防災には日頃の備えが肝心。分っているけど、非常時専用の食品・アイテムは普段使いしないし、どうも扱いづらい…。そんな悩みを解決する手段として、近年「ローリングストック」や「フェーズフリー」という考え方が広がっています。“備えない防災” をコンセプトに、普段使いはもちろん、非常時にも適した食品・アイテムを導入できれば、気負いなく災害対策を進められるかもしれません。そこで今回は「ローリングストック」、「フェーズフリー」をテーマに、意識しなくても防災に取り組めるメソッドについて、防災家・防災スペシャリストの野村功次郎さんに伺います。
目次
普段の食事やアイテムを生かす。ローリングストックの基本を紹介
近年、食の防災対策として広く知られるようになった「ローリングストック」。まずは、ローリングストックが広まった背景や導入するメリット、食品以外のローリングストックに適したアイテムなどについて、野村さんに教えていただきました。
ローリングストックが広まった背景は?
ローリングストックとはどのような備蓄方法なのでしょうか? また、ローリングストックが広まった背景についても教えてください。
野村さん 「ローリングストックとは、災害時に必要となる食品や消耗品を日頃から多めに購入し、消費した分だけ新しいものを買い足していく備蓄方法です。災害大国である日本で生まれた考え方で、2011年の東日本大震災をきっかけに広まり始めました。
その背景にあったのは、災害時の避難所における混乱。必要とする人に適した物資が届かない、いざ届いたときには必要がなくなり大量の物資を廃棄しなければならない、といった事態が多く見られたのです。そのような悪循環を招かないためにも、避難生活や備蓄に対するスタンスが見直されるようになりました」
ローリングストックを実践するメリットとして、どのようなことが挙げられますか?
野村さん 「メリットは大きく3つあります。1つ目は習慣化することで防災が日常になること。災害時にしか使わないものに収納スペースを割いたり、非常食の賞味期限切れを気にしたりといったわずらわしさが解消されます。
2つ目は、いつもと変わらない食事がとれること。非常時でも栄養バランスの整った食事をとることができ、不足しがちなタンパク質やビタミンも補えるため、体調を崩しにくくなります。
3つ目は、精神の安定を保てること。避難生活が長引くと、緊張や不安などからストレスがかかり、精神状態が揺らぐことがしばしばあります。ローリングストックを活用して、いつもと変わらない食事をとることが、心身のリラックスにつながります」
食品以外も備えるべき? ローリングストック向きのアイテム
食品以外でローリングストックに向いているアイテムはありますか?
野村さん 「ウエットティッシュや乾電池、ポリ袋などの消耗品、調理の熱源として使えるカセットコンロや固形燃料などは、いざというときに役立つ必須アイテムです。また、使い捨てカイロもおススメです。過去のデータから、地震は冬に起こることが多いとわかっており、寒さによる体力の消耗を避けるためにも欠かせません」
乳幼児や高齢者のいる家庭では、どのようなアイテムを備えておくべきでしょう?
野村さん 「紙オムツや消毒アイテムなどの衛生用品は、災害時に入手が難しくなります。なぜなら、食品に比べて避難所に届くまで日数がかかるから。もしもを想定し、日頃から多めに備蓄しておくと安心です。また、避難時は薬をすぐに処方してもらえない可能性があるため、常備薬も多めに備えておきましょう」
防災スペシャリスト直伝! ローリングストックを実践してみよう
ここからは、ローリングストックの具体的な実践方法を解説! アイテムの選び方や収納・管理ポイントのほか、ローリングストックをより気軽に実践できるコツについて、野村さんに教えていただきます。
ローリングストックに適したアイテムを選ぶ4つのポイント
ローリングストックを実践するにあたり、どのようなアイテムを選べばいいか、ポイントを教えてください。
野村さん 「食品に関しては、いつも食べているものの中で、次のいずれかを満たすものを選ぶといいですね。
- 常温で保存ができる
- 調理(加熱)せずそのまま食べられる
- 賞味期限が半年以上ある
- 収納する際にスペースを取らずに済む
レトルト食品や冷凍食品、缶詰などのほか、保存期間が長く栄養価が高いドライフルーツや干物などもおすすめです。ローリングストックに適した食品のリストも参考にしてみてください」
種類 | 用途 | 食品の例 |
---|---|---|
主食 | 生命維持のエネルギー源 | 米、餅、パックご飯、レトルト粥、乾麺、パスタ、缶詰パン、即席麺、カップ麺、シリアル、小麦粉など |
主菜 | タンパク質、ビタミン類、脂質を補う | 缶詰、レトルト食品、フリーズドライ食品、充填型食品など |
副菜 | ビタミン、ミネラル、食物繊維を補う | 乾物類、保存のきく根菜類、インスタントスープなど |
