
トイレ、手洗い、入浴など、生活のあらゆる場面で必要となる水は、災害で断水が続くと衛生や健康を保つことが難しくなります。茨城県龍ケ崎市は災害時の水供給を確保するために、断水時でも水を再利用できる水再生システム「WOTA BOX(ウォータボックス)」を8基導入しました。ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)がWOTA株式会社(以下、WOTA)と連携し、導入から運用支援まで一貫してサポートする形で実現しました。
導入の背景には、令和6年能登半島地震の被災地へ応援派遣された龍ケ崎市職員の体験がありました。避難所で「WOTA BOX」の温水シャワーを浴びて、ほっとした表情を見せる被災者の方の姿を目の当たりにしたことがきっかけになったといいます。その思いや経緯を伺いました。
※「WOTA BOX」のお披露目式に加え、別途龍ケ崎市と災害派遣トイレネットワーク「みんな元気になるトイレ」の連携協定式が実施されました。
(写真左から)一般社団法人助けあいジャパン共同代表理事 石川淳哉氏、茨城県龍ケ崎市長 萩原勇氏、ソフトバンク株式会社 第1営業部 加藤 健太
災害時の課題を解決する “水の備え”。龍ケ崎市が「WOTA BOX」を8基導入
川に囲まれた地形の茨城県龍ケ崎市は、水害や地震など複合的な災害リスクを抱えています。市ではこれまでも地域ごとの災害特性に応じた防災訓練を行うなど、住民の防災意識を高める取り組みを続けてきました。
しかし、災害時の「水の確保」と「避難所での衛生環境の維持」が長年の課題として残っていました。断水が続く状況でも清潔な環境を保つことは、避難生活の質や市民の安心感、ひいては健康維持に直結します。これを解決する新たな取り組みとして、龍ケ崎市は水循環型シャワーシステム「WOTA BOX」8基の導入を決定しました。
WOTA BOX

水道のない場所での水利用を実現する、ポータブル水再生システムです。独自の水処理自律制御技術により、排水の約98%を再生循環します。公衆浴場水質に準拠した水として供給でき、100L(リットル)の水で約100回のシャワー入浴が可能。
2025年10月16日には「WOTA BOX」のお披露目式、および龍ケ崎市と災害派遣トイレネットワーク「みんな元気になるトイレ」の連携協定式が開催され、龍ケ崎市長をはじめ関係者らが出席。実際に水循環型シャワーテントを稼働させて、わずかな水量でも清潔な水を再利用できる仕組みを確認しました。参加者からは「災害時にこのような設備があると安心できる」「実際に災害現場で使えるのは心強い」といった声が上がりました。


龍ケ崎市長の萩原勇氏は、「能登半島地震で学んだ経験を生かし、災害に強いまちづくりを進めていきたい」と述べ、防災力向上への期待を語りました。

被災地での経験が原動力に。導入を推進した龍ケ崎市役所職員の思い
「WOTA BOX」の導入は、龍ケ崎市役所 総務部 防災安全課の鈴木さんと圓城寺さんを中心に進められました。そこには、単なる設備導入にとどまらない思いがあったといいます。

お話を聞いた人(上記写真左)
龍ケ崎市役所 総務部 防災安全課 課長補佐(防災対策 グループリーダー)
鈴木 崇生(すずき・たかお)さん
お話を聞いた人(上記写真右)
龍ケ崎市役所 総務部 防災安全課 防災対策グループ 係長
圓城寺 和則(えんじょうじ・かずのり)さん
導入に至ったきっかけを教えてください。
鈴木さん 「令和6年能登半島地震で、龍ケ崎市から断水の被災自治体へ給水支援活動として現地に入ったことがきっかけでした。支援活動中に訪れた避難所に『WOTA BOX』が設置されており、シャワーを浴びてテントから出てくる被災者の方々がシャワーを浴びて本当にうれしそうな表情をしていたんです。『清潔を保てることが、こんなにも人の心を支えるんだ』と衝撃を受けたことは今でも鮮明に覚えています。そこから、龍ケ崎市でも水の不安をなくし、避難生活の負担を少しでも減らしたいと強く思うようになり、市民の安心のために必要な備えだと確信して導入を検討することとなりました」
現場の経験が、導入の決め手になったわけですね。
鈴木さん 「あの光景を目の当たりにした瞬間、『龍ケ崎市に必要なのはこれだ』と思いました。給水支援活動で出会う避難者の方々から『長い間お風呂に入れないのが一番つらい』という話を聞き、『同じことが龍ケ崎市で起きたとき、どうするのか』と真剣に考えました。そこで行き着いた答えが、自分たちで備えること。つまり、災害時(断水時)に限られた水で衛生環境を保てる『WOTA BOX』のような設備を持つことだったんです」
龍ケ崎市にとって特に必要だと感じたポイントはどこにありますか。
圓城寺さん 「龍ケ崎市は、地形的に台地と田園地帯に分かれており、西には小貝(こかい)川、南には利根川が流れています。川に囲まれているため洪水や大雨による浸水リスクが高く、浸水想定区域や土砂災害警戒区域に指定されている箇所もあり、水害と地震の両方への備えが必要です。中でも、断水時に清潔を保てる環境をどう確保するかは大きな課題でした。だからこそ、『WOTA BOX』のような設備の導入は大きな意味があると感じています。最初は1基と考えていましたが、最終的には8基の導入に至りました。市民により安心してもらうには、それくらいの備えが必要だと判断しました」

