目の疲れやかすみがとれない、以前に比べて遠くが見えづらくなった、夜なかなか眠れない…。最近、こんな症状に悩まされていませんか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、テレワークやオンライン学習が普及。スマホ、パソコンといったデジタルデバイスに触れる時間が急増している中で“目”に関する悩みを抱える人が増えているようです。しかし、スマホやパソコンは、今や生活に欠かせない便利なツール…。一体どうすればよいのでしょうか?
そこで今回は、デジタルデバイスが目に与える影響や正しい付き合い方、目を健康に保つためのポイントなどについて、眼科専門医の林田康隆先生に教えていただきました。
目次
眼科専門医 林田 康隆(はやしだ・やすたか)先生
医療法人社団康梓会Y'sサイエンスクリニック広尾・理事長。大阪大学大学院医学系研究科および米国フロリダ州マイアミ・オキュラーサーフェスセンターにて、眼表面および間葉系細胞の幹細胞研究に携わり、実際の細胞培養の経験まである再生医療のスペシャリスト。現在は、主に大阪で難治性白内障手術や網膜硝子体手術等に取り組む傍ら、東京では肌再生療法や脂肪幹細胞療法、免疫療法なども手掛ける。
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取材はオンラインで行いました。
“光源”を“手元”で見つめる生活を加速させたコロナ禍
新型コロナウイルス感染拡大後の人々の生活変化について、林田先生は眼科医という立場からどのように見られていますか?
在宅勤務の普及によって、パソコンを利用したオンライン会議が増えたり、自宅で過ごす時間が長くなったことで、ネット動画やテレビを見る機会が増えたりするなど、新型コロナ感染拡大後、人々がデジタルデバイスを見る時間は急激に増加していますよね。若い人の中には、起きている時間ずっとスマホやパソコンの画面を見ている人も多く、目の健康に影響が生じるのではないかと心配しています。
デジタルデバイスの使いすぎは、目にどのような影響を与えるのでしょうか?
人間の体は、環境によって大きく左右されるもの。中でも“目”は、環境の変化に特に敏感な器官といえます。そもそも人類は誕生からほとんどの期間を“太陽の光”を頼りに、狩りをして、“遠く”を見る生活環境の下で暮らしていたため、われわれの目もそれに合わせられています。
しかし、産業革命後、義務教育を経て、多くの国で手元を見る環境が主体となり、目の使い方が変わってきました。近くを見ることが常となる環境によって近視化が進み、さらにここ数年は、デジタルデバイスの普及によって“光源”をずっと“手元”で見つめる生活環境へと変化。コロナ禍でその傾向に拍車がかかっています。
私たちの目は、まだこの環境変化にチューニングされていない状態なので、デジタルデバイスを過度に使用することは、目に大きな負担をかけてしまい、さまざまな症状を引き起こす恐れがあるのです。
テレワークによって、約7割の人はパソコンを見る時間が増加
メガネブランド「Zoff」を運営する株式会社インターメスティックが行った調査によると、新型コロナの影響によってテレワークを実施する企業が増えている中、65.2%の人が「テレワークになってからパソコンを見る時間が増えた」と回答。また、67.8%の人は「スマホに関しても見る時間が増えた」と回答しました。テレワークによって、多くの人のデジタルデバイス使用時間が増加しているようです。
出典:インターメスティック「Zoff」調べ「ブルーライトに関する調査」
「デジタル時差ボケ」の発生メカニズムは?
デジタルデバイスの使用が増える中、具体的にどのような症状につながる恐れがあるのでしょうか? コロナ禍で増えているという「デジタル時差ボケ」や「ドライアイ・近視」の発生メカニズムや症状を、林田先生に解説してもらいました。
デジタル時差ボケとは?
