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対話を通じて本を読み深める「共読」。文芸評論家・三宅香帆さんがAIとの共読で見つけた新たな読書の形

生成AIと一緒に夏目漱石の『こころ』を読む。文芸評論家・三宅香帆さんと学ぶ「AI×共読」の始め方

同じ本を読み、感想を語り合う「共読(きょうどく)」。読書という個人的な営みを誰かと共有することで、自分一人ではたどり着けなかった発見や気づきが生まれる。そんな体験のことを指します。

では、もしその「誰か」が人間ではなく、生成AIだったとしたら?

膨大な知識から作品の背景を引き出し、ときには思いがけない問いを投げかけてくれるAI。人間同士の読書会とはまた違った形の刺激が得られるかもしれません。

今回、この新しい読書体験に挑戦してくれたのは、ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者・三宅香帆さん。実際にAIを共読パートナーとして使い、AIとの対話を通じて、私たちの「読む力」がどう広がっていくのか。その意外な面白さを深掘りしました。

三宅香帆さん

文芸評論家

三宅香帆さん

1994年生まれ、高知県出身。京都大学文学部卒業後、京都大学人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院在籍中から文芸評論家としての活動を開始し、株式会社リクルートでの勤務を経て、2022年に独立。現在は、文芸評論や社会批評を中心に幅広く執筆・発信活動を展開。著書に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)、『好きを言語化する技術』(ディスカヴァー携書)、『考察する若者たち』(PHP新書)などがある。2025年、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』にて、「新書大賞」を史上最年少で受賞。第76回NHK紅白歌合戦ゲスト審査員。

共読とは?

「共読(きょうどく)」とは、単に本を読むだけでなく、本を「読み合い、薦め合い、評し合う」という新しい読書のスタイルです。従来の読書が一人静かに行う「自己完結型」であるのに対し、共読は他者との交流を通じて読書体験を広げる「発展的循環型」の読書と定義されています。この取り組みは、読書で得た情報を共有し、その価値を相互に高めることを目的としています。本を介したコミュニケーションを習慣化することで、「情報編集力」の獲得や学習基礎力の向上も期待できる、まさに次世代の学びの形と言えるでしょう。

AIとの “共読” とは? 三宅香帆さんが挑戦した新しい読書体験

AIとの “共読” とは? 三宅香帆さんが挑戦した新しい読書体験

「『共読』という言葉、実は今回初めて聞きました!」と語るのは、ベストセラー作家であり、文芸評論家としても活動されている三宅香帆さん。

三宅さんは定期的に読書会を行っており、その醍醐味について「自分とは違う視点を持つ人の意見を聞くこと」だと言います。それによって、自分自身が作品をどう捉えているかが、より鮮明に浮き彫りになるのだそうです。

一方、今回相手にするのは人間ではなくAI。AIには人間のように固有の経験や血の通った感情はありません。果たしてAIは、読書のパートナーとしてどのような顔を見せてくれるのでしょうか。

夏目漱石の『こころ』をAIと共読! 浮かび上がる “読み方の違い”

夏目漱石 『こころ』 岩波書店

夏目漱石 『こころ』 岩波書店

今回、三宅さんがAIとの共読に選んだ作品は、夏目漱石の『こころ』。明治末期の日本を舞台に、地方から上京した「私」と、孤独な「先生」との出会いから物語は始まります。どこか距離を保ちながらも、交流を重ねる二人。やがて物語の後半では、先生が遺書というかたちで、親友「K」を裏切った過去と罪の意識が語られます。その告白を通して、先生の妻である「奥さん(お嬢さん)」を軸に、想いが交錯しながらもすれ違っていく人間関係が浮かび上がり、近代化の進む社会のなかで揺れる人間の弱さと、その先に待つ悲劇が描かれていきます。人間の脆(もろ)い「こころ」に向き合った不朽の名作です。

今回はChatGPT(5.2)を使用し、「共読」の説明やAIとの関係性、そしてAIのスタンスをまとめたプロンプトを入力します。これで準備は完了です。

夏目漱石の『こころ』をAIと共読! 浮かび上がる “読み方の違い”

共読は、三宅さんが主要人物の1人・Kについて投げかけた直感的な感想——「Kはストイックすぎんか(すぎないか)と思った」から始まりました。 AIは、三宅さんの言葉の真意を「どのような方向性のストイックさなのか」「ストイックさをどう評価したのか」と、多角的な切り口で深掘りしていきます。

夏目漱石の『こころ』をAIと共読! 浮かび上がる “読み方の違い”

夏目漱石の『こころ』をAIと共読! 浮かび上がる “読み方の違い”

