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中国広東省にある都市・深センは「若者が多く集まるイノベーションの街」で知られています。ここ数十年で新たにできた都市なので若者の割合が高いですが、60歳以上の市民は120万人、そのうち深センの戸籍所有者はおよそ32万人と言われており(2018年11月時点)、他都市に比べて遅いながらも高齢化が進みつつあります。
その深センに本社を構えるテンセントでは、実験的な老人ホーム「深セン養護院」を運営、その試みが評価されています。
同老人ホームでは2019年3月に最初の5人が入居し、その後同年12月に57人、2020年10月までに117人と、段階的に増やしているそうです。今回は、この深セン養護院の取り組みを紹介します。
深セン養護院で認識されていた問題としては、高齢の入居者は体が不自由な人ばかりで、転んだり、徘徊したりする可能性が高く、それに対する適切なソリューションが見いだせていなかったということ。スタッフの目の届かないところでそういったトラブルが発生した場合、スタッフにペナルティを与えるようではスタッフがストレスを感じてしまいます。
かといって入居者の活動範囲を狭めてトラブルを防ごうとすると、入居者の生活品質が下がり、入居者の体や脳などの弱体化が加速してしまう……というジレンマがありました。そこで深セン養護院はテンセントと組み、養護施設にクラウドやAIなどのテクノロジーを導入し、環境の改善を進めました。
テンセントによるサーモセンサーを活用した転倒AI(出典:テンセント)
家庭内での高齢者の転倒を防ぐ「インテリジェントモニタリングシステム」は、深セン養護院の目玉となるスマートソリューションです。 テンセントはスマートセキュリティ技術を活用し、転倒チェック、火災チェック、徘徊や危険エリアへの立ち入り禁止対策センサーなどの機能を提供しています。
このシステムでまずは家庭内の高齢者の安全を全面的に確保し、運営管理チームのリスク防止・管理能力強化の両立をしようというわけです。
モニタリングには監視・防犯目的のネットワークカメラを導入するわけですが、入居者のプライバシーもあり、いたるところに設置するというわけにはいきません。とはいえ、カメラのないところで高齢者が転倒するなど、何かしらトラブルが発生する可能性があります。そこで、ネットワークカメラは屋外にのみ設置し、屋内は熱を感知するサーモカメラを活用して高齢者の居場所を把握することで、転倒など異常事態の見逃しを防ぐようにしたのです。
ただし「サーモカメラで高齢者の転倒を発見するAI」というものはなかったので、作る必要がありました。そこで調査とデータ収集を行おうとしたのですが、高齢者の転倒に関するデータサンプルは非常に少なく、人間の姿勢検知は実現できませんでした。
そこで、無数のパターンから学習させる必要があるため、設置されたカメラを前に、毛布を引いた上でさまざまな状況の高齢者の転倒を真似する何百ものデータサンプルを作成することに。より多くのデータサンプルを蓄積するために、様々な角度、姿勢、速度、長さの組み合わせの転倒テストを行ったとのこと。こうして、改めて高齢者の転倒発見のAIはローンチされたのです。
深セン養護院内のリハビリ施設(出典:テンセント)
続いてテンセントは、高齢者一人ひとりの体調を正確に表示できる健康モニタリングシステムを開発しました。 各ベッドの横には、医療用センサーと連動したタブレット端末が設置されています。
お年寄りはタブレット端末を使ってビデオを見たり、ゲームをしたり、食事を注文したりすることができますが、これは同時に介護者に高齢者の体調を示し異常を知らせる装置でもあります。 研究チームは、医師と家族の両方が遠隔地からリアルタイムのデータにアクセスできるアプリも開発しました。
また認知症の高齢者に対し、認知症対策のための眼球運動のリハビリトレーニングゲームを提供しています。 この眼球運動ゲームは老人性精神運動リハビリテーションの理論に基いたもので、視覚、聴覚、嗅覚、触覚の各領域のトレーニングと刺激を通して、認知機能障害を持つ高齢者のリハビリテーション訓練を行うことができるとのこと。
ウェアラブルデバイスを入居者とスタッフと保護者に提供し、また寝たきりの入居者には大小便センサーを導入しました。入居者の体調のモニタリングができるようになることで、スタッフにかかる仕事量を減らしました。
今回はテンセントの事例を紹介しましたが、政府による介護産業を伸ばす政策支援もあり今後数年は新しいソリューションや、各種センサーなどのパーツや、老人ホームパッケージが出てくることでしょう。老人ホームのDX化をすることで、スタッフの負担を減らす一方、入居者を24時間見守ろうとする試みが各所でされそうです。
■参考リンク
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