
ソフトバンクのグループ会社であるSBクリエイティブ株式会社が展開するライトノベルレーベル「GA文庫」。その人気シリーズ『のうりん』が、2026年6月15日刊行の第14巻でついに完結を迎えました。
前巻から10年ぶりという異例の新刊発売にもかかわらず、作品の熱量は衰えず、特装版と既刊の復刊を目指したクラウドファンディングでは大きな反響も生まれました。
農業高校を舞台に、全力のギャグと青春を描き、多くの読者に愛された『のうりん』。なぜ長く愛され続けているのか。10年ぶりの完結までの道のりを振り返りながら、最新刊の刊行に携わった編集者に話を聞きました。
目次
ソフトバンクの出版事業から生まれた『のうりん』

現在のソフトバンクのイメージは、携帯電話やインターネット、AIなどの事業を思い浮かべる方が多いかもしれません。一方で、そのルーツには、PCソフトの流通やPC雑誌の出版があります。出版の流れを受け継ぐSBクリエイティブ株式会社では、IT関連書籍からライトノベルまで幅広いコンテンツを展開しています。
今回取り上げる『のうりん』は、SBクリエイティブのライトノベルレーベル「GA文庫」から刊行されている人気シリーズです。そして2026年6月、その最新第14巻が10年ぶりに刊行され、シリーズ完結を迎えることになりました。なぜ『のうりん』は、これほど長い年月を経てもなお、多くの読者に愛され続けているのでしょうか。
ソフトバンクニュースでは、その完結を機に作品の歩みを振り返ります。
多くの読者が待ち続けた作品

『のうりん』は、「農業系学園ラブコメディー」として2011年に刊行がスタートしました。農業高校を舞台にしたユニークな設定に加え、全力で笑わせながらも時に胸を打つストーリー展開で人気を集め、GA文庫を代表するシリーズの一つとなりました。作者の白鳥士郎氏は執筆に当たり、農業高校で長期間の取材を実施。作品には学校生活の描写だけでなく、農業や地域社会が抱える課題も織り込まれており、コミカルな作風の中に、確かなリアリティーが息づいています。
2014年にはテレビアニメ化も実現。作中の舞台であり、白鳥氏の出身地でもある岐阜県との連携企画なども話題となり、多くの読者を獲得しました。「みんなで選ぶベストラノベ2011」コメディ部門1位、「第1回ラノベ好き書店員大賞」第1位など数々の評価を受け、シリーズは長く愛される作品となります。
ところが、2016年発売の第13巻を最後に、新刊の刊行が途絶えます。シリーズは完結を迎えないまま年月が流れ、読者の間では「続きはどうなるのか」と気に掛ける声が上がり続けていました。
そして10年の時を経て、その物語がついに動き出します。
あらすじ
岐阜県の農業高校「田茂農林高校(通称・のうりん)」に通う畑耕作(はた・こうさく)は、トップアイドル「草壁(くさかべ)ゆか」の熱狂的なファンである。しかし、草壁ゆかは突然の引退を発表。耕作は深いショックを受ける。ところがその直後、耕作のクラスに転校してきたのは、引退したはずの草壁ゆかにそっくりな少女・木下林檎だった。農業高校を舞台に、ひと癖もふた癖もある生徒や教師たちが巻き起こす騒動の数々。全力のギャグと青春、そして時折胸を打つ人間ドラマが交錯する、異色の学園ラブコメディーである。
目標をはるかに上回ったクラウドファンディング

2026年1月、「GA文庫」の創刊20周年を記念したイベントで、『のうりん』の完結が発表されました。最新巻にして完結巻となる第14巻が、同年6月に発売されることも合わせて明らかに。さらに発表されたのが、「『のうりん』完結記念! 特装版制作プロジェクト」です。全巻収納BOX付きの最終巻特装版の制作と、既刊13巻分の紙書籍復刊を目指すクラウドファンディングで、目標金額はそれぞれ250万円、850万円に設定されました。
10年ぶりの新刊という異例のプロジェクトに集まった支援額は、合計1,376万6,000円。目標を大きく上回る結果に、関係者からも驚きの声が上がったといいます。シリーズ最新刊の刊行を待ち望んでいた読者だけでなく、紙の書籍をもう一度手元に置きたいと願うファンも少なくありませんでした。長い空白期間を経てもなお、『のうりん』は読者の記憶の中に残り続けていたのです。
なぜ『のうりん』は、10年という時間を超えて、なお待ち続けられたのでしょうか? 次のページでは、最新刊の刊行に携わった編集者へのインタビューを通じて、その理由を探ります。
SNSで「『のうりん』はどうなった?」と言われ続けて。担当編集者に聞く『のうりん』完結までの10年

