豊富な商品を取りそろえる人気ファッションEC「ZOZOTOWN」。その注文から発送までを支えるのがZOZO最大規模の物流拠点「ZOZOBASEつくば3」です。かつて、ファッションECにおける物流拠点の自動化は、アイテムごとに形状が異なり、かつ小ロットで多品種という特性から難しいとされていましたが、2024年11月に本格稼働した最新拠点である「ZOZOBASEつくば3」では、既存拠点の約4倍の設備投資を実施し、既存拠点と比較して約30%の省人化に成功しています。
その秘密を探るべく、実際に拠点に行き、自動化の目的や課題や今後の展望などについて、企画・運用に携わった担当者にお話を聞きました。
目次
30%の省人化に成功。約100億円投資した最新拠点「ZOZOBASEつくば3」
ZOZOの5つ目となる物流拠点「ZOZOBASEつくば3」。主に「ZOZOTOWN」事業の商品管理、発送などを行っています。地上5階建ての巨大な施設の延床面積は東京ドーム約3個分の137,000㎡と、ZOZO最大の規模を誇っています。
また、約100億円の設備投資により、国内事業者で初導入のシステムを採用し、庫内業務の自動化を推進。これによって、1時間あたり約1万件の発送能力を持ち、既存拠点と比較して約30%の省人化の実現や、ZOZOBASE全体の保管能力を約1.3倍に引き上げることに成功しました。最新技術を駆使した自動化システムと、スタッフの快適性を両立させた新たな物流拠点として、今後の成長を支える重要な役割を果たすと期待されています。
保管、仕分け、梱包… 各工程のほとんどを自動化
オンラインで商品を注文したとき、「どうしてこんなに早く届けられるんだろう」と思ったこと、一度はありませんか? 即日配送サービスを利用すると、最短で当日中に商品が自宅に届くことも。 日々全国から膨大な数の注文が寄せられているにもかかわらず、迅速な発送を可能にしている理由が物流拠点にあったんです。実際に「ZOZOBASEつくば3」を案内してもらい、自動化を間近で体感してきました。
早速巨大な施設内に入ると、たくさんのロボットやシステムが働く様子が目に飛び込んできました。決められたレールをたどって素早く商品を仕分け、運び、保管し、ダンボールに詰められています。入荷から発送まで、物流拠点内の長いレールを旅して皆さんの元へ届けられています。




中でも「ZOZOBASEつくば3」で重要な役割を担っている自動化システムをご紹介します。商品がたどる順番を追ってみました。
①1時間で約3,2000点を仕分け「t-Sort」


ブランドから入荷した商品は、保管しやすいよう商品の種類や形状に応じて仕分けを行います。商品の仕分け作業は、スタッフが「t-Sort」に投入するだけで、 自動で仕分けを機械的に行ってくれるので、人為的ミスも最小限に防ぐことができます。「ZOZOBASEつくば3」内には約500基設置しており、1時間あたり約32,000点の仕分け処理をすることができます。
②約35,000点の入出荷や発送の優先度を踏まえて順立て「システマストリーマー」
シャトル台車式の立体自動倉庫システム「システマストリーマー」では、注文が入った商品の一時保管と発送の優先度に応じた順立てを自動化しています。約5,000コンテナ(約85,000点)の商品の保管が可能で、1時間あたり約2,100コンテナ(約35,000点)の商品の出し入れをすることができます。
③レールの総延長は約7km! 国内初導入の自動仕分けシステム「Pocket Sorter」


