【GOVTECH】日本の電子政府化に向け、霞が関では何が起きているのか?

"GOVTECH ―政府のニューノーマルー 日本の電子政府化の「今」" (2020年9月30日 掲載)

目次

コロナ禍によって、私たちは日本の電子政府化の現状を「体感」することになった。韓国は2週間で97%の給付金の支給を完了した──。そんな海外のニュースを聞いた国民は、日本の電子政府化は遅れていると感じたかもしれない。

実際はどうか。国連が2020年7月10日に発表した「世界電子政府ランキング」では、日本は193ヵ国中14位という結果だった。トップではないが下位でもない。これが俯瞰的に見た日本の現在地だ。

"2020年「世界電子政府ランキング」"

日本の政府は現状と課題をどのように捉え、電子政府化を推進しようとしているのか。行政のDXをテーマにした連載企画「GOVTECH ─政府のニューノーマル─」。第二回は、政府CIO(Chief Information Officer)上席補佐官としてデータ標準化に取り組む平本健二氏に話を伺った。

平本 健二氏

政府CIO上席補佐官

日本の電子政府化における課題

なぜ日本の給付金の支給は遅かったのか?

平本氏:海外に比べて、なぜ日本の給付金の支給は遅かったのか? 最も大きな原因は、データ基盤が整っていなかったことにあります。

申請者が給付の基準を満たしているかを判断する際、行政が正確な申請者のデータを持っているか否かで、その対応に大きな差が出ます。申請書を提出してもらっても、それが誤っている場合もある。そうすると、政府や自治体の担当者はその確認や差し戻しの対応に追われることになります。

もしデータベースが整っていたら、一定の条件を満たす対象者に給付するのはそこまで難しいことではありません。日本はそのデータ基盤が足りていなかったということでしょう。

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さまざまなデータが混在する日本

平本氏:エストニアは電子国家として有名ですが、実はその裏には約20年かけてデータクレンジングをしてきた背景があります。それに比べて、日本はデータをきれいにする作業を完了できないまま、今日に至っています。

実は、日本の電子化の取り組みの開始自体は世界と比較しても早い方です。しかし、そのために古いシステムをベースにしたデータが点在しています。また、そもそも未だ紙のままのデータもあります。

新しいシステムと古いシステムのデータ、そして紙のデータ。これらが混在していることが、日本の「データの標準化」にあたっての大きな課題になっているのです。

例えば、国としての歴史の長い日本においては、法人登記情報の本店住所が「東京市神田区」と記載されているような会社もまだ存在します。当時の登記情報がそのまま修正されずに残ってしまっているのです。

また、地方自治体と政府のデータを照合した時に、異なる記入フォーマットや書き方になっていることもあります。一方では住所のビル名が省略されていたり、名前が旧字体になっていたりと、人が目視すれば大きな違いではないことが、システムで処理する際には致命的な違いになります。

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これらのデータを標準化するのに、エストニアのように20年かかるのか、それとも10年かかるのか。それはもう、どこまで腹を決めて取り組むかによります。

確かなのは、AIやブロックチェーンを活用した新しい社会を望むのであれば、データの基盤が不可欠であるということ。10年後の2030年をどういう社会にしたいのか。ロードマップを見据えながら、「データの標準化」に取り組んでいく必要があります。

海外の電子政府化への取り組み

電子政府化ランキング1位のデンマーク

平本氏:国連が発表する「世界電子政府化ランキング」の1位はデンマークです。デンマークでは、日本の「台帳」にあたる「ベース・レジストリ」というデータ基盤を重視し、質の高い行政サービスの提供を実現しています。

"デンマークのベース・レジストリ連携図"

「DATA DISTRIBUTOR」と呼ばれる分散したデータベースを安全に連携できるプラットフォームが整備され、その上で住民の手続きから行政内部の処理まで、スムーズに行えるようになっています。

さらに、デンマークの特筆すべき点は「デジタル法制局」の存在です。日本にも法律を策定する法制局はありますが、デンマークの場合は法案がデジタル社会に適合しているかどうか、「デジタル法制局」のチェックを通過しなければ、そもそも国会に提出ができません。