菓子・果物・飲料 | エネルギー補給、水分補給 | ようかんやキャラメルなどのお菓子、フルーツの缶詰、ドライフルーツ、野菜ジュース、フルーツジュース、充填型牛乳など |
調味料 | 味付けや調理 | 味噌、醤油、油類、常温保存できる調味料など |
ローリングストックのアイテムを管理・収納するコツ
ローリングストックを実践するには、管理・収納の仕方もポイントになると思います。アイテムの劣化を防ぐ方法や、スムーズに取り出しできる管理・収納のコツを教えてください。
野村さん 「アイテムの収納・管理では、以下の3点をおさえておきましょう」
- 直射日光の当たらない場所で管理する
ベランダや屋外の物置など、高温多湿の場所は避けましょう。玄関とキッチンのどちらからも行き来しやすい場所に収納すると、持ち出しやすく、買い込んだときも楽にしまえて便利です。 - 古いものから手前に収納する
ストックアイテムは、賞味期限や使用期限の古いものを手前に収納してください。期限切れにならないよう、古いものから順に使いましょう。 - 冷凍庫を活用する
冷凍庫もローリングストックの収納スペースのひとつに。停電したときも長く低温を保てるため、常に満杯にしておくことをおすすめします。冷凍食品は災害時に不足しがちな栄養素を補いやすく、解凍しただけで食べられるものも豊富です。
ローリングストックのよくあるお悩み
ここからはローリングストックにまつわる “あるある" を野村さんにお聞きします。
Q:ローリングストックのアイテムは、物によって賞味期限や使用期限がバラバラで、気づいたら期限が過ぎていた…ということも。上手な管理方法はありますか?
A:デジタルとアナログを上手に活用しましょう。
「アイテムをクリアケースなどに収納して見える化する、油性マジックで商品の外袋に賞味期限や使用期限を大きく記入するなど、まずはアナログな手法を試してみましょう。スマホのカレンダーや管理アプリなどを活用し、期限が近づいたら通知がくるように設定しておくのもいいと思います」
Q:家の中の収納スペースが足りません。アイテムをコンパクトに収納するにはどうすればよいですか?
A:デッドスペースを探して、分散して収納しましょう。
「コンパクトに収納するためにアイテム数を減らすよりも、家の中のデッドスペースを活用する方がいいと思います。例えば、イスの下やテーブルの下など、家の中にはデッドスペースが意外とあるもの。1カ所にまとめて置かず、分散してストックすれば、広いスペースは必要ありません」
Q:災害時に向けて食品を備蓄するつもりが、すぐに食べてしまいます。買い足しをするちょうど良いタイミングはありますか?
A:すぐに食べてしまっても問題なし。定期的に必要なものを買い足すルールを決めましょう。
「ローリングストックは、非常用持ち出し袋とは異なるため、すぐに食べてしまっても問題ありません。半月ごと、1カ月ごとなどマイルールを決めて、定期的に量や期限をチェックし、必要な量を買い足していきましょう。消費しやすい水やレトルト食品などは、ネット通販の定期便を活用して買い足すのもおすすめです」
ソフトバンクでは定期的に備蓄品を入れ替えしています
全国の拠点に備蓄している食品は、定期的に点検を行い新しいものに入れ替えして、賞味期限切れを防いでいます。また、入れ替えの際は社員への配布やフードバンク団体への寄贈などを有効活用することで、食品の廃棄をなるべく防いでいます。
“日常時” と “非常時” の境をなくす、フェーズフリーの考え方
全国各地で地震や水害などが相次ぎ、防災への意識が高まっている昨今。そんな中、注目されているのが “備えない防災” とも呼ばれる「フェーズフリー」です。フェーズフリーの考え方やそのメリット、フェーズフリーを取り入れたアイテムなどについて、野村さんに解説していただきました。
フェーズフリーの考え方とそのメリット
フェーズフリーとはどのような考え方でしょうか?
野村さん 「フェーズフリーとは、日常的に使っている物やサービスを災害時に役立てるなど、日常時と非常時の境界をなくす考え方です。東日本大震災や熊本地震などの危機を経て、『繰り返す災害を解決する』という発想からスタートしました」
日常生活にフェーズフリーの考え方を取り入れるメリットについて教えてください。
野村さん 「フェーズフリーを取り入れるメリットとして、次のようなことが挙げられます。
- 災害時にストレスが少ない生活を送れる
- 災害時・非常時の備蓄を用意する必要がない
- 災害時の対応力を高められる
日頃から使っているものを災害時にもそのまま使用するため、使用方法がわからず手間取ったり、物資が足りなくなったりする心配がありません」
アスクル株式会社はフェーズフリーに賛同しています
備えない防災のススメ「フェーズフリー」の考え方に賛同し、多くのフェーズフリー商品を取り扱っています。
普段使いもできる! フェーズフリーの考え方を取り入れたアイテム
フェーズフリーの考え方が適用できるアイテムとして、どのようなものが挙げられますか?