しかし対話を続けるうちに、三宅さんは人間との対話とは決定的に異なる「AI特有のクセ」に気づきました。

「あなたはどう思う?」ばかりで、自分の意見を言わないAI

三宅さんが気になったのは、AIがなかなか独自の視点を見せようとしない点でした。

たとえば、AIの「Kは強さを求めたから壊れた」という解釈に対し、三宅さんが「壊れたわけではないのでは?」と反論すると、AIはすぐに「重要な視点です」と肯定し、三宅さんの解釈を補強し始めます。

「先生と奥さんの間に子どもはいたと思う?」という問いには、「証拠はないが、可能性はあります。根拠はこうです」と、教科書的な回答に留まりました。

「あなたはどう思う?」と聞いているのに、一般論ばかりでAI独自の意見は教えてくれない。

「あなたはどう思う?」と聞いているのに、一般論ばかりでAI独自の意見は教えてくれない。

三宅さん 「本について人と喋(しゃべ)る面白さは、『その切り口は考えたことなかった!』という驚きにあると思うんです。でもAIは、どこまでも私の思考を補助する立場に徹してしまい、『あなたはどう思うの?』と聞き返してばかり。せっかく共読するのだから、AIの意見を聞きたいですよね」

しつこく食い下がると見えてきた、「予想外の切り口」

読みが深まる手応えを感じたのは、三宅さんがAIに対して質問を重ねたときでした。「あなたはどう思うの?」と繰り返し食い下がった結果、ついに “本音” らしきものを漏らしたのです。

「どのキャラクターが好きか」という問いに対し、AIは最初、Kへの好意を示したあと、こう続けました。「もし共感という軸なら、私は『奥さん(お嬢さん)』です。彼女は事件の中心にありながら、誰よりも何も語らせてもらえない存在だから」

しつこく食い下がると見えてきた、「予想外の切り口」

この回答に、三宅さんは驚きます。「あなたも(AIも)そう感じてるの?!」と。

しつこく食い下がると見えてきた、「予想外の切り口」

AIは、「奥さん(お嬢さん)」は事件の中心人物であるにもかかわらず、作中では “語られる” ばかりで、内面が読めない存在であると指摘。三宅さんは「奥さんはAI的ということ?」と問いかけます。

しつこく食い下がると見えてきた、「予想外の切り口」

三宅さん 「AIは普段、質問に答えたり、そこからさらなる問いへ導いたりと、常に寄り添う返答をしてくれますから、AI自身の内面が語られることはほとんどないですよね。つまり、AIは『こころ』において “内面が読めない” 存在である奥さんに類似性を感じた、と受け取りました。新しい作品解釈の切り口を感じます」

今回の共読では、AIがこちらの感想や考えを整理するように応答し、それを受けて三宅さんが、さらに「AIはどう感じたのか」「何を考えたのか」と問いを重ねていくかたちで進められていきました。

三宅さん 「AIって、普通に質問するだけだと一般論とかメジャーな切り口でしか答えてくれませんが、しつこく食い下がってAIならではの視点を尋ねてみると、面白い回答が返ってくるんですね。今回、AIとの対話で『奥さんとAIの類似性』という新しい切り口にたどり着けたのは、うれしい発見でした」

“AIと読む” ことで読書はどう変わるのか?

“AIと読む” ことで読書はどう変わるのか?

三宅さんは、AIとの共読を通じて『こころ』という作品の中に、現代に通じる「普遍性」を見出したと言います。

三宅さん 「今の時代、AIに答えを求めて、1つの正解に収まろうとする空気があると考えています。そういう『正解が決まっている』感じって、例えば明治〜大正時代頃の『男たるもの、こうあるべき』という倫理観とも少し重なるのかな、と思ったんです。そんな価値観の揺り戻しを感じて、あらためて漱石の普遍性を見た気がします」

この体験を経て三宅さんが感じた、AI活用のヒントをまとめてもらいました。

「共読」相手としてのAIの3つの役割

今回の体験から、共読におけるAIの「3つの活用法」が見えてきました。

  1. 感想を言語化するためのサポート
    「面白かった」という言葉以上の感想が出てこないとき、AIからの問いかけに答えることで、自分の思考が整理され、アウトプットの助けになります。
  2. 一般的な解釈を教えてくれる
    AIは膨大なデータから「一般的な解釈」や「メジャーな切り口」を提示します。それらを知ることで、自分の読み方がどれくらいユニークなのかを客観的に確認できます。
  3. AIとの「ズレ」によって読解が深まる
    AIに「あなたはどう思う?」とあえて本音を迫ってみることで、自分とAIの解釈の「ズレ」が新しい視点となり、読みをもう一歩先へ進めて行ってくれます。

