2021年5月26日掲載
本記事は日経XTECH Specialに2021年3月16日に掲載されたものです。
テレワークの浸透により、多くの企業でデジタルツール導入やオフィス移動が検討されているが、意外に盲点なのが「固定電話をどうするか」という課題だ。電話番のために出社を余儀なくされるケースも後を絶たない。自宅にいながら「03」や「06」など市外局番から始まる電話番号で通話ができればどんなに楽なことか――ソフトバンクとマイクロソフトが開発した「UniTalk」は、そうしたニーズに応える次世代の音声コミュニケーション手段だ。両社が協業に至った背景や「UniTalk」がもたらす効果、音声が持つ可能性について両社に話を聞いた。
2021年が明けてすぐ、三大都市圏を中心に発出された二度目の緊急事態宣言。政府はテレワークの徹底を呼びかけ、事業者に対して出勤者数の7割減を要請した。東京都のデータによれば、2021年1月22日時点での都内企業(従業員30人以上)におけるテレワーク導入率は57.1%。300人以上に限れば76.5%となり、「予定あり」を含むと約8割に達した。
順調に進んでいるように見えるものの、その裏では“テレワークなのに出社あるある”の課題が散見される。帳票類の管理、それらに紐づく押印、ペーパーレス化されていない書類への対応ほか、出社が避けられないケースが相次ぐ。中でも電話番はテレワーク実現へのハードルの1つとなっている。
コロナ禍における企業の固定電話の課題には、オフィスでしか外線電話に対応できない、社員全員に社用携帯電話を配布する余裕がない、代表電話を携帯電話に転送しても分散応答・交代対応が難しいといったものが挙げられる。メールやオンライン会議、ビジネスチャットなどコミュニケーション手段が多様化した現在でさえ、電話の存在感は大きい。
こうしたジレンマを打開する策として、ソフトバンクがマイクロソフトと共同で開発した「UniTalk」が注目を集めている。「UniTalk」は、「Microsoft Teams」のユーザーがオフィスや外出先からPCやタブレット、スマートフォンなどを使って、固定電話番号(0AB-J番号)での発着信ができる新しい音声通話サービス。PBX(構内交換機)の設置や電話回線の敷設が不要かつ月額800円(税抜き)の定額で全ての国内通話を利用できる。電話のプロフェッショナルであるソフトバンクのネットワークとマイクロソフトの盤石なクラウドを閉域で接続するため、安定した通話品質を担保している。
PC、タブレット、スマートフォンなど「Microsoft Teams」が使えるデバイスであれば、場所を問わずに外線通話できるのがユーザメリットになる。さらに「03」「06」など市外局番から始まる「0AB-J番号」を利用できることから、自宅にいながらにしてシームレスに顧客業務対応が可能になる。先に挙げた、電話番でオフィスに縛られる課題を一気に解決するソリューションと言える。
日本マイクロソフト株式会社
マーケティング & オペレーションズ部門
Microsoft 365 ビジネス本部
製品マーケティング部
プロダクトマーケティングマネージャー
水島 梨沙 氏
「UniTalk」は、「Microsoft Teams」向けのフルクラウド型音声通話サービスとしては日本初であり、2019年8月から提供を開始しているが、導入が非常に容易かつコストメリットも大きいことから、2020年4月の緊急事態宣言以降、問い合わせが急増している。
もともと「UniTalk」は、ソフトバンクとマイクロソフトによる次世代コミュニケーション環境構築の戦略的パートナーシップに基づき開発を進めてきたものだ。日本マイクロソフト マーケティング & オペレーションズ部門 Microsoft 365 ビジネス本部の水島梨沙氏は、「『UniTalk』はソフトバンクと密接にコラボレーションを重ねながら、両社で開発したプロダクトです」とした上で、その狙いを次のように語る。
「10年前、スマートフォンが全てのコミュニケーションを集約して世界に驚きを与えた感覚と似ています。『Microsoft Teams』で固定電話を利用できるようになれば、相手側がどのようなコミュニケーションツールを使っていてもつながることができます。今後のスタンダードの第一歩になる組み合わせだと捉えています」(水島氏)
ソフトバンク 法人プロダクト&事業戦略本部でクラウドボイスサービスを担当する小林裕之氏は「『UniTalk』は、コロナ禍で急遽テレワーク環境が必要になった場合にも最適なソリューション」と語る。その背景には急激に『Microsoft Teams』を活用するユーザが増加したことも関係している。2020年10月時点での利用者数は1日あたり1億1500万人を超えた。「『Microsoft Teams』を利用されるユーザの中で『UniTalk』というサービスがあれば外線通話ができるようになるらしいと広まり、2020年夏以降から加入者数が顕著に増えています」(小林氏)
ソフトバンク株式会社
法人プロダクト&事業戦略本部
コミュニケーション事業統括部
クラウドボイスサービス部 サービス企画課
小林 裕之 氏
