「Brain Science × AI コミュニティ」本格始動開始!!
~Beyond AI研究推進機構での脳科学研究に対する2024年の取り組みを振り返る~

About the activity of "Brain Sciences x AI" community, organized by Beyond AI Promotion Division

2024年12月8日掲載

キービジュアル

みなさまこんにちは、AI戦略室の馬田です。

この記事は、ソフトバンク アドベントカレンダー 2024の8日目になります!早いもので、今年のアドベントカレンダーの公開が始まってからもう1週間経ちました。皆様これまでの記事は読んでくださいましたか?

今年のアドベントカレンダーには、私の所属しているBeyond AIチームからも記事を2本掲載させていただく予定です。前半パートである今回は、Beyond AI研究推進機構の取り組みの一環として設立された「Brain Science × AI Community」についてです。このコミュニティは今年から本格的に活動を開始することができたということで、コミュニティで進められている「脳科学×AI」の研究やそれらに関するソフトバンク社内での取り組みについて、運営を担っているCarlosさんにお話を聞いてまとめてみました!

今回お話を聞いた人

Carlos Enrique Gutierrez

Carlos Enrique Gutierrez
カルロス エンリケ グティエレツ

ソフトバンク株式会社 AI戦略室
Beyond AI 推進課

計算論的神経科学者(Computational Neuroscientist)としてBeyond AI連携事業に携わり、ブレイン・モデリング、強化学習、神経信号処理をはじめとした応用脳研究を焦点に研究を行っている。

ソフトバンク入社前は、OISTの神経計算ユニットのポスドク研究員、IBMと米州開発銀行のITコンサルタントとして活躍した。

主な科学的関心領域は、ブレイン・モデリング、神経変性疾患、生物学 × AI、スーパー・コンピューティング等。

さて、本文に入る前に、ソフトバンクと国立大学法人東京大学(以下、東京大学)の産学連携プロジェクト「Beyond AI研究推進機構」についても紹介します。

Beyond AI研究推進機構

ソフトバンクと東京大学は2020年5月、世界最高レベルの人と知が集まる研究拠点として「Beyond AI研究推進機構」を立ち上げました。

この「Beyond AI 研究推進機構」では、AIの基盤技術研究とその他の学術領域との融合による新たな学術分野の創出や、社会課題・産業課題へのAIの活用を目指して、さまざまなテーマでの研究を推進しています。

これらの研究の成果は現在、ジョイントベンチャーの設立などによっていち早く社会実装・事業化されており、さらなるAI研究の発展とよりよい社会の実現に貢献しています。

それでは本題に入りましょう。

今回のブログは以下の内容がまとまっています。

目次

1 - はじめに

皆さんは「脳科学」をご存知ですか?脳科学とは、人間の脳の機能に関する洞察を深めることを通じて、認知、行動、および精神的健康を理解するための学問です。脳に特有の精緻で複雑な神経ネットワークの謎は未だに完全には解明されておらず、理解や再現が困難な課題も多いです。その謎を解明していくのが、脳科学の醍醐味です。

一方で、私たちBeyond AI研究推進機構がテーマとしている人工知能(AI)は、もう皆さまご存知かとは思いますが、膨大なデータを処理し、パターンを識別し、強力に予測を行うことができます。

この2つのコラボレーション、つまり「AIの脳科学への応用」と「脳科学のAIへの応用」は、AIの技術革新に向けた研究の最前線となっています。この応用がうまくいくと、脳研究から得られる膨大なデータの解釈と管理ができるようになるなど飛躍的に脳科学の研究を進めることができるだけでなく、私たちの脳の働きをベースにして動く画期的なAIサービスが創出できるなど、世界を変えることすら可能と言っても過言ではないでしょう。

しかし、ただでさえ未だ謎に包まれている脳科学において、現在なされている高度な研究による発見をビジネスに応用し、実用的かつ商業的に実現可能なソリューションを生み出すには多くの課題があります。特に技術的な専門知識を持つ研究畑の人間と事業を行うビジネス畑の人間では情報の粒度や認識の差があり、さらには倫理的および規制上の問題にも慎重に対処する必要があるなど課題は山積している状況です。この課題の解決のためには、研究サイドとビジネスサイドだけでなく、それ以外にも様々な分野の利害関係者が協力する産学連携のアプローチが必要です。

Beyond AI研究推進機構では、脳科学をより事業に応用しやすくなるような取り組みを進めるため、「Brain Science × AI Community」 と呼ばれるコミュニティを設立しました。

