公開日:2022年5月10日
最近は、世界情勢の変化などでエネルギー供給の問題が取り上げられることも増えました。なかでも、「新電力」という言葉をよく目にするようになったと感じている人も多いのではないでしょうか。
「新電力」とは、2000年に始まった電力の小売自由化で、新規参入した小売電気事業者(電気を販売する会社)のことです。
最初は大規模工場やデパートなどが対象でしたが、2016年4月1日に電力小売全面自由化されたことによって、一般家庭でも電力会社や電気の料金プラン、セット割などを自由に選択できるようになりました。つまり、自分のライフスタイルや価値観などに合わせて、自宅の電気を選べるようになったのです。
今回は、そんな「新電力」のメリットや現在の周辺状況などについて、見ていきましょう。
まず、電力小売全面自由化について、かんたんに経緯をご説明しましょう。
2016年に電力小売全面自由化が始まるまで、一般家庭では各エリアを担当する大手電力会社10社(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力)が独占的に電気を供給していました。同じエリアに住んでいれば、どの家庭も管轄の大手電力会社から規制料金で電気を購入していたわけです。
電力小売全面自由化後は、大手10社以外の会社でも、日本国内ならエリアを問わず自由に電気を販売できるようになりました。現在では744社(2022年4月22日現在) もの事業者が登録されています。登録事業者はガス・石油会社、通信会社、鉄道会社など多岐にわたり、各分野から新規参入の事業者が増えることで市場が活性化して、さまざまな料金プランやサービスが登場しました。
企業にとってはビジネスチャンスが増え、私たちにとってはおトクな料金プランを自由に選べる環境が整ったのです。
電力会社を新電力に変えると「新たに電線を引かなければならないのでは」とか、「自分だけ停電することもあるのでは」などという心配をする人がいるかもしれませんが、そんなことはありません。
電力小売全面自由化後も電力供給の仕組み自体が変わることはなく、現在すでにある送電網を使うので電線を引く必要もないですし、どの会社から電気を買っても電気の品質は同じです。
基本的に電力は、発電所で作った電気を送電線で変電所に送り、配電用の変電所を経て、小売事業者から各家庭に供給されます。
その供給のシステムは、水力、火力、原子力、太陽光、風力、地熱などの発電所で電気を作る「発電部門」と、送配電ネットワークを管理する「送配電部門」、消費者に電気を販売する「小売部門」の3つの部門からなっています。
このなかで、「発電部門」は原則参入自由なのでさまざまな事業者があり、「小売部門」も電力小売全面自由化によって新電力の会社が増えました。
しかし、「送配電部門」は、安定的な供給のため、原則として、各地域の大手電力会社が担当しています(2022年4月1日から、配電事業制度が開始し、特定の区域においては、従来の大手電力会社以外も参入できるようになりました。)。
もし、小売部門の事業者が必要な電力を調達できなかった場合でも、送配電部門がそれを補って調整できるようにしているのです。
電力の小売全面自由化には、競争による市場の活性化はもちろんですが、電気料金を抑制することや、電力の安定供給を確保するという大きな目的がありました。
それでは実際に、自由化後はどんな形で目的が果たされ、どんなメリットが生まれたのでしょうか。
新電力の会社では、各事業者がそれぞれの特性を生かした料金プランやサービスを提供しています。例えば、時間帯ごとに電気料金が変化する時間帯別料金プラン、電気とガス、電気とスマートフォンなど独自のセット割引や、ポイントサービスなどの特典もあります。太陽光、風力、地熱といった再生可能エネルギーを中心とした電気を、選んで購入することもできます。
新たな料金プランでは、それまでの料金体系にこだわらず、独自の計算方法で電気料金を算出することができるようになります。自由化前に私たちが選択できたのは、電力会社が国から認可を受けた規制料金プランだけでした。規制料金では基本料金と電気使用量に応じた電気料金がかかる形でしたが、新電力の会社では自由に料金を設定できるので、基本料金なしで使った分だけ電気料金を払うプランなどもあります。その中で価格競争も起こり、いろいろな形で電気料金を抑制できる可能性が高まりました。
2011年3月に起きた東日本大震災の際、大規模電源の被災で電力が不足したことによって、広い範囲で人々の生活に大きな影響がありました。このときの経験をもとに、緊急時などには広域間で電気を供給し合える体制作りを進めることも、制度改革の重要な目的の一つだったのです。
自由化後には、近くの自治体が運営する事業者から電気を買って“電気の地産地消”をすることもできますし、都会に住みながら故郷で発電した電気を選ぶこともできます。
こうした新電力のメリットは徐々に理解され、全販売電力量に占める新電力のシェアは、2021年9月時点では約21.7%となっています。
2016年に電力小売が全面自由化されて以来、電気料金は上昇傾向ではあったものの、ある程度の安定を保っていました。ところが、天然ガスなどエネルギー燃料の価格が高騰するなかで、2021年の9月以降は連続して電気料金が上昇を続けています。
そんな中、最近では新電力撤退のニュースを相次いで耳にするようになりました。民間の信用調査会社・帝国データバンクの調査によれば、2021年4月時点で営業していた新電力約700社のうち、約4%に当たる31社が過去1年間で倒産や廃業、事業撤退などを行ったことが分かったといいます。
なぜ、こんなにも多くの撤退が起こったのでしょうか?
