ソフトバンク副社長 今井が語る、生成AIと自社データ活用事例

2023年10月11日掲載

少子高齢化や労働力不足、平均賃金の伸び率の低さなどを原因として日本経済は低迷しており、「失われた30年」と呼ばれています。こうした中、持続的な経済成長を実現させていくための方法について、企業の事例を交えてソフトバンク副社長の今井が語りました。

本講演の後半では、全日本空輸株式会社、住友生命保険相互会社、本田技研工業株式会社の方々にもご登壇いただき、自社の取り組みについて講演を行っております。

 

本記事は2023年10月5日に開催されたSoftBankWorld 2023 の基調講演「データが導く、日本復活のチャンス〜企業が目指すべき"データ活用"とは〜」を再編集したものです。

目次

成長軌道を持続化するために

約30年前は「世界時価総額トップ50社中32社が日本企業」という時代があったものの、現在では人口減少や労働力不足など構造的な課題を多く抱えています。

そのような厳しい中でも「日本復活」は可能であると、今井は言います。

「コロナ禍には人がいなかった渋谷のスクランブル交差点も、2023年は多数の海外の方々がいらっしゃって活況を呈しています。加えて、2019年には4.9兆円だった旅行消費額が、今年はV字回復し5.9兆円になるという推計も出ています。日経平均株価もバブル後最高値をつけており、国内設備投資額は製造業で2010年以降で最大規模となっています。色々社会課題は多いものの、日本復活の明るい兆しも見えてきています」

この回復を一時的なものとせず、持続的に成長させていくためのキーとなる一つが「データ活用」だと言います。

「データ成熟度が上がると年間収益が上がるという調査や、顧客データの流通量が2倍に増加すると実質GDPを22兆円押し上げる効果があるという総務省の調査結果もあります。そういう意味で日本復活はまさにデータ活用にあると思っています」

生成AIの効果を最大化する「自社データ連携」

ChatGPTに象徴されるように2023年は生成AI元年であり、このテクノロジーの進化には驚いたと今井は続けます。

「スマートフォンが出てきたときもこんな活用ができるんだと驚いたものの、それを上回るぐらいの驚きです。自然な会話で課題の深堀りや新たな視点の提供などすごいなと思います。一方、誤った情報や無難な回答が多かったり、プロンプトの指示が面倒だという意見もあります。

ここで皆さんに問いかけたいのは、だいたいこんなものかと使うのをやめてしまってはいませんかということです。生成AIが本領を発揮するのはこれからです。生成AIは自社データと連携して最大の効果を生み出します。今日は自社データと生成AIを連携して活用している事例をたくさんお話したいと思っています」

ソフトバンクの生成AI活用事例

ソフトバンクでは、今年の5月から全従業員2万人が生成AIを使えるセキュアな環境を構築し、7月には「ソフトバンクAI倫理ポリシー」を策定し、安全なAIの活用を推進しはじめました。

「営業部門では、20~30代の若手社員が生成AIを営業用に最適化し、全体で利用しています。ソフトバンクの提案書やお客さまとの取引事例、プロダクト情報、FAQなど社内のデータを生成AIとリンクさせて、より実効的な回答が出てくる※ようにしています。例えば、既存の取引を把握していてお客さまにあった回答をするようになっているので、『最適な商材はこういう内容ですよ』ということが出てきます」

※一部のデータ連携はこれから実施予定

営業部門だけに留まらず、カスタマーサポートや技術、IT部門、人事なども生成AIを使っています。新しいテクノロジーを真っ先に自社で使い、その体験をもとにお客さまにサービスを提供していくのがソフトバンクのポリシーだと述べました。

自治体や企業での活用事例

事例もいくつか出てきており、実際に日向市様で生成AIの導入も進みはじめたと今井は続けます。

「自治体では20年ほどで約48万人もの職員数が減少しており、業務の改革をしていかないといけないというお話をいただいています。日向市様では、ソフトバンクからメンバーが出向し、議会答弁や議事録などに生成AIの活用を進めていきます。また将来的にはLINEと生成AIを活用し、市民とのコミュニケーションをとっていきたいと構想しています」

 

また医薬品の卸売・販売会社であるアルフレッサ様とは、約2年前から特に負荷の高い4部門でBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)※を実施し、抜本的な改革を進めてきました。

「4割程度をデジタルに置き換えていきたいというご要望があり、目標として年間100人くらいの規模の業務で約2.7万時間を作り出していこうということになりました。その中心になったのが生成AIでした。負荷の多い業務として社内での問い合わせがあったので自社データベースを作って生成AIと連携させ、人事規定やマニュアル、医薬品の用語や内容への問い合わせに自動的に回答する。そんな仕掛けをちょうど構築しています」

※BPR:企業の業務プロセスを再設計し、効率化や品質向上を図るための手法

また、現在、ソフトバンクではプラグイン・エコシステムを準備しており、さまざまな職種の定型業務に生成AIを活用できる仕組みを構築中です。プラグインする機能を選ぶだけで、自社データに基づく回答が得られるため、個別開発する必要がなくなり手間が省けるようになります。

海外での生成AI活用

諸外国では、生成AIの活用がより進んでいると今井は続けます。

「スーパーマーケットを展開するカルフール社では、ECサイトに生成AIのチャットボットを搭載しています。例えば、『予算70ユーロで1週間の4人分の献立を考えて』と依頼すると、具体的なメニューを複数考案してくれ、買い物リストが作られます。
今までのECサイトは顧客の『これを買おう』という顕在化したニーズに応えていました。しかし、生成AIの時代ではこういう献立ならこの品物も必要ですよと向こうから問いかけてくる。『これも買おう』と思わせる、小売業の顧客体験を刷新する事例です」

 

小売業では、縦型ショート動画やライブ配信で販売や販促を強化する『Firework』が、動画データをもとにお客さまにあわせた『バーチャル店員』を生成し、お客さまごとに的確な商品紹介や回答を行っています。

「生成AIと連携することで、例えばお客さま好みの商品訴求ができるようになります。バーチャル店員も生成AIでできていて、例えば関西出身だから関西弁でしゃべってほしいということができたり、どんどん楽しくなっているんです。『あのバーチャル店員から商品を買いたい』など、そんな話も出てくるようになると思います」※来年から実用化予定

 

また、インシリコ・メディシン社ではAIを使って創薬のプラットホームを作っており、自社データの学術論文、臨床試験の結果などを入れて生成AIで組み上げたプラットフォームを利用して臨床試験を行っていくことで、新薬の開発期間が3分の1になり、費用も10分の1になったと発表されています。

 

「海外の事例ではコストダウンだけでなく、サービスの機能拡張や顧客体験の進化など、革新的で今までと違うサービスが生み出されています。生成AIとデータ活用は初期段階ではありますが一歩ずつ踏み出しているところです」

自社データを使って企業の競争力を高めていく

生成AIは「黎明期」の段階で、現在の利用方法やユースケースはあくまで可能性の一端に過ぎません。今井はそのような状況の中で、『生成AIをを使うか使わないか』は『成長するか衰退するか』間違いなくこの差が出てくる時代になるため、生成AIと自社データの活用を皆さんと一緒に行っていきたいと述べました。


本講演の後半では、生成AIの未来や可能性、全日本空輸株式会社、住友生命保険相互会社、本田技研工業株式会社の方々にもご登壇いただき自社のデータ活用事例について講演を行っていただきました。以下の動画よりご確認ください。

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