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勝ち続けるためのデータ活用。福岡ソフトバンクホークスの強さの仕組み

福岡ソフトバンクホークスの宮崎キャンプ取材のため、数年ぶりに宮崎県・宮崎市生目の杜運動公園を訪れました。グラウンドでの練習の前には、選手のサイン入りボールの投げ込みやサイン会など、見学に訪れたファンを盛り上げるさまざまな取り組みが行われていました。

その中で筆者が特に気になった光景が、ブルペンなど練習エリアの周囲に置かれた数々の計測機器とそれを扱うスタッフの姿。以前から、プロ野球界でのデータ活用が進んでいるという話は聞いていましたが、ホークスでは実際にどのように活用されているのか、福岡ソフトバンクホークスのベースボールサイエンス部門に携わる向翔平さんに話を聞きました。

話を聞いた人

向 翔平(むこう・しょうへい)さん

福岡県出身。九州大学経済学部卒業後、通信会社に入社。エンジニアと営業を務める。その後、福岡ソフトバンクホークスに転職。現在は球団のチーム戦略部で、ベースボールサイエンス部門に携わっている。

トラッキングデータやAIの登場で、プロ野球界のデータ活用は新時代へ

以前からプロ野球界でのデータ活用は、人が見て記録をし、それを経験として蓄積する形で行われてきました。スコアラーが他球団の試合を見ながらスコアブックに手動で記録をし、その内容を参考に対戦相手の研究をする。ところが、投球や打球の軌道、回転数、速度などを計測できるトラッキングデータの登場によって大きな変化が生まれたそうです。

「もともとは、スコアラーさんが手でスコアをつけて、そこから相手の傾向を知ることがスタートでした。例えば、どのカウントでどんな球を投げてくるか、といった傾向を見る分析ですね。これが現在ではトラッキングデータ、ボールの回転数や変化量のデータが取れるようになったことで、それまで感覚で語られていた部分が、数値として見えるようになりました」

このピッチャーだったらこんなボールが来るよ、といった情報を、選手により細かく伝えることができるようになったのが、ここ最近の大きな進化だと語ります。さらに、向さんはこう付け加えます。

「これまでは傾向を捉えることが多かったのが、AIとか機械学習が入ってきたことで、対戦が少ないピッチャーでもどんなボールを投げるかの予測をもとに戦術を組み立てることもできるようになってきていますね」

こうした変化について、プロ野球界全体ではどのように受け止められているのでしょうか。他球団の動向について、向さんはこのように話します。

「正直、今のプロ野球界で “データを使っている” こと自体は、珍しくないと思っています。球団によって違いはありますが、力を入れている球団も増えてきていますよね。実際どんな取り組みをしているのかは気になりますけど、いずれにしても今後はデータ活用の仕方自体が変わっていくんだろうな、と思っています」

データを分析し活用できる人材こそがホークスの強み

ホークスはテクノロジー活用に率先して取り組んできました。2009年には他球団に先駆けて、スタッフや選手全員にスマホ・タブレットを支給。対戦相手の情報をデジタルで共有し、事前研究や分析に活用してきました。

「当時は、かなり分かりやすく “試合に勝つため” のデータ活用が中心でした。どうすれば判断を速くできるか、という発想ですね」

その後も、初期の頃からトラックマンを導入したり、投手の投球を忠実に再現できるiPitchマシンを日本プロ野球で初めて採用、高速モーション解析カメラを16台設置するなど、最新機材の導入にも積極的に取り組んでいます。その中で、ホークスの強みは分析する人材を多く抱えていることだと語ります。

「計測機器の整備をやろうと思えばどの球団でもできると思うんですけど、それを扱う人がいないんです。分析してその知見をフィードバックできる人材をホークスはたくさん抱えている、これがホークスの強みだと思います。チーム戦略部の組織の中にベースボールサイエンス部門という分析を担当する組織があり分析の目的に応じてチームが分かれています。1つは『アナリティクス』。各軍(1〜4軍)にアナリストが帯同して、対戦相手の分析・対策などチームの勝利に向けた分析をします。もう1つはモーションキャプチャーによる動作解析やバイオメトリクス等を担当する『R&D』。そしてもう1つが、チームの様々な部門へデータを提供・意思決定をサポートする『データサイエンス』。全部で21名で、チームに必要なデータを提供しています」

今回のキャンプ取材中にも、ブルペンで練習しているスチュワート投手とアナリストが、マウンドの横に設置されたタブレットを見ながら何やら会話をしているシーンを見かけました。

「いろいろなデータを計測していて、その場でフィードバックできるようなものもあれば、持ち帰って分析してから出すものもあります。選手からはその場で求められるデータが結構たくさんあるので、求められた時にすぐ出せるように、常に計測している感じですね」

こうした試合や育成の現場でデータを活用できる体制こそが、まさにホークスの強さを支える仕組みと言えるのかもしれません。

今日の試合に勝つための “先回り” 準備

戦術分析を担当するアナリティクスグループは、各軍の試合に帯同しています。試合ではどのようにデータが活用されているのでしょうか。向さんによると、各軍に帯同しているアナリストの役割は、相手投手の球種ごとの傾向や、カウント別の配球割合、打者ごとの得意・不得意といった情報を事前に整理して試合前のミーティングで認識を合わせておくことだと言います。

「アナリストは事前に整理したデータを、選手やコーチが必要とするときにすぐに参照できる状態をつくってます。自チーム・相手チームを把握するためにも重要な役割を担うことになります」

