
DiDiとは、本社を中国の北京に置き、タクシー配車やライドシェア、バイクシェア、フードデリバリーなど、世界最大級の交通プラットフォームを運営するグローバル企業だ。アプリケーションの登録者は5億5,000万人以上、1日当たりの乗車数は3,000万件にも昇り、世界的に名の知られるユニコーン。2018年2月にソフトバンクはDiDiとの協業を発表、同年6月には両社のJVであるDiDiモビリティジャパンを設立し、 DiDiの革新的な人工知能とデータ分析技術を活用したタクシー配車プラットフォームサービスのトライアルが2018年秋より始まった。ソフトバンクはDiDiとの協業をどのように軌道に乗せたのか?
さかのぼること2017年秋。DiDiとの協業検討プロジェクトが発足。プロジェクトの初期メンバーは3人。
これまでも多くの新規事業の立ち上げを手掛けてきた高野がリーダーを務め、投資契約の経験が豊富な安藤がメンバーに加わった。2017年12月、プロジェクトメンバーは、DiDiの本拠地がある北京を訪れていた。DiDiが手掛けるタクシー配車アプリで試乗し、中国でDiDiを利用する顧客のニーズや満足度を探るところからプロジェクトはスタートした。日本でサービスを開始する際の障壁を把握し、プロダクトやビジネススキームをどう日本向けに構築するかを検討するためだ。過去にサイバーリーズン・ジャパンを3カ月の短期間で設立し、サービスの市場投入を成し遂げた経験を持つ高野は、このDiDiプロジェクトが高難易度の案件になるとは、この時はまだ予想していなかった。

DiDiとの交渉がスタートし、最初に困ったのは、「DiDiの担当者が見つからない」ことだったと高野は振り返る。「スタートアップは100人未満の小さな組織体であることが多いです。DiDiの場合はスタートアップでありながら、従業員8,000人を超える大企業。急拡大中の組織において、担当者が次々に変化する。チャット文化が普及しており、メールをしても返信が得られず、いったいDiDiの誰と話をすれば物事が正しく進むのか、それを理解するのにとても時間がかかりました。」
2018年2月の協業発表後、プロジェクトは本格稼働を開始した。プロジェクトのコードネームは「Project PANDA」。DiDi側から「我々はJAPAN DREAM TEAMなんだ」という話を受け、このスペルの中から文字を抜き取り、名づけられた。メンバーは徐々に増え、気づけば100人を超える大プロジェクトになった。

ソフトバンクに中途入社するやいなや、「Project PANDA」に参加することとなった土屋は、入社後一週間余りで高野らと共に中国へと飛んだ。そのミッションは、DiDiのプロダクトである、アプリなどのローカライゼーションに向けた交渉だ。日本と中国とでは、タクシーにまつわる法規制や、タクシー配車システムなどに大きな違いがある。プロダクトを日本向けにカスタマイズしなければ、日本市場では受け入れてもらえない。しかし、プロダクトの仕様を決める交渉は一筋縄ではいかなかった。それはグローバル企業とのJVだからこそのポイントだと高野は語る。「DiDiがグローバルスタンダードに合わせたい一方で、ソフトバンクとしては日本での使いやすさが最優先。そこをすり合わせるためのコミュニケーションにはとても気を遣いました」