
九州の豊かな自然や都市を舞台に、10月に開催された国内外のトップ選手が競うサイクルロードレース「マイナビ ツール・ド・九州2025」。美しい景観のコースや白熱するレースの模様など、途切れないライブ配信を実現するため、ソフトバンクの技術協力のもと、低軌道衛星通信サービス「Eutelsat's OneWeb LEO constellation(ユーテルサッツ ワンウェブ レオ コンステレーション)」が活用されました。
アップダウンの激しい山間部のコースで映像をつなぐ挑戦

近年九州を襲った自然災害からの復興の象徴や、九州でのサイクルツーリズムを推進するイベントとして、2023年より開催されている「マイナビ ツール・ド・九州2025(以下、本レース)」。UCI(国際自転車競技連合)に公認されているサイクルロードレースです。
今年で3回目を迎えた本レース。コース周辺は、景観の美しいエリアや歴史ある街並みが望める一方、過去2回のレースのライブ配信では、通信環境が整っていない山間部でバイク撮影の映像中継が途絶えてしまうことがありました。特に熊本県の「熊本阿蘇ステージ」は、標高が最大約900m、標高差が最大約500mの世界最大級のカルデラを生かしたアップダウンの激しいコースのため、肝心のレースシーンが視聴者に届きづらいことが課題となっていました。
今年、この課題を解決するため、映像配信を担当する株式会社テレビ熊本は、「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」を使った新しい中継方法に挑戦。テレビ熊本からの協力要請を受け、ソフトバンクがライブ配信をサポートしました。
「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」は、高度1,200kmの低軌道衛星から、地上のモバイルデータ通信では電波が届きにくい場所にも通信を提供するサービスです。
入念な事前テストを重ね、高速で移動しながらのレース中継に備える

本レースを振り返り、テレビ熊本の福田盛一さん、技術面を担当したソフトバンクの山口椋平に、「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」を活用した背景などを聞きました。

株式会社テレビ熊本
技術部
福田盛一(ふくだ・せいいち)さん
2015年にテレビ熊本入社。各種地上波番組の中継技術を担当。今回、3回目となるツール・ド・九州映像配信のテクニカルディレクターを担当し、山間部での伝送難という課題解決に取り組む。

ソフトバンク株式会社
プロダクト技術本部 衛星企画部
山口 椋平(やまぐち・りょうへい)
2020年にソフトバンクへ入社。システムエンジニアとして法人顧客のネットワーク課題解決に携わる。その後、Eutelsat's OneWeb LEO constellationの技術担当部門へ異動。 今回、「法人顧客の課題解決」と「Eutelsat's OneWeb LEO constellationの活用」を軸に、今回の映像配信を技術面で支援。
使用されたのは、「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」のアンテナとモバイルデータ通信を用いた映像伝送装置(LiveU)を搭載した伝送バイク。もう1台の撮影バイクのカメラ映像を伝送バイクへ送り、「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」の回線を利用して伝送する仕組みです。

Eutelsat's OneWeb LEO constellationを採用した背景について教えてください。
福田さん 「レース中は、時には時速70kmほどのスピードが出ます。選手とほぼ同じスピードで、かつ近い距離でバイクから撮影するわれわれ撮影スタッフは、ある意味、命がけです。そうして撮影する映像を余すところなく視聴者に届けたい。そんな思いで、2024年の大会終了後、次回に向けて新しい伝送方法の検討を始めました」
確かにかなり高速ですね。検討は順調に進みましたか?
福田さん 「過去に別の中継で衛星ブロードバンドインターネットサービス『Starlink』を使った経験があったため、低軌道衛星通信の安定性には手応えを感じていました。ただ、『Starlink』の場合、アンテナを移動しながらの中継ができないため、別の手段を探していたところ、『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』の情報を知り、これだ!と思い、早速ソフトバンクに相談しました。
実際のレースのスピード感の中で伝送するためにはアンテナを機動力のあるバイクに搭載することが必須です。検討を進めてみると、『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』のアンテナが非常に大きく、バイクに搭載するのは現実的ではないことがわかりました。その後、ソフトバンクから新しい小型アンテナの提案を受け、実現の可能性が見えてきました」
レースで「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」を活用したいと相談を受けたとき、どんな印象を持ちましたか?
山口 「バイクへアンテナを搭載した前例がなく、さらに山道のコースであることから樹木による電波遮蔽も避けられないため、正直なところ当初は難易度が高い印象でした。一方、この案件を成功させることができれば、『モバイルデータ通信の届かないエリアで移動しながら通信を行う』という『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』の強みを最大限に発揮できる好事例になると考え、期待も膨らみました」
「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」のどのような点にメリットを感じましたか?
福田さん 「まず "移動しながら使える" ことが最大の魅力でしたね。そして、携帯基地局の電波が届かない山間部でも安定して通信できる点です。報道やスポーツ中継で使うFPU(Field Pickup Unit)と呼ばれる無線の伝送装置の活用も検討したのですが、広大なコースの全てをカバーすることは困難です。対して、高速で移動しながら、通信品質を維持できる『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』に魅力を感じました。
当初は、カメラで映像を撮影するバイクに、『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』のアンテナとLiveUなどの機材をまとめて取り付ける予定でしたが、撮影バイク1台に全ての機材を積み込むのはサイズ上、難しかったため、伝送バイクを1台追加する方針について、大会を運営する事務局と協議し、承諾を得ることができました」

実際のコースでの走行テストも行ったそうですね。どのような手順で進めたのでしょうか。
福田さん 「ソフトバンクから借りた機材を実際にバイクに搭載して、本番のレースと同じ阿蘇のコースで走行テストを行いました。木々に覆われているような場所では通信が途切れることもありましたが、空が開けた瞬間にすぐ再接続されました。スピード感のあるレースの伝送には非常に有利な中継方法だと感じましたね」

