
最先端テクノロジーで地域課題を解決し、イノベーションを創出するソフトバンクの「せとうち Tech LAB」が2025年9月にリニューアルしました。
広島県福山市を拠点に2021年12月に開設され、今年で4年目を迎えた「せとうち Tech LAB」。最先端テクノロジーを地域の現場に実装していく技術開発拠点としてどう進化したのか、早速現地を訪問し、刷新された展示やその狙いについて担当者に話を聞いてみました。
お話を聞いた人
ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット統括 次世代社会インフラ推進室 福山イノベーションセンター

井上 柚希(いのうえ・ゆずき)
2022年度新卒入社、入社4年目。「せとうち Tech LAB」の運営計画に従事

前田 佳菜(まえだ・かな)
2025年1月福山市の企業「株式会社メディアテック一心」より出向。「せとうち Tech LAB」の運営計画に従事
地域の社会課題に向き合いながら、未来社会を実証する “共創の場” へ
開設から4年を迎えた今年、リニューアルを実施したのはなぜでしょう?
これまでは、地域の企業が導入しやすいツール中心の展示だったのですが、それではソフトバンクの先端技術や取り組みが十分に伝わりにくいという課題がありました。
そこで、地方分散型社会をリードする技術開発拠点として、地元の企業や自治体と連携しながら未来社会を実証する “共創の場” へ進化を目指し、リニューアルを実施しました。「体験できる場」と「AI活用」の2つの軸で、地元の企業にご協力いただきながら内容を大きくアップデートし、AIのソリューションやソフトバンクの取り組みも新たに展示しています。

展示内容について、どのような点を重視しましたか?
1つは「ソフトバンクが掲げる次世代社会インフラ」の取り組みの紹介。もう1つは「瀬戸内地域の実証」の紹介や「先端技術」の体験です。今後さらに地元での事例を増やしていきたいと思っています。
体験型の展示が多いですね。
ただ「見せる」だけでなく、来場者が「実際に触って、議論や発想につながる」ことを重視しています。
例えば、自治体の方なら人流解析の展示、医療系ならIoTの事例など、来場者によって重点的に紹介する分野や体験内容を最適化しています。他にも学生さんであれば、AIアバターとの会話を通じて「AIって意外と身近なんだ」と感じてもらえるよう、説明+体験パックなど、柔軟にカスタマイズしています。
中小企業では、日々の業務を効率化するだけでもハードルが高いです。そのため、まずはAIやデジタル化で業務が楽になるといった知識から提供することを重視しています。
どんな体験ができるのでしょうか?
それではいくつか展示をご紹介しますね。これは会話型の観光案内アバターで、AIアバターによる観光案内のデモを体験いただけます。「こんにちは」と声をかけると、アバターが、来場者の質問や好みに合わせて、福山市の観光地や飲食店を自然な日本語で案内してくれます。
ソフトバンクのグループ企業、SB Intuitions株式会社が手がける国産生成AI「Sarashina」を活用していて、日本語の細かなニュアンスも理解できるんです。たとえば「福山城について教えて」と話しかけると、地元目線で分かりやすく答えてくれますよ。日本語に強い生成AIならではの表現や親しみやすさを感じていただけると思います。
次は、北海道・苫小牧に建設中の大規模データセンターのAR体験です。タブレットをかざすと、「北海道苫小牧AIデータセンター」の外観や内部の構想やイメージを360度のバーチャル空間で見学することが可能です。サーバールームやセキュリティーゲート、敷地内を走る自動運転バスの様子まで、ソフトバンクの次世代社会インフラ構想を支える北海道苫小牧AIデータセンターのコンセプトや機能をリアルに体感できます。
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展示内容は構想を含めたイメージで変更になる可能性があります。
現地に行かなくても、施設の内部構造などをリアルに体感できるのがこの展示の特長です。インフラの地域分散を目指すソフトバンクが、拠点としてどのような施設を作ろうとしているのか、分かりやすく理解していただけるコンテンツになっていると思います。
こちらの5Gを活用した建設現場の実証実験も人気のある展示で、広島県の加藤組という建設会社が開発した遠隔操作の基幹技術を、実際にラジコンのトラックと油圧ショベルを使って遠隔操縦体験できるので、学生の皆さんは特にテンションが上がって楽しみながら体験されていますよ。
リアルな課題を持つ地元企業だから生まれるイノベーションに期待
AIとの会話やバーチャル見学含めて、楽しみながら体験できるのが良いですね。今回のリニューアルのテーマとして “共創の場” という言葉が出てきましたが、地域との共創とは、具体的にどのようなものでしょう?
AIを使った実証実験のフィールドとして、さまざまな企業にこの場を使っていただくことで、“未来の社会を共に作るための実験場” として機能できたらと思います。AIの活用が進んでいない企業や、開発力はあるものの情報発信やビジネス化が難しい企業にも、ぜひユースケースの実証や開発の共創パートナーになっていただきたいですね。
今年から技術開発拠点として本格始動したばかりで、まだ手探り状態ですが、さまざまな分野でAIを使う取り組みを進めています。分野は問わず、AIを軸とした課題解決に共創してくれる企業とタッグを組み、多様な実証を展開する拠点として人が集まる深いコミュニケーションの場にしていきたいと考えています。
実際に行った地域との実証事例なども展示されているのでしょうか?
ソフトバンクが地域と共に取り組んでいる事例として、高精度測位サービス「ichimill」とRTKコンパスを活用した瀬戸内海における船舶の航行アシストの実証実験の展示も行っています。RTK技術を応用したRTKコンパスを用いて、高精度な位置と共に、船の向きおよび船の縦揺れ・横揺れを感知して、座礁せず安全に航行できるルートを導き出す試みです。