このコミュニティでは、脳科学の研究者とAIで事業をを行う産業界のビジネスマンをつなぐ情報交換用のSlackチャンネルの設立や、研究者による講演会を実施することで、産学間で知識の交換を促進し、協力関係を育み、研究を応用するためのアイデアを議論しています。

「Brain Science × AI Community」の概要

図1:「Brain Science × AI」コミュニティの概要

2 - 脳科学×AIコミュニティ参加者の研究紹介

ここで、このコミュニティに参画いただいている研究サイドの方々の研究内容と、それぞれで今年実施したイベント等について、ご紹介をしようと思います。

2-1 AIを用いた脳機能の拡張:

東京大学大学院 薬学系研究科の池谷 裕二教授は、環境、身体、および機械との相互作用によって知能がどのように成長するかを指す「共生的発現」を研究しています。池谷教授の目標は、これらの相互作用を支援するAIの開発です。最近では、生成AIの助けを借りつつ、ラットの脳からのリアルタイム信号を利用してのお絵描きに成功しました。
東大、ネズミの脳で絵を描くことに成功/日経新聞 , 2024年9月7日

さらに、感情や意思決定に関連する脳領域の特定の神経活動が、睡眠時よりも低いレベルに心拍数を下げることができ、これが不安の軽減に役立つことを発見しました。

これらの発見は、Scienceという一流の科学雑誌のvol.384に掲載されました。


心拍数を意図的に低下、東大が仕組み解明 不安軽減効果 / 日経新聞 , 2024年6月21日
Top-down brain circuits for operant bradycardia / Science , 2024年6月20日

 

2-2 生物学的ニューロンを使った機械学習:

人間の脳は実はとても効率的で、コンピュータの10万分の1以下のエネルギーで動くことができると言われています。

では、脳と同じくらいの効率で動くコンピューティングクラスターを構築することは将来的に可能なのでしょうか?脳の仕組みを応用してコンピュータの演算を早くすることを目指した研究が現在進行形で進んでいます。

Beyond AI研究推進機構の研究の一環として、東京大学の池内 与志穂准教授の研究室はオルガノイドニューロンネットワーク(Organoid Neural Networks; ONN)の研究に積極的に取り組んでいます。

池内研究室では現在機械学習を行うために、ONNの手法、つまり細胞同士のコネクションを用いたニューラルネットワークを構築しています。このONNの手法を用いたアプローチによって、従来の機械学習の課題はもちろん、神経科学や個別最適化医療といった生物医科学の課題の解決にも応用ができることがわかっています。

Beyond AI研究推進機構では、この研究をより広く世の中に広めるべく、研究の発表ができるイベント「Emerging Functionality of Cultured Neurons 培養ニューロンの機能と未来」(2024年3月2日開催)を主催し、本コミュニティもその運営のサポートしました。

将来的には、ONNの計算能力によって脳の機能を応用したシステムが大幅に強化されるかもしれませんね!

「Beyond AI」プロジェクトの一環である池内研究室の研究については池内研究室のWebサイトに掲載されています。 

研究紹介

図2:池内先生と一緒に開催したイベントの様子

2-3 情報科学とロボット工学の視点で考える脳の機能:

沖縄科学技術大学院大学 神経計算ユニットの教授である銅谷 賢治先生は、情報科学とロボット工学の視点から,脳の中の神経細胞と物質の働きを解き明かすことをめざし研究を進めています。銅谷先生の研究の一つである「強化学習とベイズ推論の理論に基づく大脳基底核と皮質回路の機能に関する研究」は、国際的に高く評価されています。

銅谷先生は「脳科学×AIコミュニティ」向けに BrainSciences x AIセミナー (2024年1月26日開催)を行ってくださいました。アーカイブはYouTubeに公開されています。

 

2-4 数学を用いた脳の活動の解析:

理化学研究所 脳神経科学研究センターの脳型知能理論研究ユニットでユニットリーダーを務める磯村 拓哉先生は、脳の知能の普遍的な特性を数学的に記述する理論の構築、つまり「数学を用いて脳の活動や特性を説明する」という研究をされています。

磯村先生のチームは、どのような神経回路も、近年注目されている「自由エネルギー原理」と呼ばれる脳理論に従っており、潜在的に統計学的な推論を行っていることを数理解析により明らかにしました。(磯村先生の研究に関する理化学研究所公式のプレスリリース

今年3月には、磯村先生も私たちのコミュニティ向けにセミナーを行ってくださいました。研究の成果や今後の方向性について発表いただき、議論を深めることができました。 セミナーの様子はYoutubeにアーカイブされています。

