
滋賀県米原(まいばら)市で、行政サービスを車両に載せて地域を巡回する「移動市役所(行政MaaS)」の運行が2025年11月に始まりました。この移動市役所には、MONET Technologies株式会社(以下「MONET」)が開発した車両が活用されています。
「地域で安心して住み続けられる持続可能な行政サービス」の新しいカタチとして、デジタルを活用しながら、市役所自らが「地域に出向いていく窓口」の実現を目指す米原市の取り組みとは一体どのようなものなのでしょうか。
市役所の機能を載せて走る「マルチタスク車両」という選択
米原市が「移動市役所」を導入した背景には、自治体DXの推進に伴い行政サービスのデジタル化が進む一方で、人口減少や高齢化により、移動やデジタル申請が困難な高齢者が増加している現状があります。
また、市役所以外に設置されていた4カ所の行政サービスセンターにおいて、人員確保や施設維持費の負担が課題となっていました。従来の窓口体制では行政サービスの維持が困難になりつつあったことから、持続可能な提供体制への見直しが進められました。
こうした背景を踏まえ、「地域に出向く窓口」として、デジタルと対面の利点を生かすマルチタスク車両による移動型の市役所の試験運行を2025年11月に開始し、地域を巡回しています。

米原市に生息する生き物がデザインされたワンボックスタイプの車両
MONETが開発したマルチタスク車両には、庁舎の担当職員と画面越しに直接会話できる「オンライン相談窓口」や、マイナンバーカードを活用した証明書等の交付機能などが搭載されており、米原市役所の本庁と通信回線でつなぎながら利用できます。 他にも各種電子申請のサポート、保険証関連申請サポート、乗合タクシーの利用申請、紙おむつ専用ゴミ袋の配布などのサービスも提供しています。
試験運用期間中は、行政関連の施設を中心に月に約20日運行され、午前・午後の各2時間、市民からの相談や手続きに対応しています。また、地元のスーパーマーケットや高齢者の地域交流の拠点などにも出向き、住民に移動市役所を知ってもらうための活動も行われています。2026年3月まで試験運行の後、2026年4月より本格運用が予定されています。
説明会や乗車体験で、移動市役所を身近な存在に

取材に訪れたこの日、移動市役所が出向いたのは、市内の河内自治会にある地域交流の拠点です。参加者に対して、移動市役所で対応できる業務や利用方法などを市の担当者から説明しました。参加者からは「選挙の期日前投票もこの車両でできるといいですね」「運行予定はどこで知ることができますか?」などの意見や質問が出ました。
説明会の後は、実際の車両を見学。市役所庁舎にいる職員とオンラインで会話する様子も見られました。

画面越しの職員と会話が弾むシーンも。実際の相談で利用する際は、相談内容に応じて担当の職員が庁舎内のモニター前に呼び出されて着席する

マイナンバーカードを利用した証明書などの発行を申請できる端末。職員が操作をサポートしてくれるので、初めてでも安心して利用できる
対面の安心感をオンラインでも実現。市民のニーズに寄り添い地域に出向く窓口へ

