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AIエージェントの実装で仕事はこう変わる。自律思考型AIで業務改革を支援する「Gen-AX」砂金CEOインタビュー

AIエージェントの実装で仕事はこう変わる。自律思考型AIで業務改革を支援する「Gen-AX」CEOインタビュー

ソフトバンク株式会社は、AIがさまざまな製品やサービスに組み込まれることで、人々が便利で快適な生活を享受できる「AI共存社会」の到来を予見し、生成AI関連の事業をさまざま展開しています。100%子会社のGen-AX(ジェナックス)株式会社は、生成AIの可能性を最大限に引き出し企業の業務プロセスを革新するために2024年から本格稼働を開始しています。生成AI技術の最前線で走り続ける代表取締役社長 CEOの砂金信一郎氏に、同社のミッションや展望について聞きました。

砂金 信一郎 (いさご・しんいちろう)

Gen-AX株式会社 代表取締役社長 CEO

砂金 信一郎 (いさご・しんいちろう)さん

東京工業大学卒業後、日本オラクル、ローランド・ベルガー、マイクロソフトでのテクニカルエバンジェリスト、LINE(現LINEヤフー)でのプラットフォーム推進やAIカンパニーCEOを経て2023年7月から現職。2019年度より政府CIO補佐官、その後発足時よりデジタル庁を兼任しインダストリアルユニット長を兼任。

生成AI活用によるトランスフォーメーション「AX」の社会実装がミッション

Gen-AXは2023年7月に設立し、翌2024年7月から本格的に事業を開始しています。事業ミッションを教えてください。

ソフトバンクのグループ企業では、生成AI開発に注力する企業として、SB Intuitions株式会社とGen-AXがあります。SB Intuitionsは、日本語に特化した国産LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)の研究開発を行う子会社です。Gen-AXは、生成AIを活用したビジネス向けSaaS(Software as a Service)の開発・運用と生成AIによる業務改革を支援するコンサルティングサービスを提供する子会社で、企業における業務の効率化や新たな顧客体験の創出を目指しています。

Gen-AXは、SB Intuitionsが研究開発を進めるLLMや既存のLLMを活用して、本当に業務に役に立つ価値あるプロダクトを開発し、外部顧客に提供可能な事業モデルを確立することをミッションとしています。

Gen-AX公式サイト

生成AI活用によるトランスフォーメーション「AX」の社会実装がミッション

Gen-AXという社名の由来は?

Gen-AXという社名は、Generative AI(生成AI)を活用したトランスフォーメーション(AX)という意味を込めて命名しました。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、AIを前提とした業務設計や業務改革を行うAX(AIトランスフォーメーション)を「次のステップ」として位置づけ、企業のAXを支援していきたいと考えています。AI時代の業務変革への期待と当社のミッションが込められた社名です。

生成AI活用によるトランスフォーメーション「AX」の社会実装がミッション

DXの次はAXの時代ということですね。

DXを経て、今はAIを活用した業務の再構築が不可欠な時代になっています。DXの次はAXか、と思うかもしれませんが、世界中がAI開発競争をしている中で、日本だけがのんびりしてはいられません。ソフトバンクは国内でリーダーシップを発揮しAI活用の旗振り役を担っていますが、それを現場で実証していくのがわれわれの役割であり期待値だと思っています。コールセンターの自動化もそうですが、これまで人間の作業に最適化されていた業務プロセスや資料のフォーマット、ワークフローなど、全てがこの先数年でガラッと変わってくるでしょう。

コールセンター業務を自ら学習し続ける「自律思考型AI」

どのような事業展開をしていくのでしょうか?

Gen-AXは、生成AIを活用して企業内の業務効率化を図る、さまざまなSaaSの開発および提供を行います。まずはカスタマーサポート領域向けのサービスを提供しながら、順次さまざまな領域・業種向けのサービスを拡充していく予定です。

カスタマーサポート領域では、生成AIを活用したコールセンターの自動応対システムを開発・提供します。Gen-AXが開発するシステムは、ソフトバンクが日本マイクロソフト株式会社と共同でソフトバンク向けに構築中のコールセンター業務自動化システムをベースとし、外部のさまざまな企業のニーズに対応できるようにカスタマイズが可能です。

生成AIによる業務変革は、バックオフィスでも営業でも製造現場でもあらゆるところで起こっていますが、コールセンターのように人間対人間が会話をして、何かの課題解決につなげている業務というのはすごく相性が良いと思っています。

生成AIとコールセンター業務は、どのような点が相性が良いのでしょうか?

