日本一高い山であり、国内最大の活火山である富士山。300年以上噴火が起きておらず、いつ噴火してもおかしくない状況と言われています。もし大規模な噴火が起こった場合、周辺地域だけでなく、首都圏など広範囲に影響が出る可能性も。記事では、富士山の噴火が起こった際の都心を中心とした影響や対策、事前の備えについて解説します。
この災害テーマのポイント

- 富士山が噴火すると首都圏にも大量の火山灰が降り、ライフラインへの大きな影響が予測されている
- 居住地の警戒レベルや降灰量に応じて移動や待機の判断をする
- 富士山ハザードマップや富士山火山避難計画をチェックし、いざというときに備える
この災害テーマのポイント
- 富士山が噴火すると首都圏にも大量の火山灰が降り、ライフラインへの大きな影響が予測されている
- 居住地の警戒レベルや降灰量に応じて移動や待機の判断をする
- 富士山ハザードマップや富士山火山避難計画をチェックし、いざというときに備える
もし富士山が噴火したら首都機能がまひ?
産業技術研究所地質調査総合センターの調査によると、富士山は直近約5600年の間に少なくとも180回噴火したことが判明しています。現在も研究者によって地震活動や火山ガスなどの観測が続けられていますが、火山が噴火する仕組みは複雑で、次にいつ起こるか正確に予測することは難しいそう。最後の噴火から約300年の間に地下にマグマがたまっている可能性があり、次の噴火は大規模になるかもしれないとも予測されています。
富士山噴火の予兆とは?
富士山が最後に噴火したのは、江戸時代の1707年に起きた「宝永大噴火」。噴火の1カ月前から群発地震が起きたり、山の方から鳴動が聞こえたりしたといった記録が残っていますが、次の噴火でも同じ予兆が起こるかは分かりません。また、予兆の内容や、予兆が起こってから噴火までの時間は火山によっても異なります。例えば1983年の三宅島の噴火や1986年の伊豆大島の噴火では、マグマが火山の下で動き始めてから地震が発生し、およそ2時間後に噴火しました。
「噴火のデパート」と形容されるほど、さまざまな噴火現象が発生する富士山。中でも、火口から噴出した高温のマグマが斜面を流れ下る「溶岩流」や、高温の火山灰や大小さまざまな岩の塊、火山ガスなどが一体となって高速で流れ下る「火砕流(火砕サージ)」などは、命を奪う危険性が高いものとして知られています。
また、火山灰は風に乗って運ばれるため、広範囲に影響を及ぼす可能性も。直接命を奪う危険性はほとんどありませんが、首都圏一帯の交通インフラが停止したり、停電や断水が発生したりすることで、社会機能がまひすることも考えられます。
溶岩流の到達範囲とその影響
溶岩流は危険であるものの、地表や河川をゆっくり流れ下るため避難が可能とされています。富士山火山防災対策協議会が2021年に発表した「富士山ハザードマップ」によると、溶岩流の到達範囲は火口の位置や噴火の規模によって異なりますが、東名高速道路、新東名高速道路まで最短で約2時間、東海道新幹線まで約5時間で到達する可能性があると予測されています。
火山灰が降る範囲とその影響
富士山の噴火によって、首都圏にも大量の火山灰が降ることが予測されています。内閣府が2020年4月に公表した予測によると、首都圏で降灰が始まるのは噴火の約3時間後。降灰は2週間ほど続く可能性があり、最終的に山梨や神奈川で約20センチ、東京都心で約10センチの堆積が予測されています。
人体への影響
火山灰はサラサラとした粉のような質感ながら、実はガラス質で鋭利な形状をしています。そのため、吸引すると呼吸器官に影響を及ぼすほか、目に入れば失明する恐れも。呼吸器疾患を抱えている人は、特に注意する必要があります。
ライフラインへの影響
停電 | 火山灰には、水分を含むと電気を通す性質があります。そのため、降灰の後に雨が降ると、電柱に積もった灰に電気が流れ、停電する可能性があります。 |