投手の配球、継投、守備シフト、走塁判断。その一つひとつの判断の裏側に、すぐ参照できるデータがある。この状態を準備しておくことがアナリストの仕事だと語ります。

ただデータを見せるのではなく、いかに翻訳して伝えるか

「例えば、『このピッチャーの回転数は2600rpm(rpm:1分間の回転数)です』と言われても、選手はそれだけでは分からないんですよね」

向さんが繰り返し強調していたのが、データを “翻訳して伝える” という考え方です。2600rpmだから何なのか。事前に準備したデータも、単なる数字ではなく、選手がイメージできる、意味のある形にして伝える必要があると言います。

「先ほども話したように、トラッキングデータで投球や打球の軌道、回転数、速度などを計測できるようになりました。このピッチャーは縦の変化量がこれくらいあるから、以前対戦したあの投手に近い、という感じで伝えます。そうすると、どんなボールなのかを選手が一気にイメージがしやすくなるんです」

重要なのは、数字の正確さそのものではなく、選手がプレーのイメージを持てるかどうか。

「データ分析の仕事は、数字を出すことで終わりではありません。どう伝えれば選手が理解して動けるか、そこまで含めて考えています」

投球の変化量や球種別の投球コース分析データ

打撃データ例

「自分をデータで知る」未来のホークスを支える選手育成

R&D部門は、選手育成にフォーカスした役割を担っています。選手の骨格などを元にしたモーションキャプチャーを解析して、ここが課題だからこういう練習をした方がいい、といったフィードバックを行います。

今回のキャンプでも、こうした環境を用意しているといいます。

「ブルペンに複数台のカメラを設置して、選手の投球動作をセンサーやカメラで計測しています。投球動作をいわゆる “棒人間” のようなモデルで可視化して、どのタイミングでどれぐらいのエネルギーが使われているかを分析しています。感覚だけで『調子がいい』『悪い』と言うのではなくて、今どういう状態なのかを、データで確認する。自分を知るためのデータ、という意味合いが大きいですね」

1・2軍に上がるための “目指すべき基準” をつくる

選手が成長した先に見据えるのは、1軍や2軍での活躍です。ただ、その判断を感覚や成績だけに委ねるのは、簡単ではありません。そこでホークスでは、「何を満たせば次のステージに進めるのか」を明確にするため、データを使った基準づくりが行われています。

ホークスは育成特化型の組織として、2023年から日本プロ野球では初となる4軍制を導入しました。3軍は試合経験を通じて選手を成長させる組織、4軍は体づくりや基礎体力向上、怪我からのリハビリを目的とした組織です。

「ホークスは現在、3軍と4軍でおよそ50〜60人の育成選手を抱えています。どうやったら1軍で活躍できるかの基準が必要になってきます。目指すべき基準がないと、どうしても評価が分かりづらくなってしまいます」

そこで導入されたのが「打撃検定」や「投手検定」といった仕組み。定量的なゴールを作り、ある一定のレベルを超えたら、2軍での出場機会が得られることを明確にしているので、選手たちもそれを目標の一つとして取り組んでいるそう。育成選手出身の石塚綜一郎選手は、トラックマンデータをもとに実在投手の球質を再現するマシン「アイピッチ」を使用した「打撃検定(レベル1〜16)」の全レベルを最初にクリアした選手としても知られています。

「特に3軍は、独立リーグや大学との試合が多いのですが、ある程度の成績は残すんです。でもその成績が、本当に1軍や2軍で通用するのか。これを評価するのはなかなか難しくて、ホークスとしての基準を持っておくという意味でも活用されています」

2026年中にPayPayドーム内に「R&Dラボ」を新設

2025年12月には、本拠地のみずほPayPayドーム福岡に「R&Dラボ」を新設することが発表されました。ハイスピードカメラやバイオメカニクス解析システムなど、最新鋭の計測・分析設備を導入し、投球や打撃動作を精密に可視化。フォーム改善やケガ予防、戦術判断の高度化に活用することで、チームの強化を科学的に支えるものです。

「『R&D』ラボの新設には2つ目的があります。1つ目は、1軍選手の動作解析のデータを取得して、ファームの選手のお手本とするためです。試合でのデータ、練習でのデータ、2つのシステムを今回入れようとしています。そして2つ目は、オフ期間中やリハビリ中の選手が、移動の負担なく高度な計測・分析を行える環境を整えることです。これがみずほPayPayドームでできるようになれば、例えば1軍選手もこれを使うことで調子を落としたときにチェックしたりとか、選手自身の調子をチェックするなどの形で活用できるようになると思っています」

大量のデータをどう可視化するか。これから求められる翻訳力

これだけデータ活用が進んでいるホークスですが、大量のデータがあっても、それをどう見せるか、どう解釈させるかが重要になります。向さんは、データをどの領域で活用するのかという点にも、課題が残っていると話します。

「もともとスカウティングサポートというグループがあって、投球の回転数や変化量を計測してスカウティングに活用していました。ただ、どうしても取れないデータも多くて、十分に活用しきれているとは言えない部分もありました。まさしくこれからは、データサイエンスのグループが、編成育成本部のようなところに対しても、より俯瞰的なデータを出していこうとしています。どういう選手を獲得するのがいいのか、その判断にも、少しずつデータをつなげていきたいですね」

プロ野球界のデータ活用が今後どんどん進化していく中で、向さんはデータ活用の将来の姿についてこのように語っています。

「これからAIが広がっていくことを想像すると、選手たち自身がデータを集められるようになるんだろうなと思います。そうなると、データを持っているかどうかより、どう解釈するかの方が重要になってくる。データの使い方や知識を、選手自身が身につけるようになって、その翻訳力がますます問われていくのかなと思います」

向さんが語っていたように、データをどう解釈し、どう使うかは、これからますます重要になっていきます。そうした視点でプロ野球を見ると、試合の見え方もこれまでとは少し変わってくるかもしれませんね。

(掲載日:2026年4月2日)

文:ソフトバンクニュース編集部