コールセンターは、オペレーターが顧客対応を行う場面が一般的なイメージですが、定型業務が比較的多い一方で、お客さま対応などでさまざまな確認作業や情報の参照が行われ、裏では多くの人々が連携して問題解決に当たっています。オペレーターが解決できない問題が発生すると、スーパーバイザーや本社の専門部署が介入し、複数の照会と議論を経て、最終回答が決まるといった流れです。お客さまとコールセンターのオペレーターの会話というのは、全体の中のごく一部にすぎません。このような業務においては、生成AIによる自動化の余地が大いにあるからです。

コールセンター業務を自ら学習し続ける「自律思考型AI」

プロダクトの特徴を教えて下さい。

具体的には、決められた順序と固定化されたスクリプトで応対する従来の「フロー追従型」ではなく、お客さまとの会話内容に応じて、LLMが、必要な機能やデータソースを参照する「自律思考型」のシステムになります。このシステムでは、より柔軟で高精度な顧客対応の実現が可能です。

さらに、導入企業やお客さまの同意を得て、過去のオペレーターの応対履歴などのデータを生成AIに学習させ、継続的に顧客対応の性能の向上も目指します。

コールセンター業務を自ら学習し続ける「自律思考型AI」

継続的に顧客対応の性能が向上していく仕組みとはどのようなことでしょうか?

たとえば、自動車の損害保険などがイメージしやすいと思うのですが、お客さま(保険加入者)は代理店である自動車ディーラーを通じて損害保険会社に照会し、事故や修理時の適用条件を確認しています。しかし、代理店だけでは解決できないので、損害保険会社の本店に確認をするというのが照会応答業務の代表的なケースです。

また、お客さまの質問が曖昧な場合や、回答にたどり着くまでに時間がかかるようなケースも多く、会話の半分近くが問題の真意を把握するために費やされることも少なくありません。

さらに、既存の業務マニュアルや過去の問い合わせ履歴の中にはない新しい課題なども発生します。

一方で、社内のプロ対プロの会話の中においては「事前に類似の事例は調べたのですがこれはケースが違うと思うので確認です」のように、すごく要領を得ています。

このような会話の中には、実は、結構なナレッジが溜まっています。

照会応答業務の中でコミュニケーションが行われ、結論が導き出されるところを、AIに新しい業務知識として与える部分が、われわれが開発している「自律思考型」のプロダクトです。

質問に対してLLMが「これは今回のケースに当てはまる」といった必要な情報を自分で判断して選択し、「こういうふうにお客さまに答えを返してください」という応対文がAIで生成されて表示されるというものです。このプロダクトを使っていくと、オペレーターも代理店も本社も、著しく業務効率が向上します。

コールセンター業務を自ら学習し続ける「自律思考型AI」

AIが自分で学習するということとは?

われわれの狙いは、単なる業務効率化だけではなく、回答が導き出される中で「この質問の状況とこの解決策とは、実は結びつきが強いものだったのだ」というように、AI自身が業務の中で「自律的に賢くなる」ことを繰り返し行っていくというところなのです。

また、AI学習の際にはデータにラベル付けを行う「アノテーション」が必要ですが、従来のアノテーション作業は専門的な業務知識を持たない人が形式的に行うことが多く、現場の知識を反映しにくいという課題がありました。このプロダクトでは、こうした課題も考慮し、現場業務の中でアノテーションが行われるプロセスを構築しています。

Gen-AXでは、当初は「照会応答を支援するプロダクト」を提供し、将来的には音声生成AIを活用した「自律思考型の音声応対プロダクト」も提供していく予定です。

コールセンターに問い合わせをしたお客さまの体感は変わりますか?

体感として何が変わるかということで言えば、コールセンターに電話をかけて、ずっと待たされるような経験がありますよね。これは限られた人数のリソースの中で行っているからそうなってしまうのですが、AIが無限増殖できる状況だったとすると、待ち時間が全くないとか、夜中でも対応できるといったことが可能になります。もちろんコストパフォーマンスの問題はあるかもしれませんが、日本語だけでなく、英語も中国語もポルトガル語もといった多言語化のところは、どんどん変わっていくのではないかと思っています。

お客さまへの対応に、あえて「AIらしさ」を演出することも可能ですが、基本的にはAIが人間と同じようにいろんなことを心地よく話せるような状況を実現することを目指しています。

コンサルティングサービスも提供されています。

生成AIを活用したコンタクトセンターの自動応対システムの提供に加えて、企業におけるAXを支援するためのコンサルティングサービスも提供しています。Gen-AXやソフトバンク、ソフトバンクのグループ企業の知見やノウハウと、先進的な生成AI活用事例などを基に、生成AIを活用した業務改善の戦略立案やソリューションの提案、各企業の業務課題に特化した生成AI技術のチューニングなどを行い、戦略から組織設計までワンストップでコンサルティングし、業務効率化やコスト削減を実現します。

効率化だけでない感動体験を。人間とAIが共存する新たな働き方

生成AIによって業務が大きく変わるということですが、砂金社長は企業でのAI活用をどのようにご覧になっていますか?