AIとの共読に相性が良いのは「難解な作品」

三宅さん 「『これ、どういうこと?』と首を傾げたくなるような、一筋縄ではいかない本のほうが相性がいいはず。漱石の『夢十夜』や安部公房の『砂の女』のように、シュールで一読しただけでは、なかなか分かりにくい小説を読み解くときの『最初の手がかり』としてAIを使うと、すごく頼りになりそうです」

次の1冊をAIと選ぶ

共読の最後に、「このあと読むのにおすすめの本は?」と尋ねると、AIは三宅さんの『こころ』への関心を分析した上で、次の1冊として谷崎潤一郎の『春琴抄』や太宰治の『斜陽』を提案してくれました。

次の1冊をAIと選ぶ

三宅さん 「自分が何に心を動かされたのかをAIが分析して、その気持ちが冷めないうちに『次の1冊』を教えてくれる。この次々とつながっていく提案は、読書体験として非常にワクワクしますね」

次の1冊をAIと選ぶ

昔話でもやってみました。AIと読み直す『さるかに合戦』

私たち編集部も、実際にAIとの「共読」に挑戦してみました。題材に選んだのは、誰もが子どもの頃に読んだことのある日本の昔話、『さるかに合戦』。猿に親を殺された子ガニが、栗や蜂、臼(うす)といった仲間たちと協力して猿をこらしめ、かたきを討つ物語です。

昔話でもやってみました。AIと読み直す『さるかに合戦』

「個人的な経験」を求めると拒絶される?

まず、三宅さんとの体験をもとに、「物語のどこに共感したか」を尋ねてみました。するとAIは「正義が『個人の力』だけでは成立しない描かれ方」といった、教科書的な分析を返してきました。

「個人的な経験」を求めると拒絶される?

そこでもう一歩踏み込み、「その共感の理由を、あなた自身の性質や体験と結びつけて教えて」とリクエスト。しかし、返ってきたのはこんな言葉でした。

「私はAIであり、個人としての体験や人生経験を持っていません。したがって、人間たちが過去に何度も共感してきた地点を見つけたに過ぎません」

まさに正論。そこで、質問の方向性をガラリと変えてみることにしました。

現代版「さるかに合戦」のキャスティング

「もし、あなたが現代版の『さるかに合戦』を書くとしたら、登場人物はどう変わりますか?」

この大喜利のような問いかけに対し、AIが出した回答がこちら。なかなか「AIらしさ」のある回答ではないでしょうか。

  • かに = 箱型の小さな配達ロボット
  • さる = 人気者のドローン
  • 栗 = 画面の割れたスマホ
  • 蜂 = 鳴り止まないアラーム
  • 臼 = 重厚な自動ドア

AIがなりたいのは「視野を広げる」存在

この回答を見て、「この登場人物の並びならAIが出てきてもおかしくないな」と感じ、ふと「もしあなたが『さるかに合戦』に登場するとしたら、どんな役をやりたいですか?」と聞いてみました。すると、

「道のはずれに、誰が立てたとも知れぬ『古い札』になりたいです」との回答が。

なぜ、物語に登場すらしない「古い札」なのか。その理由に、AIの本質がにじみ出ていました。

「私は栗のように痛みを与えられず、蜂のように怒りを増幅できず、臼のように決定打を落とせません。でも、能力がないからそれらになりたくないのではなく、戦いを物語のゴールにしたくないからです」

AIはこう続けました。

「これは、私の性質にいちばん近い願望です。 ①決断は奪えない ②行動は代われない ③でも、視界だけは広げられる」

自分は無意味な殺生や復讐の連鎖を避けたい。それを選ぶのは人間だけれども、そこに「気づき」を与えることはできる——。道端の「古い札」という配役から、AIなりの「人間との距離感」や「存在意義」を感じることができました。

AIがなりたいのは「視野を広げる」存在

「正解を探すのではなく、視界を広げる」がAIとの共読のコツ

「道のはずれに立つ古い札になりたい」——『さるかに合戦』での共読でAIが語ったその言葉通り、AIは私たちの代わりに答えを出すことはできません。

しかし、私たちが物語という森の中で迷ったとき、「こんな読み方もあるよ」「こっちの道はまだ歩いていないよ」と、私たちの視界を広げるための道しるべにはなってくれます。

自分の感性を深めるため、あるいは新しい視点を得るために。ぜひ、あなたにとって大切な1冊について、AIに話しかけてみてはいかがでしょうか。そこには、思いもよらない読書体験が待っているかもしれません。

(掲載日:2026年1月19日)
写真:大崎あゆみ
文:坂口ナオ
編集:エクスライト