「UniTalk」を利用するには「Microsoft Teams」が含まれる「Microsoft 365」に加え、「Phone System(電話システム)」または「Microsoft 365 Business Voice」の契約が必要となる。だが、企業向け最上位グレードの「Microsoft 365 E5」には Phone System が含まれているため、すぐに利用可能だ。水島氏は「クラウドの利便性とあわせて“電話の使い方”そのものをアップデートするお客さまが増えてきています」と説明する。
「これまでセキュリティ面などからクラウドに関して懐疑的であった企業も、その便利さに気づきはじめたようです。セキュリティを担保したうえで、手軽に開始でき、場所を問わずに働くことができますから。『Microsoft 365』を拡販するにあたり、『UniTalk』が1つの武器になりつつあると感じています」(水島氏)
導入には大きく2つのパターンがある。1つ目がオンプレミスPBXなど既存電話設備を「Microsoft Teams」と「UniTalk」に丸ごと置き換えるフルクラウド化だ。件数としてはまだ少ないが、全国拠点を全て更新した例もある。これにより、資産運用・管理コストの削減、従業員の利便性向上、柔軟なワークスタイル変革が実現された。
2つ目が用途やユーザを限定する形の部分導入。オンプレミス設備の手配が不要な特長を生かし、既存電話設備と並行しながらまずはスモールスタートするケースだ。「必要最低限の範囲で実証的に利用しながら、最終的に全社フルクラウド化のパターンに移行できるかどうかを評価していただけるのが大きな利点」と小林氏。コロナ禍では最大3ヵ月間の無料キャンペーンを展開しており、ソフトバンクとしては「とにかくまずはトライアル利用から始めてみてほしい」(小林氏)とする。
2021年3月には、新たに050番号の発着信機能が加わった。0AB-J番号と異なり、050番号は場所に紐づかない番号となる。例えば東京本社の従業員が大阪に転勤になった場合、そのまま03番号を利用することは難しいが、050番号であればそのまま同じ番号を使い続けることが可能となり、組織変更や異動の度に番号を変える必要がない。「拠点の代表番号は0AB-J番号、個人番号は050番号。こうしたハイブリッドな構成が一つの理想形になり得ると考えています」(小林氏)
小林氏は両社での協業の効果を「お客さまの幅を広げた点にある」としている。従来、電話をトリガーとしたソフトバンクのアプローチは総務部門がメインだったが、「UniTalk」は「Microsoft 365」の加入が前提となるため、IT部門からの引き合いが圧倒的に多く、結果的に総務部門とIT部門のリレーションを活性化する要因になっているという。またそれに伴い、電話は総務、グループウェアはIT、といった枠組みを超えて、一段高い視点からコミュニケーションツール全体を総合的に検討するケースが増えているという。
「コミュニケーション機能を最大限に活用していただくためにはベースとなる『Microsoft 365』、音声コミュニケーションの『UniTalk』を片方だけではなくどちらも活用することが重要です。ソフトバンクは日本テレコムやボーダフォンといった電話会社として歩んできた歴史があり、『UniTalk』を活用するための音声コミュニケーションに関する豊富なノウハウを持っております。一方、マイクロソフトは常に進化する『Microsoft 365』について最新情報や活用方法などのご案内が可能です。そのため、ソフトバンクとマイクロソフトが双方の強みを生かし、協力することでシナジーを発揮できていると感じています」(小林氏)
水島氏も「ソフトバンクのケイパビリティは信頼力、ブランド力、そして膨大な顧客ベース。普段からアグレッシブにお客さまの声を拾い上げ、通話品質改善に向けてすぐに開発に反映していただくなど、良好な協力体制を築いています」とコラボレーションの成果を認める。
DX(デジタルトランスフォーメーション)では最先端ツールに目が向きがちだが、土台となる音声コミュニケーションも重要。小林氏が「『Microsoft Teams』 +『UniTalk』は従来の日本の電話文化を大きく変えるきっかけになり得る」と期待を寄せるように、まさに今、固定電話もニューノーマルな形に生まれ変わろうとしている。
「『UniTalk』での協業を通じて、最先端のテクノロジーを活用しながら事業領域の拡大を進めているソフトバンクの強さを再認識しました。音声は人間が発する最も手軽なコミュニケーション手段であり、すでに実用化されている音声AIや感情分析などに加え、コンタクトセンターやCRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)との連携、音声によるネットサービスへのログインやID管理など、さまざまな可能性があります。外線通話の統合はあくまでもスタート地点。今後も自由な発想で、企業をエンパワーする次世代の音声活用テクノロジーを一緒に開拓していきたいと考えています」(水島氏)
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