プロジェクトストーリー ヘルスケアアプリHELPO

健康医療相談をチャット形式で
24時間365日受付、
重症化を防ぎ、セルフケアをサポート

「超高齢化」「労働人口減少」「地方過疎化」「インフラ老朽化」など
数々の深刻な社会課題を抱える日本。
今、問題解決のカギとして注目されているのが
テクノロジーによる変革=デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。
SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む企業も増え、
今や社会課題の解決は企業の成長戦略とも密接に絡み合い始めている。

2017年に新設されたソフトバンクのデジタルトランスフォーメーション本部(DX本部)は、
その名の通りDXを主軸とした新規事業を創出し、
さまざまなパートナー企業と共に社会課題の解決に取り組んでいる。
その中でも医療/ヘルスケア領域の問題は緊急度の高いテーマの一つに挙げられており、
本部発足当初から検討を進めていた。
ヘルスケアテクノロジーズ株式会社はこの社会課題解決を目的として設立され、
2020年7月より提供を開始したヘルスケアアプリ「HELPO(へルポ)」はその第一弾のサービスである。
本記事では、HELPOの立ち上げと推進に携わってきた社員たちの姿に迫る。

  • 鴻池 大介 DAISUKE KONOIKE

    法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部
    第二ビジネスエンジニアリング統括部 ヘルスケア事業推進部
    部長
    2005年度新卒入社

  • 岡留 好人 YOSHITO OKADOME

    法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部
    第二ビジネスエンジニアリング統括部 ヘルスケア事業推進部
    事業推進1課 課長
    2012年度中途入社

  • 新井 崇仁 TAKAHITO ARAI

    法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部
    第二ビジネスエンジニアリング統括部 ヘルスケア事業推進部
    マーケティング課
    2013年度新卒入社

  • 今井 隆二 RYUJI IMAI

    コーポレート統括 人事本部 組織人事統括部 組織人事3部 部長
    2004年度中途入社

Episode.1 日本の医療が抱える課題をDXで解決する

2020年7月にローンチされたHELPOは、ソフトバンクのグループ会社であるヘルスケアテクノロジーズが提供するヘルスケアサービスだ。主な機能の一つであるオンライン健康医療相談サービスは、24時間365日、スマートフォンなどを通じてチャット形式で健康維持や病気予防などの相談を受けることができ、ヘルスケアテクノロジーズに所属する医師・看護師・薬剤師の専任チームが対応する。会社として応対の品質が管理されているという特徴があり、サービスの強みとなっている。

さらには相談サービスだけでなく、現在地や診療科などさまざまな条件から日本全国の病院を検索できる機能、ヘルスケア商品を短時間で配送できるECサイト「ヘルスモール」といった付帯するサービスもある。2021年6月中にはアプリユーザー向けにオンライン診療サービス機能の提供も開始予定とのことだ。今後はアプリユーザー向けの機能拡張はもちろんのこと、日本の医療を支える病院やクリニックの現場業務を幅広く支援するサービスの提供も目指し、将来的には関係する全てのステークホルダーを支えるヘルスケアプラットフォームの提供を見据えている。

そもそも、なぜソフトバンクがヘルスケア分野に挑むのか。その背景について、ヘルスケア事業推進部 部長の鴻池はこう説明する。「DX本部として重要視していた課題の一つに日本の労働人口の減少があります。その観点から重点的に取り組むべき事業領域を検討した結果、医療従事者の労働人口の減少という課題に行き当たりました。日本の医療費は年々増大し、医療現場は疲弊しています。このままでは今の日本の素晴らしい医療技術や制度を、子どもやその孫たちなどの次世代に引き継ぐことは難しいと考えています」

だがソフトバンクにとってヘルスケアビジネスは難問でもあった。参入ハードルの一つは、日本の国民皆保険制度にあった。諸外国と比べて保険制度が充実しており、質の高い医療が安価で身近に存在する日本では、ヘルスケアへの意識が薄れがちだ。それゆえに日本でヘルスケア事業を展開し、ビジネスとして成り立たせることは難しい。

事業化の障壁は高いが、日本の医療現場が疲弊している事実が揺らぐことはない。そんな中、社会課題の解決を命題に掲げて設立されたソフトバンクのDX本部。困難な領域であることは承知の上で、ソフトバンクはDXという文脈からヘルスケア分野に挑むことを決意した。

