ソフトバンク流、幸福度を高めるスマートシティのつくり方

2020年3月30日掲載

目次

2020年1月22日、日建グループ主催による「NIKKEN FORUM」が開催された。イベントのテーマは「共創で描くスマートシティ」

ソフトバンク株式会社 代表取締役 副社長 今井康之氏は同イベントに登壇し、アリババやグーグルなどのテックカンパニーが主導する最新のスマートシティ事例を紹介しながら、ソフトバンクのスマートシティへの取り組みと今後の展望について語った。
2020年中に予定している竹芝へのソフトバンクの本社移転。同地区を実験場としたソフトバンクのスマートシティ構想の全容とは――。

今井:今回の講演のテーマは「共創で描くスマートシティ」。日建設計さんとは、2年前に業務提携を行い、IoTや5Gなどのテクノロジーを街づくりにどう応用するべきか、議論させていただいています。

「共創で描くスマートシティ」というテーマを考えるにあたっては、「何が日本の課題か」という話からはじめなければなりません。現在の日本は、非常に深刻な人手不足に陥っています。また、日本は世界で最初に超高齢化社会に直面している国でもあります。日本がこれらの課題を、どのようなソリューションで解決していくのか、今、世界中から注目をされています。

課題解決に向けて、これから日本は国を挙げ、業界・業種を横断して、街づくりをしていかなければなりません。

テックカンパニーによる世界の街づくり

今井:世界では、さまざまな「横断型の街づくり」がはじまっています。

中国の杭州は、リアルタイムにデータを収集・共有することで都市の問題を解決している最先端の都市です。杭州では、車両や監視カメラからデータを横断的に収集し、信号機の制御や移動ルートの最適化を図ることで、渋滞が15%緩和され、緊急車両の到着時間を50%短縮することに成功しています。

また、社会インフラとビルのデータを連結させながら、集中管理する都市の仕組みもできあがっています。例えば、IoTセンサが建物で火災を検知すると、自動で消防局に連絡がきて、消防隊が出動。信号をコントロールして素早く現場に到着。火災現場の周辺情報や建物のデータなども移動中に共有。このようにCity Brainと呼ばれるような、都市のデータを収集し、リアルタイムに社会インフラをコントロールするというところまで、もうテクノロジーは進んでいるのです。

もう1つの事例はカナダのトロントです。アルファベット(グーグルの親会社)傘下のサイドウォークラボは、街のあらゆる場所にカメラやセンサを設置し、都市データを収集することで、ハードのあり方を柔軟に変更するという試みをスタートさせようとしています。

例えば曜日や時間帯に合わせて、交通量が少ないときは道路を公園にし、通勤時間帯には自転車レーンを設けるなどの計画が検討されています。

この2つの都市に共通する点は、テックカンパニーが、街づくりのコーディネーター役になっているということです。スマートシティのプラットフォームを杭州ではアリババが担い、トロントではグーグルが担おうとしています。

アリババは、アリババクラウドというクラウドサービスによって、スマートシティに必要な2,000以上のサービスをメニュー化し、既に23の都市に提供しています。テクノロジーによって街づくりをする時代が到来しつつあるのではないかと思います。

過疎地域におけるソフトバンクのスマートシティへの取り組み


今井:ではソフトバンクはどうか。まず言えるのはソフトバンク1社では何もできないということです。

ソフトバンクはさまざまな企業の皆さまとの「共創」によって、スマートシティへの取り組みを進めてきました。最初にスタートしたのは日建設計さん。公共インフラでいえばパシフィックコンサルタンツさん。行政でいえば36の自治体と連携協定を締結しております(2020/1/22時点)。

スマートシティには、過疎地域を対象にしたものと、都市部を対象にしたもの、この両方があります。まず過疎地域のスマートシティ化から紹介していきたいと思います。

高齢化が進む日本では、買い物に行けない人も増えています。さらに、無医地区が637地区。通院することも困難になっておられる高齢者の方が非常に多くいます。一方で、地方の交通インフラを支えるバス会社の83%が赤字。もう事業として成立しない状況です。私たちはこのような社会問題に向き合い、解決していかなければなりません。

そんな中、ソフトバンクは、2018年10月にトヨタ自動車と新会社を設立することを発表しました。モネ・テクノロジーズという会社です。モネ・テクノロジーズが目指すのは「人」に合わせて「サービス」が移動する世界。通院や買い物における交通弱者や採算の合わない地方交通に対して、ソリューションを提供していきたいと考えています。

