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尿のセルフチェックを定着させたい。わずか2分の栄養状態チェックが健康意識を改革

栄養状態をわずか2分で判定! スマホでできる尿のセルフチェックで目指す未来

体の状態がどことなく気になるけど病院に行くほどでは… と感じることはありませんか。自分で簡単に尿から検査をして、結果を病気の予防や健康維持に生かすキットを手掛けているのは株式会社ユーリア(以下「ユーリア」)。日本最大級のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」の会員でもあるユーリアの取り組みと今後の狙いについてお聞きしました。

水野 将吾(みずの・しょうご)さん

株式会社ユーリア 代表取締役

水野 将吾(みずの・しょうご)さん

IT企業でのヘルスケア系の新規事業の立ち上げを経て、H.I.S.設立者の澤田秀雄が主宰する経営育成プログラム 「澤田経営道場」に入門し、経営を学ぶ。 在籍中に、経済産業省主催の始動Next Innovatorへの選抜、エンジニア起業家養成スクール「G’s ACADEMY」主催の「Global Geek Audition」優勝、EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2024などさまざまな賞を受賞。 2021年4月、東京大学の共同研究をきっかけに株式会社ユーリアを設立、2022年8月に尿検査のキットを販売開始。

葛山 樹(くずやま・たつき)

ソフトバンク株式株式会社 デジタルトランスフォーメーション本部 ニューリテールデータプロジェクト プロジェクトマネージャー

葛山 樹(くずやま・たつき)

新卒で小売企業の販促業務を経験後、デジタル戦略部門でサービス企画を担当。 その後、ソフトバンクのDX部門でデータ活用を軸に新規事業開発を推進。

尿検査とAI問診を組み合わせて、栄養素の過不足状態やアドバイスがもらえる

スマホのアプリでできる尿検査のキットとは、一体どんな仕組みなのでしょうか?

水野さん 「自分で簡単にスマホを使って栄養状態を可視化できるキットです。キットの試験紙に尿をかけ、専用のアプリで撮影するだけで、約2分で結果が表示されます。カルシウム、マグネシウム、ビタミンCなど11項目がAIの分析によって10段階で評価されます」

尿検査とAI問診を組み合わせて、栄養素の過不足状態やアドバイスがもらえる

病院で行う検査と精度の違いはあるのでしょうか?

水野さん 「医療機関で使用している機器と同等の精度です。医療機関では、紙コップに入れた尿に試験紙を浸し、大型の分析装置を用いてタンパク質、糖、pHなどの判定を行います。その機械が出す数値と、われわれが出している数値がほぼ一致するように開発しました。

尿検査とAI問診を組み合わせて、栄養素の過不足状態やアドバイスがもらえる

ただ、スマホのカメラで読み込む場合、どうしても撮影時の環境に左右されやすくなります。例えば、同じ被写体にカメラを向けても、光の当たり方が少し違うだけで撮影した写真の明るさに差がでることがありますよね。そのため、専用のアプリ上に、光やホワイトバランスを調整する機能を搭載して、最適な状態で自動撮影することで撮影環境やスマホの機種によるバラツキを抑えています」

尿検査とAI問診を組み合わせて、栄養素の過不足状態やアドバイスがもらえる

尿をかける検査キット。両サイドのカラーチャートにはホワイトバランス調整のガイドの役割があり、撮影された画像と事前に設定された色情報を比較するための基準として機能している。

尿検査は病院で行うものと思っていました。このキットはとても手軽に検査ができるんですね。

水野さん 「医療機関での尿検査は主に病気を発見するために行うものですが、ユーリアの尿検査は栄養状態の検査を目的としています。例えば、病院で血液や尿の検査結果が良くなかったとき、ここを改善しましょう、と指導を受けて、日々の生活で気を付ける。数カ月後にまた医療機関で再検査、というのが一般的ですよね。でも、同じものを食べても人によって体にどのくらい吸収されてどんな影響があるのかは個人差があるんです。十分な食事を摂取しているのに、必須の栄養素が不足している状態には気が付きにくいのです。だから、なるべくその日のコンディションがすぐに自分で分かるような仕組みを作りたい。そんな思いから短時間でできる検査キットを開発しました」

尿検査診断項目

赤ちゃんからシニアまで。誰もが簡単に続けられる仕組み。本当に必要な項目に絞り、セルフチェックの定着化を

尿検査キットはどのようなシーンで活用されているのでしょうか?