コース全域で行われたテストでは、映像伝送の限界ライン成功率がモバイルデータ通信の約30%に対し、「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」と併用した場合は約80%まで大幅に改善

テストコースでの電波測定やバイクへのアンテナ搭載では、どんな点を工夫しましたか?
山口 「アンテナのバイク搭載にあたっては、必要な電源容量や設置位置(衛星見通し・安全性など)の要件を考慮し、テレビ熊本さんとともに最適な固定方法を検討しました。実際のコースでの走行テストではモバイルデータ通信の圏外エリアや不安定区間を洗い出したうえで、『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』の疎通性を確認。結果として、モバイルデータ通信単体に比べて映像伝送成功率を大きく向上できる見込みを実証できました」
阿蘇の雄大な景色やレース展開を余すところなく視聴者にお届け

「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」の導入にあたって、社内や関係者の反応はいかがでしたか。
福田さん 「レース3カ月前の7月中旬に阿蘇のコースでテスト走行をした後、8月に他の地域で開催された別の自転車のロードレースの中継で実践的な検証を行いました。周囲から「新しい伝送方法で映像が良くなる」という期待が一気に高まった一方で、事前準備は多岐にわたりました。撮影バイクと伝送バイク間の伝送方法の選定や、距離が離れすぎると映像が送れなくなるため、走行距離間の調整・合意など、運営事務局とへ時間をかけて説明し、理解を得ました」
もし途中で伝送が途絶えてしまったら、という懸念にどう備えたのでしょうか?
福田さん 「いざ、レースがスタートしてしまうと、万一、トラブルが起きた場合に現場ではすぐに対応できないリスクも洗い出し、入念に準備を進めました。準備期間が短く、テストと並行して、撮影バイクや伝送バイク自体の作り込みも必要だった点は苦労しましたね」

山口 「高速で進むため、レース開始後に何か問題が起きても電源周りの再起動程度しか即応できません。そのため、前日から直前まで、トラブルに備え予備の端末と回線を用意し、レース開始前まで入念な予防策を取りました」
レース本番を迎えたとき、どのような印象を持ちましたか?
福田さん 「過去の2回の大会では、スタート直後に映像が途切れてしまったのに対し、今回はスタートしてから広範囲にわたって阿蘇の雄大な景色はもちろん、レースの模様を鮮明な映像でお届けできたのが大きな収穫でした。当日は天候もよく、雲海なども見えていて最高のコンディションでしたね」

山口 「レース当日の早朝のセットアップ時には入念に最終チェックを行い、レース中も遠隔から接続状態を継続的に監視しました。レース中は安定した通信品質を維持できており、モバイルデータ通信がエリア外になる阿蘇の山間部でも、映像伝送が成功した区間が多数確認されました。関係者の皆さんからも、『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』の効果を実感できたとのコメントを多数いただくことができました」
撮影バイクからの映像の他にドローンによる撮影映像も使われていましたね。
福田さん 「アップダウンが多いコースのため、短い時間で通信環境が変化します。変化に合わせて、そのタイミングに最も適した映像をリアルタイムで配信できるよう、撮影バイクの他にドローン空撮や中継定点も取り入れました。バイク映像の通信回線は『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』と、バックアップ用のモバイルデータ回線を適宜切り替える体制を組んで臨みました」
刻々と変化するレースの実況や解説にも、効果があったのでしょうか?
福田さん 「実況解説者は、映像が見られないタイミングでは、バイクに取り付けたGPS情報のマップを参考に選手の位置を確認してコメントしますが、位置情報のズレもあるため、情報の信頼度は映像に比べて低くなります。今年は映像で直接確認できる情報量が増えたため、選手やレースの状態をより詳しく、正確に伝達できていたと感じました」
視聴者からの反応はいかがでしたか?
福田さん 「YouTubeのリアルタイム配信では、序盤からレース展開や景色へのコメントが多く寄せられていました。過去の大会でも “電波、がんばれ!” とコメントをもらっていたのですが、そのコメントの意味合いが今年は一変したと感じています。昨年までは「電波がつながっていないから、がんばってね」でしたが、今年は「がんばっている電波への応援」になっているように見受けられました。
また、そもそも電波に関するコメントが少なめで、天気や山々、ススキの美しさ、先頭選手の動きなど、レース展開に即したコメントが多かったです。映像が流れ続けているので、視聴者の皆さんがレースそのものの展開を映像で十分に楽しめていた証拠だと捉えています」


今後どのようなシーンでEutelsat's OneWeb LEO constellationの活用を促進していきたいですか?
山口 「今回のように、モバイル電波の届かないエリアで移動しながら通信を行うという需要は、報道、災害対応、インフラ点検など多くの現場に共通します。さらに、『Eutelsat's OneWeb LEO constellation』にはインターネットを介さずダイレクトに閉域網へ接続できるセキュリティー面での優位性もあります。今後は報道などの中継に加え、インフラ点検や防災・防衛分野などへと活用領域を拡大していきたいと考えています」
マイナビ ツール・ド・九州2025

公式YouTubeチャンネルでは、ソフトバンクがサポートした今回のレースのアーカイブ映像が公開されています。選手たちの熱い戦いの模様をぜひご覧ください。
(掲載日:2025年12月24日)
文:ソフトバンクニュース編集部
低軌道衛星通信サービス「Eutelsat's OneWeb LEO constellation」

基地局の電波が届きにくい山間部や災害発生時でも、機密性の高い通信が可能。下り最大195Mbps、上り最大32Mbpsの帯域確保型で、セキュリティと品質を重視した低軌道衛星通信サービスです。