Episode.2 HELPOというサービスを具現化するまでのプロセス

HELPOの立ち上げプロジェクトは、2017年にソフトバンクのDX本部内のプロジェクトの一つとしてスタートした。DX本部では小売、物流、スマートシティなどさまざまな分野で新規事業の創出に取り組んでおり、その中の一つの分野がヘルスケアだった。HELPOの企画段階から携わってきた岡留は当時を振り返る。「最初はわずか3人のチームでスタートし、ヘルスケア領域で何ができるのか議論を重ねました。日本の医療が抱える課題は明確であり、予防医療やセルフケアの観点からオンラインの健康医療相談サービスというアイデアが生まれましたが、そう簡単には社内の承認が下りませんでした」

往々にして新規事業創出における第一の障壁は社内の合意を得ることだ。当時、DX本部長がしきりに発していた言葉がある。それは「Why SoftBank?」という言葉。なぜソフトバンクがやるべきなのか、本当に世の中のためになり、勝算のある事業なのかーー。先述したように日本でヘルスケア事業を成立させることは容易ではない。しかし、海外では既にオンラインのヘルスケアサービスは存在しており、長期的には必ず日本でもサービスの需要が高まるはずだ。そのことを確信していた岡留は経営会議に先立ち、経営企画や財務部門などへの説明に奔走した。却下された回数は数え切れないが、さまざまな苦労を乗り越え、2018年10月、ソフトバンクのグループ会社としてヘルスケアテクノロジーズが設立された。

一方、会社設立の承認に際しては、BtoCからBtoBという事業コンセプトの転換も大きなポイントになった。鴻池によれば、当初のHELPOはコンシューマ向けのBtoCビジネスを検討していたという。しかしBtoCでは広く認知を得る必要があり、多額の広告宣伝コストなど、事業面でのハードルも多い。「将来的にはコンシューマ向けに広く展開したいという方向性は変わりませんが、日本市場で本当に受け入れられるかの見極めも必要です。そこで、昨今注目が高まっていた”健康経営”に着目し、まずはBtoBのビジネスとして提供することを決めました」

ヘルスケアテクノロジーズが設立された後、サービスの心臓とも言える医師・看護師・薬剤師などの健康医療相談チームの人材採用に尽力したのが今井だった。今井はヘルスケアテクノロジーズの人事責任者として人材の採用と入社後の支援、人事制度の設計を通じて組織作りに携わっている。「医療現場にいる人ほど予防医療やセルフケアの必要性を強く感じており、HELPOの意義はスムーズに理解してもらえました。一方で採用以上に大変だったことは、ソフトバンクと医療従事者との間の価値観のマッチングです。医療従事者のトッププライオリティは患者さんの命や健康であり、ビジネス・スピードの観点を追求すると彼らの思いと乖離が生まれてしまいます。ソフトバンクのビジョンを直接伝えたり、膝を突き合わせて議論したりと、価値観のすり合わせには力を注ぎ、丁寧に対応してきました」と今井。

HELPOのマーケティングや広報に携わる新井も、ソフトバンクと医療従事者という異なるカルチャーの交わりを感慨深く振り返る。「事業会社出身である私たちは収益性やスピードを重視しがちですが、医療従事者の方々は経済性よりも患者さんの健康への貢献を強く考えます。お互いに意見をぶつけ合いながら議論を重ね、細部まで突き詰めてサービスを設計し、無事にローンチすることができました。もし、他の事業と同じスピード感で進めていたら思わぬ事故が起きていたかもしれません。医療従事者の方々と共に進めてこれたからこそ実現できたサービスだと思います。今も多くのことを勉強させてもらっています」

Episode.3 新型コロナウイルスにより事業が急加速

SDGsや健康経営への注目が高まってきている中、将来的に予防医療やセルフケアの意識が高まり、世の中のニーズとHELPOが合致する時代が来ることは間違いない。しかし、その時期がいつになるのかは分からない。ヘルスケアテクノロジーズの経営計画においても、サービスを本格的に提供できるまでは多少の時間が必要だろうと想定していた。

事実、岡留はHELPOのローンチ前から法人や自治体への営業に回っていたが、当時はまだ鈍い反応が多かったという。「なぜ企業や自治体でオンラインの健康医療相談サービスが必要なのかと、HELPOの必要性を理解していただけないことも多かった」と岡留。しかし、ローンチが迫ってきた時期に、予想もしなかった社会変化が起きた。新型コロナウイルス感染症の流行だ。

