Withコロナとどう向き合うか。イオンが挑戦する感染症対策のニューノーマル

"Withコロナとどう向き合うか。イオンが挑戦する感染症対策のニューノーマル"

(2020年8月31日 掲載)

  • イオンでは防疫プロトコルを作成し、店舗、事務所双方で早期から感染症対策を実施。
  • ソーシャルディスタンス確保の他、AI温度検知ソリューション「SenseThunder(センス・サンダー)」の導入、混雑度の可視化などに取り組む。
  • 店舗のあり方、仕事の進め方は元に戻らないことを前提にニューノーマルへ向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進。

経済活動と新型コロナウイルスの感染対策を両立させるために、今何をしなければいけないのか——。多くの企業が手探りでその答えを探している。地域を支える生活インフラであり、多くの従業員や生活者が日々訪れる商業施設も例外ではない。

国内でもいち早く新型コロナウイルスの流行初期から対策を取ってきたイオンでは、商業施設に求められる安全対策のニューノーマルをどのように考えているのか。

イオンの取り組みについて、執行役人事・管理担当兼リスクマネジメント管掌の渡邉廣之氏とイオンモール幕張新都心 ゼネラルマネージャの小林純一氏に話を聞いた。

イオンモールが実施する徹底した安全対策

"イオンモール幕張新都心の店舗入口に設置されたアルコール消毒スプレー"

イオンモール幕張新都心の各店舗入口には、アルコール消毒スプレーが設置されている。その隣にはスマホサイズのAI温度検知ソリューション「SenseThunder」が置かれており、入店客が画面の前に立つと瞬時に顔が認識され、推定体温※が表示される。大勢が通る場所でありながら手指消毒→検温の流れはスムーズで、次々と人が店内に流れていく。

※医療品医療機器法(薬機法)の定める体温計ではないため、医療診察では利用できません。

"SenseThunderによる温度検知"

こうした入口での基本的な感染対策に加えて、店内の入口では入館カウントシステムで滞留人数の管理も実施。混雑率が館内の各所のデジタルサイネージで常に表示されており、一定の混雑率になると入館人数を制限することもあるという。

"店舗の混雑率が店内のデジタルサイネージで常に表示されている"

また、館内のソファやエレベーターは、ソーシャルディスタンスを保って利用できるように間隔が空けられており、入店客が密な状態にならないよう配慮されている。もちろん、スタッフのマスク着用、対面接客用のアクリル板の設置、カートやベビーカーの消毒といった対策も万全だ。

"エレベータには最大4名に制限しソーシャルディスタンスを確保できるよう配慮"

"館内の換気についても来店客へ発信している"

イオンモール幕張新都心のゼネラルマネージャを務める小林氏は、同店舗の感染対策について次のように話す。

"イオンモール幕張新都心 ゼネラルマネージャ 小林純一氏"

「地域のお客さまに安全な売り場を提供し、安心してご利用いただくことが何よりも重要です。そのために、完全な安全対策を実施することが我々の役目です。

目に見える対策のほか、イオンでは館内の換気もしっかり行っています。例えば、定期的に外気を取り込んで排出する換気システムを導入しており、こうした取り組みを館内のサイネージでお客さまにお伝えしています。

お客さま向けの入店時の検温は任意ですが、実のところ、かなり多くの方にご協力していただいています。最初の頃は顔認識による検温ということで不安感を持つ方もいらっしゃったようですが、今は興味を持ってくださる方が多く、検温の体験を楽しんでくださっているようです」(小林氏)

店頭入口に置かれている「SenseThunder」は、従業員出入口にも設置されている。こちらは全従業員が入館時に検温することが求められており、37.5度以上の場合は出勤できないことになっているという。

"従業員出入口に設定されたSenseThunder"

「お客さまが安心できる売り場を作るために、まずは従業員が安心して働けることが大切です。従業員には以前から自宅で検温してから出社し、体調管理シートを提出することを求めていました。しかし、感染が拡大すると、『みんなちゃんと検温しているのか?』という不安感がどうしても出てきます。

今は従業員出入口に『SenseThunder』があることで、全従業員が入館時に検温していることは確実。従業員からも『安心して働ける』と好評です」(小林氏)

生活インフラとして営業を続ける使命がある

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イオンは中国・武漢にショッピングモールが5店舗あり、2019年末からまだ「謎の肺炎」だった新型コロナウイルスの対策を進めていた。2020年1月中旬には日本の本社と武漢とでテレビ会議による対策会議を実施。ただ、当時はいかに中国を支援するかという話だったという。

