
日本は国土に占める森林の割合が世界でもトップクラス。しかし日本の森林は、樹木の高齢化や管理不足など、さまざまな課題を抱えています。そんな課題を解決するために、国や自治体、企業はどのような取り組みをおこなっているのでしょうか。そもそもなぜ森林を保全する必要があるのか? 森林が私たちの暮らしにおいてどんな役割を担っているのか、そして個人が森林保全のためにできるアクションについて、専門家にお話をうかがいました。

目次
暮らしを支える森林が担う、8つの役割

(出典:日本大学 生物資源科学部 森林学科)
普段の暮らしの中で、森林の役割について考える人は少ないかもしれません。しかし、実は森林は私たちの暮らしになくてはならない存在です。まずは、森林が地球や人間にとってどのような役割を果たしているのかについて、杉浦さんに教えていただきました。
「森林の機能は、大きく分けて以下の8つに分類されます」
- 生物多様性の保全
-
植物や動物を保全する働きがあります。森林があることで、さまざまな生き物の遺伝子を保存できています。また、河川や沿岸など、より大きな生態系を守る役割も担っています。
-
- 地球環境の保全
-
森林は二酸化炭素を吸収し、地球の気象を安定化させます。また、木材は再生可能エネルギー源として利用できるため、化石燃料の一部を補うことができ、環境保全に役立ちます。
-
- 土砂災害防止・土壌保全
-
森林には地表の土が崩れるような表層的で小規模な土砂災害を防止する働きがあります。森林の土壌があることで、雨が直接土に当たることを防ぎ、土砂の流出や表面の侵食を防止します。
-
- 水源涵養(かんよう)
-
「涵養」とは、だんだんと水が吸い込むように養い育てることを意味します。森林は大量の水をスポンジのように吸収し、私たちの水資源を貯蓄したり、少しずつ川に流すことで洪水を緩和したりするため、「緑のダム」とも呼ばれています。また、地下水などに流れていく過程で水質を浄化する働きもあります。
-
- 快適な環境の形成
-
森林は気候を調節し、大気を浄化します。また、木があることで騒音を吸収してくれたり、木陰が生まれて体感温度が下がったりと、私たちにとって快適な環境が作られるのです。
-
- 保健・レクリエーション
-
「森林セラピー」などがあるように、森林は人々の癒やしやリフレッシュの場としてもよく使われています。また、遠足やキャンプなど、レクリエーションの場としても機能しています。
-
- 森林文化
-
森林は文化的資源でもあります。古くから日本の宗教的な意味合いや、伝統的な文化と深く結びついていることも多く、信仰の対象となっている場面も多くあります。また、学習や教育の場としても非常に重要な資源でもあります。
-
- 物質生産
-
森林はキノコや山菜など、食料を含むさまざまな物質を生産しています。燃料、建築材、パルプ、木製品など、私たちの生活に欠かせない木材も森林から生まれています。
-
森林は林業のみならず、農業や漁業にも影響を及ぼします。まず、森林が気候を安定化させることで、お米や野菜といった農作物がよく育ちます。また、「海と山は恋人」という言葉があるように、森の栄養はプランクトンや小さな生き物を育て、その積み重ねが海や川の魚を支えています。また、水がきれいになることで、漁業にも良い影響が出るのです。
私たちの暮らしに深く関わっている森林。もしも森林がなくなったら、気象を安定化させる働きや二酸化炭素を吸収する働きが失われ、気温が上昇する、雨が降らないなどの影響が出ることが予想されます。さらに、土壌の保全機能や水源涵養機能が失われることで、水害や土砂災害も増えるでしょう。また、森林が破壊されると、野生動物と人間の居住地との距離が近くなり、今までなかった感染症が増加する可能性もあります。
「地球をひとつの身体だとすると、森林は呼吸をする『肺』に当たります。もしも森林がなくなったら、地球の健全性が失われ、私たちの文明そのものが脅かされることになります」
森はいま、どうなっている? 日本で広がる課題と、守るための動き