マネジメントで言えば、これからの時代、人間だけを部下と考える発想では取り残される可能性があります。人間ではない部下を「AIエージェント」という言葉にするならば、AIエージェントを「業務の一部を任せるパートナー」として活用する視点が求められるでしょう。特定の業務はAIのモジュールに任せ、仕上がりの確認や業務知識を追加で学習させるような部分は人間の役割として担うような形です。その時に「AIに任せる」という前提で考えられるマネジメントなのか、「やはり人間でやるんだ」とするマネジメントなのかで、仕事の仕方が二極化してくるのではないでしょうか。

営業現場のように、お客さまといかに信頼関係を築くか、フロントで接するところ、感情に寄り添うような部分に関しては、引き続き人間の得意分野であり続ける一方、AIを活用してタスクを効率化する取り組みは進めるべきです。Gen-AXでも生成AIを活用したプロダクト開発において「人間だけでやる」という考えを捨て、コードの生成やテストなどをまずAIに試すアプローチを採用しています。AIが対応しきれない部分は人間が補完するという主従関係の見直しが、これからの仕事のスタイルを形作る鍵となります。

AI活用によってマネジメントが変わるということですね。

AIとの協働では「AIが人間より多くのことをこなせる」という視点を持つことが大切です。一部分だけをAIに任せるのではなく、タスク全体を“壁打ち”のようにAIに投げかけ、その結果を基に作業を進めると良いでしょう。AIができなかったことを人間が補完してあげるぐらいのスタンスに頭を切り替えていかないと、AIを使いこなす人が業績を伸ばし、AIを活用できない人との差が広がる構図が生まれる可能性があります。

AIを使うのは「当たり前」となり、どこまでAIに寄りかかり、どの部分を補うかを判断する能力が、これからのマネジメントには必要です。これまでは人間の部下を管理することが上司の役割でしたが、今後はAIを活用した新しいマネジメントスタイルが求められていくでしょう。

企業の経営者にとって、AIエージェントは社員を雇うのと同じような選択肢になる時代が来ると言われています。

既にそういう時代になっているのではないかと思います。AI技術の進化により、人間がやった方が良いものと、AIに任せても良いもの、担う業務の境界線が変化しています。AI技術の社会浸透予測などもありますが、技術が進む中でもドラえもんのような万能AIが突然明日現れるわけではなく、段階的な社会の受容が必要でしょう。

スマホやクラウドが普及した時と同様に、実現しやすい領域から着手して結果を出し、多分事故も起こしながら、それを乗り越えて、社会制度変革やいろんなものが巻き起こった上で、「AIというのはこういうところで使っても大丈夫。安全ですね」と言うことを徐々に証明していくことになるのではないかと思います。

効率化だけでない感動体験を。人間とAIが共存する新たな働き方

AI時代の到来においてユーザーに求められることは何でしょうか?

新しいものは、怖がらずにとりあえず使ってみるということではないかと思います。ChatGPTの新しい機能を使ってみると「これはすごい」ってなるわけです。世の中に新しく出てきたものは、対岸の火事のような話ではなくて、その火はすぐこっちにやってくるので、一度自分で原体験として使うということを、積極的に心がけるというのはすごく大事ではないでしょうか。

あとは、今後われわれが提供していくプロダクトもそうですし、今あるソフトウェア、いろんな業務アプリケーションの裏側では生成AIが使われています。なので、生成AIを積極的に使うという意識よりは、生成AIが組み込まれたソフトウェアを、いかにうまく選択して使っていくかということに軸足が変わってくるのではないかと思います。Gen-AXのプロダクトも、もちろんコア技術として生成AIは使いますが、意識していることは、業務アプリケーションとしてきちんと価値をお届けしようということで、今後はそういう会社が増えてくるのではないかと思いますね。

効率化だけでない感動体験を。人間とAIが共存する新たな働き方

改めてGen-AXの展望をお願いします。

AIの性能がどれだけ上がったかはAIの仕組みを作る側が頑張ればいいことで、それよりも、業務で役に立ったという「感動体験」をどれだけ生み出せるかだと思っています。

照会応答業務で何か心を痛めながら仕事している方が、このシステムがなければ業務が回らないようになったり、顧客対応が格段にスムーズになったり、そういう「真実の瞬間」にちゃんと向き合っていきたいと思っています。世の中が大きく変わっていくときというのは、そういう真実の瞬間が重なっていくときだと思っています。

台湾のIT大臣オードリー・タンさんもよく言うことですが、人間がシステムに合わせるのではなく、システムが人間に合わせる未来が理想です。今まではどちらかというと、システム側に人間が合わせていました。企業のコールセンターの電話番号は非常に見つけづらいところにあって、まずはFAQを見て、それで解決しなかったらメールかWebフォームで問い合わせをして、それもできなかったら、最後に電話番号が出てきてという、不便をあえて強いていたようなところがありますが、それって、人が作り出したシステム側、企業側の都合なんですよね。AIがより柔軟性高くしなやかになっていったとすると、人間の都合に合わせられるようになると思っています。電話、チャット、窓口など、ユーザーが望む方法にシステム側が柔軟に対応することが目標です。

Gen-AXは、AI導入によって業務の効率化だけでなく、人と人のコミュニケーションを支え、使った人間側に「これを使って良かった」と思ってもらえるような、人に優しい、しなやかなユーザー体験を追求していきたいと思っています。

(掲載日:2025年1月22日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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