近年、世界中で大規模な山火事(森林火災)が頻発しています。日本では、山火事の発生件数自体は増えていないものの、大規模な山火事の増加が報告されています。今後、地球温暖化がさらに深刻になれば、海外と同じように日本でも山火事が増える可能性も否めません。そこで本記事では、山火事に遭った際に、自分やまわりの人を守るための方法を紹介。さらに、事前の備えや山火事対策についてもあわせて解説します。
この災害テーマのポイント
- 日本で起こる山火事の大半は人為的要因によるもの
- 山火事が起こったら、自分のいる場所や状況に応じて適切に避難する
- 山火事を発生させないためには、一人一人が防火意識を高めることが大事
この災害テーマのポイント
- 日本で起こる山火事の大半は人為的要因によるもの
- 山火事が起こったら、自分のいる場所や状況に応じて適切に避難する
- 山火事を発生させないためには、一人一人が防火意識を高めることが大事
目次
注意喚起:日本でも大きな脅威に。世界で多発する山火事
近年、世界中で山火事が増加しています。米シンクタンク「世界資源研究所」(WRI)によると、20年前に比べて山火事の被害面積は2倍近くに広がり、年間800万ヘクタール以上の森林が失われています。これは東京都の約40倍の面積に相当します。
日本では2018~2022年の5年間で、年間平均1,300件の山火事が発生し、約700ヘクタールの森林が消失しています(消防庁調べ)。山火事の発生件数は減少しているものの、大規模な山火事は増加傾向にあります。林野庁によると2010年代に住民への避難勧告などが発令された山火事の発生件数は4件。しかし2020年代は、栃木県足利市で起きた焼損面積167ヘクタールの山火事をはじめ、すでに6件の大規模な森林火災が発生しています。
WRIによれば、地球温暖化による気温上昇と空気の乾燥が原因で、山火事が燃え広がりやすくなるため、今後は世界規模で山火事の被害がさらに拡大すると言われています。特に日本では近年、火山活動が活発なため、今後は噴火による山火事の発生にも注意が必要です。そのほか山村集落の人口減少による森林管理の不十分さ、地域の消防団員の減少なども山火事を悪化させる要因と考えられています。
近年、日本で起きた大規模な火災
2024年5月に山形県南陽市で発生した大規模な山火事では、周辺148世帯の住人に避難指示が出されました。消火活動は9日間にも及び、137ヘクタールもの森林が焼失しています。
また2020年4月に大分県竹田市のくじゅう連山で発生した山火事では、県の天然記念物にも指定されているミヤマキリシマ約1,600本に被害が出ました。登山者のガスバーナーによる火災が原因とされており、近年のアウトドアブームの高まりも、山火事の発生増加の一因になっていると考えられています。
日本で起きる山火事の大半は人為的要因
山火事の原因は、落雷など自然現象によるものと、たき火などの人為的要因に大きく分けられます。日本ではたき火が全体の約30%を占めるなど、人間の不注意による山火事が多く発生しています。最近では昔に比べて火を扱う機会が減り、多くの人が火の取り扱いに慣れていません。そのために、火を使い終わったあとに、適切な消火ができていないことも原因の1つと考えられます。
総務省消防庁「消防統計(火災統計)令和5年(1月~12月)における火災の概要(概数)」をもとに作成
2018~2022年にかけて行われた消防庁の調査によると、日本で起こる山火事のうち、約7割が1~5月にかけて発生しています。冬から春は主に以下の理由により山火事が起きやすいため、特に注意が必要です。
冬に発生しやすい主な原因
- 枯れ草や落ち葉などが多い
- 風が強く燃え広がりやすい
- 太平洋側を中心に空気が乾燥している
春に発生しやすい主な原因
- 行楽や山菜採りなどで山に入る人が増えることで、人為的火災が発生しやすくなる
- 農作業にともなう枯れ草焼きなど野焼きの増加
街での火災に比べて山火事は燃え広がりやすい?