野村さん 「最近では、フェーズフリー認証マーク(PF認証マーク)を取得した商品も増えてきました。また、認証マークを取得していなくとも、日常時・非常時ともに役立つアイテムは身の回りにたくさんあります」
- フェーズフリー認証マークを取得したアイテムの一例
- バケツ代わりにもなる撥水バッグ
- LEDライト搭載のモバイルバッテリー
- 蓄光LED電球
- メジャーが付いた紙コップ
- 濡れた紙に書けるボールペン
heart bridge バッグにもバケツにもなる超撥水バッグ
雨の日でも安心な超撥水バッグ。水を運搬することができるほどの効果を持つ超撥水生地を、表と裏の両面に使用。撥水、撥油性に優れ汚れにくく、染み込んだ汚れも洗濯で落としやすい。速乾性、耐久性があります。
サンナップ デザイン紙コップ メジャーメント
日常時はおしゃれな紙コップで、災害時には計量カップになる「目盛り付きデザイン紙コップ」。外側のデザインに「合」「カップ」「ml/cc」が印字されているため、災害時は手軽な計量カップとして使用可能です。避難所や屋外での炊き出し時の計量のほか、哺乳瓶の消毒が困難な場合でも紙コップのまま授乳できます。
三菱鉛筆 加圧式油性ボールペンパワータンク スタンダード
加圧ボールペン専用インクを圧縮空気が常に押し出すので、いつでも確実に書くことができ、濡れた紙や上向きでも書くことができます。屋外や立ち仕事など、あらゆる場面で機能を発揮します。
- 日常時・非常時ともに役立つフェーズフリーアイテム
- スマートフォン
- ラジオ
- 防災スリッパ
- ハイブリッド車やPHV車
- 避難生活のヒントが描かれたレジャーシート
キングジム 防災スリッパ
非常時だけでなく普段から便利に使える防災スリッパです。底面には丈夫なインソールを採用しているので、災害時に床に散乱した落下物やガラス片などの危険から足を守ります。普段使いできるデザインで日常生活に防災を取り入れることができ、もしものときにも慌てることなく使用できます。
エレコム ベッドサイドランプ 枕元 ライト
日常時は枕元ライトとして使用でき、災害時など、非常時には懐中電灯、スマートフォンの充電器としても使えるライトです。被災時などの災害シーンでも単3形乾電池が4本あれば使用することができるため、防災グッズとして活躍します。
キングジム 防犯ブザー付きポータブルライト
ライトは点灯と点滅2種類のモードの切り替えが可能です。緊急時は88dBの大音量のブザー機能で助けを求めることもできて安心です。停電中や夜道でもハンズフリーで使えます。また、助けが必要なときや遠くに自分の存在を知らせたいときにブザー機能が役立ちます。
フェーズフリーアイテムを選ぶ際のポイントや注意点について教えてください。
- 品質
「フェーズフリーアイテムは、日常時・非常時ともに信頼できる品質であることが重要です。消耗品であれば防水性・耐衝撃性といったポイント、食品であれば賞味期限やおいしさについても十分にチェックしましょう」
- 利便性
「使い方が簡単で、操作性や機能性が高いものを選びます。非常時でも使える仕様になっているか、充電式や手回し式であれば簡単に操作できるかどうか確認してください」
- 保存期間
「保存期間の長いアイテムは、準備や管理の手間を省いてくれます。乾燥や湿気などですぐに劣化しないか、消耗が激しくないかなど、使ってみてチェックすることが大切です」
- 実際に使用してみる
「日常・非日常ともに使用するからこそ、自分の好みやニーズに合ったアイテムを選びたいもの。情報を鵜呑みにせず、実際に使用してみて自分に必要なアイテムを選びましょう」
フェーズフリーの考え方を取り入れた施設や設備が増えている
フェーズフリーの考え方は、アイテム以外に、施設や設備にも取り入れられているとか。どのような例があるのでしょうか?
野村さん 「全国各地に、避難生活の長期化に対応することを想定した商業施設や公共施設、道の駅、ホテルなどが増えてきています。例えば三重県東員町の公園にある、5つのコンテナを連結した建物。平時はカフェとして営業していますが、非常時は分離して被災地へ運べるよう設計されています。太陽光パネルや蓄電池も設置されていて、食料の配給拠点や応急仮設住宅として利用できます。身の回りをよく見ると、他にもフェーズフリーの考え方が適用されているものを発見できると思います」
「防災は、みんながやっているからではなく、いざというときのために自分はどうすべきか考えることから始まります」と野村さんは最後に語ってくれました。ローリングストックやフェーズフリーは、非常時に不便なく生活を送れるようになるだけでなく、災害関連死を防止することにもつながります。「もしも」のために「いつも」備えること。大切な家族や日常を守るためにも、日頃からの備えを見直してみてはいかがでしょうか?
(掲載日:2024年9月25日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
ソフトバンクでは、災害発生時に通信網の早期復旧を図るため、復旧資材および予備備品などを確保するとともに、飲料水や食料などの生活必需品も全国の拠点に備蓄しています。