社会や経済が大きなインパクトを受ける中、日本におけるヘルスケア意識は、なかば強制的に引き上げられることになった。いつかは必ず来ると想定していた社会変化が、突然現実になったのだ。当時の変化を岡留は語る。「新型コロナウイルス感染症の影響が拡大し、お客さまの価値観がガラリと変わりました。予防医療の重要性が高まり、在宅勤務も増える中で、企業や自治体は社員や職員の健康を守る必要が生じました。HELPOはそのためのサービスとして、多くのお客さまから必要とされるようになったのです」。HELPOのトライアルは好調に推移し、予定よりも早くサービスを開始した。

それからの動きは激しかった。こちらからお客さまにアプローチするだけでなく、導入済みのお客さまからの紹介や問い合わせも増えてきた。増え続けるお客さまの対応に追われながらも、導入後の利用促進のためにカスタマーサクセスの部門も急遽新設。決して人員が多いとは言えないスタートアップ企業ゆえの限られたリソースの中、部署の垣根を超え、マーケティング部門などがお客さまのサポートにも当たった。「こうした柔軟な対応ができるのはスタートアップ企業の良さですね」と新井。事業の急加速という荒波に揉まれながら、ソフトバンクからの出向者や医療従事者など、全てのメンバーが一体となって変化に対応していった。

ニーズの急増に加え、鴻池にとってもう一つ驚きだったことがある。「企業の産業医の方々からも好意的な反応をいただけたことです。産業医の仕事を多少なりとも奪う可能性がありますし、フェイス・トゥ・フェイスで従業員に向き合っている方からすれば、オンラインのサービスはネガティブに捉えられると思っていました。HELPOの意義を改めて確認できましたね」

さらに想定外の展開としては、新型コロナウイルスの第三波が押し寄せていた2020年12月に、ヘルスケアテクノロジーズはソフトバンクグループの子会社であるSB新型コロナウイルス検査センター株式会社と連携し、PCR検査業務の支援をするサービスを提供することになったことだ。両社が最大規模で検査業務を受託した福岡市では、医療施設・高齢者施設・障がい者施設などの従事者およそ11万人を対象にPCR検査が実施された。大規模PCR検査のスキーム構築においてカギを担ったのはHELPO。HELPOのアプリ上で検査の予約や検査結果の確認を行えるようにしたことで、スムーズな流れを実現したのだ。

Episode.4 日本の医療を未来に引き継ぐために

新型コロナウイルス感染症により世の中のニーズが変わり、当初の計画を超えるスピードでHELPOを立ち上げることができた。今後はさらに導入企業・自治体の数を増やし、導入後の利用率を高めるための取り組みも進めていく。

それでもまだ、日本の医療課題を解決するという目標からすれば十分ではない。本来の目標を実現するには、コンシューマー向けのサービス展開も不可欠だ。人々の意識を変えるには時間がかかると覚悟していたが、想定していなかった社会変化が起きた今、BtoCの展開も現実的な距離にまで急接近している。「ソフトバンクで初となる、ヘルスケア分野で大成した事業に育てていきたいです。決済ならPayPay、ヘルスケアならHELPOというように、人々に広く認知されるサービスになりたいですね」と岡留は展望を語る。

最後に、日本の医療の未来について鴻池は熱い思いを明かしてくれた。「私たちはヘルスケアのDXを実現し、世界トップレベルと言われる日本の医療を次世代に引き継いでいきたいと考えています。そのためには企業や自治体だけにサービスを提供するのではなく、一般の方々に対しても広く展開していくことが不可欠です。HELPOが目指しているのは、人々のヘルスケアに関する意識を変えて、健康増進や医療資源の最適化、国民皆保険の維持に貢献すること。ヘルスケアのプラットフォームとして、日本の医療を支えていきたいですね」

人々の健康と医療をDXするーー。巨大なテーマではあるが、HELPOがヘルスケアサービスとしての成功モデルを確立できれば、日本の医療問題は解決に向けて前進することになる。新型コロナウイルスにより社会が大きく変わる中、HELPOは人々の健康と医療のあり方を変革することになるかもしれない。

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