3 - 学生向け講演と神経科学イベント

私たちのコミュニティの活動は、研究者との交流だけには留まりません。

Beyond AI研究推進機構のコミュニティとして、同機構のテーマの一つでもある人材育成を目的とした活動も実施しています。

2024年は東京大学や、神山まるごと高専の学生の方々や、孫正義育英財団の奨学生の子供たちなどに、さまざまな講演を行ってきました。

これらのセッションでは、ソフトバンクでの神経科学研究を紹介するだけでなく、参加者が自身で行っているプロジェクトを強化/深化するのに役立つような講演や議論、ブレインストーミングセッションを実施しました。

ソフトバンク竹芝本社で開催されたハッカソンに参加している学生に講演を開催

図3:東京大学の学生に対して、脳のモデリングとその潜在的な応用についての講演をするCarlosさん。

さらに、本コミュニティでは、研究の対外発表にも力を入れています。

今年の7月24日から27日にかけて実施された日本最大の神経科学会議「NEURO2024」には、本コミュニティとしてメンバーが参加しました。

会議では、Beyond AI研究推進機構の研究者によるプレゼンテーションを通じて、私たちの研究成果も展示し、私たちは研究メンバーからの招待により、2つのプレゼンテーションに共著者として参加しました。

神経科学を社会的な応用やサービスに移行することについて、新しいメンバーと熱い議論が展開されており、ここで本コミュニティに興味を持って加入してくださった方も多くいらっしゃいました。

日本神経科学学会2024年大会でのソフトバンクの参加

図4:NEURO2024の様子

4 - コミュニティ活動で生まれた新たな提案と今後の展望

最後に、本コミュニティでは知識の共有だけでなく、新たな取り組みの実施も視野に入れて活動をしています。

神経科学とビジネスを繋げるための取り組みの中で、私たちは「MindBoost」と呼ばれる概念を提唱しようとしています。企業は変革期において、才能の不足、不適切な意思決定、コミュニケーションのギャップなど、ソフトスキルの開発において重大な課題に直面します。現在のソフトスキル研修法は高価で時間がかかり、通常の業務を妨げることが多く、主観的にしか評価をできません。MindBoostではこれらの課題に対処し、行動および対人スキルを効率的かつ体系的に向上させるべく、神経科学とAIを統合したインタラクティブなプラットフォームを提供する予定です。このプロジェクトは、東京大学の研究者およびソフトバンクのエンジニアと密接に協力して進めている最中です。

MindBoostは、ビジネスの変革を大幅に加速できると信じています。MindBoostについてのより詳細な内容について知りたい場合や、MindBoostの研究/開発に参加したい場合は、ぜひコミュニティに参加いただければと思います。

まとめ

今回は「Brain Science × AI Community」を運営するCarlosさんにお話を聞いてきました。いかがでしたでしょうか?

「Brain Science × AI Community」では、最先端の脳科学とビジネスの間のギャップを埋め、AIの能力を活用することで、社会に利益をもたらす影響力のあるソリューションを発見することを目指しています。

ぜひ、これを読んでいる皆様も、コミュニティに参加して、脳科学やビジネスに関する知識やアイデアを互いに共有しつつ、脳科学とAIという今もっともHOTな研究テーマで一緒にイノベーションを起こしましょう!!!

多くの方のBrain Science × AI Communityへの参加をお待ちしております。興味を持っていただいた方は、ぜひBrain Science × AI Community 参加フォームからお申し込みください。

それでは、次回のソフトバンク アドベントカレンダーもお楽しみに!!!

本記事の著者

keisuke-mada

馬田 啓佑
まだ けいすけ

ソフトバンク株式会社
サイバーセキュリティ本部
(兼)AI戦略室 Beyond AI推進課
(兼)TU/IT統括 DE&Iテーマ別WG事務局

2022年度ソフトバンク新卒入社。本務ではサイバーセキュリティ本部に所属しつつ、2023年7月より社内副業制度にてAI戦略室/Beyond AI推進課、同11月よりDE&Iテーマ別WG事務局にも所属。

サイバーセキュリティの業務では、業務用携帯端末の設定や業務用PCの通信データなどに着目、「社内の情報漏洩防止の観点でのセキュリティ向上」を追求している。

兼務先となるBeyond AI推進課では、テックブログの投稿含めた広報推進や、東京大学の学生さん等に向けたイベント/グローバルインターンシップ企画を務めており、DE&I WG事務局では、ソフトバンクのエンジニアが「どのようなマイノリティ属性を持っていようと働きやすい環境」を目指し、各WGによる企画の実行支援や、DE&I推進室/人事本部との連携を担っている。

業務外で興味のある分野は、モビリティ分野の自動運転や自動操縦、IoT分野を用いた第一次/第二次産業のDX、地方活性化など。    

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