山は街に比べて人の出入りが少ないため、火災の発見と通報が遅れがちです。さらに総務省による消防団に関する調査※によると、全国的に消防団員数は減少しており、特に山村集落では人手不足が問題になっています。こうした山村の過疎化によって森林の管理が追いつかず、草や枯れ葉などがそのままになっていると、山火事が拡大する原因となります。そのほか以下のような理由で、山火事は街での火災に比べ、被害が拡大しやすいことがあります。
- 道が狭い、夜間の活動が危険など効率的な消火活動が行いづらい
- 建物の火災に比べ、燃え広がるスピードが速く、消火が追いつかない
- 放水に使用する消防水利(消火栓や河川など)の確保が難しい
- 山中での通信手段が限られ、消火活動に必要なコミュニケーションが取りづらい
- 強風の発生など地形や気象により状況が変わりやすい
- ※
2023年総務省調査「消防団の組織概要等に関する調査(令和5年度)の結果」
リスク:山火事は何が恐ろしい? 環境や経済への影響
山火事による人体への影響は主に以下が考えられます。風向きによっては集落にも煙が流れ込み、被害がさらに拡大する可能性も考えられます。
また、環境や経済に対する被害も考えられます。
- インフラへの影響
送電線が切断され、停電が発生する。山火事にともなう通行止めなど、交通インフラに影響が出る場合も。 - 土砂災害、洪水などの二次被害
消火後、森林が消失した部分は山の保水力が低下するため、大雨などにより土砂災害や洪水などが起こる可能性が高まる。 - 森林資源や動植物への被害
山火事により植物が燃えたり、動物が死んだりするなど生態系に影響が出る。動物の種類によっては、山火事により住む場所や食べるものを失うこともある。そのような場合には、畑の作物を食べる、人里に出没するなどの影響が出るおそれも。また、森林の機能が回復するまでには、数十年もの歳月やコストなどがかかる可能性もある。地球温暖化を防止する観点でも、日本の国土のうち約7割を占める森林を守っていくことが大事。
対処法:山火事が起きた際の避難方法と、日頃から意識したい防火対策
山火事を発見したら、すぐに通報することが重要です。誤って火事を起こしてしまった場合も、一刻も早く119番通報しましょう。
119番へ通報する際のポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。
山火事が起きた際の避難方法をシーン別に紹介します。
- 火事現場に近い場所にいる場合
風下を避け、速やかに安全な場所へ避難しましょう。山道は基本的に上り優先のため、車で逃げる際は、緊急車両である消防隊、消防団などの邪魔にならないよう慌てず運転してください。 - 自宅など火事現場から遠くにいる場合
テレビや自治体の公式サイト、防災無線などに意識を向け、自治体からの避難指示があった際はすぐ避難しましょう。高齢者や子ども、基礎疾患を持っている人は早めの避難を心掛けてください。
山火事発生時にチェックする情報
台風や低気圧、高気圧など強風が予想される場合は、天気予報で風向きをチェックしましょう。風向きを把握しておくことで、避難時に迷わず風上へ逃げられます。また、山火事が鎮火したあとは、土砂崩れや洪水の原因となる大雨にも注意してください。そのほか以下のウェブサイトやアプリも役立ちます。
- Yahoo!防災速報
さまざまな災害情報をプッシュ通知で迅速に知ることができるアプリ。 - 避難場所マップ(Yahoo!天気・災害)
全国の自治体による「避難指示」「高齢者等避難」など避難情報の発令状況や、避難所の開設状況を確認できる。 - Google マップ
世界で発生している山火事を Google マップの「山火事レイヤー」で確認することができます。マップ上の赤い点をタップすると、火災の規模や避難情報などが表示されます。
山火事に備えた事前対策
水や非常食などを入れた非常持ち出し袋の準備に加えて、複数の避難経路を確認しておくことも大事です。非常持ち出し袋の中身は、地震用と同じもので大丈夫です。貴重品、医薬品、眼鏡などを忘れずに。また、山間部に住んでいる人は、もしもの時に備えて火災保険に入っておくと安心です(保険会社により補償範囲が異なる場合がありますので、加入前に内容をよく確認してください)。自宅を準耐火構造にリフォームするなどの備えも検討してください。
一人一人が山火事を発生させない意識を!
山火事の発生原因の多くはたき火など人為的なものです。そのため、山火事を発生させないためには、火の扱いについて一人一人が正しい知識を持ち、防火意識を高めることが必要です。山火事を防ぐために、以下の行動を心がけましょう。
- 生えている木や草などを広範囲で燃やす「火入れ」を行う場合は、必ず自治体や消防署の許可をとる。また、広範囲でなくても、消防への届け出や連絡などが必要な場合も
- 燃えやすい枯れ草などがある場所では火を使わない
- 山や森の中で、花火などの火遊びをしない
- 強風時や乾燥時はたき火や火入れをしない
- 喫煙者は携帯灰皿を持参し、吸い殻をポイ捨てしない
- 火を使う際はその場から離れず、使用後は必ず完全に消火する
特にバーベキューや花火をした際も、完全に火を消すことが大事です。火を消してから数時間後に再チェックするなどして、確実に消火できたかをしっかりと確認するようにしてください。
監修者プロフィール
防災講師・防災コンサルタント
高橋 洋(たかはし・ひろし)さん
1953年、新潟県長岡市生まれ。1976年、練馬区に就職し、図書館、文化財、建築、福祉、防災、都市整備等に従事。1997年より防災課係長として、地域防災計画、大規模訓練、協定等に携わる。現在は、防災講師・コンサルタントとして、自治体等で講演、ワークショップ指導などを行う傍ら、復興ボランティア、終活ガイド・エンディングノート認定講師としても幅広く活動。防災関係著書・論文、防災関係パンフレット類監修多数。
(掲載日:2024年8月29日)
文:大瀧亜友美
編集:エクスライト
イラスト:高山千草