「一つのプロジェクトのために、複数の部門を跨いでこれだけのメンバーがそろうことはまずない」とプロジェクトマネージャーの内田は振り返る。上述の大手製造小売業は生産や物流、店舗管理などの役割を担う複数部門を一つの場所に集め、各部門間で常に連携しながらビジネス展開を加速させるための働き方改革プロジェクトを進めてきた。2018年2月、その改革をさらに加速させるための起爆剤として「G Suite」導入構想が浮上し、「世界中にいる社員間コミュニケーションを円滑かつスピーディーにしたい」という大きな期待を込めて、法人顧客のデジタルトランスフォーメーションを手掛けるソフトバンクに相談が持ちかけられた。
通常、1万ライセンス以上の「G Suite」導入でも大規模案件として取り扱われるが、今回持ち込まれたライセンス数は規格外だった。さらに、この顧客は当時、他社のクラウド型グループウェアを利用していたが、当然ながらこの2つのサービスには明確な機能差分があり、使い勝手や仕様、ユーザーインターフェースも大きく異なる。だからこそ、切り替える意味があるとも言えるが、今回の「G Suite」への切り替えの影響範囲は顧客のコミュニケーション基盤のみならず、ITインフラ全体に及ぶ。正式に「G Suite」の導入を決定してもらうためには、切り替えを進めた場合にどのような影響があるのかを想定し、またどれだけのコストがかかるのかを算出して、提示する必要がある。あくまで概算という前提ながら、自社のサービス提供範囲はもちろんのこと、顧客が合わせて利用を検討する他社サービスの提供範囲も試算対象となり、切り替えのための総コスト算出には2カ月間の時間を費やすことになった。
営業担当は取引先のアカウント担当に抜擢されたばかりの湯浅。湯浅が作成する提案書(RFP)のベースとなる「影響範囲の調査」と「総コスト算出」のために、「G Suite」の専門SEを含む主幹3人に加え、プロジェクトマネージャー、運用設計担当、ネットワーク担当、グローバル担当、モバイル担当など、各領域の専任者が選出され、総勢10名以上の大プロジェクトをスタートさせた。