「デジタル時差ボケ」とは、デジタルデバイスの使いすぎによるブルーライトの影響で、体内時計が乱れ、身体が昼夜逆転してしまった状態のことです。
人間は、「メラトニン」というホルモンが分泌されることで、睡眠が促されます。このメラトニンを抑制する作用を持つのが、デジタルデバイスや太陽光にも含まれている「ブルーライト」で、通常は太陽が出ている時間帯に、太陽光に含まれるブルーライトを浴びることで、メラトニンが抑制され、脳が覚醒状態に。逆に、太陽が沈んだあとは、メラトニンが分泌されて、睡眠が促されます。
しかし、デジタルデバイスは太陽の動きに関係なく、24時間ブルーライトを発することができます。夜中にデジタルデバイスを長時間使うと、通常は分泌されるはずのメラトニンが抑制されてしまい、目が冴えるなど、睡眠リズムが乱れてしまうのです。
ちなみに、「ブルーライト自体が危険」ということではなく、あくまでも「近い距離で、長時間見続ける」ことで、体に影響を与える恐れがあるということ。デジタルデバイスが発するブルーライトを浴びるだけで、いきなり健康被害が出るようなことはありません。節度を持って、適切に使用することがポイントなのです。
あなたは大丈夫? 「デジタル時差ボケチェックシート」
林田先生によると、以下11個のうち7個以上チェックがある場合は「デジタル時差ボケ」に要注意、チェックが5個以上ある人も「デジタル時差ボケ予備軍」だそうなので、気をつけてくださいね。
□日中、眠いと感じることが多々ある。
□目の痛みや疲れ、乾きなどのトラブルを感じやすい。
□合計すると1日8時間以上、テレビやPC、スマホなど電子機器の画面を見ている。
□パソコン、スマホなどの電子機器は90分以上連続で使用していることが多い。
□本や漫画、雑誌を読む際は、電子書籍を利用することが多い。
□寝る前にはたいていベッドでスマホを見る。
□朝起きるときに朝日を浴びる習慣がない。
□首や肩が痛いと感じたり、凝ったりすることが多い。
□通勤や通学の移動時間など、隙間時間はスマホを見たりゲームをしたりが大半だ。
□毎日適度な運動をする習慣がない。
□なんだかイライラしやすい。
ドライアイ・近視
ドライアイや近視も、デジタルデバイスの使いすぎによって引き起こされる恐れがある症状のひとつです。デジタルデバイスの画面をじっと見つめる行為は、まばたきの回数を大幅に減少させます。また、もしまばたきをしたとしても、「ぎゅっ」という深いまばたきではなく、浅いまばたきになりがちです。このように、まばたきの回数が減ったり、深いまばたきがなくなったりすると、目の表面が乾燥しやすくなり、ドライアイが悪化。視力の低下にもつながります。
特に近年、日常診療でドライアイの兆候が出ている子どもを目にするようになってきました。デジタルデバイスは今や生活に欠かせない、体の一部になりつつあります。とても便利なものですが使い過ぎには注意が必要です。
日常生活に取り入れてみよう! 目を健康に保つポイントを紹介
「デジタル時差ボケ」や「ドライアイ・近視」などの症状に悩まないためにも、デジタルデバイスとの付き合い方を見直したいところ。林田先生に、日常生活の中で習慣化したい、目を健康に保つためのポイントを教えていただいたのでご紹介します。
起床後に朝日を浴びる
起き抜けに朝日を浴びて、目に光を入れることで、体内時計のスイッチが押されます。同時に、約14〜16時間後に眠くなる、睡眠予約のスイッチも押されますよ。
ブルーライトをカットするアイテムを使用する
スマホやパソコンの画面に、ブルーライトをカットするフィルムを貼ったり、作業時にブルーライトカットレンズの入ったメガネをかけたりするようにしましょう。
1日2時間は太陽の光を浴びる
1日2時間は太陽の下で過ごしましょう。早朝や昼の休憩時間に屋外を散歩したり、窓を開けて外気を取り込んだりすることで、体内時計がリセットされ、デジタル時差ボケの解消につながります。特に子どもの場合は、近視の発生・進行の予防に効果が期待できます。
スマホの光量設定を時間によって調整する
夜には少し画面を暗くするなど、スマホの光量設定を変えたり、部屋の調光を暖色系にしたりするなど、生活時間に合わせて光を調整しましょう。光は脳や精神へ影響を与えるといわれているので、とても重要です。
覚えておきたい! 目をいたわる3つの簡単トレーニング
目の健康を守るためには、目をいたわる習慣をつくることも大切。ここからは、林田先生に教えていただいた、目をいたわる簡単なトレーニング方法を3つをご紹介します。
その1:遠近ピントずらし
- 「手元」と、窓外の景色などの「遠く」を交互に見つめる
部屋の中であれば、2mほど先にある観葉植物やポスターなどでもOK。「近くと遠くを交互に見る」ことを意識しましょう。
その2:グーパーまばたき
- 目をぎゅっと閉じて2秒キープ
- 次に、目をパッと大きく見開いて2秒キープ
仕事中など「ちょっと目が疲れたな…」と感じたときに数回行ってみましょう。
その3:眼球ぐるぐる
- ゆっくりと時計回りに1周、眼球を回す
- 同様に、ゆっくりと反時計回りに1周、眼球を回す
人差し指を使い、指を追うように行うと、指標ができてわかりやすいのでおすすめです。
デジタルデバイスが欠かせない現代。大切なのは“目”への意識を高めること
今や、私たちの生活とは切っても切り離せないデジタルデバイス。便利なツールだからこそ、長く快適に使い続けていくためには、適切な付き合い方が大切になってきます。林田先生によると、目の使い方に無自覚な人も多く、まずは自分がどんな風に目を使っているか、酷使していないかなど、目への意識を高めることが重要なのだそう。今回ご紹介したポイントやトレーニングをきっかけに、少しずつ、“目”への意識を高め、目をいたわる習慣を身につけてみてはいかがでしょうか?
(掲載日:2020年10月29日)
文:佐藤由衣
編集:エクスライト
イラスト:POP CORN STUDIO