待望の完結を無事に迎えることができた、GA文庫のライトノベル『のうりん』。ここからは担当者の目線から、実際に何が起こっていたかに迫ります。

SBクリエイティブ株式会社 出版事業本部 GA編集部
中村 航平(なかむら・こうへい)さん
出版社のライトノベル編集を経て、2021年にSBクリエイティブに入社。GA編集部で複数のライトノベル作品を担当している。『のうりん』では2代目の編集者として携わる。
10年の空白、その間に何があったのか
『のうりん』の最新巻にして最終巻の刊行、誠におめでとうございます。関係者を代表して、率直な感想をお聞かせください。
無事に刊行にこぎつけることができ、今は本当にホッとしています。読者の皆さんには10年もの間お待たせしてしまいましたが、最終巻にふさわしい作品に仕上がったと思っています。
この10年間は、いったい何があったのでしょうか?
作者の白鳥先生が手掛けている『りゅうおうのおしごと!』という将棋をテーマにした作品がありまして、『のうりん』の11~13巻頃に並行して執筆していました。ちょうど藤井聡太棋士が活躍し始め、連勝記録が大きな話題になった時期とも重なり、おかげさまで大ヒットしました。
もともと『のうりん』は、13巻の後に少し間を置こうという白鳥先生の希望はあったのですが、『りゅうおうのおしごと!』が想定を上回る人気に。まずはこちらのペースを崩さず、終わりが見えてきたら『のうりん』に取り掛かろうということになりました。その結果、『りゅうおうのおしごと!』の新刊が出るたびに、SNS上では「『のうりん』はどうなった?」「『のうりん』はちゃんと続くのか?」という声が上がるのが、お約束となっており、読者の皆さまにはお待たせしてしまって、本当に申し訳なく思っていました。
「練り込まれた上のふざけ」白鳥士郎という作家
『のうりん』も『りゅうおうのおしごと!』も、描写や背景が非常にリアリティー高く描かれています。作者の白鳥先生はどういった方なのでしょうか?
常に新しいことを探し続け、それを作品に落とし込む力を持っている作家さんです。『のうりん』も、文章の途中で急にフォントが大きくなったり、挿絵の入れ方に工夫があったりして、ライトノベル業界的に見てもかなり前衛的な作品です。原稿の段階から『ここにこういう挿絵が入る』という相談があり、ページをめくったときにどういう演出になるかまで組まれているものが来るのです。私が知る限り、そこまでする作家さんは白鳥先生しかいません。
インパクトのあるフォントや挿絵
本作の特徴のひとつに、フォントや挿絵の効果的な活用があります。例えば、前のページで登場人物たちのやり取りが白熱している中で、ページをめくると右のようなイラストが見開きで出てくることがあります。こうした演出も、『のうりん』が多くの読者を引き付けた理由のひとつです。
(『のうりん』第1巻152~153ページより)

作品のリアリティーを支える取材についても教えてください。
ライトノベル作家としてはきわめて異例なほど、緻密に取材します。『のうりん』では農業高校に、『りゅうおうのおしごと!』では関西の将棋会館に通い詰めていました。『のうりん』の14巻では、主人公たちが東京で野草を食べるイベントがあるのですが、『野草について取材したい』という相談を受け、ちょっと困りました。たまたまSBクリエイティブから『うまい雑草、ヤバイ野草』(著者:森昭彦)という書籍が刊行されていると知り、担当編集の方を通じて、著者の森先生に取材を申し込むことができました。
一方で『のうりん』は、全力でふざけているギャグ作品でもあります。
白鳥先生は普段は、とても真面目な方です。打ち合わせの時間にも一度も遅れたことがないですし、取材先へのお礼やサイン本を作りに行く時などの書店営業でも、丁寧な対応をされる方で、本当にしっかりされているなという印象です。半面、クリエイターとしては常に面白いことを考えていて、作品そのものだけでなく、売り方の部分、例えば本の帯のキャッチコピーも先生から案が上がってきます。『のうりん』のような全力のギャグ作品も、実はかなり計算された上で成り立っているのだと思います。

最終巻の特装版やクラウドファンディングは、どのような経緯で実現したのでしょうか?
白鳥先生は最終巻を、華やかな特装版にしたいという希望をお持ちでした。ただ、人気作だったとはいえ10年も間が空いてしまっています。でも先生の希望にはできる限り応えたいですし、読者にも最終巻にふさわしいものをお届けしたい。そこで考えたのが、クラウドファンディングでした。
クラウドファンディングの成功。読者の愛を実感

結果から見ると、目標を大きく上回り、クラウドファンディングは大成功でした。
白鳥先生に提案したところ、『失敗しても笑って飛ばせるよ』とおっしゃってくれましたが、実績のある作品だとしても、10年たった現在の反応は見当もつきません。失敗したら作品に傷がついてしまう… と、内心ビクビクしていました。ところが、ふたを開けてみると早い段階で目標をクリアして特装版の制作が決定し、その後も本当にたくさんの支援をいただいた結果、既刊の復刊も実現することができました。その様を見て、『この作品は本当に読者に愛されていたんだな』と心底感動しました。
中村さんご自身も『のうりん』の読者だったそうですね。
実は『のうりん』に出会ったのは高校生のときでした。アニメ版があまりに面白く、すぐに原作のライトノベルも読みました。そういう思い出深い作品に、編集者として、しかも最終巻に立ち会うことになったのは大変光栄なことですし、不思議なご縁を感じます。当時高校生だった私も30代になりました(笑)。
『のうりん』第14巻好評発売中!
(掲載日:2026年6月15日)
文:ソフトバンクニュース編集部