私たちの生活においてさまざまな役割を担っている森林。実は、日本国内で大きな課題を抱えており、国や自治体、企業があらゆる取り組みを行っています。
量は多いのに質が低下? 深刻化する人工林の高齢化と手入れ不足
地球全体では森林の減少が見られる一方で、実は日本の森林面積は戦後からほとんど変わっていません。日本の森林面積は国土の約67%を占めており、森林面積率は先進国の中でもトップレベルです。
森林には大きく天然林と人工林がありますが、日本の人工林は「質」と「管理体制」に課題を抱えています。戦後に復興造林と拡大造林(天然林を伐採して人工林に転換した政策)として大量に植えられた人工林が年を取り、樹木の高齢化が進んでいるのです。高齢化した木は、二酸化炭素の吸収量が落ちてしまいます。しかも高齢化した人工林の多くは、間伐が十分にされていないなど、手入れ不足の状態にあるのです。また、戦後に植えられたスギやヒノキからは花粉が大量に飛散し、国民病とも言われる花粉症を引き起こす原因のひとつにもなっています。

人工林の齢級構成の変化(出典:林野庁 令和5年度森林・林業白書)
齢級とは、森林を年齢別に整理するための管理単位で、植栽年を1年とし、5年ごとに区切ります。1齢級:1~5年生、2齢級:6~10年生
「人工林は人間の赤ちゃんと同じで、健全に育つためには手をかけてあげなくてはいけません。間伐を怠った森林は、根張りが不十分な状態でひょろひょろと縦に伸びてしまうため、台風や土砂災害の際に倒れやすくなります。また、十分な光が入らなくなることで土が痩せていき、土砂が流出しやすくなるのです」
では、なぜ森林の管理不足が起きているのでしょうか。その原因は「作業コスト」と「所有権」、「山村の高齢化と過疎」にあります。
日本の山は傾斜が急で作業が危険なため、作業コストが高くついてしまいます。その一方で木材価格は高くなく、採算が取りにくいため、「コストをかけてまで手入れをしたい」と考える所有者は多くありません。また、私有林にでは「相続人が相続の事実を把握できていない」「土地の境界がわからない」という問題も生じており、管理が滞る要因の一つとなっています。
「さらに、林業は『もうからない産業』というイメージが強く、山村の高齢化と過疎も相まって、担い手不足も深刻な課題となっています」
制度改革や制度利用、木育、スマート林業…広がる国や企業の多様なアプローチ
森林の課題に対応するため、国や自治体はさまざまな取り組みを進めています。
そのひとつが「森林経営管理制度」の創設です。これは、市町村が森林所有者に意向調査を行い、管理したくない所有者から森林の管理を引き受けるというもの。他には、花粉症の原因となるスギやヒノキの人工林を、花粉が少ない種類へ転換する取り組みも行われています。また、国民は毎年1,000円の森林環境税を負担しており、この税収は間伐や林道整備、林業の担い手の育成などに活用されています。

企業でも、森林保全に向けた取り組みが進められています。例えば、森林資源を生業(なりわい)にしている企業は、子どもに木のぬくもりを知ってもらう「木育」の発展を目指し、山形県産の間伐材で作った玩具を販売しています。ある国内の車メーカーでは、間伐によって生まれた木材を活用し、乳幼児向けの木製の車のおもちゃや、木製のコンセプトカーを開発・発表しました。
他にも、国の制度を利用したケースもあり、ソフトバンクは企業版ふるさと納税制度を活用した「日本森林再生応援プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトは、46道府県と東京都・八王子市に対し総額40億円超を寄付し、2025年から2040年までの15年間、自治体の森林保全活動を支援するという取り組みです。このように、さまざまな企業が各自の方法で森林保全や啓蒙活動に取り組んでいます。

