提供することが、デジタルツイン基盤の役割だと考えています。そのためには、別のセンサーから得られた同じ物体に対する情報を融合する技術(センサーフュージョン技術)が必要です。そこで、ソフトバンクの先端技術研究所では、センサーフュージョン技術の研究開発を進めています。

一例として、キャンパス内で走行する自動運転バスでのセンサーフュージョンの事例を紹介します。LiDARから得られるセンサーデータとして、キャンパス内を走行する車両の位置情報の取得が可能ですが、その車両には自動運転バスも含まれることがあります。自動運転バスにはGNSS受信機が取り付けられているため、GNSS受信機を用いて測定した位置情報のデータも取得すると、同じ自動運転バスがデジタルツインにおけるサイバー空間上では2台存在するように見えてしまいます。ユーザー側でどちらかを選択してデータを使い分けることも可能ですが、デジタルツイン基盤ではフュージョン後のデータを取得できるようにしていますので、どのセンサーから取得しているかを気にせず利用が可能です。このように、センサーが増えれば増えるほどセンサーフュージョン技術が重要になるため、どういった手法でフュージョンすべきか研究を進めているところです。

5G通信基盤

5Gではコアネットワークのインターフェースとして、RESTful APIが用いられています。LTEは各機能(NetworkFunction)専用のインターフェースが定義されていたのに対して、5Gは非常に柔軟な設計が可能になりました。その中には通信キャリア網外との接続のために拡張されたインターフェースがあります。このインターフェースを用いることで、ユースケースを実施する第三者からでも通信の制御やデータ取得が可能になりました。ソフトバンクの先端技術研究所はこれをEnablerと呼び、活用事例などを検討しています。例えば、通信している端末の情報を取得できるようなAPIを公開しています。これらをダッシュボードのような形で可視化することで、端末管理に用いたり、端末の場所、通信状況などを自由に確認したりすることが可能です。

これらのEnablerについては、標準化としても議論がされているところです。ソフトバンクも標準化活動をしている団体であるGSMA Open Gatewayに参加しています。通信キャリア側で世界的に共通なAPIを用いて実装することで、アプリケーション設計者などは全世界で使えるような通信制御を用いたアプリケーションを開発することができます。
ソフトバンクの先端技術研究所は、いち早くこの共通APIをデジタルツインキャンパスのネットワークへ導入しました。具体的に触ることができるAPIとして、以下の二つを紹介いたします。

Quality on Demand(QoD):
このAPIは通信の必要帯域を動的に制御できます。API利用者は定義されたラベル(S,M,L)をリクエストすることで、対応した端末のトラフィックをコントロールできます。最も優先度が高いLを指定すると、たとえ他のトラフィックで混雑した状況においても最優先でデータを流すことが可能です。活用事例として自動運転バスのカメラ映像を用いてデモンストレーションを行いました。遠隔監視など、映像が乱れると影響があるようなユースケースで有用であると考えています。

Device Location(DevLoc):
このAPIはデバイスの位置情報を認証の一部として扱うことができます。また、デバイスの状態確認の一部として、現在どこの基地局と通信しているかの情報も取得できるため、それらを認証要素として端末が確かにその場所にあることを保証することができます。これにより、海外からの不正アクセスの防止やその場所だけの地域限定サービスを受けることができるようになります。

ソフトバンクは、これらのインフラについて、デジタルツインキャンパスで自由に触れる環境を提供しています。ぜひさまざまな参加者に使っていただき、デジタルツイン社会の実現に向けて研究を進めていきたいと考えています。

2. 5Gを使ったネットワーク処理オフロード機能:自動運転シャトルバスへの応用

AIモデルが巨大化していく中で【1】、AI処理を実行するための計算機は重量や消費電力が大きいため、ロボットやドローンに搭載する際にはバッテリーやペイロードの制限といった課題が生じます。そこで、処理の重い計算は通信を利用してデバイス外の計算機で処理する、ネットワーク処理オフロードを行うことでその課題を解決することができます。具体例として、SFCで運行する自動運転シャトルバスへの応用事例を紹介します。

現在、自動運転シャトルバスの運行においては停留所で待つ人の有無を目視で判断し、停留所に人がいる場合には停車しています。これを自動化する際には、センサーの処理を行うGPUマシンの設置場所やその消費電力、夏場の高温などが課題になります。

そこで、センサー情報をアップロードして外部の計算機に重い処理をオフロードすることで、そういった課題を解決することができます。また、複数台の車両が存在する環境においては、AIの重みやソフトウェアの管理を一元化できるメリットもあります。