そこで今、新電力に何が起きているのか、その背景を見ていきます。
新電力が電力小売事業から撤退している大きな要因は、やはりエネルギー燃料価格の上昇でしょう。原油、液化天然ガス(LNG)、石炭などの燃料価格が上昇することで、直接的に電力の調達コストが膨らんで、新電力各社の収益を大きく圧迫しているのです。
さらに値上がりが一時的なものではなく、数ヵ月にわたって続いていることにより、新電力各社の経営はかなり厳しくなったものと見られます。そのため、事業撤退や新規契約の凍結などが起こるほか、経営破綻して倒産に至る場合もあるというわけです。
2021年度に倒産した新電力は、その多くが自前の発電設備を持っておらず、電力を調達するための価格が販売価格を上回る状態になっていました。
電力の販売価格から調達価格を差し引いた販売利益は、直近でピークとなった2020年5月と比較すると9割を超える大幅な減益になったというデータもあるほど。これでは、事業の継続も難しくなって当然です。
新電力のサービスが始まってからも、電力を巡る環境にはいろいろな変化が起きました。そのなかでも特に最近、電気料金が高騰したり電力がひっ迫したり、という事態が起きている背景には何があったのでしょうか?
2021年度の冬は2020年度と比較すると、1月2月ともに電力需要が増加傾向でした。過去4年間のデータと照らし合わせても、寒波が襲来した1月半ばと2月下旬において特に増加していたといいます。例年は電力需要が落ち着くはずの2月以降に低気温が続いたことで、想定以上に電力需要が伸びたことから、新電力では調達コストの負担が大きくなったと考えられます。
2022年3月16日の夜に発生した福島県沖を震源とする地震の影響により、複数の発電所が停止。さらに、3月22日には低気圧の影響で急激に気温が下がって暖房の需要が高まり、初の「電力需給ひっ迫警報」が発令されました。こうした複合的な事例が重なったことで、供給力が大幅に減少して需給バランスが崩れたのも要因の一つではないでしょうか。
2022年2月にロシア軍がウクライナへの軍事侵攻を開始したことで、EUやアメリカなどはロシアにさまざまな経済制裁を加えました。液化天然ガス(LNG)の輸出量で世界1位、原油や石炭も世界トップ3という資源大国であるロシアが、経済制裁に対抗して輸出量を減らすとなれば、世界のエネルギーに大きな影響がおよぶことになります。
日本でも液化天然ガス(LNG)は8.2%、石炭は12.5%をロシアから輸入(2020年の統計)しており、エネルギー自給率が低く海外から輸入される化石燃料に大きく依存している状況では、世界情勢による燃料価格の高騰は大きなダメージです。
このほかにも、新型コロナ感染拡大による経済停滞や輸送燃料の問題など、新電力の周辺にはさまざまなリスクがあります。しかし、これらのリスクにも適切に対応して営業を続けている新電力が多いのも、また事実です。
万一、契約している新電力の会社が事業撤退などということになっても、電力の小売営業に関する指針に基づき、契約解除の15日程度前までに解除予告通知を行うことが求められていますので、期間内に別の会社へ切り替えを行えば大丈夫です。もし、新しい電力会社と期間内に契約できなくても、切り替わるまでの間は、自由化以前にエリアを管轄していた電力会社が一時的に対応するので、電気が突然止まったりする心配はありません。
さまざまなリスクのなかで事業を継続している新電力ですが、すべてが大きなダメージを受けているばかりではありません。電力供給の体制が十分に整った新電力を選べば、そのリスクは最小限に抑えられ、これまでと同じようにおトクな料金で利用できます。
例えば、通信会社のソフトバンク。ソフトバンクが提供する「おうちでんき」の場合を見てみましょう。「おうちでんき」の料金に関しては、スマートフォンやケータイとまとめると契約回線ごとに月々110円(税込)の割引が適用されるセット割など、電気料金を抑える効果も期待できます。
また、水漏れやカギの紛失といった家庭内のトラブルにも無料で24時間対応する「おうちレスキュー」のサービスなどもあるので、安心・便利な一面も。
ソフトバンクのでんきサービスは、携帯電話と連動したセット割も可能な「おトクな新電力」の一つであることがお分かりいただけたでしょうか。
ひと口に新電力と言っても、展開する企業の業種はもちろん、電力供給のためのシステムや発電方法などにも、それぞれ特徴があります。事業撤退のニュースが報じられても、大多数は企業努力を続けていますし、政府も新電力の事業継続ためにさまざまな支援を行っています。
やみくもに「新電力は危ない」と判断するのではなく、厳しい状況下でもしっかりと対応している電力会社を選んで、おトクな料金プランを活用してください。