拠点の上部空間を有効活用し、注文ごとに商品を仕分けることができます。レールからつり下げられたポケットに、注文が入った商品を1点ずつランダムに投入すると、自動でお客さまの注文ごとに商品の仕分けを実施。レールの総延長はなんと約7km、ポケットの総数は約26,000個! 1時間あたり15,000点の仕分けをすることが可能です。
このようにして、自動化されたシステムによって処理された商品が、個々の顧客の注文に応じて丁寧に梱包され、発送されています。
運用を知り尽くすZOZOのチームが企画・設計を一貫して推進
広大な施設や膨大な商品の数に対して、働いている人が圧倒的に少ないことに驚きました。では、徹底的な自動化はどのようなプロセスで実現されたのでしょうか? 自動化の目的や課題、今後の展望などについて、「ZOZOBASEつくば3」開設のプロジェクトリーダーとして企画・運用に携わった桐山慎一郎さんにお話を聞きました。
株式会社ZOZO フルフィルメント本部 オペレーションデザイン部 ディレクター
桐山 慎一郎(きりやま・しんいちろう)
2012年に新卒入社後、物流拠点「ZOZOBASE」に配属後、物流拠点の拡張や自動化を推進する戦略部に異動。自動化を推進した最新の拠点「ZOZOBASEつくば3」の開設をプロジェクトリーダーとしてリード。2024年4月より現職。
桐山さんはどのように「ZOZOBASEつくば3」に携わったのでしょうか?
私は「ZOZOBASEつくば3」開設のプロジェクトリーダーとして、企画から設計、運用まで一貫して携わりました。通常、大規模な物流拠点の計画では、外部のコンサルティング会社や専門業者に依頼し、全体の設計や機器の選定を行うことが一般的です。「ZOZOBASEつくば3」はZOZOの内部チームで物流拠点の基本的なゾーニングや大まかな設計を行い、運用要件を定義した後、複数のベンダーを選定し、各部分の詳細な設計を依頼しました。自社の運用に最適化された設計ができるので、迅速な意思決定や変更に対応できています。プロジェクト管理の面でも、各機器や工程に対し担当をアサインしさまざまなベンダーとのやり取りを一手に引き受けているので、一貫性のある効率的なコミュニケーションができていますね。
企画から運用まで行ったんですね! では、「ZOZOBASEつくば3」の自動化を推進した目的は何だったのでしょうか。
人手不足の問題への対応と、業務効率の向上を図ることです。物流業界は現在、将来的な人口減少に伴う労働人口の減少という大きな課題に直面しています。将来的に人材の確保が困難になることはわかっていますので、早い段階から対策を講じることが重要だと考え、効率化を進める必要性を強く感じていました。自動化技術をこの「ZOZOBASEつくば3」に積極的に導入することで、人手不足の問題に対応しつつ、業務効率の向上を図りたいと考えました。
企画から導入の過程で直面した課題は何でしたか?
1つは設計時と導入時に発生したズレや、商品の運用のリスクですね。新たな機器の導入時には、事前に細かくシミュレーションを実施するものの、実際に運用に落とし込むと、どうしてもズレが生じることがあります。特に、アパレル商品の取り扱いにおいて、ブランドさまから入荷する商品の体積予測が難しく、これが物量設計に影響を与えました。ZOZOTOWNでは数多くの商品を扱っているので商品のMDに直接関与しておらず、入荷する商品の正確な体積を予測することが困難でした。そのため、現場との緊密な連携を図り、運用方法を調整しました。
もう1つは、UIに関するものです。出荷時の梱包作業で使用する画面について、設計段階では表示する情報の取捨選択に関して議論がありました。実際に導入してみると、現場からさらに新たなニーズが上がってきました。これに対し、随時UIをアップデートし、必要な情報を追加したり、不要な情報を削除したりしました。
このように、現場からのフィードバックを積極的に取り入れ、実際の運用状況に合わせて調整を行うことで、パフォーマンスを最適化しています。結果として、当初直面した多くの課題は適切に対応され、現在ではより効率的で現場のニーズに合ったシステムを構築することができています。
ありがとうございます。では、自動化によって約30%の省人化を実現したとのことですが、具体的に業務プロセスにはどのような変化があったのでしょうか?
「Pocket Sorter」導入による仕分け作業に一番大きな変化がありました。従来のシステムでは、2種類の異なる機械を使用して2段階の仕分け工程を行っていましたが、この工程を1段階に簡略化することができました。工程間の搬送作業が大幅に削減され、全体的な効率が大きく向上したんです。これは単に作業時間の短縮だけでなく、工程の簡素化による作業品質の向上や、設備の有効活用にもつながっています。
さらに、作業の標準化と属人化の抑制にも効果がありました。例えば、「t-Sort」は商品を載せるだけで自動的に仕分けが行われ、「Pocket Sorter」でも商品を投入するだけで順番に並べ替えが行われます。これにより、作業者の熟練度に依存しない作業が可能になり、誰でも同じレベルの生産性を発揮できるようになりました。
スキル関係なく誰でもできる作業になったというところで、採用にも変化があったのでしょうか?
特定のスキルや経験が必要だった作業がより幅広い人材によって行えるようになったことで、多様な労働者に対応できる環境になったと思います。座ったままで作業ができたり、重い荷物を運ぶ作業を機械が担うことで、障がいを持つ方や、妊娠されている方などにも働きやすい環境が整ったと思います。
一方、働く方々にとって、従来の物流拠点へのイメージとは異なる環境づくりを実現するために、休憩室などの設備や装飾にも力を入れています。いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」といったネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)し、快適で働きやすい職場を目指して設計しています。


このように最先端の取り組みを行っている「ZOZOBASEつくば3」は物流業界にどのような影響を与えていると考えていますか?
ファッションECの物流拠点として、業界に新たな事例を提供できたと思います。この拠点の稼働をきっかけに、メディアや取引先などさまざまな関係者との接点が増加し、業界内外を問わずディスカッションの機会が生まれました。また、多くの関係者に実際の運用を見学いただく機会にもなっています。物流拠点の公開を控える企業が多い中、積極的に拠点内を公開したことは珍しいですし、業界全体の透明性向上や技術革新の加速につながればいいなと思います。
最後に今後の展望を教えてください。
「ZOZOBASEつくば3」での成功を踏まえ、今後は他の物流拠点も含めた全体的なアップデートを検討しています。しかし、新築の拠点だからこそ実現できた技術もあり、既存の拠点に同じ技術や設備を適用するには課題があります。例えば、「Pocket Sorter」を既存の拠点に導入する場合、施設の要件などさまざまな要素を考慮する必要があります。
そのため、各拠点の構造や特性に合わせたアプローチを取っています。設計のポリシーや運用方法など、他の拠点にも転用できる技術については適宜展開する予定です。一方で、特定の拠点にのみ適した運用方法については、既存拠点ごとに運用設計を見直し、継続的な改善を行っていきます。各拠点の特性と全体的な事業戦略のバランスを取りながら、物流の最適化と効率化を進めていきます。
(掲載日:2025年1月21日)
文:ソフトバンクニュース編集部