6月27日、ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長 兼 社長執行役員の孫正義は、AIと精密医療のリーディングカンパニーであるTempus AI, Inc.(以下「Tempus」)と、ジョイントベンチャー「株式会社SB TEMPUS(エスビーテンパス)」の設立を発表しました。遺伝子検査、医療データの収集・解析、AIによる治療選択肢のレコメンドサービスを国内で順次提供していく予定です。
目次
AIを活用して個別化医療を推進するTempusの3つの医療機関・製薬企業向けサービス
記者会見の冒頭、孫は「14年前、創業30年の節目に『 新30年ビジョン 』を発表した際、『人生で最も悲しいことは何か』と問いかけた。その答えの多くは、死・孤独・絶望だった。当時の死因のトップはがんであり、今も変わらない。私自身、昨年父をがんで亡くし、毎日泣いた。同じような経験をしている人の悲しみを少しでも減らしたい」と、Tempusとのジョイントベンチャー設立について思いを語りました。
米国の2,000の病院が使用しているというTempusのサービスは主に3つ。「遺伝子検査」「医療データの収集・解析」「AIによる治療選択肢のレコメンド」です。
1. 遺伝子検査
同じがんでも、変異した遺伝子の組み合わせによって患者にとって最適な治療方法は異なるため、患者一人一人の遺伝子変異を解析し、がんの特性を明らかにします。
2. 医療データの収集・解析
分子、臨床、病理、医療画像データなどの非識別化された患者情報をAIを活用してマルチモーダルに解析します。患者の医療データは、アダプターを介してセキュアな状態でTempusのプラットフォームに転送・解析され、医療現場とリアルタイムに情報連携を行うことが可能となります。
3. AIによる治療選択肢のレコメンド
医師や患者とその家族が最適な治療方法を選ぶための参考として、AIが最適な治療の選択肢を提示します。この時、すでに承認された薬だけでなく、開発中の先端治療を試す機会も合わせて提示されます。
Tempusが米国の医療業界で支持される理由
米国のがん専門医の約半分が利用している理由として孫は、「圧倒的なデータ数だけではなく、TempusのAIによる解析・レコメンドサービスは、病院や医師にとってコスト負担がゼロであること。追加の手間もない。これはアダプターを利用して、従来の電子カルテの入力をそのまま活用できるからだ」と説明。
また、「100万件の画像データ、97万件の病理データ、22万件の遺伝子データを組み合わせて解析した結果、96%の患者に対して最適な治療選択肢が提示できており、このような高い成功率となっているのは画期的」と、Tempusの優位性を強調しました。
妻ががんと診断されたことをきっかけにTempusを創業したエリック・レフコフスキー氏は、「ビジネスモデルとして、一つ目は患者の分子(遺伝子)データを集めること。二つ目は、それを解析することで正しい治療法を提案すること。そして三つ目は、膨大なデータを製薬会社やライフサイエンス企業、研究者に提供し、研究開発を支援することである。より良い薬の開発に役立てられるだけでなく、製薬会社の開発コストの20〜30%削減を目指している。これにより、研究と創薬の効率を高めることができると考えている」としました。
SB TEMPUSが日本のがん医療のさらなる進歩に貢献
米国と日本で実施されている遺伝子検査の現状について孫は、「米国では年間170万人のがん患者のうち30%以上が遺伝子検査を受けているが、日本では年間でわずか0.7%にあたる2万人にしか遺伝子検査が行われていない。これからは米国と同じように、まず最初に遺伝子検査が行われる状態を目指したい」と話しました。その上で、米国と同水準となるには、現在の2万件に対して50倍の年間100万件程度の遺伝子検査を行う必要があるとしました。
また、日本でがんゲノム医療の中核を担う13の病院の医師からは、大いに賛同を得ることができたとし、「日本の病院も、病院ごとに電子カルテを管理している状況。Tempusのアダプターを使って、少なくとも、日本の中核病院の統一データベースを作りたい。これだけのデータをAI解析するだけでも大きな成果が期待できる。日本のがん患者の内、5割のデータがTempusに統合し、AI解析されるという米国と同じ状況を、日本でも数年以内に実現させたい」と意気込みを語りました。株式会社SB TEMPUSは、まずは米国で使っているシステム・サービスを活用し、日本の中核病院のデータ統合を目指します。
最後に孫は、「日本とアメリカの医療界の叡智を結集し、医療従事者の皆さんと一緒に、日米の最先端の医療と最先端のAIの技術を活用して、このプロジェクトを推進していく。
今まで人類の叡智で救えなかったさまざまな難病から人々を救い、健康で長生きできれば、こんなにありがたいことはない。ゼロにはならなくても、人々の悲しみを少しでも減らしたい。そのために科学技術、AIの力、メディカルサイエンスを使う。AIやAGI、ASIなどの情報革命は、人類を破滅に導くためのものではないと思っている。その最大の理念は、人々の幸せのためであり、そのためにやるんだということだ」として、記者会見を締めくくりました。
(掲載日:2024年7月4日)
文:ソフトバンクニュース編集部