瀬戸内海は浅瀬や複雑な地形が多く、潮流が変化しやすい海域で、座礁事故等も発生していました。そこで、こうしたデータを活用することで、若手や経験の少ないオペレーターでも安全な航路選択や接岸ができるようになることを目指しています。
他にも、既設のライブカメラ映像を使った交通量の解析システムを展示しています。設置済みのカメラを活用できるので、追加コストをあまりかけずに、交通量や混雑の状況をAIが自動で解析することが可能です。

地方では、移動手段が車中心であることと、交通ルートが限られる場合が多く、花火大会などの大規模イベント時は主要道路で大混雑が発生することがあります。そういったイベント時や災害時における人流管理、車種や経路分析など、自治体のDX推進や都市インフラのスマート化への貢献が見込まれます。
地場産業の中には、DXやAI導入が進んでいない分野もあると思いますが、そういった企業に対してはどのようにアプローチしているのですか?
導入が進んでいない企業の方にも取り組みを身近に感じていただけるように、AIアバターを使った対話型の教育支援や性格診断、福山大学と連携で実施した矢印型ARナビゲーションの活用の研究など、地元の企業や大学との連携例も複数展示しています。


AI未導入の会社でも、体験してもらうことで「AI=難しいもの」という印象を和らげたい。ソフトバンクはAIの基盤を提供し、開発は地元ベンダーや他社と三者連携で進めるなど、地域に寄り添った形にしたいですね。
「工場の生産ラインを使って実証してもいい」とおっしゃる企業もいて、瀬戸内だからこそできる海洋分野や、繊維業など、福山市ならではの実証例がこれから増えていくことを期待しています。
今後「せとうちTech LAB」をどのような場所にしていきたいですか?
本当にリアルな課題を持っている地元の企業だからこそ、ユニークなイノベーションが生まれ、サプライチェーンや自治体との取り組みの中で意外なソリューションが創出できるのではないかと思います。リニューアルした「せとうち Tech LAB」を通して、課題の抽出からAI活用のユースケースの提案まで、県内・県外企業を巻き込む “ハブ” になっていきたいです。
「せとうち Tech LAB」は、誰でも来られるオープンな拠点です。地域のリアルな課題に向き合いながら、AIやIoTを活用した実証例をさらに増やして、この取り組みを福山市だけでなく瀬戸内エリア全体に広げていきたいですね。
ウェブサイトで施設見学等の問い合わせを受け付けていますので、興味がある企業や団体の方は、ぜひお気軽に問い合わせいただければと思います。
地元の企業や大学を巻き込みイノベーションを創出する未来の実験場として、新たに歩みを進める「せとうち Tech LAB」。ソフトバンクは、これからも地域と共に、テクノロジーを活用した社会課題の解決に取り組んでいきます。
(掲載日:2025年10月9日)
文:ソフトバンクニュース編集部
イノベーションを創出する技術開発拠点「せとうち Tech LAB」

AIを中心とした最先端テクノロジーを地域課題の解決につなげ、イノベーションを創出する技術開発拠点「せとうちTech LAB」。
最先端テクノロジーをただ展示するだけではなく、 地方都市ではどのようにテクノロジーが実装されているのか。 「新たな発見や体験」につなげるための設備や仕掛けを用意しています。