デジタル社会において、法律をどうするかは大きな問題です。法律が制定されるまで、日本では通常1年から2年かかります。しかし、今は革新的なテクノロジーがどんどん生まれる時代。そこでどうしても社会の実態と法律にギャップが生まれてしまいます。

政府内のラボ型チームがDXを推進するアメリカ

平本氏:IT先進国のアメリカは、民間のメンバーを採用して、ラボ型の組織で電子政府化を推進しているのが特徴です。ラボ内にはエンジニアだけでなくデザイナーもいます。みんなTシャツにデニム姿というようなラフな出で立ちで、「このサービス、どうしたら良くなる?」とフラットに話し合っています。

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ラボのメンバーは固定化することなく、流動的に変化します。だからこそ、生活者の感覚と近いサービスが出来上がっていきます。また、スタートアップ企業のように、まずプロトタイプを作る文化が根付いている。

ラボで働くメンバーにとっても、政府のシステムを作ったことが実績になるため、優秀な人材が集まってくる。非常に良い循環が生まれています。

日本の電子政府化に向けた取り組み

行政にサービスデザインを

平本氏:海外の事例をお話しましたが、一方で私は日本のデジタル化の現場がそこまで遅れているとは思っていません。

私が担当するデータ標準化のチームをはじめとして、あともう一歩だと思っています。そのあともう一歩は何かと言うと、各省庁にきちんと採用されるところ。現場に浸透させるという点です。

私たちは今、各省庁にサービスデザインの考え方を広めようとしています。自分の目の前にある仕事ではなく、その先にいる国民を見据えてサービスを設計していく。目の前の業務に意識が向いていた人にとっては、簡単なようで難しいことです。デジタル化以前の問題として、マインドセットを変えていかなくてはならない。

"「デジタル・ガバメント実行計画」 | サービス設計12箇条"

参考:https://cio.go.jp/node/2421

企業のDXも、事業部の判断基準は、売り上げに貢献できるかどうかになりますよね。それは政府でも同じです。現場に浸透させるためには、費用対効果もきちんと提示しなければならない。私たちはサービスデザインの考え方にあわせて、価値を定量的に、さらに言えば金額に換算してプレゼンテーションするようにしています。

民間企業のマーケティング的な思想も取り入れながら、サービスと向き合っていく。このマインドセットを各省庁に広げていきたいと考えています。

コロナ禍で促進されたオープンデータ化

平本氏:また、私たちはかねてからオープンデータ化を推進しています。今回のコロナ禍では、東京都による新型コロナウイルス関連情報をオープンデータ化する取り組みが全国へ広がりました。

私たちが作った新型コロナウイルスに関わる支援制度のデータベースを、Yahoo! JAPANをはじめとする民間企業が活用するなど、官民のオープンデータによる連携も生まれました。

私たち政府には、正確な情報を集めることができる強みがあります。一方で、それを広げていくための国民との接点や伝え方については、民間企業の方が秀でていることもあります。そこを補完し合う良い連携を今後も生みだしていければと考えています。

「ワンスオンリー」を実現するデータの共通化

平本氏:オープンデータと近い話で、一度作成したデータを共通化していこうという動きもあります。経済効果が大きいものについては共通のデータベースを作ってしまう。

私たちが打ち出しているデジタル化の基本原則の中に「ワンスオンリー」、つまり一度提出した情報は2度と提出しなくても良いという方針があります。

行政サービスに対する国民の不満で最も大きいのが住所や名前など、「何度同じことを書かせるんだ」というものです。民間企業が提供するサービスは、一度ログインするとそれ以降は入力の必要がないですよね。行政のサービスも民間と同じレベルで提供できることを目指しています。

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法人のデータベースについては、『gBizID』という取り組みが始まっています。これまでは省庁ごとに、ユーザIDもパスワードも別々だったのですが、『gBizID』が1つあれば、各省庁、そして自治体のサービスにもログインができるようになる。そんな環境を目指して、推進に取り組んでいます。