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断水 | 停電によって浄水場のモーターが停止したり、火山灰が水路に詰まったりすると、断水が起きることも。また、火山灰が2ミリ以上積もると一部の浄水場が稼働できなくなり、水の供給に影響が出る恐れがあります。 |
下水道 | 火山灰が2ミリ以上積もり、さらに雨が降ると、下水管が詰まって下水があふれる可能性があります。 |
通信遮断 | 通信基地局は非常用電源を備えているため、停電しても数十時間は稼働が可能。ただし、停電が長期化すると、通話・通信しにくくなる地域も出てきます。 |
交通インフラの停止 | 火山灰が道路に積もると少量でも滑りやすくなり、ブレーキが利きにくくなります。厚く積もると通行不能になる恐れも。鉄道ではレールに0.5ミリの火山灰が積もるだけで運行が停止することもあります。また、火山灰が飛行機の航路をふさいだり、滑走路の路面状況を悪化させたりした場合は空路にも影響が出ます。 |
物流の停止 | 陸路・空路ともに交通経路が遮断されると、物流が厳しくなります。被災地域への物資の供給が遅れるほか、経済にも大きな影響を及ぼします。 |
建物の損傷・倒壊 | 火山灰が7〜8センチ積もると、体育館のような屋根の大きな建物が損傷したり倒壊したりする可能性があります。また、10センチ積もると、1平方メートル当たりの重さはおよそ100キログラムとなり、古い建物などで被害が発生します。 |
富士山が噴火した場合、復旧活動は国や自治体を中心に行われます。公的機関からの情報収集を怠らず、自分や家族の身を守ることを優先しましょう。
富士山噴火への事前準備は?
富士山ハザードマップ・避難計画
近年、さまざまな研究によって、富士山の噴火に関する新しい知見が確認されています。
富士山火山防災対策協議会は、約3年をかけて従来のハザードマップの見直しを行い、2021年3月に新しい富士山ハザードマップを公表しました。
富士山ハザードマップ(令和3年3月改定)(静岡県)
この富士山ハザードマップをもとに、2023年3月には、新たな避難計画も発表されています。
富士山火山避難基本計画(令和5年3月)(静岡県)
噴火への事前の備えとして、富士山ハザードマップと富士山火山避難基本計画の中から、以下の3点を重点的にチェックしておきましょう。
- 自分の居住地は、避難が必要な範囲内にあるか
- 自分の居住地は、火山灰が到達する範囲内にあるか
- いざというときの避難場所と避難ルート
なお、ハザードマップや避難計画はあくまで予測であり、災害時は想定外のことも起こり得ます。居住地が溶岩流の到達範囲や降灰範囲から外れていても油断せず、自治体のサイトなどで防災計画や避難計画の情報を入手しておくことが大切です。
気象庁「富士山の活動状況」
噴火警報・予報から最新の火山情報まで、富士山の活動状況を網羅したサイト。「噴火警戒レベル」のリーフレットもダウンロードできます。
富士山の活動状況(気象庁)
もし、火山が噴火したら…。想定される影響や必要な備えは?

火山が噴火し始めたら、一体どうすればいいのでしょうか? 火山噴火による被害想定や、噴火が起きた際の対処法などをご紹介します。
監修者プロフィール
防災講師・防災コンサルタント
高橋 洋(たかはし・ひろし)さん
1953年、新潟県長岡市生まれ。1976年、練馬区に就職し、図書館、文化財、建築、福祉、防災、都市整備等に従事。1997年より防災課係長として、地域防災計画、大規模訓練、協定等に携わる。現在は、防災講師・コンサルタントとして、自治体等で講演、ワークショップ指導などを行う傍ら、復興ボランティア、終活ガイド・エンディングノート認定講師としても幅広く活動。防災関係著書・論文、防災関係パンフレット類監修多数。
(掲載日:2024年9月25日)
監修者:高橋洋
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
イラスト:高山千草