公開日:2022年5月25日
冷房が必要な夏は、1年のうちでも電気代が高くなりがち。特に2020年以降は在宅勤務などでおうち時間が増えたこともあり、夏の電力消費がさらに増加したというデータもあります。これまで以上に自宅でエアコンをつける時間が長くなって、電気代が心配という人も多いことでしょう。
そんなとき頼りになるのは、電気代がエアコンよりずっと安い扇風機です。扇風機は1894年(明治27年)の国産第1号発売以来、長い間日本の夏の涼を支えてきました。ただ、近年は地球温暖化の影響もあって気温が上昇しているために、扇風機だけでは対処できない猛暑が続いています。
そこで本格的な夏を前に、電気代の安い扇風機を上手に利用して、猛暑の時期をおトクに、そして快適に過ごす方法についてご紹介します。暑さを賢く乗り切る準備を、初夏のうちから始めませんか。
扇風機の上手な使い方の前に、まず扇風機にはどんな種類があるのかについてご紹介しましょう。
扇風機の形状には、丸いリビング扇が付いたポピュラーな据え置き型をはじめ、スリムファンなどとも呼ばれる縦に長いタワー型のもの、壁掛けタイプなどがありますが、スタイルはインテリアの雰囲気や好みによって選ぶことが多いと思います。
ここでご紹介するのは、動力となるモーターの種類について。
扇風機に使われているモーターは「ACモーター」と「DCモーター」の2種類で、従来から使用されてきたタイプの「ACモーター」に対して、2012年(平成24年)に登場した新しいタイプの「DCモーター」があります。それぞれの特徴について、見ていきましょう。
ACモーターは、コンセントの交流電源をそのまま使用する交流(Alternate Current:オルタネート・カレント)タイプのもので、一般的な家電製品はほとんどがこの形です。DCモーターの扇風機が登場するまでは、扇風機と言えばACモーターでした。今回はDCモーターと比較しながら、その特徴をみてみましょう。
細かい風量調節ができるDCモーターの扇風機に比べると、段階は「強・中・弱」などの大まかな設定が多く、最大でも5段階程度です。ただ、シンプルな方が分かりやすくて使い勝手がいい、という場合もあるので、ライフスタイルに合わせて選んでください。
運転音は「強風」にして首振り機能を使っても、40dB(デシベル)程度。「弱風」の場合はもっと音を抑えることができますが、DCモーターの「微風」ほどの静音性はありません。ちなみに、40dBは静かな図書館で感じる程度の音量なので、就寝時に気になるという人は風量を弱くして運転を。
DCモーターの扇風機と比較すると、本体価格は安くなっています。お風呂あがりや料理中などピンポイントで強い風が欲しいときや、2台目・3台目の扇風機として選ぶならACモーター扇風機がお勧めです。消費電力は34W(ワット)前後と、DCモーターの製品と比較すると消費電力は大きいですが、それでも1時間当たりの電気代は1円以下です。
DCモーターは、発電所から家庭に送られてくるコンセントの交流電源を直流(Direct Current:ダイレクト カレント)に変換して使用するタイプのものです。身近な例では、乾電池やバッテリーなどが直流電源にあたります。 このタイプの扇風機にはどんな特徴があるのでしょうか。
直流の場合は電圧が常に一定で一方向にしか電気が流れないため、安定して扇風機の羽根を回転させることができるという特徴があります。回転が制御しやすいので、風量調節も「微風」や「弱風」といった細かい段階設定のできるものが多いのです。「長い時間、扇風機の風にあたると体の冷えが心配」などという人には、ごく弱い風が選べることで安心して使えそうですね。
ごく弱い風が選べるということは、それだけ静かな音で運転できるということでもあります。機種にもよりますが、最小の風量に設定して首振り機能をオフにすると、最小で10dBというものもあります。10dBといえば蝶が羽ばたくほどの微かな音なので、就寝時の運転でも気になりません。