2019年12月時点で、モネ・テクノロジーズには自動車メーカ8社(国内自動車占有率:76%)が参加。サービス企業458社がコンソーシアムに加盟。32の自治体と連携協定を締結しているほか、380以上の自治体と連携協議中です。これらの企業、自治体の皆さんと一緒に、理想の街づくりについて協議しながら、交通面のソリューションを提供していくのがモネ・テクノロジーズです。

長野県の伊那市では、フィリップスさんと一緒に、通院できない患者に対して、医師による診察を遠隔で受けられる移動診察車の実証を開始しています。医療系サービスには、厚労省や国交省それぞれの規制があります。それらを横断的に解決していく仕組みを、モネ・テクノロジーズが提案していきたいと考えています。

都市部におけるソフトバンクのスマートシティへの取り組み

今井:次に都市部における取り組みです。ソフトバンクは2020年の秋に本社ビルの移転を予定しています。ビルのテナントとして入居するだけでなく、竹芝地区におけるスマートシティの共創に取り組みます。ソフトバンクが提供するIoTプラットフォームによって、街で生まれるデータを収集・解析・活用し、働く人・住む人・訪れる人にとって利便性の高い街づくりを実現したいと考えています。

例えば、電車が遅延したとき。駅に到着する前に通知され、現在利用できる交通手段を提案してくれる。また、ランチタイムには周辺のお店の空席情報が分かるほか、街に訪れた人にパーソナライズされたコンテンツがサイネージに表示されるという仕組みも検討しています。セキュリティ面では、不審者をAIが映像解析で検知したら、一番近い警備員に自動通報されるといったこともできます。

これらの仕組みを、「データのリアルタイム活用」を実現するVANTIQ社と連携したIoTプラットフォームによって実現させ、インフラ点検、オフィスIoT、MaaS、防災管理、ビル管理、地滑り検知などのサービスを提供していきます。

また、先ほどアリババクラウドが提供しているスマートシティサービスについてお話させていただきました。アリババグループとソフトバンクの合弁会社であるSBクラウドがハブとなり、スマートシティソリューションを竹芝地区でも展開していきたいと考えております。

さらに、ソフトバンクが用意したIoTプラットフォームを、ビル入居企業、デベロッパー、テナント企業、ビルマネジメントなどの竹芝に集うサービス事業者に提供することで、さまざまな新しいサービスが生まれるでしょう。そして、モネ・テクノロジーズをはじめとするソフトバンクグループ企業のサービス群もスマートシティ実現に貢献してくれることを期待しています。

スマートシティの本質とは

今井:スマートシティの本質とは何でしょうか。データ活用により便利になるだけでは、スマートシティとはいえません。結局、中心にいるのは「人」です。彼らの幸福度が高くなる、そんな街づくりをすることがスマートシティの本質ではないでしょうか。

幸福度世界ランキングの上位は北欧の国が占めています。この一因には「頼れる社会福祉」があります。また、日本の都道府県別の幸福度ランキングの1位は福井県。これは、3世代にわたる大家族世帯が多く、いろいろと面倒をみてくれる、つまり「頼れる家族」がいるためです。幸福度の高い街づくりには「頼れる存在」が不可欠なのです。

「頼れる存在」とは、つまり人の悩みや企業の課題をすぐに解決できる相手がいるかどうか。ソフトバンクの街づくりでは、人と人、企業と企業がつながる仕組みを大切にしていきたいと考えています。

先ほど2つの都市をご紹介しました。各都市で、なぜアリババやグーグルが頼れる存在として認められるのか、あるいは認められようとしているのか。それはやはり、人と人、企業と企業をつなぐ情報の伝達者であることが一番のキーポイントなのだと思います。

ソフトバンクは「共創」により、ここにおられる企業の皆さまと共に幸福度の高い街をつくっていきたいと考えております。ありがとうございました。

後記

世界各地でデータを横断的に収集・活用するスマートシティの構想がスタートしている。しかし、いずれの都市でも懸案となっているのは、住民や企業がデータをプラットフォームに提供するにあたっての信任だ。データ提供をするに値する価値を住民や企業に返すことができるのか。
今井氏が掲げた「人」が中心となる幸福度の高いスマートシティとは、ソフトバンクからデータ提供者に向けての約束とも言える。さしあたってソフトバンクの掲げる理想が結実する竹芝地区のスマートシティ構想が、どのような姿になるのか。今後の動向に期待したい。

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