米原市で移動市役所の施策を推進する地域振興課の安達さん、マルチタスク車両の導入をサポートしたMONETの尾崎さん、長野さんに話を聞きました。
話を聞いた人

安達 晶子(あだち・あきこ)さん
米原市 市民部 地域振興課

尾崎 有輝(おざき・ゆうき)さん
MONET Technologies株式会社 エンジニアリング室

長野拓也(ながの・たくや)さん
MONET Technologies株式会社 MaaS推進部室
移動市役所の検討開始から、MONETに相談するまでの経緯を教えてください。
安達さん 「移動市役所の検討を始めた背景には、『地域で安心して住み続けられる、持続可能な行政サービスを実現したい』という思いがありました。検討を重ねる中で、従来の窓口体制だけにこだわるのではなく、より利便性の高い手法があるのではないかと考えるようになりました。そうした中で出会ったのが、MONETが提供するマルチタスク車両です。先行して導入している自治体へ視察に行き、まさに “マルチタスク” な自由度の高さや自ら移動できる点に大きな魅力を感じ、MONETに相談しました」
準備段階ではどのような課題がありましたか?
安達さん 「『新しい窓口でも総合窓口の機能を期待したい』という声が、庁内外からありましたが、『持続可能で、地域に寄り添った窓口』であることを重視し、対応業務の整理や巡回場所の選定を進めました。マルチタスク車両の納車が試験運行の直前だったため、運行開始直後は非常に慌ただしかったのですが、市民の皆さんからの温かい応援や率直なご意見に支えられて、試験運行を続けています」
利用者からはどのような感想がありますか?
安達さん 「『オンライン相談では、想像していた以上にスムーズに会話ができて、対面で話している感覚だった』『窓口に行くほどでもない用事を、気軽に相談できて助かった』といった声や、『かわいい車で、最初はパンの移動販売かと思った』『自治会単位など、さらに近くまで来てほしい』といった反応もあり、親しみやすさも感じていただけているようです。また、日によってはセブン‐イレブンの移動販売車が同行することもあり、コンビニエンスストアまで遠いエリアの方にとても好評です」

試験運用後の本格運用に向けた展望を教えてください。
安達さん 「各地域での試験運用を通じて、最適な形を模索中です。本格運用では、移動が困難で手続きなどのサポートを必要とされている市民の方が、どの地域でも徒歩で行ける『地域に出向くことのできる窓口』を実現していきたいと考えています。今後もデジタルの良さである遠隔対応と、対面で顔を合わせて話すことができる安心感を組み合わせ、市民ニーズに寄り添った新しい行政サービスの形を目指していきます。
また、取材日は、移動市役所、セブン‐イレブンの『あんしんお届け便』、地元のベーカリーショップという、付加価値の複合展開にチャレンジした日でもありました! このように試行錯誤しながらですが、地域の皆さんの声を聞きながら利便性を高めて、『窓口 プラス 地域の小さなにぎわい』になることを目指していけるとうれしいと思っています」
米原市からの相談を受けて、MONETからの提案にあたり、どんな点を工夫しましたか?
長野さん 「特に重視したのは『車両レイアウト』と『テレビ会議システムを車両内でどう運用するか』という点でした。MONETが所有する車両で米原市が検討していた車両レイアウトを作り、実際の導線やオンライン相談時のカメラ目線を重点的に確認しました。中でも、カメラ目線の位置は、利用者の違和感をできるだけ少なくするため、三脚を使って細かく調整し、オンライン相談でも自然に会話できる環境づくりを意識しました。
『車両内でテレビ会議システムが本当に問題なく使えるのか』という懸念に対しては、デモ機を使った接続テストを実施しました。事前に動作確認を行ったことで、納車当日も庁舎とスムーズにつなぐことができました。あわせて、広報物や移動市役所の利用者向けアンケートのひな形提供、集計支援など、運行開始後の取り組みもサポートしています」

尾崎さん 「米原市は、人口減少による人手不足に加え、支所や行政サービスセンターの老朽化、行政サービスの標準化・デジタル化対応など、複数の課題を同時に抱えていました。特に『人員をこれ以上増やせない中で、拠点をどう維持・再編していくか』が大きなテーマでした。
そこで、MONETからは単なる車両導入ではない課題解決型の提案を行いました。固定拠点に依存しない移動型支所として機能を集約できることや、人・拠点・サービスを柔軟に再配置できる点を、行政MaaSの事例とともにお伝えしました。
人手不足や既存施設の老朽化といった複合的な課題をまとめて解決できる選択肢として評価され、導入に至ったと考えています。導入された車両は、平時の行政サービスに加え、期日前投票や災害時にも活用できるマルチタスク型です。同様の課題を抱える自治体へ展開していきたいと考えています」
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(掲載日:2026年2月19日)
文:ソフトバンクニュース編集部