従来のタイプに比べるとより繊細な制御が可能な分、本体価格は比較的高めです。しかし、 消費電力はACモーター扇風機の1/10程度に抑えることができるため、初期投資は少々高めでも電気代の節約になります。
以下は、これまでご紹介した内容を踏まえて、ACモーター扇風機とDCモーター扇風機を比較した一覧表です。
ACモーター扇風機 | DCモーター扇風機 | |
---|---|---|
電圧タイプ | 交流 | 直流 |
風量調節 | 強・中・弱と3段階程度のものが多い | 細かい風量の調整が可能 |
消費電力 | 34W | 1.5~20W程度 |
電気代 | 0.918円 | 0.04円~0.54円 |
運転音 | 平均で40dB | 最小で10dB |
本体価格 | 安い | 高い |
こうして見ると、「電気代の安さを重視する」「静かな微風で長時間使いたい」という人には、DCモーターの扇風機がお勧めです。「何より本体価格の安さを重視する」「昔ながらの大風量の扇風機が好き」という人は、ACモーターの扇風機を。
価格やほしい機能など、それぞれの特徴によって検討してみてください。
扇風機とよく似た外観のサーキュレーターは、同じように風を送る家電製品ですが、用途が全く違います。
扇風機は暑いときに人が体の表面温度を下げて涼むために使うものですが、サーキュレーターは室内の空気を循環させるために使う機器なので冷房でも暖房でも使用できます。
送風の方法も、扇風機が大き目のファンを使って首振り機能などで広い範囲に風を送るのに対して、サーキュレーターは必要な場所へ直線的に風を送ります。 エアコンと併用することが多いサーキュレーターですが、暖房の場合などは天井にたまった暖かい空気を部屋の下までおろすために、角度を変えて天井に向けることもできるように設計されています。
形も送風の機能も似ていますが、扇風機と一括りにはできない家電製品なのです。
扇風機の概要が分かったところで、今度は扇風機を使ってより快適に涼をとる方法についてご紹介しましょう。
かんたんに実践できるものを集めていますので、扇風機を使うときにはちょっとだけ意識して、この夏からやってみてはいかがでしょう。
まずは扇風機の置き場所について。暑いときはとにかく扇風機の正面に陣取って風にあたるという人もいると思いますが、湿度が高くて部屋の中がムシムシしている場合は、扇風機を窓の方に向けて回すと室内の熱気がすばやく換気できます。いったん室内の熱気を逃がしてから冷房すると、効率的です。
暑い時期でも、朝晩など室内より外気温の方が低くなる時間帯もあります。そんなときは窓を背にして扇風機を回せば、外の涼しい空気を取り入れることができます。朝の清々しい外気を感じられたら、気持ちもリフレッシュできそうですね。
扇風機の前に氷を入れた容器を置いてみましょう。氷の水分が蒸発するときに周囲の熱を奪う気化熱によって、温度が低くなる効果が期待できます。また、凍らせたペットボトル(氷水など)を扇風機の前に置いたり、扇風機の後ろに濡れたタオルを干したりするのも、同様の原理で風が涼しく感じられます。
扇風機に保冷剤を取り付けるのも、効果的な方法です。扇風機の上部や前面などにかんたんにセットできる「扇風機用保冷剤」は、さまざまな市販品も出ていますが、扇風機の上に保冷剤を乗せるだけでも効果はあります。冷凍庫でしっかり冷やした保冷剤を使えば、室内の空気も下がります。
ちょっとした工夫をすることで扇風機を使ってより快適に涼をとる方法をご紹介しましたが、近年は夏の暑さを扇風機だけで乗り切るのが難しくなっています。
昼間の最高気温が30℃以上となる日は、30年前に比べて2倍に増えているというデータもあり、それによって熱中症などの危険も高まりました。扇風機の特性を生かして上手に使いながら、無理せずエアコンなどを併用して快適に過ごしてください。
