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現実の要素を仮想空間で再現するデジタルツインは、さまざまな分野での活用が進みつつある。 コスト削減や効率化に欠かせないこの技術は、今後どのように発展するのでしょうか。また、自治体ではどのような活用の可能性があり 、そのためにはどんなテクノロジーが必要なのでしょうか。
「テクノロジーの新潮流。今、世界が動きだす。」をテーマに開催された、ソフトバンクとして最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2023」では、デジタルツインの実装経験がある静岡県の担当者が登壇し、現場視点のリアルな実装の様子について、事例を交えながらディスカッション形式で講演を行いました。
本記事は、2023年10月4日に配信されたSoftBank World 2023での特別講演を再編集したものです。
杉本 直也氏
静岡県デジタル戦略局
参事
德永 和紀氏
アビームコンサルティング(株)
シニアマネージャー
野田 真
ソフトバンク(株)
常務執行役員
建物や道路などのインフラ、経済活動、人の流れなど、現実のさまざまな要素を仮想空間で再現する技術「デジタルツイン」。新たな社会課題の解決手段として注目されるこの技術は、自治体においても活用が進められています。
静岡県では「バーチャル静岡構想」を掲げ、防災をはじめ県が抱える課題に対して、デジタルツインを活用した取り組みを進めています。静岡県デジタル戦略局 参事 杉本 直也氏はその内容を次のように語りました。
「静岡県では、航空レーザーで測量した『点群データ』(細かい無数の”点”で各要素を構成したデータ)によって県土のイメージを表現しています。このデータの一番の目的は災害への備えにあります。データ処理を行うことで、災害時にどのような形で土砂が動くのか検証できたり、危険な現地での測量作業が不要になったりします。また、活用している点群データはものすごく高密度なので、地形や水の溜まる場所などを正確に把握することができます。この測定できる密度の差によって、実際の結果とも結構な差が出てきてしまいます」
デジタルツインの構築に必要なテクノロジーを開発しているソフトバンクの常務執行役員 法人事業統括付 野田 真は、「デジタルツインは防災のほか産業インフラ、MaaS、観光などさまざまな分野で将来欠かせないツールとなる」と続けました。
「ソフトバンクではデジタルツインの実現のために、3Dモデリングをはじめさまざまなテクノロジーを開発しており、その中の一つに政府主導で整備の検討が進んでいる『空間ID』というものがあります。日本の住所番地は日本語ベースで複雑な住所体系になっていますが、屋内外で座標系が全然違うという課題があります。そこで、一意に”この物体はどこにある”ということを誤解なく伝わるような、新たな住所データとして『空間ID』の整備を進めようとしています。これにより、自動運転社会や配送インフラの整備のサポートをしたいと考えています」
将来的な需要を見越し、デジタルツインに関する研究・開発は次々と進んでいます。しかし、当然ながら自治体で負担できる金額には限りがあるため、その構築にどれだけの費用負担が必要となるかは1つのポイントになります。杉本氏は静岡県での予算確保の例を次のように語りました。
「データの取得には約17億円、3ヵ年で予算を取っています。災害への備えを目的にしていますが、いつ来るか分からないものだけに数十億円も確保するのはなかなか難しい。そこで、内閣府や国交省の交付金や補助をうまく活用するとともに、他分野でのユースケースを見せながら、災害対策以外にもこのデータが使えるという価値を伝えていくことが必要でした」
この点に対し、アビームコンサルティング株式会社 DXIビジネスユニット シニアマネージャ 徳永 和紀氏は、行政ならではの内部調整に必要な視点について補足しました。
「地方自治体では、”県民や市民の方に役に立つサービスを提供するために、その基礎となる点群データが必要”というロジックがないとなかなか予算は確保できません。静岡に関しては、地震への備えという点では皆さん理解を示しますが、ただそれだけで17億必要となると話が止まってしまいます。
そこで、先ほど出たように観光振興やMaaS事業など他分野にもデータを利活用できることを伝える必要がありますし、そのために必要な機能は、できれば後付けではなく最初から予算に組み込んだ方が良いと思います。さらに言えば、静岡の場合は全土の点群データを取得していますが、人口が少ない地域に関しては必ずしもそれは必須ではなく、目的に応じて局所でデータを取る、というのも低予算ではじめる一つのアプローチだと思います」
ここまで、静岡県の取り組み事例を中心にデジタルツインの必要性と重要性が語られてきました。その中でも、野田は防災分野での活用可能性を強調します。
「さまざまなユースケースの話が出ましたが、やはり防災という切り口が一番重要かつ導入の入口になると思っています。一般の方には、結局発災まで使わないのでは、と見られてしまうかもしれませんが、決してそんなことはなく、シミュレーションによって想定できるパターンが大きく変わったり、災害の状況をスピーディに把握できたり、また、復旧を早めるための土木業者や運送会社との素早いデータ連携という点でも活用の価値があります」
これに対して杉本氏は、防災以外に産業振興分野での活用可能性を示唆します。
「産業の誘致にも有益です。デジタルツインを活用し、例えば工業団地などを誘致する際、事前にどれだけの土量が入るかなどを仮想空間内で計測、3D設計をすることで、造成にかかる費用をシミュレーションしながら見積とうまく合わせていくこともできると思います」
この点について徳永氏は、「誘致にあたって必要となる細かな数量をデジタルツインで計測し、かつその情報をWebサイトなどでしっかり発信することで、誘致のチャンスを逃さずに掴むことができる」と続けました。
さまざまな社会課題の解決に可能性が広がるデジタルツイン。最後のセッションでは、その構築・活用に向けた課題について登壇者3名がそれぞれの考えを述べました
徳永氏は、「利用者が誰か」を明確にすることが重要だと強調します。
「例えば、防災の分野では行政職員が利用する目線で考え、特に災害前においては消防庁や消防課、建設局、土木局の職員が利用するなど、”誰がそれを利用するのか”を明確にした上で話を進める必要があります。ビジネスの成果を引き出すためには行政側の”何をやりたい”ではなく、”利用者は誰か”の視点を持つことで、必要な機能、不要な機能などの議論がよりスマートにできると思います」
野田は、民間企業の視点で次のように続けます。
「新しいテクノロジーを使う議論になったときに、ビジネスモデルが成り立つのか、さらに利用者は誰で、事業の発展性や継続性があるのか、コスト、適正な利用料金というものを考えることで、事業性の判断を行います。そのため、2年目以降の継続性・発展性がないと、民間企業としてなかなか進めにくいところがあります。デジタルツインのユースケースにおいても、やはりその考え方は必要ですし、課題だと感じています」
杉本氏は自治体の立場として、次年度以降の事業継続性を課題としつつも、デジタルツインだからこそトライできることがあると述べました。「デジタルツインの環境というのは、失敗を先取りできるのが大きな利点だと思っています。行政は、やはりリアルな空間の中での失敗には慎重にならざるを得ないですが、仮想空間の中であれば色々とトライアルができます。そこで多くの失敗を経験することで、地元の合意形成や行政の意思決定を済ませた上でリアルの空間に構築していく、そのような納得感のある街づくりを目標にしていきたいと思います」
行政と民間企業が手を取り活用を進めるデジタルツイン。誰が利用するかという視点を持ち、多分野での事業性・発展性を考え続けることで、失敗を恐れずトライできる新たな街づくりの手段になり得ます。静岡県をはじめ、今後の自治体での活用に、大きな期待がかかります。
「ぱわふる」は『Power of Furusato(ふるさとにパワーを)』をコンセプトとし、自治体が抱えるさまざまな課題を解決するための自治体ソリューションや自治体導入事例を紹介しています。
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