孫 正義 基調講演

【孫正義】 「スマボ」企業集団の力を結集し、日本の競争力を復活させる

かつて「Japan as No.1」と称された日本の経済は、その後30年に渡り低迷しています。世界での競争力も失いつつある日本に希望の光はあるのでしょうか。「SoftBank World 2021」の開幕を告げる基調講演では、ソフトバンクグループ代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義が「日本復活の鍵はスマートロボット」だと提言。基調講演の内容をレポートします。

※記載内容は2021年9月時点のものです。

登壇者

ソフトバンクグループ株式会社
代表取締役 会長兼社長執行役員
孫 正義

再び日本が競争力を持つために

冒頭に孫は、「ロボット産業は日本の成長戦略の要になる」と話し、プレゼンテーションを始めました。

「1980年頃、『Japan as No.1』と言われていました。日本は世界一の技術力を持ち、GDPも成長、もうじきアメリカも抜くのでは——そんなことも言われていた、勢いのある時代でした。世界の競争力ランキングでも日本は常に世界のトップだったのです。

ではその後どうなったのか。あっという間に日本の競争力は低迷しました。

総務省調べの、企業のAI活用率はアメリカの35%に対し日本は24%、ロボット、IoTの活用率もアメリカと比較して低く、最先端テクノロジー活用が遅れています。

競争力は『労働人口×生産性』で算出されますが、人口減少の進む日本において労働人口は増えず、生産性も低迷しています。

アメリカに次いで第2位だった日本のGDPは、中国に抜かれ現在は第3位ですが、競争力がこのまま低迷したままであれば、GDPもやがて他の国に抜かれてしまう、私はそのように危惧しています。

では日本はこのまま衰退していくのでしょうか。私は日本復活の鍵を握るのは『スマボ』——すなわち『スマートロボット』だと考えています。

iPhone が日本でデビューのときを思い出してみてください。『iPhone なんて日本では売れない、だっておさいふケータイ機能が付いていないじゃないか』などと言われたものですが、私は感動、興奮を覚えました。その後、iPhone は世界中の人々のライフスタイル、人類の未来を変えたと言えるぐらい、欠かせないものになりました。ガラケーからスマホの時代に一瞬で変わってしまったということです。

一方、製造業を中心としたさまざまな産業でロボットが普及している日本は『ロボット大国』と言われてきました。しかし私はこれを『ガラボ(ガラパゴス・ロボット)』だと思っています。ガラケー市場がスマホ市場に一瞬で置き換わったように、ガラボの世界もスマボに変えていきたい、そう思っている次第です。

ではガラボとスマボ、何が違うのでしょうか。機械的な人間を指して『あの人はまるでロボットのようだ』なんて言う比喩表現がありますが、その言葉の通り『ガラボ』では、人間によってプログラムされた動作のみを行い、一部の産業のみで使われてきました。

それに対して『スマボ』は“AIが自ら学習”し、“臨機応変”に動作・行動をし、“全産業”への適用が可能です」

スマボ導入による「労働人口10億人構想」

ソフトバンクグループもPepperのみならず、ロボットに関してさまざまな取り組みを展開しています。ボストン・ダイナミクス社のAIヒューマノイド、AI産業ロボットの動画を紹介した孫は、引き続き「スマボ」の可能性について言及しました。

「2014年7月に開催したSoftBank Worldの基調講演でも私は『これからはロボットの時代、人とロボットがともに働く時代になる』というビジョンをお話しました。

ロボット3,000万台で実現する製造業人口『1億人構想』を発表したのもそのときです。その頃はまだディープラーニングが技術として普及しておらず、AIが今日のような実用的段階になるまで進化してはいませんでした。『ガラボ』から『スマボ』へ生まれ変わる、ちょうど入口の時期だったように思います。

ソフトバンクグループあるいは孫正義は『何も作っていない』とよくご批判をいただきますが、もし私に何か特技が1つあるのだとしたら、時代の流れを人より少し早く・少し的確に読むことができることです。

今日この時点であらためて申し上げたいことは、2014年の内容はさらに進化し、これからは『ロボットとAIが掛け合わされたスマボの時代が到来する』ということ、そして『それらスマボをあらゆる産業で徹底活用していこうではないか』ということです。

日本人の労働は長らく『8時間・週5日』が基本でしたが、スマボは『24時間・365日』——労働時間の総数にしておよそ3倍働いても文句を言いません。さらにAI活用により生産性は3.5倍になります。

3倍×3.5倍ということはつまり、スマボ1台で10倍の競争力を持つということです。しかもスマボは先述した通り、自ら学習を行い、臨機応変に動作・行動をし、全産業に適用可能です。