一方で、ネットワーク処理オフロード機能を安定して利用するためには安定した通信が必要になりますが、通信品質は時間帯や場所によって異なります。ソフトバンクでは、通信品質を予測してデバイスに通知する機能であるIQN(In-advance QoS Notification)【2】を開発しています。
IQNを利用すると、端末が持つ現在の通信品質情報や位置情報をアップロードすることで、通信品質の予測情報を受け取ることができます。

この通信品質予測機能を利用したアプリケーションをご紹介します。
同じ画像処理を行える、デバイス、オンプレミス、クラウドの環境を準備します。IQNから出力された時刻の通信品質を用いて、その時々に最適な計算機を選択することで、ネットワーク処理オフロードした分だけデバイスのバッテリーから消費される電力を軽減することができます。

このようなネットワーク処理オフロードの技術は自動運転バスに限らず、ロボットやドローン、スマートフォンといったさまざまなデバイスでも応用できるため、今後はより活用事例を増やしていきます。

【1】Our World in Data. 「Artificial Intelligence Parameter Count」
https://ourworldindata.org/grapher/artificial-intelligence-parameter-count

【2】5GAA 「Technical Report on Predictive QoS and V2X Service Adaptation」
https://5gaa.org/5gaa-technical-report-on-predictive-qos-and-v2x-service-adaptation/

さらに、デジタルツインキャンパスを構成する重要な要素技術であるMEC(Multi-access Edge Computing)についても紹介します。

3. MECを実現する技術の検証:MECの理想と現実

情報の地産地消とMEC

MECとは、データ処理のエッジをネットワークの近くに位置付けることで、通信の遅延を低減し、データ通信の効率を向上させる技術です。しかし、MECを実現するためには、データを処理するMECサーバーを物理的にデバイスの近くに置くだけでは実現されません。なぜなら、IPを利用した通信は未だに「情報の地産地消」が苦手だからです。インターネットはグローバルで仮想的な情報空間であり、通信相手を識別するIPアドレスは「地球の裏側」と「隣の家」を区別しません。そのため、CDNなどDNSやルーティングを応用したさまざまな技術が開発され、インターネットの仮想的な情報空間における近さを表現する努力がされてきましたが、物理的に近い通信相手を見つける技術は確立されていません。

モバイルにおけるMECへのアクセスとその課題

モバイルにおける情報の地産地消は固定通信よりも困難です。それは、モバイル網からインターネットへの出口となる交換機が非常に少ないことに起因しています。移動する携帯端末は途切れない通信を維持するために交換機とコネクションを維持し続ける必要があり、仮に端末のすぐ近くにサーバーがあったとしても、交換機を経由して通信するために遠回りをすることがあります。端末の移動に伴ってより近い交換機に切り替えてくれればよいのですが、通信を途切れさせないで切り替えていくのは難しい問題です。そこで、コネクションを維持しつつ、近場から折り返すために中間点を入れて、必要なトラフィックだけをエッジコンピューティングに横抜きする技術が5Gでは提案されています。

MECを実現する技術

端末からMECへの通信を実現するには、下記に示す3つのステップを実施する必要があります。

1.MECへの通信路(コネクション)の確立
2.MEC宛てのトラフィックの制御
3.端末におけるMECの(再)発見

これらのステップを実現するために、多くの標準化団体がさまざまな技術の提案・標準化に取り組んでいます。例えば3GPPやETSI、IETFなどがMECに関する研究や提案を進めています。さまざまな技術や方法が存在する中で、どの通信方法が最適かは明確には決まっていません。この点において、ソフトバンクは、研究者としてしっかりと研究を重ね、最適な通信方法を模索したいと考えています。

SFCのネットワーク環境は、学生たちが新たな技術や方法を試行錯誤できる貴重な場として位置付けられています。ソフトバンクはこの環境を最大限活用し、他のコンソーシアム参画者と連携しながら、MECの最適な実現方法について検証を進めていきます。

4. 最後に

イベントを通じて、ソフトバンクとSFC研究所で始まった「デジタルツインキャンパス・ラボ」の取り組みは、「デジタルツインキャンパスコンソーシアム」へとシフトすることで、より多くの企業や学生が参画できる形へと生まれ変わったことが語られました。ソフトバンクは、多くの参画者に最新の5G通信基盤やデジタルツイン基盤にも触れていただき、共に新しいユースケースの創出や実証実験を推進していきたいと思います。また、技術の先進性を追求する一方で、実社会での応用にも目を向け、多様な取り組みを推進してまいります。

詳細は当日のアーカイブ動画をご覧ください。

前編

後編

デジタルツインキャンパスコンソーシアムについてはこちらをご覧ください。
https://dtc.sfc.keio.ac.jp/v1/

Research Areas
研究概要