なぜ8基もの導入に至ったのでしょうか。
鈴木さん 「龍ケ崎市は大きく4つの市街地に分かれていて、それぞれ地形や災害リスクが異なります。どの地域でも同時に被災する可能性を考えると、1基や2基では対応しきれません。男性、女性、障がい者、要介護者など、避難者が多く集まる傾向の高い市街地の主要となる避難所へ2基ずつ配備することが有効と考え、合計で8基の導入に至りました」
導入後の市民の反応はいかがでしたか。
圓城寺さん 「導入後は、ソフトバンクさんの協力で職員、自主防災組織や防災士向けに研修を行いました。組み立てや設置、撤去までを体験し、災害時に自分たちで運用できるように訓練しています。『2人で15分ほどあれば設置できる』『軽いので扱いやすい』という声も多く、避難所運営の現場でも安心して使えると感じています。参加者から『プライバシーが守られて安心』『避難生活への不安が減った』など、実際に使う側の視点でも評価をいただけたのは大きな成果でした」
今後の活用や展望を教えてください。
圓城寺さん 「災害時はもとより、防災訓練や防災キャンプなど、実際に触れて体験することで、市民が自分ごととして防災を考えるきっかけになると考えています。また、災害時相互支援協定を結んでいる自治体などとも連携し、広域支援への展開も視野に入れています。備えて終わりではなく、使って理解し、生かしていく防災文化を龍ケ崎市に取り入れていきたいです」
鈴木さん 「災害時の水の確保は、災害関連死を防ぐことをはじめ、命を守るうえで欠かせません。能登で見た “笑顔のシャワー” のように、龍ケ崎でも同じ安心を届けたいという思いで取り組みました。『WOTA BOX』を導入したことで、避難所の入浴環境の向上に役立っており、市民の防災意識向上の一助となったと感じています。今後も、地域とともに防災の文化を育てていきたいと思います」
導入から運用まで、ソフトバンクが伴走支援
今回の導入は、ソフトバンクがWOTAと連携し、運用支援を一貫してサポートする形で実現しました。市内4つの市街地エリアに2基ずつ計8基配備され、基礎自治体としては全国的にも異例の大規模導入です。上下水道に頼らずに少ない水を高効率で再生・循環してシャワーができるため、災害時でも生活用水を確保し、避難所の衛生環境を保つことが期待されています。
担当したソフトバンク 公共事業推進本部 第二事業統括部 東日本自治体DX推進室 担当課長 飯島英之に、プロジェクトの経緯と思いを伺いました。

導入にあたり、ソフトバンクと連携することになった経緯を教えてください。
私たちは、単なる製品の納入提案ではなく、能登半島地震での支援活動を通して得た実践的な運用ノウハウをもとに、設置から利用、撤去までの一連の流れを想定したデモンストレーションや運用マニュアル・案内パネルなどを含む現場での運用に即した具体的な提案を行いました。「いざというときにすぐに使える実践的な支援」を重視した当社の提案を高く評価いただいたと感じています。
「WOTA BOX」のような社会インフラに関わる取り組みで、ソフトバンクとしての強みや意義をどのように感じていますか。
社会インフラは、人々の暮らしや経済活動を支える重要な基盤です。ソフトバンクは電気通信事業者として、全国に広がる通信ネットワークを構築し、長年にわたり高品質で安定した通信サービスを提供してきました。その中で培ってきた営業力・技術力・運用力を生かし、通信・AI・IoT・クラウドといった最先端テクノロジーを用いて社会課題の解決に取り組んでいます。
今回の龍ケ崎市のように、導入から運用・ 定着までを一貫して支援する伴走型のサポートは、ソフトバンクならではの強みです。今後も、ソフトバンクが持つ最先端のテクノロジーと現場支援力を融合し、自治体や地域の皆さまとともに、地域社会の課題解決に貢献していきたいと考えています。

(写真左から)ソフトバンク株式会社 次世代戦略本部 井上良太、ソフトバンク株式会社 公共事業推進本部 飯島英之、龍ケ崎市マスコットキャラクター「まいりゅう」、龍ケ崎市 総務部 防災安全課 鈴木崇生さん、龍ケ崎市 総務部 防災安全課 圓城寺和則さん
(掲載日:2025年12月12日)
文:ソフトバンクニュース編集部