もしもスマボ1億台が日本に導入されれば、労働人口10億人分に相当します。(現在の)日本の労働人口が5,000万人だとすると、その20倍に相当するということです」

スマボ時代に向けてSBGができること

ここから孫は来るべき「スマボ時代」に向けてソフトバンクグループに何ができるのか、具体的なユースケースを交えながらさらに深掘りをしました。

「私は自分を単なる『投資家』だとは思っていません。新しい時代を切り拓いていく、情報革命の『資本家』でありたいというのが私の願望、そして夢であります。

資本家と投資家、何が違うのか——。

投資家はお金をつくりますが、資本家は未来をつくります。事実、2017年以降、世界の未上場AI企業の資本調達額の約1割をソフトバンクグループが提供しています。ソフトバンク・ビジョン・ファンド1、2、ソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンドの出資先は301社になりました(投資委員会承認済で投資完了前の企業も含む)。301社のユニコーンにソフトバンクグループが資本提供しているということです。規模としては世界でも圧倒的No.1の資本家がソフトバンクグループであり、これからもAI起業家とビジョンを共有し、彼らと一緒に未来をつくっていきたいと考えています」

すでにソフトバンクグループには18社の「最先端スマボ企業集団」があるということで、製造、流通、医療、小売・サービス、事務作業に関わるスマボ企業の取り組みについて、各社ソリューション映像や導入の実績を交えながら紹介されました。

「まずは、AIでデザイン・設計を、スマボで自動計算・自動搬送を行う『Agile Robots』です。同社のロボットは、AIによるモーション学習とロボティクスによる精緻な力覚制御を組み合わせることで、生産性が大きく向上させています。スマホ、PC、自動車、航空機などハイテク製造業で活躍してくれるでしょう。

AIで在庫管理を、スマボでピッキング・梱包・配送を行う『AutoStore』。スマボ活用による自動倉庫を実現します。AIで搬送・配置の最適化、ロボティクスでピッキング精度99.9%が達成され、出荷効率が大幅に向上します。

スマボ×ピッキングの『Berkshire Grey』のロボットでは、AIが配送物の即時検知を行い、ロボティクスが多様な形状をグリップします。ディープラーニングによるデータベース化、搬送物の3D画像化、用途別グリップなどの特長があり、競合比3倍以上の品目数に対応。先ほどのAutoStoreとBerkshire Greyをインテグレーションすれば、世界最強の倉庫システムができるかもしれません。

AIで診断・治療計画を、スマボで治療・手術・アフターケアを行う『CMR Surgical』のロボットは、AIの手術プランニングとロボティクスの広可動かつ繊細な動作の組み合わせで、より安全な腹腔鏡手術を実現。小型・サブスク型のサービスのため、最先端手術を多くの患者様に提供できます。

AIによる需要予測・決済、スマボによる接客・清掃を行う『Keenon』のロボットは、AIで配膳ルートが最適化され、ロボットに組み込まれた高精度センサーは正確な移動・停止を可能にしています。すでに2万台が稼働中です。

清掃に特化した『Gaussian Robotics』のロボットも同様に、清掃ルート最適化のためのAIと高精度センサーを実装。固定清掃ルートではなく、清掃対象を識別した、効率的な清掃を実現してくれるでしょう。

最後に紹介するのは事務作業で活躍する『Automation Anywhere』による業務自動化のRPAプラットフォームです。同プラットフォームではAIで課題認識を行い、スマボで作業者の業務を自動化。エラー・工数を削減して、生産性向上に寄与します。事務作業から解放され、導入で削減された業務時間はよりクリエイティブな業務へと充てていただけます。ソフトバンクでも同社ソリューションを導入しています」

情報革命で人々を幸せに

約1時間に及んだ基調講演の最後に孫は「結論」として、次のように述べました。

「多様な領域にまたがる18社もの最先端スマボ企業をグループに抱えているのは、世界でも我々だけではないでしょうか。本日ご紹介させていただいたAutoStore、Berkshire Grey、Keenon、Gaussian Roboticsのロボットはもうじき日本での提供を開始します」

日本復活の鍵は『スマボ』です。おそらく私の造語だと思うのですが、本日は皆さまを洗脳するかのように何度も申し上げました。『ガラボ、さよなら。スマボ、こんにちは』——そんな風に、これから新しい『スマボ』の時代がやってくるでしょう。

日本の未来を諦める必要はありません。やりたい気持ちがあれば、必ず道は拓けます。情報革命で人々を幸せに。多くの人々に本当に幸せになっていただくため、ソフトバンクグループはグループをあげて頑張ってまいります」

<編集後記>
さまざまな領域に「スマボ」が適用されれば、10億人分の労働人口を創出し、日本の社会課題を解決、ひいては生産性向上により日本の競争力が再び復活する。そんな提言が行われた孫正義の基調講演は、いささかネガティブに考えられがちな日本の未来に光明を見出す講演だったのではないでしょうか。これからの日本国内における「スマボ」の動向にも注目していきたいです。

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