フェーズが変わったのは2020年2月頃。国内の感染者が徐々に増え、マスクの欠品が始まった。イオンでは武漢の経験を共有するとともに、2020年3月頭には国内のグループ会社の従業員に通達を出した。従業員の検温を実施し、体調管理をしっかり行うこと。各自クラスターになりうる場所への立ち寄りを控えること。不要不急の出張の禁止。テレワーク等を活用した在社率の低減などだ。

2020年4月に入ると、緊急事態宣言が発令。イオンでは全国でイオンモールの専門店部分を休業した。一方、生活の必需品を扱う食品売り場と日用品を扱うGMS(総合スーパー)は感染対策を実施しながら営業を続けた。

執行役人事担当の渡邉氏は当時をこう振り返る。

"イオン株式会社 執行役人事・管理担当兼リスクマネジメント管掌 渡邉廣之氏"

「私たちは緊急事態宣言下でも生活インフラとして営業を続ける使命があります。そのために、当時できる全ての感染対策を実施しました。一方で、地域社会で感染を広げないことも重要。お客さまにはご迷惑をおかけしますが、モールは営業を自粛しました」(渡邉氏)

営業自粛期間中は、再開に向けて一層安全な売り場を提供するために、さまざまな対策が検討された。館内の換気システムの見直し、店頭での感染防止対策の実施などに加え、従業員の感染リスクを下げるため、従来は認めていなかった車での出勤なども認めた。

"イオンモール幕張新都心"

「SenseThunder」を導入したのもこの期間だった。イオンモールは1店舗で2,000人~3,000人規模の従業員がいることもある。出勤時間が重なると大勢が出入りするため、検温のスピードと正確さが求められる。また、店舗数が多いため、膨大な台数を一度に手配でき、かつコストがかかりすぎないことも大事。さらに、営業再開後はお客さま用として使うことも検討していたので、入店時にストレスを感じずに体験していただけることが条件。これらを満たしていたのが「SenseThunder」だった。

2020年7月末時点では、グループ企業約20社で導入。各店舗に置かれている分も含めて約2,000台(お客さま用約1,200台、従業員用約700台)が稼働している。従業員向けでは、顔認証を使った勤怠管理システムとの連携も予定されているという。

緊急事態宣言下では、店舗での感染対策の取り組みに加えて、本社やグループ各社においてもテレワークや時差出勤を活用し対策が取られた。例えば、従来は商品を手に取りながら対面で実施していた商談は、事前に商品を郵送してもらいオンラインで実施するなどの工夫をした。業務のDXは一気に加速したという。

防疫の方針と取り組みを対外的に発信

"イオン 新型コロナウイルス 防疫プロトコル"

2020年6月末には新型コロナウイルス防疫プロトコルを発表し、対外的にイオンの安全対策の方針を打ち出した。

「『防疫が生活の一部となる社会』を実現し、お客さまと従業員の健康と生活を守りながら、お客さまとともに地域社会を守っていくことが我々の役目。そのためには、具体的な防疫対策をお客さま、従業員にしっかりと伝えていくことが必要です。そこで、イオンでは防疫プロトコルを発表し、感染対策の方針を対外的に明らかにしています」(渡邉氏)

"イオン 防疫への誓い"

「これに加え、店頭にサイネージを導入したり映像を流したりして、感染対策の取り組みをビジュアルで分かりやすく発信する工夫も行っています。イオンが対策をしっかり実施していることをメッセージとして伝えることで、従業員は安心して働けますし、お客さまにとっても安全な売り場になると考えています」(渡邉氏)

徹底的に感染対策を実施する。そして、そのことを内外に発信する。この一連の流れが、「安全な職場」「安全な売り場」の実現につながっているといえるだろう。

元に戻るのではなく、さらに進めなければいけない

"イオンモール幕張新都心 ゼネラルマネージャ 小林純一氏"

日々変化する新型コロナウイルスの感染状況に、企業は対応を変えていく必要がある。

イオンでは緊急事態宣言解除後、社内から「出張や対面商談を再開してもいいか」という声があがったという。しかし、不要不急の出張は今も禁止。ただ、どうしても営業現場に行かなければいけないこともあるので、リスクを最小化するための工夫が求められている。

「新型コロナウイルスが広がる前と今とで、店舗のあり方も仕事の進め方も一変しました。しかし、緊急事態宣言が解除されたからといって、以前の姿に戻ることはありません。このフェーズは今後しばらく続きます。戻るのではなく、より工夫し、改善して、さらに前に進めていかなければなりません」(渡邉氏)

新型コロナウイルスによって強制的にもたらされたニューノーマル。変化を受け入れ、柔軟に対応していくことが企業に求められている。