また、最新の技術やテクノロジーが森林保全に活用されている事例もあります。例えば、人工衛星からデータを得る「リモートセンシング技術」により、広範囲の森林の状況を効率的にモニタリングすることが可能になりました。山火事や土砂崩れなどの災害時、災害が起きた場所や規模をいち早く正確に特定できるのです。

他にも、森林の情報はGIS(地理情報システム)によってデジタル化されています。森林の地図(場所と区画)、種類や量、作業歴、地形といったものがコンピューター上で管理され、情報共有が進められています。現場では、通信ネットワークの整備が進められ、川上と川下を情報でつなぎ、木材の需要と供給のマッチングといった取り組みも始まっています。
さらに、林業機械や自動化が進められ、作業の安全性の向上も含めた「スマート林業」の取り組みも広がりを見せています。これにより、人材不足の解決につながる可能性があります。
「ドローンやレーザーを使って立体情報を取得し、森林の状態を3D化して把握する技術も進歩しています。この技術により、樹木1本1本の形状、高さ、位置などを把握できるようになりました。これらの技術で得られた情報は、将来の森林計画を立てる際の基礎データとして活用されています」
まずは「知る」ことから始めよう。私たちにできる、森林を守るアクション

では、個人が森林保全に貢献するにはどうしたらいいのでしょうか? 個人ができる行動には、「参加する」「消費する」の2つがあります。
参加する
森林ボランティアへの参加や寄付といった方法です。NPOや自治体などが募集しているボランティアでは、ノコギリを使った間伐など、簡単な森林整備を手伝うこともあります。また、森林保全団体などへの寄付も参加型の支援です。他には、地方自治体が森林政策における市民の声を集めることがあるので、そういう場で意見を述べることも森林保全への参加と言えるでしょう。
消費する
食品を選ぶときに産地を見るのと同じく、紙製品や木製品を買う際に「FSC」「PEFC」マークがついた商品を選ぶといった方法です。これらの認証マークは、「環境に配慮し、地域社会にも配慮し、経済的にも持続可能である」という3つの基準で合格点をもらえた製品にのみにつけられます。このマークがついている製品を積極的に買うことが、森林資源に貢献することになります。
「何よりも『森林について知る』ことがとても大切なので、森林の重要性や現状を正しく理解してくれたらうれしいです。その上で、自分が知ったことをSNSなどで周りの人へ発信し、輪を広めていきましょう」
いつもの行動が森林保全につながる。ソフトバンクの「NatureBank」
ソフトバンクでは、「NatureBank」という消費者参加型植樹貢献プログラムを立ち上げています。ソフトバンクやグループ各社が提供するアプリやサービスを日常生活で利用し、ユーザーが「エコアクション」と呼ばれる環境にやさしい行動をとった回数に応じて、CO2実質抑制量を算出し、その抑制量のCO2を吸収するのに必要な本数の木をソフトバンクが全国で植樹支援する仕組みです。これにより、実質2倍のCO2削減への貢献につながります。5年間で累計約35万本の植樹を目指しており、誰もが身近な行動で森林保全に参加できることが特長です。
対象となるのは、決済アプリ「PayPay」やファッションリユースの「ZOZOUSED」、自転車シェアサービス「HELLO CYCLING」、「Yahoo!乗換案内」などの全17アクション。例えば、PayPayで決済したり、「Yahoo!乗換案内」や「Yahoo!カーナビ」でエコなルートを検索するだけでも、森を育てることに貢献できます。NatureBankへの参加は無料かつ登録不要なので、ぜひ参加してみてください。自分にできることから始めて、森林を守りましょう。




(掲載日:2025年12月23日)
文:吉玉サキ
編集:エクスライト
消費者参加型植樹貢献プログラム「NatureBank」

ソフトバンクおよびソフトバンクのグループ企業が提供する全17のエコアクションを対象に、日常のエコ行動を通じた環境貢献を可視化・実感できるプログラムです。毎月第1木曜日を「NatureBankの日」と定め、関連する情報発信を行っています。