個人情報については国民も非常にセンシティブなのに対して、法人情報については比較的オープンな考えを持っている経営者の方が多い。そのため、まずは法人情報に関する取り組みを進めていきながら、そこで得た知見を個人情報の取り扱いにも生かしていきたいと考えています。

日本の法人情報のデジタル化は、現在急速に進んでおり、世界でもトップレベルだと自負しています。というのも、経済産業省の情報プロジェクト室では、民間出身のエンジニアも交えて20人体制でサービス設計や改善に取り組んでいます。先述のアメリカのラボのようにインハウスに近い感じで、エンジニアがコミットしてサービスを作っていく体制が整っているのです。

自治体との連携

平本氏:政府と自治体の連携については各国が頭を悩ませているところです。自治体には自治体の考え方があり、政府が「こうしなさい」と一概に言えるものではありません。

しかし、データに関して言えば、政府も自治体も関係ありません。政府と自治体が連携して、データを流通・交換できるようにしていかなければなりません。国民にとってフロントエンドになるサービスは自治体が運営しているケースが多いです。その意味でも政府と自治体が連携していくことは必須です。

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私たちもデータを標準化していこうという共通の目標の下、地方自治体の方々と勉強会をしたり、『gBizID』のようなプロジェクトベースで連携したりと、さまざまな取り組みをしています。

これまでは地方自治体と連携しようとしても、話し合う場がありませんでした。全国で勉強会を開催するために地方行脚していたのですが、1回の出席者は50人程度。それが今回のコロナ禍によってオンライン会議に変わると、500人も集まるようになりました。

私たち政府の考えていることが一気に全国の地方自治体のみなさんにお伝えできるようになった。これは、コロナ禍の最大の恩恵なのではないかと思います。

日本が目指す、理想の電子政府

行政が生活に溶け込む「ノンストップサービス」

平本氏:先述の「ワンスオンリー」に加え、政府がデジタル化の基本原則として掲げているテーマに「ワンストップサービス」があります。分散していた手続きやサービスを1つにまとめて提供することを指しますが、さらにその先にあるのは「ノンストップサービス」です。

ごみの収集は、公共のサービスですが誰も申請をしていませんよね? 同じように、年末調整のために書類を提出して申請しなくても、いつのまにか手続きがされている。行政が気付かれないほど、生活に溶け込んだ存在になるというのが、私たちが目指すべき究極のサービスなのだと思います。

データを行政が持っているのであれば、それでできることは自動的にやってしまう。例えば、給付金にしても、手続きを自動化してしまい、最後に「給付しますが、よろしいですか?」という問いにイエスかノーで答えるだけで良い。それであればストレスになりませんよね。

「ノンストップサービス」が提供される未来のためにも、まずはやはりデータの標準化が不可欠です。ガバメント・アズ・ア・プラットフォームとよく言われますが、政府がプラットフォーマーとしてサービスの基盤を提供しなければいけない。

そうすれば、プラットーフォーム上で、民間のスタートアップ企業などがビジネスを展開することができるようになり、経済は活性化し、生活も便利になっていきます。

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借金の国、日本が目指すべき投資対効果

平本氏:また、私たちが今大切にしているのは投資対効果です。基本的には、投資対効果が2倍見込めないことはやらない。今、日本という国は大きな借金を抱えています。つまり投資した分がそのまま返ってくるようなサービスではだめなのです。ITの力を使えば、投資対効果を2倍にするのは難しい話ではありません。

だからこそ、投資のコストを少しカットするとかそういう話ではなく、投資対効果2倍、3倍を目指して、デジタル化に向き合っていく。そうすることでサービスのレベルも上がるし、財政も良くなっていくのだと考えています。

編集後記

企業のITへの投資は、成功すれば数倍もの効果が得られるもの。「日本の財政は破綻する」という議論の正否はさておき、日本国にとっても積み重なる赤字に対してIT投資が大きな可能性を秘めていることは間違いないだろう。


一方で日本という国は政府だけで運営されているわけではない。政府、自治体が分け隔てなくデジタル化に取り組みことで、国民へのサービスの質ははじめて向上していく。連載第3回目では、さいたま市のデジタル化への取り組みを紹介していく。