扇風機だけでは夏を乗り切るのが大変でも、エアコンとの併用や、その他の工夫をプラスすることで「涼」は確実にレベルアップします。ここからは、エアコンと併用するときのポイントや、涼をプラスするヒントについてご紹介しましょう。
エアコンだけでは部屋の床部分に冷たい空気がたまるので、冷気をムラなく循環させるためにも扇風機やサーキュレーターを併用するのは効果的です。 その際はエアコンの風向きを水平方向にして、扇風機をエアコンの方に向けた状態で上向きに風を送るようにすると、部屋全体が穏やかに冷えます。
一般的なエアコンは消費電力が750~1100W(10~15畳サイズ)ですが、一般的な扇風機は34Wです。前出の表でもご紹介したとおり、扇風機の電気代は1時間使用しても1円以下ですが、エアコンはそれ以上の電気代がかかります。
例えば1日1時間だけ冷房を短縮した場合、年間で約510円の節約になるという経済産業省・資源エネルギー庁のデータがあります。1年のうちの冷房期間は3.6か月(6月2日〜9月21日)とされているので112日とすると、510円を112で割って1時間の電気代は約4.55円という計算になります。
そこで、扇風機を上手に活用してエアコンの消費電力を抑えることができれば、経済的で省エネにもつながるのです。
扇風機で冷たい空気を室内のすみずみまで送れば、体感温度は2~3℃下がると言われているので、エアコンの設定温度を上げても涼しさが維持できます。
エアコンの設定温度を1℃上げると約13%(約70W)の消費電力が削減できるため、電気代も節約できて節電にもなるので、ぜひ試してみてください。
エアコンについて詳しく知りたい人は、こちらもどうぞ。
エアコン以外にも、扇風機と併用して涼をプラスできるアイテムはあります。夜間の最低気温が25℃以上になる熱帯夜など、寝苦しいときにお好みの方法を試してみてはいかがでしょう。
熱を下げる目的でつかわれる氷枕は、夏の夜も活躍します。氷枕を首筋にあたるようにすると、体感温度を下げる効果があるのです。氷枕はタオルにくるんで使えば、冷えすぎず、肌触りも快適になります。
イ草のひんやりとした感触が心地いい寝ござも、お勧めのアイテムです。このほかに麻や竹で作られたものや、特殊加工の化学繊維を使ったシーツ、冷却ジェルの入ったマットレスなどもあるので、好きなスタイルを選んでください。
触ると冷たく感じられる接触冷感素材を使ったタオルケットなら、寝返りを打つたびにほどよいひんやり感が体感できます。
ミントの葉を乾燥させて精製したハッカ油は、爽やかな香りで清涼感を感じさせてくれるアイテムです。原液をコットンやティッシュに含ませて扇風機に付けたり、体にスプレーして扇風機の風にあてると涼しさが倍増します。ハッカ油は虫よけの効果もあるので、蚊の侵入が気になる夏の夜にはうってつけ。
いずれの場合も、扇風機は体に直接当てると冷えすぎて風邪をひく可能性もあるので、注意が必要です。
体の冷えやすい人は、壁に向かって扇風機の風を送るようにしましょう。壁にあたると、部屋全体に風が行き渡る効果もあります。体に向かって風をあてたいという場合は、2m以上離して、弱風に設定を。首振り機能で部屋全体に風を回すようにして、タイマーで長時間の使用を避けるようにしましょう。
日本の夏の風物詩とも言える扇風機。現在では、きめ細かい風量調節や省エネ仕様などで性能も進化してきましたが、以前と比べて暑さが厳しくなったために熱中症のリスクも増えて、扇風機だけでは健康的に涼をとるのが難しくなってきたのも事実です。
消費電力も少なく電気代も安いので、節約や節電のために「扇風機だけで夏を乗り切ろう」と考える人もいると思いますが、我慢と無理は禁物です。しっかり水分を補給して、熱中症対策を万全に行った上で、エアコンなどとも上手に付き合いながら扇風機を使いましょう。