水野さん 「薬局での販売を開始し、老若男女問わずさまざまな方にご使用いただいています。また、2024年12月から2025年2月にかけて熊本県内の35歳以上の妊婦を対象に、高齢出産のリスク軽減と妊娠期の栄養管理改善を目的とした実証実験を行い、栄養状態をモニタリングし、トイメディカル社の減塩調味料を用いることによって食のQOL向上と、行動変容までを一気通貫でサポートできるサービスの構築を目指しています」

熊本実証実目

葛山 「熊本県の実証実験では、ソフトバンクが自治体との調整や検査データの統計・分析などをサポートしています。このような実証実験をきっかけに、ヘルスケア、スポーツ、子育てなどの分野で民間企業からの引き合いも増えてきています」

赤ちゃんからシニアまで。誰もが簡単に続けられる仕組み本当に必要な項目に絞り、セルフチェックの定着化を

さらにいろいろな分野で活用していくために、今後どんなことが必要だと思いますか?

水野さん 「検査キットは最大30項目について判定ができますが、検査をする人にとって常に全部の項目が必要とは限らないのです。大量の数値が並んでいるとかえって、人間は注目しなくなる傾向があるからです。セルフチェックを継続するにはシンプルに目的に合った項目だけに絞ることが重要だと考えています」

葛山 「例えばダイエットサポートのプログラムを手掛ける企業が、その会員向けに尿検査を提供するなら、ダイエットに最適な項目だけに絞り込むなどといったことですね」

ユーリアさんは、STATION Aiの会員でもありますね。

水野さん 「愛知県はモノづくりで有名な土地です。おかげでいろいろなものが県内で完結するようにできあがっているため『スタートアップ不毛の地』と呼ばれていました。私自身、新卒の会社で名古屋支店に配属され、愛知県で勤務していく中で、製造業の大企業が圧倒的に強く、なおかつ保守的な気質の土地柄ゆえ、若い世代によるニュービジネスが育ちにくいのでは、と感じることも多々ありました。ところが、STATION Aiができると聞き、これまでの閉鎖的なエリアに何か大きな変化が起きようとしている、この波に乗っかるしかないと思い、PRE-STATION Aiから参加しました」

STATION Aiは昨年10月にグランドオープンを迎えましたね。普段はどのようなサポートを受けていますか?

水野さん 「スタートアップを支援しようという気概が伝わってくるのと、すてきなプログラムがたくさん用意されていて、経営者同士の横の広がりが生まれていると感じていますね。起業したい人に対して、私が支援者の立場でメンタリングをするような機会もあります。スタッフの皆さんの熱意も高いので、STATION Aiが本当に盛り上がってきているのを日々感じていますよ」

ソフトバンクとしては今後どのような面で支援していきたいですか?

葛山 「全国のさまざまな業種・業態の企業や自治体と連携して、この事業を加速させていきたいと考えています。私たちデジタルトランスフォーメーション本部は、世の中が真に求めていることは何かというテーマに対し、パートナー企業との共創で解決策を模索しています。特に、ヘルスケアとも相性が良い小売りや食品メーカーなどとの未病・予防やウェルビーイング分野での連携を通じて、新型栄養失調の蔓延(まんえん)や地域の医療格差問題、高齢化による医療従事者の減少問題などの社会課題の解決に取り組みたいと思っています。将来的にはセルフチェックを通じ、がんになる人がいない世界、『生活習慣病』という言葉のない世界、全ての子どもが大人になれる世界、老いることが怖くない世界を実現したいと思っています」

具体的にはどのような展開が考えられますか?

葛山 「例えば、育児・教育業界では、この検査キットが幼稚園や学校、学習塾で配布され、お子さんの栄養状態をもとにした最適な献立レシピを親御さん向けにLINEで提案するといったことも考えられます。一見すると、ヘルスケアとは遠い分野と尿検査は意外と相性がいいのかも… など、水野さんと日々アイデアを交換しているところです。サービスとしてはソフトバンクのグループが持つデジタルサービスを生かした展開を構想しており、検査結果に応じて、決済系のサービスで使えるクーポンを配信するといったことも検討中です」

赤ちゃんからシニアまで。誰もが簡単に続けられる仕組み本当に必要な項目に絞り、セルフチェックの定着化を

2027年までに「がん検査キット」の開発を目指すとお聞きしています。

水野さん 「がん患者特有の尿成分に反応する試験紙を大学と共同研究しています。罹患(りかん)者数が少ないために、コストや手間の面で、広く検査をすることが難しいがんもあります。そういったがんに対して、われわれが開発するがん検査キットでスクリーニングをすれば、低コストでどんながんにかかりやすいのかが短時間でわかります。その人が遺伝子レベルでどんながんにかかりやすいのかを知った上で、生活習慣に気を付けたり、特にかかりやすいがんの検査を定期的に受ける。そんな世界を目指しています」

ありがとうございました。

(掲載日:2025年1月20日)
文:ソフトバンクニュース編集部

国内最大規模のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」

STATION Ai 概要

スタートアップの創出・育成およびオープンイノベーションの促進を目的に、さまざまな支援サービスを提供している「STATION Ai」。国内外のスタートアップ企業や支援機関、大学、自治体などが参画し、新規事業創出に取り組んでいます。

「STATION Ai」公式サイト